奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第46話「信頼」

「失敗て……

 アンタ……」

 

「雪風さん!?

 一夏さんを信じておられないのですか!?」

 

 私が口にした懸念に対して鈴さんとセシリアさんは反発した。

 それもそうだろう。

 何故ならば私の発言は一夏さんが負けるかもしれないと遠回しに言っているも同然だ。

 一夏さんを特に慕っている二人がこういった反応をするのも仕方がないことだろう。

 

「………………」

 

 一夏さんの様子を見てみると先ほどから状況に順応するのがやっとであったが、私からのこの言葉には傷ついてしまっている様だった。

 恐らく、私が自分を信じていないと思っているのだろう。

 だけど

 

 ……ここで非情に徹しなければむしろ、彼を危険な目に遭わせます

 

 ここで少しでも躊躇えば逆に一夏さんを危険な目に遭わせてしまうと危惧し私は意見を曲げずに行こうと決めた。

 

「信じていない訳ではありません……

 ですが、一夏さんだけに頼るのは危険だと思ったからです」

 

 無論、私は一夏さんを信じていないわけではない。

 むしろ、神通さんの訓練に付いて来れている彼の事を私は高く評価している。

 けれども、信じていることと相手を盲信し頼り切ることとは全くの別物だ。

 

「なら、どうして―――!?」

 

「……いや、オルコット。

 お姉様の言っていることも一理ある。

 希望的観測は危険だ」

 

「―――ラウラさん!?」

 

 私の発言に対してラウラさんは賛同してくれたらしい。

 彼女が私を慕ってくれているということもあるが、彼女が軍人であることもその理由だろう。

 軍人に求められるのは現実に即した推測だ。

 仲間を信頼することも大事だが、それが過ぎればかえって仲間への負担を増やし仲間を必要以上に危険な目に遭わせかねない。

 

「ちょっと!?

 アンタ、雪風が言っているからそう言っているだけでしょ!?」

 

「なっ!?

 そんな訳が―――……

 ―――……いや、確かにお姉様が言われるまで失念していたのは事実だが……それでも私は―――」

 

 鈴さんは私に同調してラウラさんが消極的になっていると思って却って反発してしまった。ラウラさんの鈴さんの追求に対して強く言えなかった。

 鈴さんがこうまで強気なのは彼女の性格もあるだろう。鈴さんの情の篤さと神通さんへの師弟愛が悪い方向に働いてしまっている。

 

「結局、雪風の言いなりなだけじゃない!!」

 

「―――なっ!?

 貴様!?」

 

「鈴さん!?言い過ぎですわ!?」

 

「ラウラさん落ち着いて下さい!!」

 

 今度は鈴さんとラウラさんとの間で軋轢が生じようとし私とセシリアさんは二人を落ち着かせようとした。

 鈴さんは篠ノ之さんを庇った私に不信感を抱いており、私のことを慕っているラウラさんのことまで訝しんでいる。

 私は完全に鈴さんの感情を読み違えていた。

 私が大丈夫だからと思い、私は鈴さんも大丈夫だと何処か楽観していた。

 だけど、彼女の心の傷は彼女の年齢では抑えられないものだったのだ。

 

 ……神通さん、ごめんなさい……

 

 自分の発言で結束を乱し全員を守るどころか、篠ノ之さん一人すらも守り切れるかすらも分からない状況にしてしまった。

 そのことに私は不甲斐なさを感じ後悔し始めた。

 

「……みんな、落ち着こう」

 

 そんな戦いに赴く前としては最悪すぎる状況の中、落ち着きのある言い方でこの事態を収めようとする声が響いた。

 

「シャルロット……?」

 

「シャルロットさん……?」

 

 私が作ってしまった亀裂を収めようとしたのはシャルロットさんだった。

 彼女は何時も通り相手を安心させるかの様な雰囲気を保ち続けていた。

 

「鈴。

 僕は雪風は一夏の事を馬鹿にした訳じゃないと思うよ?

