奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今回、タイトルマジでふざけました(笑)
反省はしているが後悔はしてない……(キリッ)
後、内容もかなりおふざけ気味です。

ただ言わせてもらいます……
シン・ゴ〇ラ最高!!私はたった二回しか映画観に行ってませんがあれ程、早くBDが出ないかと待ち焦がれた映画は初めてです。


第47話「シン・雪風ノ厄日」

「結局、トーナメントは中止だって」

 

「う~……折角のチャンスが……」

 

「でも、どっちにしても陽知さんに当たってたんだから望み薄だったんじゃ……」

 

「うぅ……確かに……」

 

 あのトーナメントから一日が経ち、トーナメントの中止が正式に決まり、クラス、いや、学年中に落胆の声が満ちた。

 参加を決めた誰もが、一夏さんとの交際を本気で狙っていた様子だ。

 ただ第一試合での私の戦いを見たことで殆どの生徒から戦意は失せてしまったらしい。

 どうやら、一か月前の神通さんからの依頼は形は変わったが、本質的には達成できたらしい。

 

 その程度の恋心なら、最初から諦めるべきだったんですよ……

 

 同時に私はこの程度のことで諦めてしまった彼女たちに失望した。

 確かに私は一夏さんを景品扱いしたことに怒りを感じていた。

 しかしだ。

 私はもう一つ新たなる怒りを抱いた。

 目の前の障害が大きいからと言って、それが社会の道徳にも反してもいないのに諦めるとは一体、どれだけ腑抜けているのだろうか。

 一夏さんを景品扱いしたことに関しては明らかに相手の意思を考えない唾棄すべき考えだ。

 私はそんなふざけた妄念を砕くことに一切の躊躇も入れるつもりはない。

 けれども、いざ試練が目の前に課されてそれから逃げ出すなどどういった了見だろうか。

 覚悟も常識もなさ過ぎでは無いだろうか。

 

「おはよう。雪風」

 

 そんなクラスの生徒が落ち込んでいる中、今回の噂の当事者と言うよりも被害者の一夏さんが入室して来た。

 

「おはようございます。一夏さん。

 あれ?デュノアさんは……?」

 

 私はシャルロットさんが一緒に登校していないことに気付き、不思議に思って一夏さんに訊ねた。

 転校して来てから彼女は常に一夏さんと行動を共にして来た。

 その正体が露見したことで一時、ギクシャクした時もあったけれども、二人の友情は変わることはなかった。

 

「それがな。食堂で『先に行ってて』と言われて、先に来たんだけど。

 どうしたんだろうな?」

 

「そうですか……」

 

 彼女が来ていないことに私は少し、肩を落とした。

 昨日のやり取りで今度は私が彼女とギクシャクしてしまっている。

 

「み、みなさん、おはようございます……」

 

「……?」

 

 間もなくして山田さんが教室に入って来たが、その様子はどこか妙だった。

 

「なあ?

 なんか、山田先生の様子がおかしくないか?」

 

 一夏さんもその事に気付いたのか、私に確認して来た。

 

「そうですね……どこか元気がないですね……?」

 

 山田さんの様子はどこか疲れている様であった。

 

「もしかしたら、事後処理とかで大変だったんじゃないでしょうか?」

 

「ああ……確かに……」

 

 考えられるとすれば、ボーデヴィッヒさんが行ったことによって学園側も対応に追われているのかもしれない。

 何せ、各国の要人がいたのだ。

 ボーデヴィッヒさんへの指導がどうとか、「VTシステム」の存在を把握できなかったのかなどと言った責任の押し付けと言う名前の追及を受けているのかもしれない。

 元々、軍人である私もよくあったことなのでその心労はよくわかる。

というよりも今回の件は学園側の指導以前にドイツ軍の方に責任はあるだろう。

 ボーデヴィッヒさんはあの時、自らを『失敗作』と呼ばれることへの恐怖を露わにした。

 それはつまり、常日頃、彼女がそう言われていたことを暗示しているのではないだろうか。

 

