奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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更識姉妹を見ているとパワポケ10の緑髪伝説を思い出します。


第16話「背負うもの」

「対暗部のための組織……」

 

 更識さんの素姓を聞き、私は目の前の少女がなぜ私の保護に関わっていくのかがなんとなくだが理解できた。

 

「それって……憲兵みたいなものですか?」

 

 私のいた世界では他国の工作員や内乱を引き起こしかねない危険人物を取り締まっていた治安維持を目的とした組織が存在した。

 実際、深海棲艦との戦いのどさくさに紛れて、権力を握ろうとしたり国家転覆を謀ったりしていた人間は多くいた。

 もちろん、軍部の中にもそういった人間がいたのも虚しいことであったが。

 そう考えると、この世界で人間同士の戦いがあることに憤りを感じたことについては早計だったのかもしれない。

 

「……遠からず当たらずよ。

 まあ、少なくとも思想弾圧なんてことはしていないわ」

 

 と更識さんは呆気らかんと答えた。

 布仏さんはそんな彼女の隠さなければならない身の上が明かされているのにまったく、動じていない。

 先程、彼女は更識さんを『お嬢様』と呼んだことからどうやら主従関係に近いらしい。互いに信用し合っている理想的な関係だと私は思えた。

 

「そうですか……」

 

 更識さんの言葉を聞いて私は

 

「それは良かったです」

 

 少し、気が軽くなった。

 

「あら、どうしてかしら?」

 

 私の反応を見て更識さんは意外そうな顔をしてきた。

 

「だって、思想弾圧をしていないってことは色々な本が読めるってことじゃないですか?」

 

 読書が趣味の私としてはそれは好ましいことだ。

 私は中華民国の旗艦として少しは落ち着きや威厳を持つ必要や嫌味なエリート将校や政治家相手に教養で敗ける訳にもいかなかったので自然と読書をするようになった。

 その過程でいつの間にか読書が趣味になっていたのだ。

 ただやはり一部の本には暴動を招きかねない内容のものがあって発禁処分にされていて読むことができなかったものも多くあった。

 歴史上、一部の思想書が民衆に影響を与えることはよくも悪くもあった。

 性質の悪いことに民衆は過激な言動に乗せられやすい。

 かの山縣閣下や原首相も我が国における普通選挙制度に反対していたのはそう言った面を憂慮してのことであったらしい。

 ある意味では思想書の取り締まりもある程度は必要なことだ。

 しかし、この世界ではそういったことが必要ないらしい。

 

 ……長い時間をかけて、日本人も冷静な判断ができるようになったのは嬉しいことです。

 だけど、どうしてそう言ったことができる人たちが「IS」による特権などにふりまわされちゃうんでしょうね……

 

「斬新な見解ね。

 まあ、要するに私は他の国からのちょっかいに対応しているだけ」

 

 更識さんは私の冗談に笑ってそう答えた。

 どうやら、この世界の日本は「専守防衛」の平和国家らしい。他の国家に危害を加えることはないのは先程の「白騎士事件」の説明における「自衛隊」の件で大体知ることができた。

 まさか、こう言ったところまで「専守防衛」とは驚いた。

 

 まあ……「専守防衛」と言うのは航路が安定しているからできることだと思いますがね

 

 思えば、あの深海棲艦との戦いも帝国が本土を奪われた米国と並んで、あそこまで必死になったのは資源の確保を目指してのことだった。

 日本は海に囲まれている。それゆえに資源の供給には海を越えなければならない。

 しかし、深海棲艦がはびこるあの世界では仮に日本が戦いを仕掛けなくてもいずれ、日本は衰退し滅びていた。

 あの戦いは日本にとっては生きるか死ぬかの賭けに等しかった。

 

「なるほど……」

 

 私は「専守防衛」だけでやっていけるこの世界の日本が羨ましいと思って感慨に一瞬耽るが、彼女の役職を知ったことで彼女が私の身柄を預かる必要性にも察しがついた。

 

「つまりは出自が怪しい私を監視しておくのも理由の一つですね?」

 

「!?……虚ちゃん、ストップ。

 流石ね……」

 

 私の指摘に隠された目的を暴かれたことで一瞬、更識さんは動揺するがすぐに冷静さを取戻し、私のことについてはまだ知らない布仏さんが私に警戒心を抱いて主を守ろうとするのを制止した。

