奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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 そもそも、白騎士事件て……
 感想欄でめぐりさんが言っていたようにかなりおかしい部分があるんですよね


第11話「真の軍人と偽りの騎士」

「これが「IS」の戦闘ですか……」

 

 私は織斑さんに誘われるままに小さいレコードのような円盤の中に収められていたと考えられるワープロに似た機械に映ったこの世界において、初めて世間に「IS」の存在を知らしめたとされる事件、「白騎士事件」の資料映像を目にした。

 私はまず、驚いたのはミサイルのことだった。

 私のいた世界でもミサイルは陸地にいても、深海棲艦の巣を破壊する、ないしは大打撃を与えられる兵器としてドイツが造り上げた兵器だ。

 ミサイルの凄まじさは私もよく知っている。

 私のいた世界での戦後の各国の軍備は「一にミサイル、二に航空戦力、三に駆逐艦」と言う順番に優先順位が定められたほどだ。

 やはり、ミサイルの兵器としての価値は十年前のものとは言え、この世界でも認められているらしい。

 

「………………」

 

 だが、私は「白騎士事件」の顛末に怒りを感じた。

 なぜならば、

 

「誰ですか!?日本にこれだけのミサイルを向けたのは!!」

 

―バン!―

 

「………………!?」

 

 大量のミサイルが日本に向けられたからだ。

 ミサイルは広大な射程、迎撃のしにくさ、一方的な攻撃を可能とする戦術どころか、戦略級の兵器だ。

 しかし、その反面、その威力や精度から的確な攻撃はほぼ不可能に近く、到達地点に大きな被害をもたらす大量破壊兵器でもある。

 しかも、性質の悪いことにミサイルはスイッチ一つで発射されてしまう。当たった瞬間も相手の顔が見えない中で。

 つまりはミサイルを発射する人間は自分が多くの生命を奪うと言う自覚を持たないままにスイッチを押してしまう危険性もあるのだ。

 ゆえに戦いに対する抵抗感が生まれにくい。

 特に軍人、いや、人間として私はミサイルを平気で市街地に向けるような人間に対しては仮にいるとしたら不快感を感じると思っていたほどだ。

 だが、この世界では実際に行った人間がいた。

 それに私がさらに憤りを感じたのはそのミサイルを向けられたのが「日本」だからだ。

 この世界と私のいた世界は違う。

 そして、帝国は過去のものらしい。

 それでも私の愛した故郷と同じ土地と名前を持つ国家だ。

 それに見た所、これは明らかに市街地に向けられたものだ。

 多くの非戦闘員である民間人のいる中でこの行いは許されるべきことではない。

 

「……驚いたよ。

 まさか、「IS」の性能に驚く前にミサイルのことで怒るとは……」

 

 私の言葉に轡木さんは貫録のある姿勢でそう言ってきた。

 確かに「白騎士」と呼ばれる「IS」の戦いはあまりにもすごかった。

 空を自由に飛ぶ姿に私は年甲斐もなく、少しだけだが憧れてしまった。

 だけど、その前に起きた日本への攻撃は許せなかった。

 そして、これだけのことを起こした犯人を捕らえるどころか、目星すらついていない現状に私は更なる憤りを感じた。

 どうやら、多くの人々はその後の「IS」の衝撃でそのことを忘れているようだが、これはとんでもないことだ。

 私はそこに危機感を抱いた。

 

 それに……この事件に明らかにおかしいところが……

 

 そして、何よりも私はこの事件には不可解なところを感じた。 

 

 なぜ、「白騎士」はミサイルを迎撃できたのでしょうか……?

 

 それは「白騎士」の存在だ。

 簡単なことだった。

 確かに「IS」は映像を見た所、すさまじい速度と戦闘力を持つことが理解できる。

 だが、それはあくまでも「戦術兵器」としてのものだった。

 ミサイルはその性質上、発射からの到達時間は短い。物によっては到達時間は30分程度のものがあるが、短いものであれば5分程度の筈だ。

 その中で、今回の事件では日本の軍隊の代わりである防衛組織の自衛隊と呼ばれる部隊が迎撃が間に合わなかったことを考えるとかなり時間に余裕がなかったはずだ。

 しかし、「白騎士」はすぐにその到達地点に駆けつけていた。

 私の世界のミサイルでさえ、迎撃が困難なのだ。私の世界よりも時が経っていると思われるこの世界のミサイルが劣っているとは到底考えられない。

 それを「白騎士」はまるで、ミサイルに追いついた、いや、先回りしたかのように全て迎撃したのだ。

 

 まるで……最初から何が起こるのかを知っていたかのように……

 

 私はこの「白騎士」と呼ばれる「英雄」に不信感を抱いた。

 まるで、自らの力を誇示するかのように日本の危機を救い、さらには私のいた世界の物よりも優れた航空戦力や水上戦力を戦闘不能にした「白騎士」に。

 そして、もう一つ。

 