『なぜ貴様のような駆逐艦は生き残り、栄えある御召艦の化身は沈んだのだ!!!』

 

 第三次ソロモン海戦で私はボーデヴィッヒさんと同じ痛みを受けた。

 ただの一駆逐艦である私と高速戦艦であり御召艦である比叡さんとでは失った戦力の大きさも名誉的な意味も違う。

 あの時、私は他者に自らの生命を否定されたのだ。

 あの時の悲しさと虚しさは何と言えばいいのか分からなかった。

 その後、ダンピールでの時津風たちの死を軽んじた参謀たちの言葉を受けた私はボーデヴィッヒさん以上に生きることに無気力に等しく戦うことにしか心を置くことが出来なかった。

 けれど、

 

『目の前を見なさい……!!

 私はあなたをそんな柔に育てたつもりはありません……!!』

 

 コロンバンガラの戦いでそんな私に生きる意味を取り戻させてくれたのは神通さんだった。

 あの戦いの後、神通さんとはこの世界で再会するまでは死別したけれども、私はあの時の神通さんの言葉と叱咤により、死にかけていた心を辛うじて踏み止ませられた。

 同時に私は比叡さんに言われた

 

『生きなさい、雪風』

 

 命令の意味を初めて理解できたのだ。

 比叡さんは私に生き残って欲しいと考えて送り出したのだ。

 その意味を理解した時から私はこう思った。

 私の生命は私の物だ。

 他人に何を言われても、『生きる』。

 そうでなくては私を生かそうとした人々に顔向けが出来ないと。

 苦しくても生きる。

 辛くても生きる。

 悲しくても生きる。

 他人に私の生命の価値を勝手に値踏みなんてされてたまるか。

 そんな風に私は心の底では思い続けていた。

 磯風を失った時にその誓いを破りそうになったが磯風との約束と初霜ちゃんの言葉で踏みとどまることが出来た。

 だから私はボーデヴィッヒさんの生命を『失敗作』と言った人間を許せないのだ。

 他人の生命の価値を勝手に決めつけるなどは愚の骨頂だ。

 同病相憐れむと言うべきかもしれない。

 けれども、私はだから彼女に強く生きて欲しいのだ。

 私自身、そんなに強くない。

 だけど、強くないからこそ私は彼女を放っておけないのだ。

 

「今日はですね……

 みなさんに転校生を紹介します。

 転校生といいますか、既に紹介は済んでいるといいますか、ええと……」

 

「……!」

 

「なんだ……?」

 

 山田さんの歯切れの悪い言葉にクラス中がざわつく。

 ただそれは一か月前のものよりは静かではあるが、どこか疑念の声が強かった。

 それはたった一か月に二人の転校生が来たばかりなのにまた転校生が来たことによるものだろう。

 この学園は国際施設だ。

 そんな場所に二か月連続で転校生が来るのは、それもトーナメントの騒動の後だと言うのは色々と思う所はあるのだろう。

 

 遂に……この時が来ましたか……

 

 けれど、私はその意味が分かり一人瞠目した。

 私は彼女(・・)がいないことで彼女(・・)の決意が定まったことを察した。

 

 ……歓迎します

 

 その勇気に私は敬意を表したかった。

 周囲に奇異の目で見られてでも、大きく手を叩いて彼女に拍手を贈りたかった。

 きっとこれは彼女にとっては勇気が要る決断だったはずだ。

 恐くて恐くて仕方のないことだっただろう。

 けれども、彼女は取り戻したのだ。

 本当の名前を。自分を。人生を。

 

「じゃあ、入ってください」

 

 山田さんがそう促すと、

 

「失礼します」

 

 彼女(・・)の声が確かに聞こえた。

 横を見てみると、一夏さんもその声に何かを感じ取ったらしいが、それが意味することまでは理解できていない様子だった。

 

 そして、彼女は、

 

