奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今年も雪風は来なかったか……
でも、霞が来てよかった!いや、本当に可愛いですよね!
テンション上がって来たあああああああああああああああ!!


第21話「渚」

「ほら、ゆっきー、大丈夫だって」

 

「うん、陽知さん可愛いよ」

 

「うんうん」

 

「似合ってるって、雪風」

 

「クラリッサ……感謝するぞ……!」

 

「うぅ……」

 

 あの後、逃げ場を失った私は本音さん、相川さん、夜竹さん、シャルロットさん、ラウラさんに連行されて結局、海に向かうことになった。

 ある程度の覚悟はしていたが、自由時間の中での行動だから避けられると多少は希望を抱いていてしまった。私の認識は甘かったらしい。

 特に決め手になったのはラウラさんのがっかりしそうな目線だった。

 彼女の目線を浴びせられた後に『あ、泣かせちゃったよ』と他の四人に言われたのが決定的だった。

 

「でも、本当に似合っているよね」

 

「うん、それにボーデヴィッヒさんの水着とお揃いだけど、色が真逆なのがいいね」

 

「ボーデヴィッヒさんが何処か、雪国の妖精さんを思わせるのなら陽知さんは春の妖精ぽくて可愛いよね」

 

「おぉ……!

 二人とも、分かってくれたか!!

 クラリッサに頼んで正解だった……!!」

 

 は、恥ずかしい……!!

 

 二人に具体的な感想を言われたことで自分の水着姿がまじまじと他の人に見られていることを自覚させられて私は余計に恥ずかしくなってしまった。

 二人とも、ラウラさんと私の水着が色違いでありながら受ける印象の違いがあることを褒めており、ラウラさんは私とお揃いの水着かつ、私の水着姿が誉められたことが嬉しかったのかこの水着を選んだクラリッサさんに感謝している。

 

 い、いえ……

 確かに多少は可愛い水着だと、自分でも思っていましたけど……

 

 私の水着はラウラさんと種類は同じであるが銀色を基調としたものとは真逆の色彩を持つ橙色である。

 形状としては幸い、胸の露出はひらひらで隠されているので控えているものなので晒さないで済んでいるもので、本音さん曰く『フレアビキニ』という水着らしい。

 本音を言えば、私もこの水着は可愛いとは思う。

 それでも、この水着姿を誰かに見られるとなると恥ずかしくて仕方がないのだ。

 

「じゃあ、みんな行こー」

 

「うん」

 

「ほら、陽知さん、早く早く」

 

「大丈夫だって、雪風」

 

「うぅ……はいぃ……」

 

 実年齢が十五歳近く年下の少女たちに促されるままに浜辺と向かうことになった。

 この一週間で私の年上としての威厳が急激に失われている気がする。

 

「きゃあー、眩しい!」

 

「まさに夏真っ盛りだね」

 

 相川さんと夜竹さんは外にでると同時に降り注ぐ真夏の日差しに興奮したのか大はしゃぎした。

 

「………………」

 

「ゆっきー、どうしたの?」

 

「お姉様、いかがしました?」

 

「雪風?」

 

 外に出て水平線が海原と大空の間を隔てる様に延々と続く砂浜の光景を見て私は圧倒された。 

 いや、これだけならば私は何も感じなかった。

 

「人がこんなに沢山……」

 

 私はこの光景の中に人が多くいることに感動してしまっていた。

 私のいたこの砂浜は少し、人の手によって整備されているとは言え自然のままの海だ。

 それなのに人が大勢いる。

 それも浜辺にいる全ての人間が笑顔で危険を全く感じていないのだ。

 こんな光景は初めてだった。

 

「……!」

 

「あ、ゆっきー!」

 

「お姉様?」

 

 私は確かめたいことが、いや、やりたいことがあって、波が押し寄せる渚へと走った。

 走る度に夏の日差しに照らされたことで熱を持った砂がサンダルと足の間に入って、少し熱くて痛かったがそれでもお構いなしに私は走った。

 

「………………」

 

 そして、私は波打ち際に立った。

 そのまま私は寄せては引き、引いては寄せる波に足をそっと入れた。

 すると、足には少しぬるい海水の温度が伝わってきた。

 少し、想像していたのとは違った感覚だった。

 

 これが……

 深海棲艦のいない海ですか……

 

 だけど、私は身体を海に入れられることや渚に立っていられることが不思議でしょうがなかった

 艦娘として生を受けてから私が海に身を投じたのは救助訓練や「ガダルカナル」等の撤退戦の際に海に落ちた兵士たちを救助した時位だった。

 それ以外の海に赴く時は殆どが艤装を纏っているばかりだったので海中に身を入れること自体を経験したことがなかった。

 深海棲艦が何処にいるか分からない環境の中で海水浴などをする概念がなかったのだ。

 それに浜辺という場所自体も危険な場所でもあった。

 深海棲艦が最も恐ろしいのは当然、彼らの縄張りと化した「赤色海域」とその付近であるが、それ以外でも海に隣接する場所ならば海であろうが、陸であろうが、空であろうが気を抜けなかった。

