奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第六章。この章こそがある意味では最大の転換点になり得ると思います。



第6章「海原」
第1話「親睦を深めるには」


「ん……」

 

 何時もの早朝からの自主鍛錬の為に私は何時もの様に早起きした。

 いや、そもそも、私からすれば最早これは生活基準なので早起きとすら言わないだろう。

 

「さて、行きます―――」

 

 私はベッドから出て再び睡魔に誘惑される前に洗面台で冷水をかけることで目を覚まそうとした時だった。

 

「―――え?」

 

 妙な違和感を感じた。

 具体的には左半身に何か生温かい感触がしている。

 加えて、何かにしがみつかれているかのような重みもあった。

 

「んん……」

 

「……え」

 

 私は本音さんと異なる寝ぼけた声がしたような気がした。

 おかしい。

 私のルームメイトは彼女だけのはずだ。

 そもそもそれ以前にこの学園の寮は定員は二人までのはずだ。

 

「………………」

 

 身体に感じる違和感。

 いないはずの三人目の声。

 私はその二つの手掛かりから嫌な予感がしたので恐る恐る首を答えのある方へと向けた。

 

「きゃ――――!!?」

 

 私はそこに在った正答を目にして一瞬大きな声を出しそうになるも寸での所で抑えた。

 これは他人の目に入れることだけは避けねばならないものだった。

 しかし、それでも私が目にしたものはそれ位の衝撃を与えるものだったのだ。

 

「……ふわぁ……

 あ、おはようございます。お姉様」

 

 その声の主は目を覚ますと私を見るととても嬉しそうに朝の挨拶をし出した。

 そう。一連の違和感の正体。

 それはラウラさんだった。

 先月、彼女と和解した際に私の言った言葉に何かしらの感銘を受けたのか、それとも私が彼女の存在を肯定したのが原因なのか彼女は私のことを異様に慕っている。

 恐らく、まだまだ半人前であるが軍人である彼女は元軍人である私に何か感じ取るものが在ったのだろう。

 だが、そこを考慮しても彼女の慕い様に私は多少、いや、かなり困惑している。

 そして、今も動揺している。

 

「……おはようございます。

 ラウラさん、一つ良いですか……?」

 

 私は恐る恐る彼女にとあることを訊ねようと思った。

 

「何でしょうか?」

 

 彼女は私が声をかけたことにさらに目を輝かせている。

 きっと、今の彼女には何の迷いもないのだろう。

 だが、私は彼女と対照的に今、とても胃がキリキリしてる。

 この際、何故この部屋にいるのかと言う些細なことはどうでもいい。

 いや、どうでもよくないが。

 しかし、私が今直面していることに比べればこれぐらいはたいしたことはない。

 

「何で……

 ()なんですか……!!?」

 

 そう彼女は()だ。

 休眠状態の「IS」と眼帯以外は身に纏っておらず、()だ。

 これで動揺するなと言う方が無茶だ。

 温泉や大浴場、船渠ならば未だしも自分以外の人間の裸身などは明らかに異常だ。

 何故、彼女は裸なのだろうか。

 

「いえ……ドイツで部下、いえ、今は上官になっている者に言われたのですが……

 何でも、『お姉様』と慕う人には妹分は身も心も捧げるべきだと言われましたので……

 そろそろ私もすべき、いえ、したくなって―――」

 

「それは間違った常識か特定の人間にしか通用しない常識です。

 直ぐに服を着なさい。」

 

「―――そんな……!」

 

 彼女が言い終わる前に私はそれが間違っていることを指摘し問答無用とばかりに服を着ることを命じた。

 誰だ。この子にそんな偏った知識を教えたのは。

 しかも、この子は今、義務だと主張した後にわざわざ訂正して自らの願望を口に出そうとしていた。

 最近、私が大浴場に行くと彼女は必ず付いて来て『お背中をお流ししましょうか』と言ってくるようになってきて変に断ると落ち込むので頼んでいたが「裸のお付き合い」で許されるのはここまでのはずだ。

 艦娘の中にも姉に対して、物凄い慕い様を見せる妹艦も多くいたが、私は陽炎型に対してそう言った感じではなかったのでラウラさんの慕い様に少し、戸惑っている。

 この子には強く生きてもらいたいので出来る限りのことで私は支えるつもりだ。

 前に誰も見ていない所で同級生どころか、上級生に先月のことや「トーナメント」の件で絡まれて彼女も後ろめたさ故に言い返せずにいて、私がたまたま通りかかって蹴散らしたりするなど、彼女を一人にさせる訳にいかない要因があるので彼女が私の傍にいることに私は別に迷惑などとは思っていない。困惑はしているが。

 しかし、その影響か余計に彼女は私を慕うようになってしまっている。

 これでは依存だ。

 と言っても、強く当たれない私にも落ち度があるだろう。

 なるべくなら、ラウラさんには「ラウラ・ボーデヴィッヒ」としての生き方を見つけて欲しいところなのだが。

 

「と言うよりも、どこから入って来たんですか……?」

 

 既に最も重要なことを訊ね終えて、冷静になった私はどうやって彼女がこの部屋に入って来たのかを訊ねた。

 昨晩、私は間違いなく鍵を閉めたはずだ。

 それなのにどうして彼女はこの場にいるのだろう。

 

「鍵を使って入りました」

 

「……!?どうして、あなたが鍵を持っているんですか!?」

 

「布仏に鍵を借りました」

 

