奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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PS3でモンスターファーム2を購入しました。
やはり、いいですねこの作品。
誰か、艦娘ゆっくり実況でやったりしてくれないかと思ってしまいます。


第19話「愛しい夢と信じたもの」

「あの……神通さん……どうして、その……」

 

 私は神通さんに誘われてシャルロットさんに言われるままに神通さんに付いて来ている。

 彼女は私と『買い物がしたい』らしいが、それは本当のことなのだろうか。

 ただその言葉は額面通りに受け取っていいのだろうか。

 もしかすると、何かしらの隠された意図があるのかもしれない。

 一体、彼女は何を考えているのだろうか。

 

「何がですか?」

 

 私の質問に対して、神通さんが何か不思議そうな顔をして逆に訊き返してきた。

 どうやら、具体的な質問をしなかったことがいけなかったのだろう。

 

「いえ……その……

 どうして、()()()を私と……?」

 

 私の知る神通さんは「二水戦」の母親的な一面が強いが、同時に訓練の鬼的な一面がある。

 厳しくても優しさがあるとはいえ、あまり旗下の駆逐艦たちと馴れ合うことはあまりしなかったのだ。

 その為、どうしても今回の彼女の行動は理解できないのだ。

 

「……そうですね。

 確かに()()()()()()()ならばこんなことは出来ませんでしたからね。

 あなたが不思議に思うのも無理はありませんね」

 

 

「……え」

 

 私の問いに対して神通さんは少し切なそうに眼を閉じて一呼吸してからそう答えた。

 

「……『()()()()()()』……?」

 

 彼女のその言い方が私は気になってしまった。

 

「そうです。

 雪風、あなたと私は上官と部下の関係でしたよね?

 その意味は分かりますか?」

 

「……!」

 

 神通さんは私に昔の私たち二人の関係を確認して来た。

 その質問で私は彼女が何を思って、この行動に至ったのか理解してしまった。

 

「……本当はですね。 

 私もあなた達と一緒に街の中を歩きたかった……」

 

「神通さん……」

 

 彼女は今まで、いや、あの世界から隠し続けていた愛おしさを打ち明けた。

 彼女の今回の行動の真意。

 それはあの世界で秘めていたささやかな願いだったのだ。

 彼女は「二水戦」の旗艦にして、教官であった。

 その為、彼女には厳しさが求められていた。

 当然、神通さんは厳しいだけでなく、優しさと誇りも兼ね備えた敬愛すべき人だ。

 しかし、それでも慕うことは出来ても、彼女と私たちは個人的交流は控えなくてはならなかった。

 それは軍における立場が理由だった。

 『上官は部下に対して、必要以上に慣れ親しむべきではない』と言う風潮は軍では一般的だった。

 何よりも彼女はあの「華の二水戦」の旗艦だ。

 「二水戦」の訓練は『厳しい』という言葉が軽く思えるほどに過酷であり、神通さんは公平でなくてはならなかった。

 もし神通さんが旗下の特定の駆逐艦に慣れ親しむことになれば、特別扱いされていると思われかねず、二水戦内で軋轢が生じる可能性も否定できない。

 当然、そんなことで乱れる二水戦(私たち)じゃないと信じているが、それでも万が一のことも考えなくてはならないのだ。

 金剛さんは私と磯風に妙に親しくしてくれていたが、それは彼女が直属の上司ではなかったから出来た事だ。

 それが上の立場に立つ人間の宿命だということも私は中華民国の総旗艦と練習艦を務めたことで理解させられた。

 

「……それが……神通さんの()()なんですか?」

 

「はい。 

 本当は他の娘たちとも平和になったあの世界でそうしたかったですが……

 今となってはそれは叶わない願いだと痛感しています……

 それを今更口に出すのは大変、身勝手だと思っていますが……」

 

「神通さん……」

 

 彼女は悲しそうに語った。

 彼女はあの世界ではずっと「二水戦旗艦」としての仮面を被り続けていたのだ。

 そして、それを脱ぎ去るのは全ての戦いが終わった時だと決めていたのだ。

 その時こそ、私たちと日常を楽しむ時であると。

 けれども、あの世界で彼女が願ったささやかな夢はこの世界では私以外の教え子とは果たせないのだ。

 誰よりも私たちを大切に思っていた彼女からすれば胸が張り裂けるような気持ちだろう。

 

