奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第48話「学んだ者学ぶ者」

「篠ノ之さん……!!」

 

「待てよ!!箒!!」

 

 私たちは織斑さんに頼まれ、いや、自分たちの意思を以て篠ノ之さんを追いかけている。

 今の彼女はあの場から離れたいという意思もあるが、ただ何も考えないために走っているだけなのかもしれない。

 

「箒!!」

 

「っ……!!」

 

 ようやく、篠ノ之さんに手を伸ばしたことで一夏さんは彼女の腕を掴み止めることが出来た。

 

「離せ……一夏……!!

 私は……!!」

 

 篠ノ之さんは掴まれた腕を振りほどこうとするが、それが叶わないと自らの顔を見せまいとして両腕で顔を隠した。

 

「落ち着け、箒!!」

 

 完全に不安定になっている篠ノ之さんに対して一夏さんは彼女を落ち着かせようとしたが

 

「もう……嫌なんだ……」

 

「……え」

 

 篠ノ之さんは消えるような声でそう言った。

 

「私は姉さんのことを嫌っていた……」

 

「え……?」

 

「………………」

 

 篠ノ之さんは自らが姉を嫌っていることを明かした。

 一夏さんはそれを信じられないといった顔をし、私はさもありなんとしか受け止められなかった。

 私と彼との受け取り方の違いは恐らく、姉以外に家族がいるかいないかの違いによるものだろう。

 

「箒……?

 それは一体―――?」

 

 一夏さんは姉を持つ弟として彼女に世間一般で当たり前の基準をぶつけようとした。

 

「……一夏さん。

 人には人それぞれの価値観があるんですよ……」

 

「……雪風?」

 

 私はそれを言い終える前に止めた。

 一夏さんの語ろうとしていることはそれは当たり前のようで美しい物語だ。

 親子や兄弟姉妹が互いに愛し合う。

 その光景はとても尊いものだろう。

 この私もまたそれが普通だと思っていた。

 だけど、時としてそれが当てはまらないことがあることを私は知ってしまった。

 

「姉さんは……いつも自由気ままで私たち家族を振り返ることはなかった……

 そんな姉さんを私は嫌っていた……」

 

「それは……」

 

 篠ノ之さんは実の姉を嫌っていることを詳しくは言わないものの告白した。

 

「でも、心の何処かでは―――」

 

 そして、最後には

 

「―――愛してくれているのだと……勝手に信じていたんだ……」

 

「箒……」

 

 心の底からの嘆きを打ち明けた。

 

 そうですよね……

 妹なんですから……

 

 

 彼女のその本音と心に秘めていた願望に私は涙を流しそうになった。

 どれだけ憎んでいても妹ならば姉の愛を心の底で求めるのは当たり前だ。

 

 今も私は……

 

 私もまた未だに姉の愛を求めている。

 だからこそ、目の前の彼女の気持ちが痛い程に理解できてしまう。

 それなのに私の半分も生きていないこの少女はそれを否定されてしまったのだ。

 

 言うべきではなかった……

 

 彼女の悲しみの原因は私にもある。

 私がその事実を突き付けなければ彼女も優しい幻想の中で傷つくことはなかった。

 ただ一時の感情で私はその幻想を破ってしまったのだ。

 

「そんなことはわからないだろ……!!」

 

 一夏さんは何とか篠ノ之さんを立ち直らせようとした。

 

「もういいんだ……

 一夏……」

 

「箒……?」

 

 けれども篠ノ之さんはその幻想を拒絶した。

 

「私には誰にも愛される資格なんかない……!!」

 

「なんでだよ!そんなことは―――!!」

 

 篠ノ之さんは自暴自棄となり自らの存在を否定した。

 一夏さんはそれを否定しようとしたが

 

「私を愛してくれた人を……私は……」

 

「……!?

 それは……」

 

 自らを紛いもなく決して見返りを求めずに愛してくれていた神通さんを生死不明の状態にしてしまったことで自らを許すことを出来ない彼女の心には届かなかった。

 

「……それで『自分は許されない』…『許したくない』と思っているんですか……?」

 

「……え」

 

「………………」

 

 そんな彼女を見て私は口を開いていた。

 

「あなたが苦しんであの人が満足すると思っているんですか?」

 

「ゆ、雪風……?」

 

 私は昔の自分、いや、今もだが私自身を彷彿させる彼女に向かってそう言った。

 

「そんなことは解かっている!!