 篠ノ之 束博士ですか……

 

 私は「IS」の生みの親とされる篠ノ之博士にもどこか違和感を感じた。

 当初、私は彼女に自らが製作した「IS」が兵器として見られたことに同情的だった。

 けれど、彼女を一目見て思ったことは

 

 なぜ彼女は……自らの子供とも思える「IS」の扱いを嘆かなかったのですか……

 

 「IS」が当初の目的に使われなかったのにも関わらず、彼女にはそれに対する憤りも悲しみも感じられなかった。

 彼女はあまりにも異常だ。

 

「で、でも……

 ミサイルは全て撃墜できたのだし……」

 

 と山田さんは楽観的なことを言うが

 

「ことはそんなことで済まされるものじゃありません」

 

「ぐっ……」

 

 私は多少、呆れを込めてそれをすぐに黙らせた。

 山田さんはこの事件に無関係なので今のやりとりは気の毒に思えるが、これは死傷者皆無だからと言って軽く済まされる事態ではない。

 他国のコンピューター(まさか、ここまで発展しているとは思わなかった)の制御を奪われて、日本に向けられるなんて、この事件の首謀者は相当の技術者であることが窺える。

 そして、その犯人は捕まっていない。

 これをその後の「白騎士」の登場で忘れるのならば、それこそとんでもないことだ。

 

「下手をしたら、何度でも「白騎士事件」は起きますよ?

 それも今度は死者を出して……」

 

「「「「………………」」」」

 

 私は無礼を承知でそう皮肉った。

 これほどのことをしでかす犯人だ。

 きっと、何度でも同じことを起こすことができるはずだ。

 

「ふむ……雪風さん、

 君は本当に……何というか、軍人なのだね……」

 

 轡木さんは私のことをどこか驚きを込めた目で見ながらも、微塵も嫌悪を感じさせない姿勢でそう言ってきた。

 どうやら、この人はこの施設の長だけあって、相当な器の人物なのだろう。

 

「すみません……

 ですが、軍人が民間人に危害が加えられる事態を目にしたのならば、憤慨するのは当然だと思っています」

 

 私は自らの無礼を詫びながらも自分の軍人としての在り方を臆することもなく語った。

 民間人を戦火に巻き込んでしまうことはあるかもしれない。

 しかし、最初から民間人を標的にするような行いや巻き込む作戦は軍人としても人間としても恥ずべき行為なのだ。

 仮にそんなことを簡単にできる者が軍を僭称するのならば、それは暴徒のやることだ。

 決して、軍人ではない。

 

 軍人ですか……

 

 そして、私は軍人と思われたことに多少の嬉しさを感じた。

 それはある妹のことを思い出せるからだ。

 周囲には似ていないのに、どこか似ていると言われた妹のことを。

 

 磯風……お姉ちゃんは違う世界の人にも「軍人」らしいと言われたよ?

 

 それは私にとって、思い入れの深かった姉妹の一人であった磯風のことだった。

 一番仲が良かった姉妹が私の「相棒」でもあった時津風ならば、私とよく似ていると言われたのは磯風だった。

 彼女とは同じ出身であったが容姿や普段の性格は絶対に似ていないだろう。

 と言うか、我が妹ながら戦闘においてはまさに姉妹の中では最強なのだが戦闘以外においてはかなり抜けている所があったり多少傲慢な節があって、そのことから私たち姉妹の中で最恐と恐れられた不知火姉さんの怒りを何度も買っていた。

 なのに姉妹たちは私と彼女は似ていると言っていた。

 どうやら、軍人としての側面が似ていたらしい。個人的には彼女に似ているとしたら不知火姉さんの方だと思う。不知火姉さんは割と恐がりな一面とか、陽炎姉さんに弱い一面とか戦場以外で抜けている所が多かったし。

 本人の目の前じゃ言えないけれど。

 そんな一緒にいれて楽しかった姉妹たちの中でも出身地が同じと言うこともあって、かなり思い出が多かった。

 だけど、

 

『雪風、もう……

 ここまででいい……』

 

 彼女も沈んだ。

 あの「悪魔」から私たちを逃すために。

 あと少しで彼女も戦場から離脱することができたのに。

 あと少しで彼女も平和を迎えられたのに。

 

『嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!!!』

 

 自分を置いていくようにと言う彼女に私は泣きながら、首を横に振って拒否し続けた。

 

『置いていくのはもう……比叡さんの時だけいいんです……!!』

 

 最初に私の手が届くことのなかった人の名前。

 あの時も私は戦艦と駆逐艦と言う体格差がありながらも曳航して退却していた。

 だけど、彼女は嘘を吐いて私を逃がした。

 自分が沈みゆくのを知りながらも。

 あの時の経験から私は誰も見捨てたくなかった。

 

『磯風……!!帰ろうよ……!!天津風だって……待ってるんです……!!