 

「シャルロット・デュノアです。

 皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 女子(・・)生徒の制服を着て、完全に憑き物が落ちたのかような穏やかな表情で改めてこのクラスに本当の自分を示した。

 その様子にクラス中の生徒、そして、一夏さんまでも唖然としていた。

 私はそんな彼女の姿にただただ安堵するのと同時に彼女のその姿が嬉しく感じ、羨ましかった。

 色々なお膳立てはあった。

 しかし、それを彼女は知らなかった。

 それなのに彼女は自らの意思で自らの業に向き合い、本当の自分を取り戻したのだ。

 それが私には眩しくとも嬉しくとも思えたのだ。

 

「ええと……デュノア君はデュノアさんでした。

 と言うことです。

 はあぁ……また寮の部屋割りを組み立て直す作業が始まります……」

 

 山田さんは途方に暮れていた。

 ただその気持ちはわかる。

 私も中華民国の旗艦をやり始めた時には人事で相当な苦労をした。

 当時は殆ど水雷戦隊程度の戦力しか存在せず、旗艦と言っても殆ど教導艦に等しくしかも、軽巡ではない上にほとんど多国籍の艦娘ばかりで駆逐隊ごとの編成でかなり頭を悩ませていた。

 

 ご愁傷様です……

 

 私はただ山田先生に激しく同情した。

 

「え?デュノア君って女……?」

 

「おかしいと思った!

 美少年じゃなくて美少女だったわけね。」

 

 まあ、そうなりますよね……

 ですが、この様子だと騙された云々はなさそうですね……

 

 クラス中がようやく、この事実を飲み込み始める中、私は生徒たちがシャルロットさんに騙されていたことに嫌悪感をそこまで抱いていないことに安堵した。

 これならシャルロットさんも平穏な学園生活を送れるだろう。

 

「って、織斑君、同室だから知らないってことは―――」

 

 ……あ

 

 しかし、事態は私の想像とは違う問題を作り出した。

 私はある事を失念していた。

 私は恐る恐るその懸念事項へと顔を向けた。

 するとそこには

 

「「…………………」」

 

 一夏さんをその視線だけで射殺さんとする二人の女子がいた。

 まさにこれはあれだ。

 今にも決壊しようとする堤を目にしているかの、いや、暴発しそうになっている酸素魚雷を見ているかの様だった。

 つまり、一言で言うとこれはあれだ。

 一触即発であると。

 そんな時だった。

 

「ちょっと待って!

 昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」

 

「……!?」

 

「……え?」

 

 一気に魚雷の信管が外れた。

 そして、教室中に一夏さんとシャルロットさんのある事ない事の推測と邪推が満ち溢れた。

 

「一夏あっ!!」

 

 教室の扉がまるで戦艦の主砲で吹き飛ばされたのかのように見えた私は、

 

「一夏さん、逃げますよ!!」

 

「え?ちょっ!?」

 

 一夏さんの生命の危機を感じて、加えて教室では被害が拡大すると考えて彼の手を掴んで後ろの扉から彼を伴って離脱した。

 

「あれ……?二人って付き合っているの?」

 

「きゃあ~!陽知さん、大胆!」

 

「いいな~」

 

「あ、もしかすると陽知さんがトーナメントに参加したのって……」

 

「彼氏を取られたくないからだったのかも!」

 

 ……あれ?

 

 しかし、そんな私の行動は私も予想もしなかった結果を生み、何故か私と一夏さんが交際していると誤解されてしまった。

 

 しまった……!!

 普段の周囲からの評価を考慮し忘れました……!!

 

 どうやら私は周囲からは「小動物」扱いされていたりすると同時に異性に奥手であると思われていたらしい。

 いや、確かに司令相手にそうだったけれども。

 その私が異性である一夏さんの手を引いて避難しようとしている。

 それはつまり、

 

 これじゃあ、「愛の逃避行」じゃないですか!!?