 

「失礼いたしました」

 

 彼女はどうやら、私の保護をしてくれるようだが、これは監視に近い。彼女たちの組織の性質上、「疑わしきは疑う」のは当たり前なのだが。

 ましてや、素姓が知れない私を疑うのは当然だろう。

 

「いえ、お構いなく。

 大丈夫ですよ、更識さん。

 少なくとも保護してもらう身としてはあなた方を信用しています」

 

 私は彼女たちが警戒しないようにそう言った。

 

「雪風ちゃん……」

 

 監視されて生活すると言うのはいささか居心地が悪いのかもしれない。

 だが、本当に私のことを疑っていると言うのならば、一つ不可解なことがあった。

 それは

 

「自分から『お前を見張っている』と言う事実を告白する相手を信用しないわけにはいきませんよ」

 

 彼女は自らが「暗部」の人間だと明らかにしたことだ。

 それは私が初めてこの世界の住民である織斑さんたちに出会った時と同じ対応を彼女はしてきたのだ。

 それと同じことを彼女は私たちにしてきたのだ。

 彼女はわざわざ自分たちにとって不利になる情報を教えてくれた。

 ならば、信用せざるを得ないだろう。

 

「だったら、よかったわ」

 

 私の返答を聞くと更識さんは安堵の息を漏らした。

 

「いいえ、私があなただったならば同じことをしていたと思います。

 ただ、それだけです」

 

 それに……先程の彼女のしていた()は……ずいぶんと見慣れてしまったものでしたね……

 

 私が彼女を信用したのは彼女の態度にもあったが、彼女の姿にかつての私たちの面影を見たからでもあった。

 あれは自分の役目を知りながらも受け入れ、何かを背負うとする人間がするものだ。

 深海棲艦との戦いと言う運命を背負った私たちもまた、開戦前は同じものをしていた。

 ここで私は好奇心から意地の悪い質問を彼女にぶつけようと思った。

 

「ところで……あなたが「家」の当主になったのも……「IS」の影響ですか?」

 

「………………」

 

 艦娘たる私も他人の事は言えないが、目の前の少女が国の諜報に関わる、しかも、その組織の長にいると言うのはどこか釈然としなかった。

 それは私がかつて「あの戦い」で戦い続けて生き残ったことが大きな影響を与えてるのかもしれない。

 自分たちが生き残って、平和な世界を謳歌しようと言う気持ちも私たちにはあったが、多くの艦娘たちは後の世代に戦いの宿命を課さないために戦っていた。

 だからこそ、目の前の少女が背負っている何かしらの使命には仮に誰かが背負わせていると言うのならば不快感を感じる。

 

『確かに彼女たちが戦うのは仕方ないのかもしれない。

 けれど、それが「当たり前」にはなってはいけない……

 俺はそう思っている』

 

 私の想い人であり父親代わりでもあった司令は軍人らしからぬ軍人だった。

 仮に更識さんがそう言った「当たり前」の被害者ならば、私は苛立ちを隠せないだろう。

 

「どうして、そう思ったの?」

 

 更識さんは私の疑問に笑顔を崩さないが、緊張感を保ちながらも私の質問の真意を探ろうとしてきた。

 

「「IS」の能力とあなたがこの学園にいるのが理由ですよ」

 

 「IS」がこの世界で圧倒的な戦力(条約で兵器運用が禁止されているが)であるのは昨日からの説明で把握していることだ。

 この世界では「IS」が国家戦略上でどれだけ重要であるのかは私が昨夜、スパイ扱いされそうになったことからも理解できる。また、「IS」の国際研究機関であるこの学園はそう言った軍事機密に溢れていることもありえる。

 そして、目の前の少女は自分を対諜報部の組織の長と明かした。

 それは裏の顔でもある。

 彼女の表の顔はこの「IS学園」の生徒会長だ。

 つまりは政府の人間が手駒として彼女をわざわざこの学園に送り込んだ可能性も否定しきれない。

 

「あなたはちょうど、この学園に入学できる条件を満たしている。

 それも「裏の顔」を持つあなたがです。

 だったら、あなたがその年で自分の家をその年で継いだのもそう言った可能性も否定しきれません」

 

「雪風さん、いくらなんでも……!」

 

