奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今回の話では、「VTシステム」の危険性に独自に考察してみました。
これはあくまでも私の考察でありますので原作とは異なる部分があると思われます。
どうかご了承ください。


第40話「決意の価値」

「っ……!」

 

 「瞬時加速」の反動による痛みを感じつつもアリーナ中に響く醜い笑いを耳にして私は自らの甘さを後悔した。

 私はボーデヴィッヒさんの卑劣なやり方と軍人を名乗りながらも「犠牲」を何とも思わない姿勢に怒りを爆発させて彼女を叩きのめした。

 しかし、彼女の「シールドエネルギー」は尽きておらず試合の決着は着いていなかった。

 その後、私は彼女に砲口を向けるもトドメを刺すことが出来ずにいた。

 彼女の浮かべた怯えた顔を目にして、そのまま引き金を引くことが出来なかったのだ。

 こんな事は初めて(・・・)だったのだ。

 私と戦ってきた敵は全て怯えなど見せず、無機質かそれとも憎悪に満ちた表情ばかりを向けて来た。

 そして、私の戦友たちも怯える姿を見せなかったのだ。

 

 いや……それは……

 

 けれども、それが間違っていることに私はすぐに気づいてしまった。

 

 舞風は……

 

 野分から聞かされた私たちの妹の悲惨などと言った言葉が生温い最期を私は今になって思い出した。

 いや、舞風だけじゃない。

 きっと、他の戦友たちの何人かも同じように悲痛な叫びを出していたのかもしれない。

 私はただそう言った仲間たちの悲痛な叫びを耳にしていなかっただけなのだ。

 私の前で死んで逝った戦友たちは誰も堂々としていた。

 私は偶々(・・)、戦友たちに心さえも守っていてもらっていただけなのだ。

 あの私と同じくらい無邪気で大切な相棒であった時津風もあの「ダンピール」で私も感じていたあの作戦への泣き言を最初は口に出していたが、最初の爆撃を喰らって航行不能になった後に私が駆け寄ろうとしていた時に再び迫って来た敵の爆撃機を見て自分の最期を悟ったのか

 

『雪風、初風、天津風……じゃあ、ね……』

 

 と言って死んで逝った。

 そこには私への弾劾も嘆願もなかった。

 結局、彼女を含めた私の戦友は私を責めなかったし、助けも乞わなかった。

 私は、ただ彼女らに人知れず守られていただけだったのだ。

 

 結局、私も……覚悟など出来ていないじゃないですか……

 

 私は目の前の女を軍人として『ド三流』と言い捨てた。

 けれどもその私自身が撃つ覚悟(・・・・)を持っていなかった。

 結果、目の前で笑い者にされている人間を苦しめている。

 これでは介錯なしの切腹も同然だ。

 私は今までの相手が共存不可能で意思疎通すらもままならない「深海棲艦」で、この世界に来てからは「IS」と言う相手の命を奪わない舞台にいたから戦ってこれただけだ。

 

「私は……」

 

 しかし、私はせめてこの醜悪な笑いは終わらせようと決意した。

 そう思った時だった。

 

「……!?」

 

 突然、ボーデヴィッヒさんから電撃が放たれ、私は彼女の機体にまだ何かしらの「隠し玉」があると感じ、撃つのを止めた。

 しかし、その直後の光景を目にして私はその判断は甘かったことを痛感させられることになる。

 

「なっ……!?」

 

 私が目にしたのはボーデヴィッヒさんの「IS」がまるで泥のようになっていく様だった。

 そんなことはあり得ないはずだ。

 それは「IS」の原則と言う意味ではない。

 金属は常温では水銀を除けば個体だ。

 それなのにボーデヴィッヒさんの「IS」の装甲はまるで泥のような液体となっている。

 加えて

 

 ボーデヴィッヒさんを……包んだ……?

 

 明らかに地球上の物理法則を無視して液体である装甲であったものはボーデヴィッヒさんを覆った。

 私は一瞬、この一連の出来事は搭乗者の命を守る鎧とも言える装甲が失われたことに「IS」に不具合か故障でも生じたと考えていた。

 しかし、この状況を改めて見てようやく理解した。

 これは人為的な(・・・・)原因であることを。

 

「くっ……!」

 

 私は嫌な予感がしたので砲撃しようとした。

 けれども

 

 いや、今は(・・)ダメです……!!