 

 更識さんに現代に馴染むためと言われて散々、見せられた映画やドラマ、漫画などに出て来る恋人の手を引いて一緒に何処かへと逃げようとする場面そのものだ。

 

「一夏ぁ~!!」

 

「待ちなさい!!」

 

「説明して貰おうか!!」

 

 六時の方向から私たちを追いかけて来る怒声が聞こえて来た。

 今、彼女たちはシャルロットさんが女性であったことが発覚したことで一夏さんが一か月もの間、自分たちとは異なる女性と一緒に過ごしていたことに色々と嫉妬しているのだろう。

 恐らく、比較的に大人しくなっている鈴さんもセシリアさんも一か月も自分たちに黙っていたことと寝食を共にしたこと、さらにはこれは完全に誤解ではあるが入浴までもを共にしたと思い込んでいて抑えが利かなくなっているのだろう。

 加えて、

 

 逃げたのは逆効果だったかもしれません……

 

 現在進行形で私が彼の手を引いて逃げているのを目にしてさらに嫉妬の炎を燃やしてしまっている。

 何と言うことだろう。

 

 ……て、なんで「IS」を展開しているんですか!?

 

 ちらっと背後を確認すると鈴さんとセシリアさんは専用機を展開していた。

 ついでに篠ノ之さんは日本刀を抜刀していた。

 何故銃刀法が存在するこのご時世にそんなものを白昼堂々と抜いているのだろうか。

 

「雪風、その手を離しなさい!!」

 

「アナタも巻き込まれますわよ!!?」

 

 どうやら、鈴さんとセシリアさんは私までは巻き込むつもりはないらしい。

 変な所で律儀だと言いたいところだが、そもそも他人に武器を向けている時点でそんな指摘は見当違いだ。

 ダメだ。完全に頭に血が上っている。

 一夏さんを撃たないと言う選択肢が存在しないらしい。

 

 「初霜」は修理中ですし……

 どうしましょう……?

 

 そもそも私が彼のことを連れて逃げ出したのは彼が教室にいることで他の生徒たちにまで被害が拡大しないためともう一つは「初霜」が今、損傷していて修理中だからだ。

 「初霜」が健在ならば、彼の盾になってでも守ろうとしたが流石に今回は分が悪い。

 そして、どうやらその判断は間違っていたらしい。

 

「人の生き死にが懸かっているのに逃げられるわけないでしょう!!?」

 

 今ここで逃げれば一夏さんはともかく私は助かるだろう。

 けれど、だからと言って途中で見捨てることなどはしない。

 乗り掛かった舟だ。

 最後まで付き合うつもりだ。

 その時だった。

 

「くっ……!

 悪い、雪風!!セクハラとか後でなしな!」

 

「……え?」

 

 一夏さんは突如、趣旨がわからない言葉を言い放った。

 そして、その直後だった。

 

「きゃっ!?」

 

「「「なっ!!?」」」

 

 いきなり、私は後ろから押し出される感覚に陥り、それは瞬時に今度は持ち上げられるようなものとなり、私の背中と足が同時に浮いた。

 よく見ると、一夏さんは「IS」を展開していた。どうやら、彼は私を持ち上げたらしい。

 

「ちょっ!?何するんですか、一夏さん!?」

 

 そう私は一か月前に一夏さんが訓練中に同グループの女子たちにせがまれてした抱っこ。正式名称は「横抱き」。後でクラスの生徒たちによって教えられた可愛いらしい名前は「お姫様抱っこ」なるものをされたのだ。

 

「仕方ないだろ、我慢してくれ!!