「……だから、せめてあなたとだけでも……」

 

 それでも、せめて私とだけでもあの世界で果たせなかった夢を果たしたいと願ったのだ。

 

「……わかりました。

 神通さん、今日はよろしくお願いします」

 

「……!雪風……!」

 

 私は少し涙を流しそうになったけれども、彼女の愛情を感じたことで喜びが勝り、彼女のその願いを実現させたいと思った。

 彼女の私たちへの想いは嬉しくて仕方のないものだ。

 

 ……きっと、他のみんなも同じことを思っていますよね……

 

 「二水戦」のみんなも私と同じ様に行動するはずだ。

 神通さんのことをみんな、恐れることはあっても、私たちは本当に神通さんが大好きなのだ。

 時に「鬼の二水戦」と自嘲する時はあっても、それでも神通さんのことを信じていた。

 むしろ、今の言葉を聞いた途端に嬉しさのあまり全員で大はしゃぎして、騒がしくなり過ぎて、神通さんに懲練を受けることになり涙目になりながらもそれでも心のどこかでそれを楽しんだり喜んだりするだろう。

 

「……雪風、ありがとうございます」

 

「……いいえ。

 私も嬉しいです……!!」

 

 これは本心だ。

 やはり、神通さんは私たちを大切に想っていてくれていた。

 どんなに遠い場所にいても、どんなに時間が経っても私たちを娘の様に愛してくれていた。

 それがどれだけ嬉しいことか。

 

 あ……そういえば……

 

 ふと私はあることを思い出した。

 

「あの……神通さん、一つお訊ねしたいことがあるのですが……」

 

「何ですか?」

 

 少し、優しい目つきになった神通さんは私の声に耳を傾けた。

 

「……あの、大変失礼だと思うのですが、神通さんは「IS」で剣術を使ったりしますか?」

 

 先ず、私は失礼だと感じながらも彼女が剣術を扱えるのかを訊ねた。

 神通さんはあの世界では刀剣の類を扱う機会には恵まれなかった。

 

「そうですね……

 私の異名も割とそこから来ていたりしていますので、使えるには使えますね」

 

「……「鬼の華武者」ですか……」

 

 神通さんはこの世界では「もう一人の世界最強」という二つ名に加えて、「鬼の華武者」とも呼ばれている。

 それは彼女の苛烈ながらも華がある様にも見える戦いぶりから女武者と鬼を思わせることからそう呼ばれているらしい。

るらしい。

 それによく考えてみれば、彼女の「IS」には日本刀が装備されていた。

 それはつまり、彼女が日本刀を常に使用している証拠だ。

 

 神通さんのことです……

 恐らく、剣術の腕も極めているはずです……

 

 私は彼女が剣術を使用としていることを理解すると共に彼女の性格からその腕は最早達人級かそれ以上のものだと察してしまった。

 彼女は自らの戦いの術を生半可なもので終わらせるようなことはしないはずだからだ。

 

「あの……

 神通さん、実は……

 初霜の改修なんですけど、新しい装備が追加されたんですけど……」

 

「そうなんですか。

 ……よく耐えましたね」

 

「……はい」

 

 神通さんは私が話を切り込もうとする前に「初霜」が改修されたことに対して、私が少しでも苦渋を味わったことを汲み、それを慰めようとした。

 この世界で本物の艦娘を知っているのは艦娘である私と元艦娘である神通さんだけだ。

 彼女からしても、直接的な関わりが少なくても、同じ艦娘であった初霜ちゃんの名を冠する「IS」が改修されたことは辛いのだろう。

 

「………………」

 

「……?神通さん?」

 

「……すみません。

 それで、雪風。

 私に何を訊ねたいのでしょうか?」

 

 神通さんは突然、深く何か考え込んでいた。

 一体、どうしたのだろうか。

 と言っても、今はそれよりも彼女に訊かなければならないことがある。

 

「あ、はい……

 実はその追加された装備と言うのは……()()()なんです……」

 

「……成程、あなたが何を言いたのかはわかりました」

 

「……!