 

 今のボーデヴィッヒさんの状況を確認して撃つのを躊躇った。

 今、ボーデヴィッヒさんは装甲を失っている。

 「IS」に「絶対防御」があろうとも今の彼女は「シールドエネルギー」をほとんど失っている。

 ここで攻撃を加えればボーデヴィッヒさんは無事では済まされないはずだ。

 彼女を撃つのを再び躊躇った時である。そのボーデヴィッヒさんを包み込んでいる泥状の金属はその不安定な混沌とした姿をまるで理性を得たように形を持ち始めた。

 彼女のことを覆い尽くしていた泥は溶け始める前の原型を留めることなく先程までの遠中近全てに適応していた戦闘形態を捨て去り、彼女の顔を装甲と言う名の仮面で隠し、全ての銃火器を放棄し手の中に一振りの刀のようなものを形成していた。

 その姿は二か月前の例の無人機とは異なり、異形ではなく限りなく人に近しい形だった。

 けれども、私はそれが逆に不気味に感じた。

 そして、何よりも

 

 「白式」……?

 

 それがしている形は私の知るとある機体に酷似していた。

 一振りの刀だけを手にし、あまりにも一芸特化に秀で過ぎて「欠陥機」と搭乗者やその姉が自嘲するあの白い機体に。

 けれども、あの機体が彼の危うさを感じるも清々しさすらも思わせる「白」を放つのに対して、目の前のその擬態は真逆であった。

 私の目の前のそれが放つのは

 

 これは……いえ、まさか……

 

 私が長年相対して来たあの破壊を司る深海の底から湧きたつ悪意の塊たちと似たようなものであった。

 

 でも、似ている……

 

 目の前の存在が「深海棲艦」と異なるのは十分、理解している。

 しかし、それでも目の前のそれは放つ金属の如く無機質さ、獣の如く猛々しさを思わせる凶暴性、そして、呪いの如く「死」を撒き散らす(おぞ)ましさと言った全て本来ならば矛盾するはずであろう不快感を併せ持ったどす黒さは「深海棲艦」を思わせた。

 何よりも目の前の黒いそれには二か月前の「無人機」に存在しなかった負の感情が溢れ出ていた。

 それが「無人機」との決定的な差だった。

 私が警戒心と嫌悪感を募らせている時だった。

 

「くっ……!」

 

 それは私に瞬時に襲い掛かって来た。

 最早、仕掛けてくると言う言葉はそれには高尚過ぎて分不相応とも思えた。

 私はすぐに戦闘に気を戻し、撃つのを躊躇っていた砲口を構え直し、いつもの様に発砲した。

 如何に形状が変わろうとも「シールドエネルギー」の残量は変わらないはずだ。

 一撃でも直撃すれば沈黙するはず。

 けれども、私は一つ失念していた。

 

「なっ……!?」

 

 黒いそれは自ら形成した刀で私の弾丸を真っ二つに両断した(・・・・・・・・・)

 その光景を見て私は技術とか、それ以前のことよりも全く異なる意味で衝撃を受けた。

 

 こ、これは……!?

 

 私の脳裏にはあの「クラス代表決定戦」の時の攻撃が蘇った。

 

 い、一夏さんの……

 いや、違う……!これは……!

 

 今、私の目の前で起きたことは一夏さんが私にして来たこと、いや、それ以上の出来事だった。

 一夏さんはあくまでも弾丸を弾いて軌道をずらし最小限の動きで私に向かって直進して来た。

 だが、目の前のそれがやったのは弾丸を真っ二つに斬り、一夏さんでも多少はずらした直進距離を全く動かさずにそのまま私に向かって最大速度で向かってきたのだ。

 

「ぐっ……!」

 

 あまりにも想定外すぎる行動に私は一瞬動揺するが、今までのボーデヴィッヒさんの身体能力から今の間合いならば十分回避可能と判断して、冷静に回避行動を起こそうとした。

 だが

 

「えっ―――」

 

 突如、私の視界は影と黒によって遮られた。

 その直後だった。

 

「あぐっ……!?」

 

 私の脇腹をまるで打撲したような痛みが走った。

 視界をそこへと移すと私は自分が目の前のそれに刺されたことに気付いた。

 ただ無意識の中に身体をずらしたことで脇腹を多少掠っただけで済んだ、だが、「絶対防御」がなければ確実に抉られていただろう。

 そして、もう一つ私は痛みを受けた事よりもさらなる衝撃を受けたことがあった。

 

 は、速い……!