 それより、飛ぶ(・・)ぞ!!」

 

「……え?飛ぶ(・・)……?」

 

 私は余りに恥ずかし過ぎて抗議するが、一夏さんは緊急事態として取り合わず、次にとても不穏なことを言った。

 

「大人しくしてくれよ……!!」

 

「ちょ!?本気ですか!!?」

 

 彼は開いている窓を見つけるとそこへ向かって一直線と加速しだした。

 確かにあの大きさなら、私たちは通り抜けられるだろう。

 だけど、

 

「私、生身(・・)ですよ!?」

 

 私は今、「初霜」を倉持に預けている。

 そのため、「IS」を展開できない。

 それなのに彼はそのまま飛ぼうとしている。

 もし、落下ないし、不時着、墜落したらどうすればいいのだろうか。

 確かに以前、私は彼を抱えて飛行したがあの時は彼は「IS」を展開していた。

 それとこれとでは全く違う。

 

「大丈夫だ!!

 絶対に離さないから!!」

 

「いや、そうじゃなくて……!!

 て、きゃぁああああああああああぁぁぁあぁああああぁああぁああぁあ!!?」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉおぉおおお!!!」

 

 しかし、最早決定事項だったのか、彼はお構いなしに窓へと歩みを止めなかった。

 私は「IS」を纏わないことによる「IS」の出す速度による加速度、浮遊感を直に受けて年甲斐もなく叫んでしまった。

 そして、そのまま私は一夏さんに強く抱きつきながら空へと出た。

 

「ふ~……なんとか、抜けられた……

 て、おい、雪風……大丈夫か?」

 

「………………」

 

 窓を抜けて暫くして一夏さんは一息吐いた。

 しかし、私は「艤装」や「IS」と言った装備を付けないで初めて感じた加速度の中に晒されたことによる恐怖で暫く頭が回らなかった。

 

「おい……どうした―――」

 

「離さないでください……」

 

「―――え」

 

 ようやく、口が利けるようになった私は開口一番目に出したのはその一言だった。

 

「絶対に離さないでください……!!!」

 

「え!?

 ちょ、雪風!?」

 

「お願いですから!!離さないでください!!」

 

 私は先ほどの恐怖と、今、飛行している中で唯一の命綱が一夏さんの腕だけと言う状況による不安から恥も外聞も捨てて彼の襟に手を伸ばして懇願した。

 本当はこの体勢はかなり恥ずかしい。

 しかし、それよりも下手をすれば即落下、しかも、殆ど命の保証がない状況なので彼に絶対に離さないで欲しかった。

 こんなのと比べれば「二水戦」の反航戦はまだ可愛い。

 自分でなんとか出来るのと出来ないのではその意味は全く異なる。

 

「わ、わかったから!!

 絶対に離さないから!!だから、落ち着いてくれ!!」

 

「絶対ですよ!?本当に離さないでくださいよ!?」

 

 私が彼に何度も何度も確認していると

 

「一夏あああああああああああああぁあああああああ!!!」

 

「お待ちなさい!!!」

 

「げっ!!?」

 

「いっ!?」

 

 鈴さんとセシリアさんが執拗にも追いかけて来た。

 と言うよりも先程よりも明らかに怒っているのが見受けられる。

 

「くっ……!!仕方がありません!!

 一夏さん、多分ですけど私がいる限りは彼女たちも攻撃はして来ないはずです!!

 ですから、頑張って職員室に……!!」

 

「あ、あぁ……!!」

 

 私はそう言って、彼に私をある種の人質にして職員室に向かうことを提案した。

 問題が起きた時はすぐに憲兵か上官に。

 それこそが最も混乱を手っ取り早く収める方法だ。

 

「このぉ……!!待ちなさ―――!!」

 

 私たちが再び逃走しようとした時だった。

 

「―――え?