 だから……!!』

 

 私は自ら囮になって時間を稼ごうとしていた彼女をどうにか説得して連れて帰ろうとするが

 

『……天津風を一人にするつもりか?』

 

『……っ!』

 

 磯風は卑怯にも私が説得の材料にしていたあの作戦に参加することのできなかった当時、第十六駆逐隊の私と同じ生き残りで唯一残っていた私たちの姉妹の名前を少ししょうがなさそうな笑みを浮かべながら口に出してきた。

 

『解かるだろ、雪風?

 誰かが残らなくてはいけないことぐらいは……』

 

 彼女は続けて、あの絶望的な撤退戦の現実を突きつけてきた。

 私は嫌でも理解できていた。

 けれど、彼女の一言で私は希望を捨てざるをえなかった。

 そして、

 

『天津風を一人にしないでやってくれ……お願いだ……

 姉さん(・・・)……』

 

『……ぐっ!』

 

 いつも私のことをからかってばっかりで姉として扱わないくせににあんな時だけ、妹としてのお願いをしてきた。

 私はそれを見て

 

『……ずるいよ』

 

 と恨み言のように呟いて彼女を置き去りにした。

 

『ありがとう』

 

 その背後でそう聞こえた気がした。

 しばらくした後に大きな爆音が聞こえてきて、私はあの「悪魔」が憎くて引き返しそうになったが、最後の戦友である「彼女」の制止と妹の約束と待っている妹のために撤退した。

 だけど、本当の絶望と悲しみはその後に待っていた。

 

「雪風さん……?」

 

「どうしたのかね?」

 

「あ……」

 

 私は最後に経験した姉妹との別れを思い出して、いつの間にか涙を流していた。

 

「ごめんなさい……

 昔のことを……ちょっと、思い出しただけです……」

 

 私はすぐに涙を拭った。

 本当にこんな些細なことで磯風のことを思い出すとはこの先のことが思いやられる。

 だけど、それでいいのかもしれない。

 たとえ、私は似ていないと思っていても周囲が似ていると言っていたことで既に会えない誰かとの思い出を思い出せるのならば、それでいい。

 

「そうかね……あまり、深く聞くのはやめておこう……

 では、織斑先生……次は「IS」がその後の社会にどのような影響を与えたのかを……ん?」

 

 轡木さんは私の心中を察してか、深く追求せずに話を進めようとしてくれるが

 

「……はい、わかりました」

 

 説明役を担っていた織斑さんの表情はどこか優れていなかった。

 何があったのだろうか。

 そんな彼女に轡木さんは

 

「……織斑先生、彼女の親友(・・・・・)であるあなたの気持ちはわかります。

 が、今は雪風さんに「IS」の説明を……」

 

 とそう言って急かした。

 

 親友……?

 

「わかりました……

 すいません……」

 

 と織斑さんは少し、心苦しそうにしながらも説明を続けようとしてくれた。

 

 

 

『誰ですか!?日本にこれだけのミサイルを向けたのは!!』

 

『ことはそんなことで済まされるものじゃありません』

 

 雪風の怒りによって、発せられる言葉に私は胸が抉られるかのような感覚に襲われた。

 最初から「IS」によって歪んだ世界を創った張本人の一人として罪悪感を抱いていたし後悔もしていた。

 だけど、あの子が怒りを感じたのは「多くの犠牲者を生みかねない事件を起こした人間」に対してだった。

 この子は心の底から軍人だった。

 彼女の言葉は私への罰でもあった。

 そして、私は

 

『下手をしたら、何度でも「白騎士事件」は起きますよ?

 それも今度は死者を出して……』

 

 と言う言葉に十年前、改めて自分たちが犯した罪の大きさ、いや、結果的に死者が「0」であったことから、どこか考えもしなかった己自身の軽率さなんて言葉で済まされることではなかった愚かさに気づかされた。

 

『「白騎士」ですか?

 そうですね……何というか、胡散臭く感じますね』

 

 かつて私と互角クラスの実力を持っていた、今は世界でもトップクラスのIS操縦者と言うことで各国のIS部隊の指導を務めている後輩は私が訊ねた「白騎士事件」のことについてそう言った。

 

 私は……

 

 たとえ、世界を憎んでいたからと言って、そこで平穏に暮らしている人々の平穏を奪うことなんて許されないのだ。

 「世界最強(ブリュンヒルデ)」、「白騎士」、「IS神話」。

 そう言ったことで目を背けていた、「もしも」の可能性に私は恐怖した。

 

 雪風……私はお前が羨ましいよ……

 

 私は「白騎士事件」のことで怒ることのできる彼女の正しさに憧れを抱いた。

 そして、同時に

 

 私は騎士なんかじゃない……それが似合うのは……この子の方だ……

 

 そう自嘲した。

 そして、あの子に自分の罪の大きさを伝えるために説明しようとした。




 磯風と雪風は同じ佐世保出身の陽炎型なんですよね。
 だから、どこかしら似ているところが思ってこのように書きました。

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