奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
……何でこの場に部外者の彼女がいるんですか……!!
私は作戦会議中という集中力を必要とする場にそこに最低限の基準である機密保持すら破ったその人物に対して私は不快感を抱いた。
どうやら、彼女はずっと私たちの頭上にいたらしい。
私個人が彼女を毛嫌いしているという私情もあるがやはり彼女の存在は明らかにこの場にいては在ってはならない。
そもそもここは今、機密情報に溢れている。
これでは機密情報が漏洩することになる。
本来ならばこの場で彼女を拘束しても文句は言われないだろう。
「……部外者のあなたがなんでここにいるんですか」
「おや?チートちゃん。さっきも言ったけど束さんは―――」
「本作戦においてあなたは完全なる部外者です。
それとその呼び方は不愉快なのでやめてください」
「―――え~?」
私は不愉快さを隠し切れないまま未だに天井から頭だけを出している篠ノ之博士にそう告げた。
対して彼女は未だにお気楽そうだった。
……この人、自分の造った機体で神通さんが負傷したのに……
何とも思っていないんですか……!
既に分かり切っていたことであるがやはり彼女は「紅椿」による事故で神通さんが死にかけ妹の篠ノ之さんの心に深い心が刻まれたのにそれを気にする素振りも見せていない。
そのことに私は苛立ちが増したが爪を手に食い込ませて耐えた。
ここで私が耐えなかったら篠ノ之さんの心を余計に抉ることになります……
今すぐにでも私は目の前の彼女に神通さんのことで糾弾したい。
だけど、そうなれば実際に神通さんを傷付けてしまった篠ノ之さんのことまで苦しめることになり私は怒りを収めるしかなかった。
「……束。
今は部外者は立ち入り禁止だ。
山田先生、強制退室を」
「はい。とりあえず、篠ノ之博士。
そこから降りてください」
「とう♪」
織斑さんは多少の怒気を込めながら山田さんに彼女を追い出すことを指示した。
すると篠ノ之博士は新体操の選手のように着地した。
「ちーちゃん、ちーちゃん。
もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」
「……出ていけ」
織斑さんはさらに声を低くして彼女に言った。
今の彼女の様子から理解できる。
織斑さんも内心では腸が煮えくり返っているのだろう。
それは目の前の親友がもう一人の親友が死にかけているのに平然とし話しかけてきていることへの苛立ちだ。
いや、きっと織斑さんも頭では理解している。
目の前の彼女が神通さんのことを友人として見ていないことやそれ以前に自分が他人を傷付けても何とも思わない相手であることには。
それでもかけがえのない友人を失いかけていて気が立っているのにそれを能天気に絡んできている篠ノ之博士に怒りが爆発寸前なのだろう。
「聞いて聞いて!
ここは断・然!
「
「なっ!?」
「……貴様、正気でそれを言っているのか?」
その衝撃な今までの士気の上がり様を台無しにする現実を度外視した発言に私は本気で耳を疑った。
「「紅椿」のスペックデータを見てみて!
パッケージなんてなくても超高速機動が出来るん―――!!」
篠ノ之博士は狂気とすらも言える程に嬉々として液晶を織斑さんの周囲に展開し自らの作品を誇示しようとした。
私は久しぶりに目にした。
本当の狂気とは不安から生まれるものではないということに。
本当の狂気とは絶対的な自信から生まれてくるものだという光景に。
「束」
「―――え?」
そんな風に私がその狂気を目の辺りにしている瞬間だった。
「……!?」
突然、ガチャンとガラスやら金属やらが割れていくような音が響いたのは。
「……黙っていろ」
「ちーちゃん……?」
「千冬姉!?」
「教官!?
