奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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注意)今回の話には作者が独自に考えた「IS」の考察が含まれています。
どうかそのことをご留意ください。


第33話「可能性がもたらすもの」

「ラウラさん、朝ですよ」

 

「ん……お姉様……?」

 

 お姉様の水着姿を目に焼き付けることが初日で出来たことからその時点で至上の幸福だと感じた臨海学校。

 その二日目の朝。

 そのお姉様と何時もの様に同衾しているとお姉様が優しく起こしてくれた。

 

 布団というものも……

 中々、いいものだ……

 

 普段、お姉様の部屋で一緒に眠らせてもらっている際にお姉様のベッドにご一緒させてもらっているが、この旅館で初めて経験した布団の素晴らしさを私は感じた。

 最初、地べたに近いところで寝ることに寝袋の様なものだと感じていたが、その実、布団にはベッドにはない広さがあった。

 ベッドと異なり、布団は地面に密着していることから落下の危険性がないところから布面積に反して自由度が高い。

 その為、お姉様と一緒に寝ていても全く狭さを感じない。

 お姉様の肌のぬくもりを感じられつつリラックスも出来る。

 何と言う素晴らしい相乗効果だろう。

 

 しかし……

 仕方ないとは言え、お姉様と密着する必要性がないのもな……

 

 

 ただ一つ難点があるとすれば、その快適さを生む実質的な広さ故にお姉様と密着する身体の部分が低くなったということだ。

 やはり、全てのことが上手くいくとは限らないらしい。

 

「ほら、ラウラさん。

 今日は訓練なんですから起きないといけませんよ?」

 

「……?

 あ、はい」

 

 私はお姉様のその言い方を見て少し違和感を抱いた。

 

 昨日よりも……

 妙に優しくなっている?

 

 それは語気だった。

 今までのお姉様も当然ながら優しく以前あれだけのことをした私にすら分け隔てなく穏やかに接してくれているが、今のお姉様は今まで見せたことがないほどに穏やかだ。

 何処か張り詰めていた部分があったにはあったが、今のお姉様には幾らかその部分がなくなっている気がする。

 

 そう言えば……

 私たちと再び合流した後に何処かぎこちなかったような……

 

 私は逆に昨日の件で色々とお姉様が逃げ回っていたことを知り、それが原因で疲れて、今はそれが取れたことで穏やかになっているとも思った。

 

 いや、それにしても……

 やはり、以前よりも穏やかになっているような気が……

 

 だが、そのことを差し引いても尚、お姉様の表情は和らいでるようにも思えた。

 

 そう言えば……お姉様は昨夜から立ち直っておられたような……

 

 お姉様は昨日の昼間の際に何かしらの事でショックで入浴後までは浮かない顔をしていた。

 その後、散歩をしたらしくその影響なのかそのショックが晴れたような顔をして改めて入浴された。

 恐らくはその散歩中に何かあったのだろうか。

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、すみません」

 

 私がお姉様のさり気ない変化に戸惑っているとお姉様は私のことを気に掛けてくれた。

 どうやらお姉様の優しい心までは変わっていないようだ。

 ただその優しさがさらに増したようにも思える。

 

 まあ、お姉様の心が晴れておられるのならばいいか……

 

 お姉様が悩んでいるよりもいいと思って、私はその疑問に蓋をした。

 

 

 

「全員いるな。

 よし、ボーデヴィッヒ」

 

「はいっ!」

 

 織斑さんに名指しで呼ばれてラウラさんは多少緊張しながらも気合を入れた。

 珍しく二水戦と比べても同じ時間とも言える訓練が生徒全員に課せられることになっている合宿二日目。

 今日は朝から夜までを丸一日を使った「IS」の各種装備運用とそのデータ取りになっている。

 ここだけの話、全員と早朝から訓練を受けると言う状況に私は二水戦時代を思い出して少しばかりであるが心が躍っている。

 

「そうだな、「IS」の「コア・ネットワーク」について説明してみろ」

 