 きゃあああああああ!!?」

 

「えっ!?鈴さ―――

 ―――きゃああああああああああ!!?」

 

「「え」」

 

 突然、背後から二人の悲鳴が聞こえたと思ったら衝突音が聞こえ、そして、最後に落下音がした。

 私たちは彼女の方へと振り向くと、

 

「……お二人とも……

 授業時間なのに何をしているんですか?」

 

「「ひっ!?」」

 

「「あ」」

 

 彼女たちの落下地点に腕を組んでいる神通さんの後ろ姿が見えた。

 私たちの方から彼女がどのような表情をしているのかは把握できない。

 しかし、二人のこの世の終わりを目にしたような表情からまるで鏡越しに背後が見えるかのように私はその表情が理解できた。

 

「ふ~……何とか、助かった……」

 

「い、一夏さん……

 もう大丈夫なので……その……降ろしてください……」

 

「あ。あぁ……悪い……」

 

 神通さんが出張ったことでこの場にいない篠ノ之さんも諦めが付いたと予想し既に事態は終息したと考え彼に抱えられる必要性はなくなったことで冷静さを取り戻した私は恥ずかしさも戻って来たことで彼に降ろして欲しかった。

 もう恥ずかし過ぎて死にそうだ。

 そして、そのまま地上に降りるが、

 

「あ」

 

「あ、大丈夫か?」

 

 一夏さんは丁寧に降ろしてくれたが、先ほどの飛行による恐怖と羞恥心、地上に降りたことによる安堵で私はふらついてしまい、彼は支えてくれた。

 

「うぅ……恥ずかしかったです……」

 

「いや……その……ごめんな……?」

 

 異性にこんなことをされたことがなく、言葉に出せば少しは羞恥心も紛れるかと思ったがそんなことはなかった。

 そんな風に色々と混乱していると、

 

「……ん?あれは……」

 

「え……?」

 

 一夏さんは遠くから私たちに近づく人間を色々と情緒が不安定になっていて何時もより注意力が欠けている私よりも早く見つけた。

 私も彼が見つめている方に目を向けると

 

「……ボーデヴィッヒさん……?」

 

 そこには「IS」を展開していたボーデヴィッヒさんがいた。

 どうやら、予備パーツがあったしく修理に時間がかからなかったらしい。

 よく見ると、彼女は今、神通さん達がいる場所から来たようだ。

 つまり、二人を撃墜したのはボーデヴィッヒさんだったらしい。

 ただこの様子だと生命に別状はなかったらしい。

 私はそのことに安堵した。

 

 良かった……

 

「……今までの数々の行動を深くお詫び申し上げます……

 申し訳ございません」

 

「「……え?」」

 

 私たちと向き合うと彼女は突然、私と一夏さんに深々と頭を下げて来た。

 私たちはそれを見て、困惑してしまった。

 確かに彼女には色々と怒りを覚えていた。

 しかし、いざ面と向かってあちらから謝罪されるとどうしていいのか分からないのだ。

 

「……試合が終わった後、自分がしたことを冷静になって考えた結果、本当は生命を絶ってでもこの罪を雪ごうとしました……」

 

「「え!?」」

 

 私と一夏さんはそれを耳にしてギョッとした。

 彼女のしたことは各方面にかなりの迷惑をかけただろう。

 しかし、だからと言って死なれたりすれば、折角助かったのにそれこそ本当に困る。

 裁判などで死刑宣告を下されるのならば未だしも「死」で罪を償うのは本当にやめて欲しい。

 私自身、試合中の鉄拳制裁は自分でもやり過ぎたと考えている。

 そんな私でもボーデヴィッヒさんはボーデヴィッヒさんの意思で償うべきだと考えている。

 それに私は彼女を助けた。

 その彼女が自分で命を捨てたとなれば、私は悔しくて仕方がない。

 

「でも……それでは教官やあなた(・・・)に救われた生命を無駄にすると考えて踏み止まりました……」

 

「……え」

 

 けれども、そんな懸念は無駄であったらしい。

 

「私はあなたに言われて初めて『自分は生きていていいんだ』と思えました……

 ありがとうございます。」

 

「ボーデヴィッヒさん……」

 

 そう言って、彼女は今まで見せたことがないほどに顔を穏やかにした。

 それを見て私は嬉しかった。

 私がしたことは決して無駄ではなかったのだ。

 

「それともう一つ……お願い(・・・)があります」

 

「……お願い(・・・)ですか?」

 

 私は感無量でいると、彼女は少し恥ずかしそうにした。

 何だろうか。

 今の私はなるべく彼女が自立できるまでは支えたいと思うので出来る限りのことをしてあげたい。

 

「私を『ラウラ』と呼んでくれませんか!!