 というよりも……それは君も分かっているんじゃないのかな?」

 

「う……それは……」

 

 シャルロットさんは私が一夏さんのことを見下している訳ではないことを予め断っておき、何よりも鈴さんがその事に心の奥底では気付いていることを自覚させるように促した。

 鈴さんは落ち着きを取り戻したのか、大人しくなった。

 

「セシリア?」

 

「な、何ですの_?」

 

 鈴さんが静かになるとシャルロットさんは次にセシリアさんに向き直った。

 

「君は一夏が「零落白夜」を外したらどうするべきだと思うのかな?」

 

「え!?そ、それは……」

 

 シャルロットさん私が抱いていた懸念を代わりにぶつけてくれた。

 そう彼女が言った通り、この作戦の問題は一夏さんの「零落白夜」が当たるかということだけが頼りな所だ。

 確かに「零落白夜」は一撃必殺とも言わんばかりの威力を誇る切り札だ。

 しかし、それは当てられればの話だ。

 加えて「零落白夜」にはその威力の見返りとしては大量の「シールドエネルギー」が要求される。

 今回の相手は高速で動く暴走機だ。

 命中するかはほぼ賭けに等しく加えてその機会は限られている。

 しかももし「シールドエネルギー」が尽きれば一夏さんは暴走する敵機の前に丸裸で残されるも同然だ。

 

「……雪風は一夏が心配なだけなんだよね?」

 

「ええ……まあ……」

 

「雪風さん……」

 

「……ごめん。

 少し熱くなってたわ」

 

 シャルロットさんは二人をさらに落ち着かせるために私が一夏さんを心配していることを明かしその甲斐もあってかセシリアさんどころか鈴さんも冷静になってくれた。

 

「……俺がやるのか?」

 

 先ほどまでの困惑ぶりは消えていたが一夏さんは改めて訊ねて来た。

 今の彼には確かな覚悟があった。

 

「……はい。

 この作戦はあなたがいなければ成り立ちません。

 あなただけが唯一の突破口なんです……

 ごめんなさい」

 

「お、おい!?」

 

「お姉様!?」

 

「雪風!?」

 

 私はそれを見て彼に頼るしかなく同時に彼を危険な目に遭わせることに対して謝罪した。

 「銀の福音」を倒すには彼の協力が不可欠だ。

 それもただの協力ではなく殆どが彼に依存した状況なのだ。

 その事が元軍人として、艦娘として、彼の姉弟子として、神通さんの教え子として、そして、一人の人間として悔しくて仕方がないのだ。

 

「……雪風。

 頭を上げてくれ。

 わかった。俺も出来る限りのことをする」

 

 一夏さんはそんな情けない私の姿に動揺しながらも心に強い意思を込めて頷いた。

 

「……そうですか。

ですが、もう一つだけ言わせて欲しいことがあるのですが……」

 

 一夏さんのその覚悟に不安なものを感じて私はもう一つだけ彼に言いたいことがあった。

 

「……なんだ?」

 

 そんな私の心の中に存在する懸念を感じてか彼は私のもう一つの頼みを聞いてくれるらしい。

 

「……危ないと感じたら絶対に無理をしないでください」

 

「え……」

 

 私は彼に絶対に無理だけはしないで欲しいと願った。

 

「ごめんなさい。

 こんなことを私があなたに頼むことは間違っているのかもしれません。

 でも、今から私があなたに託す作戦は危険なものなんです。

 だから、せめて無理だけはしないで欲しいんです」

 

 私は自分でも矛盾していることを言っていると感じた。

 今から私が彼に伝えようとしている作戦は一応は彼の生存率を高めるものではあるが、それでも彼に大きな負担をかけることには変わらないのだ。

 そんな私が彼に無理をしないで欲しいと願うのは偽善であり、身勝手であり、独善であるとすら私は感じてしまう。

 それでも彼には自らを危険に晒すようなことはなるべくならば避けて欲しいのだ。

 

「……わかった。

 約束する。だから、頭を上げてくれ」

 

 一夏さんはそんな私に対して約束してくれた。

 