 織斑さんはラウラさんに「IS」のコアについての知識を説明するように指示を出した。

 

「はい。「IS」のコアはそれぞれが相互情報交換のためのデータ通信ネットワークを持っています―――」

 

 ラウラさんは尊敬する教官である織斑さんの期待に応えようとはつらつと「コア・ネットワーク」の説明を行った。

 流石に軍に所属していたということもありその専門知識を遺憾なく発揮し、今の所目立ったミスもなく説明をしている。

 

 恐らく、国語以外なら試験は万全だと思うんですけどね……

 

 

 ただ私は彼女が長い間世間との関わりを持てずにいたことから国語の試験が及第点に届くか不安だった。

 よくあの手の試験には『筆者が何を言いたいか答えなさい』という問題が出て来るが、ラウラさんは軍生活が長かったことで読書をする機会がなかったことから常識を超えた回答をしそうで不安だ。

 と私がラウラさんの今後の事で心配になっていると「コア・ネットワーク」の説明が後半に入っていた。

 

「―――これらは制作者の篠ノ之博士がISの自己発達の一環として無制限展開を許可したため、現在も進化の途中であり、全容は掴めていないとのことです」

 

 ……となると、彼女は何が目的なんでしょうか……

 

 「IS」のその知識を改めて確認し私は初めて篠ノ之博士と相対しその人格を知ったことで彼女の目的に対して懸念を抱いた。

 篝火さんは「ISコア」のことに対して篠ノ之博士が「本物の天才」であると語っていたが、実際に本人に会ってみて私は篠ノ之博士の危険性を悟り、篠ノ之博士が「IS」を介して何を企んでいるのかと言う疑念を持っている。

 『進化する機構』。

 確かに一見するととても革新的なものには思えるが、その創造者がまるで世界のことなどどうでもいいと思っているような人間であることに私は危機感を感じた。

 仮にそこに明確な目的がなくてもそれはそれで危険だ。

 明確な目的がないとすれば篠ノ之博士が「IS」の開発目的がその進化の過程を眺めるためということになれば、彼女はこの世界そのものを巨大な実験場としている可能性も考えられる。

 もし、それが事実ならばそれが齎すのは制御の出来ない混沌だ。

 

 ……「IS」に明確な自我が生まれることになれば……

 

 私はあえて篠ノ之博士が制御をしなかったことによる「IS」の自己発達が人類の推測を超えた時のことを想像した。

 「IS」に意識の様なものがあることは周知の事実だとされている。

 だが、未だに私はそれは新たな生命に至っていないと考えている。

 生命は完全に制御されるものなどではない。

 仮に意識があるとしてもそこに自由意思が介在しなければそれは生命と呼べるものではない。

 意識に自由意思が加わることで初めて私はそこに自我が生まれると考えている。

 自我が形成されることで私は生命は生命に成り得ると感じている。

 もしかすると、篠ノ之博士の目的がそこにあるのではないかと私は感じてしまう。

 だが、私は彼女の目的が仮にそうだとしても楽観的にはなれない。

 

 造られた……生命ですか……

 

 その「もしも」が事実だとすれば私はその新たな生命に対して他人事には思えない。

 私たち艦娘も戦うために造られた新しい生命だ。

 そして、同時に

 

 自我のある兵器……

 

 ほぼ兵器や装備と言っても差し支えない「IS」に自我が生まれた時、彼らがどのような選択をするのかを私は想像してしまった。

 私たち艦娘も戦うために造られたということでは「兵器」に近い存在であることを嫌でも自覚させられる時がある。

 ただ普通の兵器と違って私たちには自我があり、感情がある。

 そのことを理解してくれた司令達がいることで私たちは人々を信じられることが出来た。

 もし、「IS」の自我が発達し独立した場合、彼らは私たちと同様の存在になるだろう。

 だけど、それは同時にもう一つの存在になる可能性も含まれている。

 