 本当ですか……!」

 

 神通さんは全てを聞くまでもなく私の悩みに気付いたようだった。

 流石、神通さんだ。

 やはり、こういった悩みは自分より優れた人物に素直に習うべきだと改めて感じされた。

 私は抱えていた悩みが解消されたと感じてその喜びを顔に浮かべた。

 

「……ですが、()()あなたの力になれません」

 

「……え」

 

 しかし、返って来たのは私が期待していた物とは異なる答えだった。

 

「ど、どうしてですか!?」

 

 私は神通さんがそんな言葉を口に出したことが信じられずつい、反射的に叫んでしまった。

 神通さんの剣技の腕は恐らく、誰かに指導できるなんて範疇を難なく超える程のものであるはずだ。

 現に今、彼女は『()()』と限定的に言った。

 なのに彼女は私に対して、力を貸さないと拒否したのだ。

 その理由が私には訳が分からなかった。

 彼女の場合、決してこのようなことは言わないと私は思っていたのだ。

 むしろ、嫌でも教えようとするはずだ。

 彼女が教えを乞う相手を拒絶することなど私には到底信じられないのだ。

 

「……ごめんなさい、雪風。

 ですが、私は剣術を誰かに教えることも、私自身が剣術を使うこともしないと決めたんです」

 

「……え」

 

 私の非難にも等しい叫びに対して、神通さんは動ずることもなくただ静かに詫びながらも、何か強い決意、いや、悲壮感に満ちた表情で訴えて来た。

 その姿に私は戸惑いを受けてしまった。

 神通さんは誰かに剣術を教えることどころか、自らがそれを使うことすら封印していると確かに言ったのだ。

 

「……どうしてなんですか……?」

 

 彼女は戦場においてはあらゆる全てを使えと私に叩き込んで来た。

 魚雷の性能や主砲や機銃はもちろん、探照灯の光、天候、終いには潮の流れや波すらもと。

 そんな彼女が武器である「剣術」を封印すると言うことは余程のことだ。

 

「……ごめんなさい、それすらも明かすわけにはいきません」

 

「そんな……」

 

 彼女の意思は固く、その理由すらも明かそうとしてくれなかった。

 戦闘に関してはまさに妥協しない彼女がここまでして貫こうとしているものが何なのかが私には見当もつかなかった。

 

「……少しだけ、待ってもらえませんか?」

 

「え……」

 

 私は気落ちしていると神通さん口を開いてそう言った。

 

「……今はあなたに剣を教えることは出来ません。

 ですが、あなたが剣を学ぶ機会は必ず作ります」

 

「……?

 それは一体……?」

 

 彼女は私に剣術を教えるとまでは言わなかったが、剣術を教える機会を設けると言った。

 しかし、何故直接教えようとせず、そんなまどろっこしいことをするのだろうか。

 

「詳しいことは話せません。

 ですけれども、必ず約束します。

 どうか、私を信じてください」

 

「……神通さん……?」

 

 神通さんはやはり、私に剣術を教えることが出来ない理由を明かそうとしないうえに約束しようとすることも説明しようとしない。

 ただ彼女は私に『信じて欲しい』とだけ言った。

 

「……わかりました」

 

「……!」

 

 その言葉だけで私の心は決まった。

 

「私は神通さんを信じます。

 喜んで、信じます……!」

 

 神通さんは理由すらも話せないと言った。

 それはつまり、何かしらの事情があるのだろう。

 それでも彼女は私の懇願に応えようとし約束をしようとして、何よりも『私に信じて欲しい』と言ってくれたのだ。

 それを無下にすることなど私には出来ない。

 

「雪風……本当にありがとうございます」

 

「いえ、神通さんを信じるのは私にとっては……いえ、私たちにとってはただ当たり前のことです」

 

 これは盲信でも狂信でもない。

 彼女への信頼があるからこそ言えるし出来ることだ。

 

「それと……神通さん……」

 

「どうしたんですか?」

 

 最後に私は少し照れながらも

 

「……これから、楽しみです!!」

 

 神通さんとの買い物が楽しみで仕方ないことを改めて伝えた。

 

「……ええ。

 私もですよ、雪風」

 

 神通さんは目に涙を浮かべながらも微笑んだ。


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