 お姉様(・・・)……!!!」

 

「「……え?」」

 

 彼女は要求はともかくとして何故か私を妙な呼び方で呼んだ。

 

お姉様(・・・)って……え?」

 

「あ、あの……ボーデヴィッヒさん……?」

 

「……『ラウラ』と呼んでくれないんですね……

 いえ、仕方ありませんよね……今までのことを考える―――」

 

「いえいえ!!?

 違いますよ!?ラウラ(・・・)さん!!

 どうして、私は『お姉様』と呼ぶんですか!?」

 

 私が『ボーデヴィッヒさん』と呼ぶと、彼女は再び塞ぎ込みそうになったので私は『ラウラさん』と慌てて言い直した。

 彼女と私は姉妹ではないはずだ。

 それなのに何故彼女はそう呼ぶのだろうか。

 

「はい……!!

 この国では自らの敬愛しお慕いする女性のことを『お姉様』と呼ぶのですよね!

 ですから、私もそれに倣ってそうさせていただきました!!」

 

 誰がそんな特定の集団内で使われる慣習を教えたんですか!!?

 

 ラウラさんは私が『ラウラさん』と呼んだことに嬉しく思ったのか目を輝かせて自信満々にそう言い放った。

 確かに私も帝国海軍時代には戦艦や空母、重巡の方々を『お姉様方』と他の駆逐艦と一緒に呼んでいた時はあった。

 ついでに総旗艦と練習艦時代には逆にそう言われていた。

 だが、はっきり言おう。

 これはかなり恥ずかしい。

 妹艦ならばまだいい。

 けれど、それを全くの赤の他人にされると恥ずかし過ぎるのだ。

 余りにも恥ずかし過ぎて、総旗艦時代には軍規に『雪風ノ事ハ御姉様デハナク、丹陽ト呼ブヨウニ』と加えようとしたほどだ。

 

「ご迷惑でしたか……?」

 

「えっ……!?」

 

 そんな私の戸惑う姿を見てボーデヴィッヒさんは何処か物悲しそうな顔で見上げて来た。

 その視線は反則だ。

 

「なあ、雪風……別にいいんじゃないのか……?」

 

「ぐっ……!!」

 

 一夏さんも今までボーデヴィッヒさんに抱いていた嫌悪感は何処かへ行ったのか、加勢して来た。

 出来れば、回避したいその呼ばれ方であるが、生憎ここには『丹陽』と言う名前はない。

 

「わ、わかりましたから……

 もうそれでいいです……」

 

 私は折れてしまった。

 元来、私は他人の頼みごとを断れない性格だ。

 それにこれで少しはこれからボーデヴィッヒさんが歩んでいく茨の道に対する励みになるのであれば、私の羞恥心と引き換えならば対価としては軽いだろう。

 

「本当ですか!!お姉様……!!」

 

 ボーデヴィッヒさんは私の答えを見て、満面の笑みを浮かべた。

 ようやく、いや、今まで何処かで感じていたことではあるけれど理解した。

 この子は幼い。

 幼い子供そのものだ。

 

 ヴァルハラの金剛さん……比叡さん……

 私は何故か、この世界でも『お姉様』と呼ばれるようになりました……

 

 どうしてもこの『お姉様』の呼び方で金剛さんと比叡さんの姉妹を思い出してしまい、思いを馳せた。

 

 ……今日は厄日です……

 

 同時に今日起きた数々の出来事に私はそう嘆いた。




イヤー、ここまで萌えないお姫様抱っこがかつてあっただろうか……?
と言うか、前半と後半の温度差激し過ぎじゃないでしょうか?

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