 解っているさ……

 でも、もう……!!」

 

 篠ノ之さんは既に涙を隠せなかった。

 そう彼女も理解しているのだ。

 神通さんは彼女が自らを責め続けることを望んでいないことを。

 

「……あなたはあの人を失望させるつもりですか?」

 

「え……」

 

『貴女には失望しました』

 

 そんな彼女に私はかつて神通さんに言われた言葉を投げかけた。

 

 あの時の神通さんの目には私はこう映っていたんですね……

 

 私が彼女にそう言ったのは彼女の姿が余りにも私と酷似していたからだ。

 

『雪風、いきなさい』

 

 私を安心させるために時雨ちゃんたちと一緒に何時までも傍を離れずにいた時、私の泣きそうな顔を見て救うことが出来なかった彼女のことを彼女の想いを知っていたのに受け止められずに心が死んでいた時と篠ノ之さんは全く同じだ。

 

『いい加減にしなさい!!

 比叡さんがあんたをどんな気持ちで生かしたのか分からないの!?』

 

『ゆっきー、謝らないでください。

 私はあなたを恨んでないネ。

 ただ、あの子の分も生きてくださいネ』

 

 

 そんな私に手を差し伸べてくれた人たちは沢山いた。

 そして、

 

『目の前を見なさい……!!

 私はあなたをそんな柔に育てたつもりはありません……!!』

 

 他ならない神通さん自身が私の生きると言う意思を取り戻させてくれたのだ。

 

「あの人はあなたに……

 その力を正しく使える様にと願いました。

 それなのにそのあなたがそんな風に自分を大切にしなかったらどれだけあの人が悲しむのか分かっているんですか!!?」

 

 私は過去の自分を責める様に言った。

 この世界に来る前に私は大きな過ちを犯した。

 それでも、神通さんに救われた身として、そして、私と同じ道を歩みそうになっている彼女を止めなくてはと考え私は叫んだ。

 

「……なら、私はどうすればいい……

 那々姉さんは……もう……」

 

 それでも彼女は慰めを拒絶した。

 あの気持ちも痛い程に理解できてしまう。

 だけど、彼女は私と違って留まれる。

 

「……死にませんよ、あの人は」

 

「え……」

 

 彼女はまだ何も失っていない。

 

「あの人はあんなことで死にません。

 身体が真っ二つになったりしなければ絶対に最後まで生きることを諦めません!!!」

 

「雪風、何を……」

 

「………………」

 

 あの「コロンバンガラ」の戦いで私の呼びかけに応答しなくなった時に聞こえて来た神通さんの砲撃の音を思い出しながら彼女がこんなことで死なないことをぶつけた。

 あの人は最期まで戦い続けていたのだ。

 そんな彼女が血が流れて意識を失った程度で死ぬことなんてない。

 何よりも彼女は目の前の彼女を待たせている。

 絶対に帰ってくるはずだ。

 

「もしあの人に後ろめたさを抱いているのならば、それは彼女に腕の中で思う存分に言ってください」

 

「………………」

 

 私はあの人が帰って来た時に篠ノ之さんがすべきことを私は告げた。

 

「……今回は譲りますから」

 

「え……」

 

 最後に私は神通さんに甘える権利を彼女に譲った。

 私にとっての特等席なのだからこれぐらいは言ってもいいだろう。

 

「……なあ、雪風?

 譲るって……どういう意―――」

 

「……一夏さん。

 人は時として誰かに甘えたくなる時があるんです。

 余り突っ込まないでください」

 

 ある意味では私の恥ずかしい一面を晒したも同然なのでこれ以上の追求を突っぱねようとした。

 

「あと篠ノ之さん。

 甘える時は素直に自分の感情を曝け出すことです」

 

「え……」

 

 私はこれを言わなくてはならないと考えた。

 

「弱いと言うことは決して悪いことではないんです。

 辛い時は確りと誰かに頼ることです。

 確りとそのことを伝えることの大切さを私は教えてもらいました」

 

「………………」

 

「雪風……」

 

 私もまた一夏さんに言われるまでそんなことにすら気付くことの出来なかった未熟者だ。

 だけど、その教訓を誰かに伝えることは出来ると私は信じてもいる。

 

「それと篠ノ之さん。

 今回の作戦ですが、あなたには後方で待機をしてもらいます」

 

「え……」

 

「雪風!?本気で言っているのか!?」

 

 最後にこれも言っておかなくてはならないと考えて彼女にこの作戦における役割を伝えた。

 当然ながら私の発言に一夏さんは反発した。

 

「はい。

 彼女だけが作戦に参加すらしていなければ確実に彼女を排除しようとする人たちが増えると思います。

 ですから、彼女には戦闘の可能性が低い後方で待機してもらいたいと思います」

 

「う……そ、それは……」

 

 今の篠ノ之さんに対する周囲への目は最悪だ。

 それは神通さんを殺しかけたこともそうだが、何よりも彼女が正規の方法を踏まないで「専用機」を手に入れてしまっている。

 それなのに半ば「専用機持ち」としての務めである今回の動員に彼女が応じなかったとすれば間違いなく彼女への目はさらに厳しくなるだろう。

 