「……は?」

 

 意外な人物の名前が出て来たことに一瞬、私は頭が真っ白になった。

 

「な、なんで……本音さんが……!?」

 

 なぜ本音さんが彼女に鍵を貸したのか本気でその訳が分からなかった。

 確かに本音さんはこの学園の生徒の中ではラウラさんに対して好意的になっている。

 最近はよく会話もしており、その光景を私は暖かく見守っていた。

 

「それがですね。

 もっとお姉様と親睦を深めたいと私が相談した結果、布仏が『だったら、何時でも部屋に来てもいいよ~』と言って鍵を貸してくれたんですよ」

 

「本音さん~!!」

 

 私はそれを聞いて、何時もは起こさないように配慮していたのを今回ばかりはそのことを忘れて怒りの余りに彼女のベッドへと足を進めた。

 

「本音さん、起きてください!!」

 

「う~ん……何……?

 ユッキー、もう走り終わったの?

 ……て、まだ六時じゃん……もう少し寝かしてよ」

 

「あなたに訊きたいことがあったから起こしたんです!!」

 

「え~……何……?」

 

 私が起こすといつもより眠気に襲われていることで体内時計によって私が何時もより早く起こしたことに無意識に気づき、実際の時間が早かったことに文句を言うが、文句を言いたいのは私の方だ。

 

「なんでラウラさんに鍵を貸したんですか……!?」

 

 私は単刀直入に訊いた。

 

「……ラウラっちの上目遣いに負けちゃった……てへ♪」

 

「『てへ♪』……じゃないですよ!?」

 

 本音さんは笑って誤魔化そうとするが、これは由々しき事態だ。

 確かにラウラさんのあの上目遣いは子犬みたいで断るのは至難の業だ。

 しかし、しかしだ。

 私はこれでも多くの秘密を抱えている。

 それもとても他人に話せない内容だ。

 少しでも露呈すれば危険なのにこの件で部外者であるラウラさんにバレるのはマズいなんてものじゃない。

 この人は機密保持を何だと思っているのだろうか。

 

「更識さんに知られたらどうするんですか……!?」

 

 私は声を押し殺して抗議した。

 この件が更識さんに知られることが非常に不安なのだ。

 更識さんは恐らく、今まで人を殺してそうにはないが、暗部だ。

 少しでも情報が漏れることがあれば、ラウラさんを抹殺しかねない。

 それ位の覚悟を彼女は持っている。

 加えて、ドイツは今少しでも自らの発言力を取り戻そうと躍起になっている。

 私の「初霜」の情報を知れば必ず探りに来るはずだ。

 シャルロットさんの件を考えればそれは十分に考えられることだ。

 つまり、これはラウラさんの命と更識さんの心の二つが関わって来る。

 私はラウラさんの命もそうだが、更識さんの手を汚させたくない。

 それも私が一度は守った命で私が原因で友人にその罪を背負わせることなど在ってはならない。

 私が後のことを考えている時だった。

 

「あ、それなら大丈夫だよ?

 お嬢様からも許可を貰っているし」

 

「……はい?」

 

 余りにも予想外過ぎた一言が飛び出してきた。

 しばらくの間、私は理解するのに時間がかかった。

 

「ちょっと、待ってください……

 すみません……誰が許可を出したと言いましたか……?」

 

 私は今出て来た事実が事実でないことを祈りながら確認した。

 

「だから、お嬢様の許可が下りたんだって」

 

「はい!?」

 

 改めて本音さんに告げられた事実に私は再び混乱した。

 一体、何を考えているのだろうか。

 今まで、確かに彼女の行動は意図が読めず、私は終始振り回されてばかりだ。

 だが、それでも彼女なりに考えた末の行動でもあるのも事実だ。

 『敵を騙すには先ず味方から』。

 彼女はそれを体現している。

 だから、今度のことも何かしらの理由があるのだろう。

 けれど

 

「ふ、フフフ……」

 

「ゆっきー……?」

 

「お姉様……?」

 

 今回は流石に悪ふざけにもほどがあるだろう。

 きっと彼女のことだ。

 合理的な判断をしつつもきっと面白そうだからと言って、今回のことを容認したのだろう。

 

「ラウラさん。

 今日の朝の走り込みはなしです」

 

「……え?」

 

 私は毎朝の日課を取り止めた。

 そんなことを私はしたくないのが今回はやむを得ない。

 何よりも優先すべきことが出来てしまったのだから。

 

「ちょっと、急用ができましたので。

 あなたは確りと走り込みをしていなさい」

 

「……え!?

 そんな……!?」

 

 私が一緒にいないことをラウラさんは悲嘆した。

 ラウラさんは私の自主鍛錬に毎日付き合っている。

 そんなことでも私と一緒にいる時間を少しでも増やしたいのだろう。

 

「……今日は部屋に泊まりに来てもいいですから」

 

「……本当ですか!」

 

「服を着ているのが条件ですが」

 

「はい!それ位の事ならばお安い御用です!!」

 

 私は苦渋の決断で彼女がこの部屋に来ることを認めた。

 ラウラさんには後でもう少し、世間の常識を諭そうと決意した。

 

「では、ちょっと……

 出かけてきますね」

 

 私はおいたが過ぎた友人に話を付けようと決めた。

 彼女も恐らく、暗部の仕事で早朝から生徒会室にいるだろうし。




前回との温度差……
なんだこれは……どうすればいいんだ……

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