 深海棲艦は海原は当然ながら、時として陸地に向かって空襲を行ってくる上にさらには上陸してくる。

 しかも、上陸を許した後に占拠されれば、そこを拠点にして無数の戦闘機や爆撃機を飛ばしてくるうえに「姫級」や「鬼級」まで新たに生まれて来る可能性もある。

 そんな環境だったことから、私たちは本土ならば未だしも外洋では浜辺であろうと海に無防備に近づくことは出来なかった。

 下手をすれば、艤装なしの状態で深海棲艦の上陸部隊や空襲部隊に襲われて生命を落とす危険性もあるのだ。

 

 波って……こんなに気持ちが良かったんですね……

 

 生まれて初めて感じる生の波の感触は心地好かった。

 この初めての状況に私は何と言えばいいのか分からなかったが、ただ胸に何かが込み上げて来た。

 

「お~い、ゆっきー」

 

「お姉様!どうかしたんですか?」

 

「雪風、何かあったの?」

 

 私がしばらく海から寄せて来る波を堪能していると本音さんたちが追いついて来た。

 どうやら、私がいきなり走り出したことで驚かせてしまったらしい。

 

「どうしたの陽知さん?」

 

「もしかすると、陽知さんも海に来て、テンションが上がっちゃった?」

 

 相川さんも夜竹さんも私の奇行に驚いてしまったらしいが、それよりも何処か好奇心が勝っていたらしい。

 今の彼女たちの目は今の私が好ましいとすら感じているらしい。

 

「……そうかもしれませんね」

 

「え、本当!?」

 

「陽知さんもやっぱり、女子高生なんだね!

 うんうん、青春だよ!」

 

「レアな陽知さんの一面いただきました!」

 

 私が夜竹さんの問いに対して、恐らくが彼女が抱いている想像とは違う意味にはなるが、それでも心が踊ったという事実では当たっていることから肯定すると、二人とも嬉しそうだった。

 どうやら、私が自分たちと同じ様に海を見て楽しそうにしていることに共感できる部分があったことから嬉しかったのだろう。

 

「海とは、お姉様をしてここまで心を踊らせるものなのか……

 何と奥深いものなのだろうか……」

 

 ある意味では私以上にこの平穏な海とは無縁に等しかったラウラさんは私のこの奇行が何かしらの芸術性を帯びたものだと勘違いしてしまっていた。

 思えば、ラウラさんは艦娘である私以上に外の世界を知らな過ぎるのだろう。

 他人のことを言えないが、彼女にはもっと世界の多くを知って欲しいと思ってしまった。

 

「……雪風にとって、海って大切なものなのかな……」

 

 私の過去をある程度、感じ取っているシャルロットさんは私が海に対してこんなことをしたことに私と海との間に何かしらのことがあることを感じ取ったらしい。

 何時か、彼女や一夏さんには私の過去を話すと約束しているが、先日の「女尊男卑」の件を含めると薄々と気付かれている気がした。

 それでも、追求してこないのは私のことを信じてくれているのだろう。

 

「ゆっきー……」

 

 そして、唯一私の過去を知る本音さんは私が目の前の海にどのような気持ちを馳せているのかを理解してしまったらしく、私のことを案じて来た。

 

「……大丈夫ですよ、本音さん。

 少し、羽目を外してしまっただけです」

 

 私は本音さんと薄々と何かを気付いているシャルロットさんに心配をかけないように本音さんだけに聞こえるような声でそう語りかけた。

 これは本当のことだ。

 私は生まれて初めて渚に足を浸して潮風に浴びることをしたくなって、つい、我を忘れてしまった。

 

 きっと、昔の私ならもっと……

 

 戦いによる別離と喪失を多く経験したことで本当の自分を失ってしまった私ではなく、あの頃の私ならば無邪気にはしゃいでいたことだろう。

 

 ……私にもこんな童心が残っていたんですね……

 

 自分がこの年齢になっても海を見て大はしゃぎをすることに自分のことなのに驚いてしまった。

 

「ん?あ、織斑君だ」

 

「あ、本当だ」

 

「うわー、逞しいね」

 

「川神先生の訓練を受けてるからね」

 

「確かによく鍛えているな……

 ……?お姉様?どうなされたのですか?」

 

「い、いえ……なんでもありません……」

 

 私が黄昏ていると相川さんが浜辺と出た一夏さんの登場に気付き、他の面々も注目した。

 その中で全員が一夏さんの程よく鍛えられた肉体を見て何処か興奮していた。

 

 ……そうでした!

 よく考えてみれば、こっちだけではなく、あっちの露出も大きいのをすっかりと失念してました……!