「だけど……私は……」

 

 そんな私の発言した「後方待機」に対して篠ノ之さんは二の足を踏んだ。

 きっと、彼女も自分も戦わなくてはならないと思っているのだろう。

 それは功名心などではなく神通さんを殺しかけた事への罪悪感から来るものだろう。

 

「……いいですか、篠ノ之さん。

 今回の件はあなたが「専用機持ち」となった意味を学ぶ初めての機会です」

 

 尻込みしている彼女に私は「専用機持ち」になった彼女に今回の件はその意味を理解する機会だと語った。

 

「初めての……?」

 

「はい。

 鈴さんたちを見ればわかりますが、彼女たちは「専用機」を受領した時からある程度の覚悟と義務を持っています。

 あなたの場合はそれを知れる機会がなかっただけです。

 ですから、あなたも今からそれを学んでいくんです。

 どうか、この作戦でそれを知ってください」

 

 人間の少年少女が戦場に赴くことが異常なのは司令や多くの帝国軍人の嘆きから教えてもらったことだ。

 だけど、「IS」という強大な力を持つのならばそれを使うに対する心構えは必要となって来る。

 きっとそれはこれから篠ノ之さんは学んでいかなくてはならないことのはずだ。

 だから、今回の件で彼女にはその空気だけでも知って欲しいと私は思っているのだ。

 

「……それに後方待機も大事な役割です」

 

「……?」

 

 それと同時に私は彼女が戦えないでただ待機するだけの状況をそれが決して恥ではないことを教えようとした。

 

「もしかすると、私たちが危うくなる可能性もあります。

 その時には篠ノ之さんの力をお借りする時も来ます。

 だから、その時は力を貸してください」

 

「え!?」

 

 そう後方待機は決して怠慢などではない。

 後方で待機するということは即ち何時でも援軍に向かえるということだ。

 それにこの戦いは燃料という面では全員が怪しい戦いでもある。

 長期戦になれば確実に危うくなる。

 そんな時に一人でも戦力が増えるのならば幸いだ。

 

「どうしてだ……

 どうして……私を……」

 

 彼女は私が自分を責めもしないでいることが信じられないと言った様子だ。

 確かに今までの彼女の私への接し方を考えれば不自然だろう。

 

「……あの人にとってはあなたはもう一人の妹みたいな存在だからですよ」

 

「……え」

 

 私は単純にそう言った。

 

「あの人が妹の様に可愛がっている人ですよ?

 あの人がそうしているということは少なくても悪い人じゃないってことですしね。

 まあ、ちょっと……

 私も大人気なかったです。

 ごめんなさい」

 

「なっ!?」

 

 私は今までの彼女への偏見を謝罪した。

 今までの私への態度にも問題があったのは事実だ。

 それ故に詫びなくてはならないだろう。

 それに神通さんにとって彼女はもう一人の妹の様な存在なのだ。

 何よりも彼女がああまでして余裕がなかったのはあの姉が原因だろう。

 それを知らなくて篠ノ之さんのことを偏見的な目で見ていたことは過ちだろう。

 

「……一夏さん、後は」

 

 言うべきことは言ったと思い後は一夏さんに託そうと決めた。

 私はあくまでも彼女に神通さんのことと力を持つことへの義務のことしか教えられない。

 なので、ここから先は彼女と神通さんと並んで絆の深い彼が何か言うべきかと考えたのだ。

 

「……箒、俺も悪かった」

 

「……一夏……?」

 

 一夏さんは私を一瞥した後にそう言った。

 

「……お前も色々あったんだよな?

 それなのに……気付いてあげられなくてごめんな」

 

「……!?」

 

 一夏さんは篠ノ之さんの心の苦しみを気付くことが出来なかったことを謝った。

 

「……今は話したくはないと思うけど、もし、話したくなったら話してくれよ」

 

 一夏さんは今は篠ノ之さんの気持ちを考えて彼女が自発的に話すことを促した。

 それを彼は受け止めると決めたのだ。

 

「……っ!」

 

 それを聞いて篠ノ之さんは完全に顔を隠した。

 けれども、小さく揺れる彼女の肩からその感情は察することが出来た。

 

「……雪風、行こう」

 

「……はい」

 

 それを見て一夏さんはもう大丈夫だと考えて今は彼女をそっとしておこうと決めたらしい。

 恐らく、今の彼女は少なくとも自暴自棄になったり逃避するようなことはないだろう。

 その場を後にする私たちの背後からすすり泣く声が聞こえて来た。




う~ん、人生経験が明らかに短いから仕方ないとは言え一夏の見せ場が少なかったのが無念です

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