 失礼を承知で私はそう答えた。実際、布仏さんも私に対して抗議しようとしてきている。

 遠回しに私は『あなたの年齢で組織の長はおかしい』と下種の勘繰りをしているようなものだからだ。

 だが、はっきり言わせてもらえば「諜報」と言う軍人以上にいつどこで命を落としかねない仕事に学生である彼女が身を投じているのは本来ならば異常なのだ。

 あまりにも「IS」は強大過ぎる。

 だが、扱える者が限られているからこそ多くの人間の運命を歪めてしまう。

 先程の「女尊男卑」もその一つだ。

 

「私の能力は無視かしら?」

 

 更識さんは布仏さんとは対照的に私の失礼な物言いに対しても笑顔を崩すつもりはなかった。

 確かに「女性で学生」と言う条件だけで彼女が組織の長になっただけではないのは十分、承知している。

 彼女の交渉術や余裕はこの歳にしては中々の大物だ。

 中華民国で旗艦を務めてきた上に訓練艦としての傍ら、軍閥が暴走しないように政治をせざるをえなかった私からしても評価してもいいぐらいだ。

 

「いいえ……

 ですが、それでもあなたが……いや、正確にはあなたのような子どもがその年で当主になったことにはやはり、異常さを感じます」

 

 私はそれでもそう言った。

 国の諜報機関の長官を女学生にさせる。

 それは彼女に素質があったとしても歪んでいる。

 たとえ、生まれの宿命からなるしかなくともそれはまだ先でもいいはずなのだ。

 私たち艦娘たちの場合と異なり別に国家や人類が滅びようとしているわけでもないのにだ。

 となると、考えられるのはやはり「IS」の存在だ。

 

「「IS」を扱えてなおかつこの学園に目を光らせることができる……

 それほどの人材はあなたぐらいでしょう」

 

 私の導き出した結論はそれしかなかった。

 どれだけ出生から決められる運命に身を投ずるにしても、彼女にはその猶予が与えられるべきのはずなのだ。

 

「はあ~……まったく。

 あなたには下手に情報を与えるべきではないわね」

 

 私の主張を更識さんは否定しなかった。

 やはり、彼女の立場もまた「IS」によって歪ませられた世界がもたらされたもののようだ。

 いや、正確には彼女の人生の時の流れが速まってしまったのだろう。

 

「だけど……

 少し、惜しいわね」

 

「え……」

 

 だが、私の指摘にはどこか誤りがあるようだ。

 

「私は確かに更識の家に生まれてこうなったし、時代の流れでこうなったのかもしれない。

 でも、私は後悔なんかしていないわ」

 

 彼女は自らの生まれから来る役目を受け入れていた。

 それが彼女にとっては茨の道であることを理解しながらも。

 

「それに……私が更識の当主でいることで守れるものは多くあるのよ?

 だから、私はそれでいいわ」

 

「お嬢様……」

 

「………………」

 

 彼女はきっぱりとそう言い切った。

 かつての私たちと同じように彼女もまた、誰かのために役目を背負う人間なのかもしれない。

 そこにはある種の悲愴さがある。

 しかし、だからと言って、彼女が「不幸」だとは思えないし思おうともできない。

 なぜなら、それは私たち、いや、私自身への侮辱に他ならないからだ。

 

「……わかりました。

 数々の失礼な発言を申し訳ございません」

 

 私は目の前の少女の覚悟に対して、軽く見ていたこともあって頭を下げて詫びた。

 そして、目の前の少女のことを戦士、いや、彼女は戦う者ではないから正確には一人の「人間」としての彼女に敬意を抱いてしまった。

 

「こう言うのもどうかと思いますが、「帝国軍人」として……

 いや、一人の人間として敬意を表したいです」

 

 彼女の責任感と覚悟に賛辞を贈りたかった。

 はっきり言えば、彼女を取り巻く環境に対しては尊敬できない。

 だが、私は更識 楯無と言う個人に対しては尊敬できる。

 まだ彼女の目には陰りがなかった。

 しかし、彼女はその運命を恨みもしていない。

 その高潔さに私は誇りを感じた。

 

「もう、私は気にしていないのに……

 でも、ありがとう」

 