 

 目の前のそれの速さは私の予想を超えていた。

 当初、私はボーデヴィッヒさんの身体能力を基準として目の前のそれを量っていた。

 たとえ、機体の性能が多少変わろうとも使用する人間の反応速度と運動能力はさして変わらない。

 私はそう考えていた。

 けれども、それは違っていた。

 目の前のそれは明らかにボーデヴィッヒさんの身体能力を凌駕していた。

 それも私の反応速度さえも。

 

「っう……!!」

 

 私は痛みをこらえながら至近距離で魚雷をぶつけようとした。

 今、私は彼女に肉薄している。

 この状況ならば多少の損害をこちらも食らうが確実に当てられる。

 そう思っていた時だった。

 

「―――がはッ!!?」

 

 突然、私の脇腹に衝撃と痛みが走った。

 そして、そのまま私は慣性のままに壁へと叩きつけられた。

 

「……う……」

 

 私は壁に衝突した痛みを感じながらも自分が蹴られたことに気付き、私を蹴り飛ばしたそれを見た。

 

 機体どころか……乗っている人間が変わった(・・・・・・・・・・・・)……?

 

 先程からそれが見せる一連の動作は明らかにボーデヴィッヒさんのものではない。

 今まで砲撃戦と「AIC」による格闘戦を主としていたのがそれらよりも得物を使用する白兵戦に切り換わっている。

 そんなことは先ず無理だ。

 「刀」と言う得物を扱うにはそれなりの訓練を必要とする。

 例えるならば、空母がいきなり戦艦の戦いをするようなものだ。

 だが、明らかに目の前のそれは明らかに熟練者のするような剣術を見せている。

 

 何かおかしい……

 

 既に異常過ぎる状況ではあるが、私はなぜか胸騒ぎがした。

 それは相手が強いとか、それ以前の根本的な何かが私に向かって叫んでいるように感じた。

 一体、何なのだろうか。この焦燥の正体は。

 その時だった。

 

「このぉ……!!

 ふざけるなぁ……!!」

 

「なっ……!!?」

 

 突然、ピットから叫び声が聞こえ、黒いそれに向かってまるで流星の如く白い何かが向かって行った。

 

「一夏さん……!?」

 

 向かって行ったのは「白式」を纏った一夏さんだった。

 一夏さんは恐れを知らず、いや、恐れを知ろうともせずにそれに向かって突っ込んでいった。

 だが、そんな考えなしの突撃の結果は

 

「ぐっ……!くそっ!!」

 

 白兵戦特化同士、しかも同じような形状同士の機体と言えども頭に血が上っている一夏さんと全く感情を見せようとせず、ただ決められた最も適した戦い方を行うそれとでは一夏さんは圧されるだけだった。

 

 一夏さんと同じ動きで……一夏さん以上の技術……

 

 戦い方は全くと言ってもいいほどに同種であることは理解できた。

 しかし、その一夏さんよりも黒いそれは上であった。

 

「このっ……!!」

 

 一夏さんは予想を超えた黒いそれの動きに一度は理絶するもそれでも再びそれに挑もうとした。

 そんな時だった。

 

「やめろ!一夏……!」

 

「……!」

 

「箒!?」

 

 ちょうど目が覚めたのか篠ノ之さんが彼の腕を掴み引き止めた。

 

「離せ、箒!

 アイツは……!!」

 

 しかし、いつも篠ノ之さんに少し甘い一夏さんでも彼女の制止を振り払ってでも感情のままに黒いそれに挑もうとした。

 

 一体……どうしたんですか……?

 

 こんな一夏さんは初めてだった。

 確かに彼には無鉄砲な所はある。

 けれども、彼はあんなに怒りを爆発させるようなことはしない。

 だが、彼は現に怒っている。

 となると、何か怒る理由があるはずだ。

 

「雪風、大丈夫……?」

 

「シャルロットさん……」

 

 私の傍にシャルロットさんが近寄って来た。

 どうやら、この様子だと一夏さんに付いて来て、そのままアリーナに来てしまったのだろう。

 

「ありがとうございます……

 シャルロットさん、一夏さんはなぜここに……?」

 

 私は一夏さんの冷静さを欠いた様子を見て、彼よりも彼女に今に至るまでの経緯を訊いた方が早いと考えて訊ねた。

 

「ボーデヴィッヒさんの「IS」が変形したまでは僕と同じでただ驚いていただけなんだけど、彼女が刀を持ち始めてからは血相を変えてアリーナに走っていったんだよ……

 で、今がその結果だよ」

 

()を……ですか?」

 

 シャルロットさんの説明を受けてどうやら彼が冷静さを失う程に激昂している原因はそれにあることがわかり、私は黒いそれが握っている刀を見た。

 

 どことなく……あれは「雪片」に似ていますね……

 

 今、黒いそれが握っているものは一夏さんの得物である「雪片」に酷似している。

 そのことに気付いた時だった。

 私はあることを思い出した。

 

『俺の使っていた刀は「雪片」って言うんだ……

 それは千冬姉が使っていた刀と同じものだったんだ。

 それでなのか、自分でも分からないんだけど自分が千冬姉の「弟」と言うことをなぜか強く意識したんだ』

 

 ……!