 

 私はと言うと、上半身だけとは言え男性の裸体を見たことで恥ずかしくなってしまった。

 慣れていない異性の肌に私は混乱してしまった。

 見られるのも恥ずかしいが、見るのも恥ずかしいとは思いもしなかった。

 

「準備運動してるね」

 

「まだ、泳がないんだ」

 

「偉いねー」

 

「一夏ってやっぱり、マメだね」

 

 幸い、私が赤面しているのに気付いていないラウラさんを除く面々は一夏さんの水着姿に対して年頃の異性への興味を抱いていたことからそのまま観察を続け、一夏さんが準備運動をしていることに感心していた。

 

「いえ、彼のあの心構えは大事です」

 

「そうですね」

 

「「「「え」」」」

 

 私とラウラさんは「真面目」だとかいう先入観よりもむしろ、何故他の人たちもしないのかと首を傾げてしまった。

 

「雪風、ラウラ、それってどういうこと?」

 

 シャルロットさんは私たちのその反応が気になってか、一同を代表して訊ねて来た。

 

「簡単なことだ。

 水の中で運動するのは陸で運動をするのと違って全身に負荷がかかる。

 しかも、海は潮の流れや波があって普段我々が水泳などで使っているプールで泳ぐのとでは全く要領が異なる。

 「IS」頼りの運動ばかりをしている我々のことだ。

 少し、泳ぐだけで疲労するだろうし、普段使っていない筋肉を動かすことで体がつるだろうし、水中でつったら下手をすれば、溺れるぞ?

 ……ですよね、お姉様?」

 

「はい。満点です、ラウラさん」

 

「えへへ……」

 

 私は模範解答を示したラウラさんに対して笑顔で褒めてしまった。

 彼女も軍人であることから危機管理に対する意識があるのだろう。

 最初は彼女は軍人としての矜持を持たず軍人ごっことしか言いようのない横暴ぶりを発揮していたが、それでも軍人としての知識の基本である危機管理のことについては確りと身に着けているらしい。

 

 溺れ死にする人は二度と見たくないですからね……

 

 私がラウラさんの知識や一夏さんの準備運動をする姿勢を評価したのは私が嫌と言う程に戦場や撤退戦で地獄を見て来たのが大きい。

 護衛任務中に私の任務とは無関係の船舶の乗組員が深海棲艦に襲われたことで漂流しているのを救助したこともあれば、「ダンピール」等の様に作戦の失敗時に敵の攻撃が止まない中でも救助活動を続けることもあれば、「ガダルカナル」の時の様に撤退戦の救出活動を行うこともあった。

 そして、艤装が外れている時には自ら海中に飛び込んで救助することもあった。

 艤装には海上に浮く力が備わっていることからカッターや急ごしらえの救助艇を牽引することにおいては重宝するが、力尽きて海中に身が沈んだ人間を救助するのは不可能だったのだ。

 艦娘は救助活動に赴く際には先ず、カッターを牽引することや救助活動中の他の味方を援護することを最優先事項とされていた。

 しかし、その度に聞こえて来るのは救助艇の収容数を超えたことでどうしても乗せられない漂流者たちのうめき声や助けを求める声だった。

 あの声程、恐ろしいものはない。

 まるで、自分を助けないことに対して恨み、憎み、呪う様に聞こえて来るのだ。

 そして、その人たちを今度は助けようとその場に戻って来ると既に息絶えていたり、姿を消していたりするのだ。

 また、ある程度救助活動が終わり艤装の整備の合間の中で束の間の休息を取っている際に今度は救助されたことに体力を既に消耗していた兵士が救助されたことに安堵したことで力が抜けたことで海に落下した際には休息などお構いなしに飛び降りることもあった。

 だけど、その場合だと引き揚げてもそのまま息絶えることも多くあった。

 だから、私は「海」というものは油断すると恐ろしいものだということを胸に刻んでいるつもりだ。

 

「さ、流石、陽知さん……

 はしゃいでいても、気が抜けていない……」

 

「ボーデヴィッヒさんと本当の姉妹みたいになってきてるかも……」

 

「な、本当か!」

 

「「……………………」」

 

 私とラウラさんが「溺れる」ことの恐ろしさを意識しているのを見て、相川さんと夜竹さんは若干引き気味ではあるが、私たち二人を姉妹みたいだと感じたらしくそのことにラウラさんはご満悦のようだった。

 しかし、本音さんとシャルロットさんは何と言えばいいのか困ってしまっているようだった。

 恐らく、先ほどと同じ様に本音さんは私の過去を知っていることや、シャルロットさんは過去を知らなくても私の心の底にある感情を察してしまっているのだろう。

 一日に二回も二人に心配をかけさせてしまって情けない限りだ。

 

「では、皆さん。

 溺れないように一夏さんを見習って確りと準備運動をしましょうね?」

 

「「ええ~」」

 

「はい!」

 

「はーい」

 

「うん。わかったよ」

 

 私が準備運動をすることを宣言すると相川さんと夜竹さんは若干渋い顔をし、ラウラさんは素直に従い、本音さんとシャルロットさんは私の心を汲み賛同してくれた。

 ただ相川さんと夜竹さんがこういった姿勢なのは仕方がない。

 恐らく、海で溺れたり、溺れた人間を見たことがないのだろう。

 それでも私は神通さんと同じ様に仮令、相手が煙たがっても安全の為ならやるべきことはやるべきだと思っている。

 実際、私の中華民国時代の指導はこうだった。




よく考えてみなくても、艦これ世界での南の島のバカンスて……
危険な気が……少なくても歴史の流れがそのまま反映されている本作の艦これ世界では海水浴を楽しむ余裕がないのでこうなりました。

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