「……ありがとうございます」

 

「それで……あんたの作戦てどんな奴なの?」

 

 私が頭を上げると鈴さんが私に作戦を訊ねてきた。

 どうやら大分私への不信感を和らげてくれたようだ。

 

「……はい。

 どちらかといえばこれは保険なのですが……

 一夏さんがもし一度目の「零落白夜」を外すか、仕留めきれなかった場合の作戦です」

 

 私は先ず、この作戦を実行をせざるを得ない状況を説明した。

 「零落白夜」は確かに最大火力を誇る必殺の一撃だが、それが先ず当たらない場合は勿論のことだがもう一つ彼が「零落白夜」で押し切れない要因もあるのだ。

 

「……そうですわね。

 確かに「零落白夜」を外す場合もそうですが、問題は「零落白夜」を使って如何にしてパイロットの方を傷付けないかも大事ですわ……」

 

 そう。相手は実験中に暴走した機体。

 つまりは中にはまだ人がいるのだ。

 「零落白夜」は「IS」の防御を無視する。

 下手をすれば相手を殺しかねないのだ。

 

「はい。ですからなるべくならば「零落白夜」は一度ぐらいしか使わない方がいいと思います」

 

「え?それじゃあ外したらどうするんだ?」

 

 最も理想的なのは山田さんの一撃必殺だが、それはあくまでも理想論だ。

 はっきり言えば、今回の作戦は「零落白夜」は二重の意味で賭けに等しい。

 一つは相手を一撃で倒せるかという意味、もう一つは「銀の福音」の搭乗者を如何にして無事に解放するかという意味でだ。

 しかも、後者の事を考えれば前者を実現するのは明らかに困難だ。

 さらに「零落白夜」を思いっ切り外し「零落白夜」を再び使えば「シールドエネルギー」を使い果たし、一夏さんが逆に無防備になり兼ねないのだ。

 

「……時間稼ぎをしてください」

 

「……え?」

 

 私は一夏さんの方針を伝えた。

 

「一夏さんにはなるべく「銀の福音」をその場に押しとどめて欲しいんです」

 

「え!?」

 

「ちょっと、雪風!?

 何のためにそんなことをするの!?」

 

 鈴さんは私の発言に対して困惑の声をあげた。

 彼女のその抗議も当然だ。

 何故ならば、私の今の発言はこれだけならばただの無意味な消耗戦だ。

 防御や持久戦と言うものが許されるのは二つの場合だけだ。

 一つは単純にこちらの防御で相手の戦力とそれらを維持する資源を撃滅出来る場合だ。

 しかし、今私が言った時間稼ぎは本当にただの時間稼ぎに過ぎない。

 防御は決定打に欠ければただの消耗戦となり逆に自らの首を絞めることになる。

 そう考えると私のこの作戦は最悪手だろう。

 

「はい。確かにこれがただの足止めならば私のこの提案はただの愚策です。

 ですが、これはあくまでも手段に過ぎません」

 

「え……」

 

 ただこれがあくまでも敵の戦力の漸減だけを目的とする言うのならばの話だ。

 

「この足止めはあくまでも我々が一夏さんの援護に回るまでの手段です」

 

「……?!」

 

 私は端から一夏さん一人に全て任せるつもりなどない。

 彼の足止めはあくまでも私たちが彼を一人を戦わせないための手段に過ぎないのだ。

 

「相手になくて私たちにあるのは数です。

 今のままでは我々が持っている最大の利点である数を活かすどころから使えません。

 ですが、一夏さんが「銀の福音」をその場に釘付けに出来れば数で押し込められます」

 

 防御が許されるもう一つの場合。

 それは味方の援軍到着によって一気に戦力を巻き返せる場合だ。

 しかも、今の状況では()()()の勝負に持ち込める。

 

「それに一夏さんは川神先生の訓練を受けています」

 

「……!」

 

「だから、彼に足止めを任せられます」

 