 私の謝罪と賛辞に彼女は表情を緩ませた。

 彼女の笑みもまた、かつての私たちがこぼしたものと同じだった。

 戦友たちが次々といなくなるたびに戦いを恐れる、いや、もしかすると初陣の前から戦いに恐怖していたのかもしれない。

 けれども、そんな私たちの心を支えてくれたのは私たちが守ってきたり助けたりしてきた人々や帝国軍のみなさんの感謝や労いの言葉、司令や鎮守府の人々のぬくもりだった。

 たまにそれらが重荷となるのかもしれない。

 けれど、私はそれでも構わないと思っていた。

 元々、私が背負うものなんて変わらない。

 私の母親代わりであり恩師である神通さんや当時の二水戦の仲間たちの誇りが込められた「二水戦」の旗印。

 私以外の18人いた陽炎型やその姉分とその妹分とも言える朝潮型や夕雲型の娘たち29人、ある意味では天津風の妹ととも言える島風を含めた総勢48人の名前。

 艦娘と言う人類の希望のために戦ってきた使命。

 そして、あの大戦における生き残ったこと。

 他にもたくさんあるけど、どれだけ時間が経っても私にとってはその重さがとても大切なものには変わらない。

 それは他の艦娘にしても、同じことだ。

 中には生命を背負う人もいれば、誇りも背負う人もいれば、想いを背負う人もいた。

 

 目の前の彼女が何を背負っているかなんてはわからない……

 それでも、私は彼女のことを尊敬しちゃいますね……

 

 恐らくだが、たとえ彼女が敵だとしても私は尊敬するだろう。

 

「雪風ちゃん」

 

 彼女は私に自らの右手を差し出してきた。

 恐らく、彼女の利き手は右手のはず。

 それが意味することを私は即座に理解し

 

「………………」

 

―グッ―

 

 自らも右手を差し出して彼女の右手を握った。

 

「これから、よろしくお願いいたします。

 更識さん」

 

 私は昨日からの出来ことに唯一感謝したくなった。

 彼女の様な敬意に値する人間が私の身柄を預かることになったことを。

 

「ええ……

 こちらこそ、よろしくね。雪風ちゃん」

 

 彼女もまた、笑顔でそう言い返した。

 

「じゃあ、いきなりで悪いんだけど……

 「IS」を展開してくれないかしら?」

 

 私が自分を信用してくれたことに安心した彼女は昨日、私が身に纏っていた「IS」の開示を求めてきた。

 それに対して、私は

 

「分かりました」

 

 何の躊躇いもなく了承した。

 私は昨日、織斑さんの説明で理解したように「IS」を起動させるには想像力が必要と言われたことで集中した。

 

 想像するのは……彼女(・・)……

 

 私が「IS」を起動するために思い描いたのは彼女(・・)の姿だった。

 誰よりも誰かを守ることを幸せに思っていた私の最後の戦友。

 心無い上層部からは「失敗作」と揶揄されてもなお、「奇跡の駆逐艦」と言われた私や「最高の武勲艦」と言われた磯風、「最強の戦艦」である大和さん、「華の二水戦旗艦」である矢矧さん、駆逐艦でありながらも旗艦を何度も任された私と同じ神通さん時代の二水戦の生き残りである霞ちゃん等の、あの作戦に最後に参加した面々に決して劣ることのなかった「最後の二水戦旗艦」を務めた「本当の奇跡を起こす駆逐艦」である彼女の姿。

 

―キュイーン―

 

 そして、私が集中してから光が部屋を満たす。

 その光が去ると私の身体には「IS」が装着されていた。

 

「これが……雪風ちゃんの「IS」……」

 

「これは……」

 

 私の右腕部には単装砲が握りしめられ、左腕部には連装砲が固定されていた。

 背部には「91式高射装置」と「10cm連装高角砲」が組み合わされた対空兵装が配備された艦橋に似た兵装。

 両脇には左右合わせて六発の魚雷の代わりに小型ミサイルが搭載されており、今日改めて確認すると太ももにも隠し武器が備わっていた。

 

『雪風ちゃん……みんなは無事……?』

 

 それら全てがしっかりと彼女の面影を残して存在していた。

 そして、この「IS」の名前にもしっかりと

 

『戦闘タイプ:高速射撃型

 ISネーム:初霜』

 

 私が背負うべきものとしての彼女の名前が刻まれていた。




 やっと、第一章が完結。
 次は入学準備編とISの機動実験と模擬戦に突入です。
 本編入りまで2ヶ月までかかりますね。
 本当にすいません。

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