 ……一つの生命として彼らが完成された時、彼らは私たちと同じ道を生きるか……

 それとも……

 

 私たちと異なった道を「IS」が進むか私は危惧した。

 それはつまりは「深海棲艦」と同じ様な存在になるかという考えだった。

 もし「IS」が新たな生命となった時、人類が「IS」にとって共存するに値しない存在と見なされれば人類を排除するという結論に至り「深海棲艦」と同等の存在となることも十分に考えられることだ。

 

「さすがに優秀だな」

 

 私なりに「IS」の自己発達が行き着く先のことを考えていると織斑さんは「コア・ネットワーク」についての説明を見事にこなしたラウラさんを称賛した。

 師である織斑さんに褒められたことにラウラさんは多少、胸を撫で下ろしていたがその顔は満足感に満ちていた。

 同時に私の方へと顔を向けて来たので私は今胸に秘めている危惧感を隠して『よくできました』と表情で伝える様にして笑顔で返した。

 すると、ラウラさんはそれが嬉しく思ったらしく誇らしげな顔になった。

 

 ……どうやらラウラさんは出生の呪縛から完全に解き放たれたようですね……

 

 今のラウラさんの様子を見て私はあれ程彼女が荒んでいた原因である彼女の生まれから来る彼女が抱えていた心の闇を彼女が振り切ったことに安堵を覚えた。

 彼女も私も造られた生命だ。

 ただ私と異なり上官に恵まれなかったことで彼女は「失敗作」や「欠陥品」と蔑まれていたがそれでも今の彼女はそんなことを気にしていない。

 

 人間に近い私たちだからこそ共存できるということもありますが、それでも「IS」たちがその道を選んでくれるのなら助かりますが……

 

 私とラウラさんはそもそも人と近い存在だからこそ司令や私がいた世界の人々、一夏さんや更識さん、織斑さんといったこの世界の人々と共に生きていられることが出来ている。

 それに対して生命となった「IS」たちの可能性は未知数だろう。

 私たちが出来たからと言って楽観することは禁物だろう。

 しかし、それでも同じ人の手によって造られた者同士としてはその時が来たのならば解り合いたいと思うし、あれ程の殺戮と破壊を齎した「深海棲艦」のような存在になって欲しくないとも私は考えている。

 

 生まれて来た理由が……

 壊すためだけなんて悲し過ぎますからね……

 

 私の想像した未来はただの極論に過ぎないかもしれない。

 だけれども、その未来があり得るのならば私は「IS」が力のままに世界を滅ぼそうとすることを止めたい。

 「深海棲艦」を未だに憎み続ける私が言ってもただの綺麗事なのかもしれないけれど、それでも私は仮に新しい生命が生まれるのならばそれが争いに明け暮れるだけの生命にはなって欲しくないと思っている。

 

 それに……

「初霜」をそんなものにしたくないですしね……

 

 そして、これは私の矜持に過ぎないけれど、私は初霜ちゃんの名前を持つ「初霜」をそんなものに変貌させたくない。

 「IS」は「コア・ネットワーク」で繋がっている。

 つまり、必ず他の「IS」に影響を受けると言うことだ。

 もし「IS」が破壊の化身になれば嫌でも「初霜」もその影響を受けることになるだろう。

 あの心優しくて誰かを守るために戦ったあの誇り高い駆逐艦の名を持つ「IS」を私は「深海棲艦」に等しい存在にしたくないのだ。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられた「IS」の装備試験を行う様に。

 専用機持ちは専用パーツのテストだ。

 全員、迅速に行え」

 

「「はい!!」」

 

―はーい―

 

 織斑さんの号令を受けて女子生徒たちが年相応の可愛らしい返事をする中、軍生活の長さから私とラウラさんは短く鋭い返事をした。

 

 今から海に潜るんですね……

 

 今回の訓練の内容は先ずこの四方を切り立った断崖に囲まれている浜辺から海へと向かうと言った内容だ。

 その際にこの四方を囲まれた浜辺から出る方法とは潜水し海中の洞窟から抜けると言ったものらしい。

 