 そもそも私が一夏さんに足止めを任せようとしているのは彼が「零落白夜」という初撃で相手を沈黙させられることにも僅かながらの期待を抱いていることもあるが、彼が神通さんの教え子として心身共に鍛えられているからだ。

 足止め役はかなりの消耗戦を強いられる。

 それは精神的にもだ。

 この中で精神的にそれが出来るのは一夏さんか鈴さんぐらいだが、鈴さんには決定打がない。

 となると、一夏さんにしかこの役目は出来ない。

 

「……そうだったわね。

 ごめん。それに―――」

 

「数なら我々の方が上だ」

 

「一人で戦う訳じゃないしね」

 

「それに私たちは連携が取れますわ」

 

 私が作戦の概要を伝え終えると全員の目に炎が点った。

 そうだ。

 この面々は常に神通さんの訓練を日頃受けている。

 だからこそ、連携は確実に取れる。

 

「……わかった。

 任せろ」

 

 私の真意を知り一夏さんは強い意思で了承してくれた。

 

 ……これで篠ノ之さんを危険な目に遭わせないで済みます

 

 私がこの作戦を考案したのは篠ノ之さんをこの戦いに巻き込ませないためでもある。

 彼女も一応は専用機持ち、それも篠ノ之博士お手製の最新鋭機所持ということから有無を言わさず参加させられるだろう。

 ただでさえこの面々の中では「IS」の操縦経験は浅く、今のこの状況では連携も取れず、しかも、彼女の精神状態的に参加させるのは危険だ。

 だから、私は連携面と言う点から彼女が参加を見送れる要素を作り出して彼女には後方待機をしてもらうという口実を作ったのだ。

 

 ……仲間外れみたいで嫌ですが……

 仕方ありません……

 

 彼女には疎外感を感じさせてしまうが、それでもこれは実戦だ。

 下手をしなくても命の危機が存在する。

 そんな所に情を挟めばそれこそ彼女を殺すことになる

 それに神通さんの為にも彼女の参加は阻止しなくてはならない。

 

「では、次に一夏さんを「銀の福音」まで運んでもらう方についてです。

 この方には心苦しいと思いますが、エネルギー面から一夏さんを送り出した後には直ぐに離脱してもらい、戦闘に関しては未参加になってもらう可能性があります」

 

 次に私は各自の役割について説明をしようと思い最初に今回の輸送役となる敵機との遭遇地点まで一夏さんを運んでもらう人間について予め説明した。

 この戦いでは一体五になるのは一人が一夏さんを運ぶために「シールドエネルギー」を消費してもらうためだ。

 仮令、作戦の内容が変わっても一夏さんには「シールドエネルギー」を温存してもう必要がある。

 しかし、輸送役が大事と言われても仲間が戦っているのに自らが離脱することに関しては無念の筈だ。

 これは役割の重要性ではなく一人一人の心の持ちようなので何とも言えないものだ。

 

「その役目。

 このわたくしにお任せしていただけませんか?」

 

「セシリアさん……」

 

 そのある意味では辛い役目を進んで引き受けてくれたのはセシリアさんだった。

 

「ちょうど本国から「ブルー・ティアーズ」の高機動パックが届いています。

 どうかわたくしに任せてください」

 

 セシリアさんは胸を張ってその役目を任せてほしいと願った、

 今の彼女には私心がない。

 紛れもなく本心で私たちを、いや、一夏さんを助けようとしている。

 

「ありがとうございます。セシリアさん」

 

「いえ。わたくしはわたくしに出来ることをさせていただくだけですわ」

 

 彼女は全く、その事を鼻にかけずにいた。

 今の彼女は恐らく、オルコット家の当主とイギリス代表候補生、そして、一夏さんに想いを寄せる一人の少女としての矜持を胸に抱いているのだろう。

 

「そうですか……

 では、お願いしま―――」

 

 と彼女に頼ろうとした時だった。

 

「待った待~った。

 その作戦はちょっと待ったなんだよ~♪」

 

「―――!?」

 

 私、いや、私たちの真上からこの異常事態に対処する真摯な空気と裏腹に能天気な声が聞こえて来た。


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