手から血が!?」
織斑さんは自分の周囲を取り巻く液晶の一つを腕でぶち抜いていた。
その彼女の手にはガラスや金属によって血が流れ落ちていた。
その織斑さんの反応に今まで余裕を崩すことのなかった篠ノ之博士が動揺を微かに見せていた。
「いいか、束。
今、貴様が説明しようとした「紅椿」は誰が使う?」
少し、呼吸を整え終えるも手から血が流れ落ちていることを構うことなく織斑さんは肝心なことを訊ねた。
それをお聞いて、一斉にこの場の全ての人間の視線が「紅椿」の所有者へと向けられた。
「それは当然、箒ちゃんだよ?
それでそれの何が問題なの?」
……終わってますね、この人……
その返しに私は本気で篠ノ之束という人物は人として終わっていると感じた。
一体、彼女は何を以って今の篠ノ之さんに期待を、いや、勝手な自分の理想を押し付けられるのだろうか。
「今の篠ノ之の状態は最悪だ。
貴様……妹を殺す気か?」
織斑さんは理路整然を守ろうとした。
彼女の言う通りだ。
今の篠ノ之さんの精神状態は戦いに赴く者としては最悪だ。
こんな状態で戦いに臨めば間違いなく命を落とす。
それはあの「コロンバンガラ」の前夜の私がそうだった。
あの夜、私は神通さんが 叱咤していなければ間違いなく死んでいた。
戦いにおいては精神力も重要な要素の一つだ。
「えぇえ?
だって束さんの造った第四世代機だよ?
大丈夫だって」
「……!?」
「なっ!?
第四世代機!?」
相も変わらず増長慢に満ちた彼女の口から出て来たその衝撃的な事実に周囲が驚愕した。
「そうだよ、いっくん?
この第四世代機は『パッケージ換装の必要ない万能機』という現在絶賛机上空論のものである展開装甲によってあらゆる状況に対応可能だよ?」
篠ノ之博士は嬉々として自らの作品を説明しだした。
どうやらこの「IS」の生みの親は第三世代機が最新鋭機であるこの時代の中、それを一気に飛ばしていきなり「第四世代機」を開発させてしまったらしい。
彼女がしたことを海軍の歴史で簡単に例える分かり易いのは長門さん達が最新鋭艦の時代にいきなり大和型戦艦が戦場に現れるようなものだ。
確かにそれは相当なことだろう。
「……でも、川神先生に圧されてましたよね」
「……はあ?」
この天才を自他共に認められいい気になっている人物にとって最も一番屈辱的な言葉をぶつけたくなって私はそう呟いた。
「……君、何を言ったのかな?
圧されてた……?
あの根性論女に……」
「束さん……?」
どうやら私の目論見は成功したらしい。
彼女は今まで他の人間に無関心や織斑さんや妹さんに対して一方的な好意を向けていたが、一人だけ敵意を向けていた人物がいた。
それは神通さんだ。
「……実際、そうでしょう?
肝心の「紅椿」は中破、いいえ、大破寸前までに追い込まれたじゃないですか?」
実際には私は神通さんと篠ノ之さんの試合を見た訳じゃない。
それでも私は篠ノ之さんに最後の一撃を叩き込む際に満身創痍にも拘らず「紅椿」がボロボロであったことから神通さんが圧倒していたことは容易に想像できる。
何よりも篠ノ之さんが呆然とし罪悪感に苦しめられている今の状態から神通さんをあんな目に遭わせてしまったのは彼女にとっては予期せぬことであったことは間違いではない。
「第二世代の改良機に圧されている時点で大した機体じゃないでしょ」
「な、な、な!?」
「雪風!?」
私は彼女にとって最も屈辱的な言葉を贈った。
確かに第四世代機と言う時点で既存の機体とは一線を画す性能はあるだろう。
だが、ただそれだけだ。
何よりも彼女は人が乗るものである機体にとって最も重要なことを忘れている時点で愚かだ。
「それでもあれですか。
本当に
篠ノ之博士」
「~!!?」
先程、世界中の人々を小馬鹿にする為に使った言葉をそのまま彼女へとそっくりと私は返した。
確かに彼女は天才だろう。
それは認める。
しかし、それはあくまでも
「使用者の精神状態を顧みない有人機の運用など言語道断です。
あなたの言っている、いえ、頭の中で想像されている「紅椿」の活躍は理想論であり希望的観測に過ぎません」
兵器とはあくまでもその運用を現実的に考えてのものだ。
現実を度外視した目の前の天才は戦術指揮官としてはド三流だ。
兵器を運用する身として必ず考慮しなければならない要素の中には人は当然含まれている。
仮にどれだけ優秀な兵器があろうともそれに慣れていない人間が使えば性能を引き出せないであろうし、士気がなければ戦いにすらならない。
まさに博士の主張は「机上の空論」だ。
「あはは、何を言っているのかな?