 水中戦も可能なんですよね……「IS」て……

 

 私は潜水艦の十八番すら奪う「IS」の場所の選ばなさに改めてその適応力に舌を巻いてしまう。

 陸海空。

 それら全てを「IS」は制していると言っても過言ではない。

 

 本当に「IS」が人類に敵対したら「深海棲艦」と同じか、それ以上の脅威になりかねないですね……

 

 その事実だけではなく先程浮かべた「もしも」を想像して私は危惧を深めた。

 あの「無人機」や「VTシステム」もそうだが、あの両者は既に人の手から「IS」の制御が離れたも同然の状況だった。

 幸い両者とも直ぐに鎮圧できたがもしもあれが完全に自我を確立した「IS」だったのならばその戦禍は凄惨を極めていただろう。

 また「深海棲艦」と比べた場合だが、数は明らかに「深海棲艦」が上だが、「IS」は一機で出来ることの範囲が広すぎることから一時的かつ限定的な脅威ならば「深海棲艦」を上回る可能性もあり得るだろう。

 

 だけどあの悪魔ならば……

 並の「IS」を玩具程度にしか思わないんでしょうね……

 

 しかし、そんな「IS」を以てしても私が憎み続けるあの悪魔を倒すのは10機は必要だろう。

 あの悪魔は火力や雷撃、装甲、速力と言った基本的な戦闘力だけではなく空を制し、海を嘲り、地上を震わせる程に多彩な戦術を持っている。

 あの悪魔を人類が倒すことが出来たのは大和さんや矢矧さん、霞ちゃん、朝霜ちゃん、涼月さん、冬月さん、初霜ちゃん、浜風、磯風、私、そして、帝国軍人の人々が命懸けで戦ったことで引き換えに消耗させ、大和さんが置き土産に残したその装甲の傷を長門さん達本隊が総力を結集して叩くことが出来た。

 恐ろしいことに大和さん達が命を懸けても出来たのは消耗させたことと装甲を一部破壊できたと言うことだった。

 はっきり言えば、最初からあの悪魔が本隊に向かっていたならば本隊は壊滅し人類はゆっくりと滅亡していたかもしれないのだ。

 

 何よりもあの悪魔だけでなく、深海棲艦は艦隊運動が可能な所が「IS」よりも脅威が上な理由なんですよね……

 

 あの悪魔だけでも十分破滅的だが、それ以上に深海棲艦は群れを作り艦隊となる。

 一体の姫級や鬼級がいればその周囲には()()()()五隻ないしは五体の護衛がいると考えなくてはならない。

 しかも、それらの中、一体だけならばまだいいが三体以上の姫級や鬼級、それに準じるあの悪魔と同等の人型の深海棲艦が居る時すらあるのだ。

 仮に「IS」一機が不用意に深海棲艦の艦隊に突っ込めばシャチの群れにアザラシが飛び込むようなものだ。

 それこそ嬲られ続けることになる。

 とそんな風に「倉持」から来た専用の装備を運びながらただの考え過ぎにも等しい「IS」が自我を確立したらとの時のことを考える時の事だった。

 

「ああ、篠ノ之。

 お前はちょっとこっちに来い」

 

「……はい」

 

 打鉄専用の装備を運んでいた篠ノ之さんに対して織斑さんが声をかけた。

 篠ノ之さんの表情を見ているとどこか浮かない顔をしている。

 

「お前には今日から専用―――」

 

「……!」

 

 その織斑さんの言いかけた言葉に私がハッとすると

 

「ちーちゃ~~~~~~~ん!!」

 

 今、いや、この二日間私が悩み続ける原因を作った混沌の種の声が響いて来た。




多分、束さんは原作最新巻で語ったあのことをヒントにもしくはそれを対抗意識か興味半分で「IS」を造り自己発達を促した気がするんですよね。

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