束さんが造った。それも箒ちゃん専用に造った「紅椿」だよ?
「やっぱり、あなた。
「―――え?」
私の言葉に対して篠ノ之博士は最も言ってはならないことを言った。
それに対して私は最大限の怒りをぶつけた。
「今、あなたは『
それって要するに篠ノ之さんのことを考えない一方的な自分の理想の押し付けじゃないですか」
「は?意味が分からないんだけど?」
既に不機嫌さも不愉快さも隠すことなく彼女は私に悪態をついてきた。
私はこの人に期待などして来なかった。
だけれども、改めて表に出て来た彼女の本音に私は同じ姉としての怒りを爆発させた。
「いいですか?あなたが今、『
つまりはあなたの妹さん自身のことなんですよ。
それなのにその妹さんの精神状態を『
「……っ!」
「……ムカつくんだけど……
束さんの箒ちゃんへの愛を否定するとか、何様のつもり?」
彼女は篠ノ之さんの今の状態を『
それはつまり、彼女は搭乗者の状態を顧みなくても勝てると言う自分の技術力と作品への絶対的な信頼故だろう。
だが、それは逆に言えば自分の腕さえあれば誰が使ってても問題ない。つまりは篠ノ之さんのことすらも無視しているも同然なのだ。
私の発言でさらに気分を害した篠ノ之博士は私のことを睨み出してきた。
「……姉さん。
私には無理です……」
「え?箒ちゃん?」
「箒?」
「篠ノ之さん……?」
今まで口を開くことのなく、心が何処にも見えなかった篠ノ之さんが突然口を開いた。
「私には……
私には……あの力を使う資格なんてありません……!!」
「箒ちゃん……?
どうしたのかな?
あれは束さんが箒ちゃん為に造ったものだよ?
資格なんて掃いて捨てる程にあるよ?」
何処までもこの姉妹の話は交わることがなかった。
「私は……
戦えません……!!」
もう耐えられなくなったのか篠ノ之さんは部屋から出て行ってしまった。
「箒!!」
「ちょ、箒ちゃん―――
ゲフっ!?」
篠ノ之さんが部屋から出て言った後に篠ノ之博士はまたしても彼女を作戦への参加を無理強いしようとした矢先だった。
篠ノ之博士の首根っこを誰か掴んだ。
「……織斑。陽知。
行ってくれ」
「え……」
「千冬姉……?」
「ちょ、ちーちゃん……!!
く、苦し―――!!?」
「うるさい、黙れ」
それは織斑さんだった。
織斑さんは篠ノ之博士を絶対に離すまいとしながら私と一夏さんに篠ノ之さんのことを追いかけるように頼んだ。
「作戦は恐らく、30分後だ。
頼む……行ってくれ」
「………………」
彼女は繰り返して篠ノ之さんを追いかけることを頼み込んで来た。
「……川神の為にも」
「……!」
織斑さんは後悔を僅かに滲ませながらそう言った。
「……わかった。
行こう、雪風」
「……はい」
私と一夏さんは一緒に篠ノ之さんのことを追いかけるために部屋の外へと出た。