 そう言うことですか……!

 

 私は彼の怒りの理由が理解できた。

 そして、同時に

 

「シャルロットさん……

 一つ訊きたいのですが、今、ボーデヴィッヒさんの機体に起きていることについてあなたが考えられる限りのことでいいので教えくれませんか……?」

 

 あまり当たって欲しくない目の前の機体に起きている異状の正体の片鱗に触れてしまった気がした。

 

「え?いや、その……

 ごめん、僕もそこまで何が起こっているのかは分からないんだ……」

 

「そうですか……」

 

「あ、でも。

 戦ってみて何か感じたことはなかった?

 それでも十分なヒントになると思うよ?」

 

 シャルロットさんは一度は答えられずにいたことに申し訳なさを感じるも私に何かしらの手がかりを求めて来てそれを基にして正体を推測しようとした。

 

「……そうですね……

 機体どころか、まるで乗っている人間そのものがいきなり変わったような気がしましたよ」

 

乗っている人間(・・・・・・・)が……?」

 

 私は自らが感じた違和感をそのまま伝えた。

 すると、シャルロットさんは何か思い当る節があるのか、考え込みだした。

 そして、

 

「まさか……!?」

 

 答えに至ったのか、突然声をあげ

 

「「VT(ヴァルキリー・トレース)システム」……!!?」

 

「「VTシステム」……?」

 

 どうやら、目の前で起きていることを招いた機構の名前がそれらしい。

 

「それは一体……?」

 

 私は彼女に「VTシステム」についての詳細を求めた。

 

「……「VTシステム」は過去の世界大会出場者の動きを再現するプログラムだよ……

 条約で本来、使用どころか搭載すらも禁止されているけど……」

 

「『動きを再現』……

 あ!と言うことは……」

 

 その説明を受けてようやく私は今まで自らが抱いていた危惧と現実が直結したような気がした。

 どうやら、最悪の予感は的中してしまったらしい。

 

「……うん。

 あの機体の形状、得物、一夏に似た動き……そして、一夏のあの反応……

 あれは織斑先生を模した動きだよ(・・・・・・・・・・・・)……」

 

「やっぱり……」

 

 よりによって、敵は恐らく神通さんと並んで「世界最強」の頂点に君臨する人間の身体能力と技術を模しているらしい。

 しかも、私の予感が正しければ今、ボーデヴィッヒさんの感情はないに等しい。

 それはつまり、彼女の精神状態を乱したり、人間が持つ気の緩みすら引き出すことすら不可能に等しいことだ。

 あれは最早、人間が機械を動かすと言うよりも、人間の身体に機械が巣食っていると言っても過言じゃない。

 目の前のそれに生きているのに生きていない、心があるはずなのに心が感じられないと言った「深海棲艦」が持つ独特の不快感と似たものを私が感じたのはそれが理由らしい。

 成程。

 私が吐き気を感じたのも納得だ。

 そして、一夏さんの怒りの訳も理解できる。

 これは「深海棲艦」が神通さんや金剛さん、大和さん、矢矧さん、陽炎型のみんなや「二水戦」のみんな、そして、初霜ちゃんの姿を模しているようなものだ。

 自らが敬愛する相手の力や姿だけを模して、その借り物の力で暴虐を働くと言うのならば憤慨するのは至極当然だ。

 だが、ここで一つ疑問が湧いた。

 

「ちょっと、待ってください……

 確かに「VTシステム」がどれだけ人の尊厳を辱めるものではあるのはわかりましたけど……

 どうして搭載すらも禁止されているんですか?」

 

 「VTシステム」がどれだけふざけた代物であることは理解できたが一つ腑に落ちないことがあった。

 それは「兵器」としての効率性だ。

 「スポーツ」の世界では正々堂々でなくとも、それが「戦争」となれば一気に変わる。

 見た所、あれは兵士の練度を無視して一気に強力な兵士に変える可能性がある機構だ。

 熟練の兵士を育てるのにはかなり時間がかかる。

 それはあの大戦や戦後「中華民国」で後進を育てて来た身として理解が出来る。

 それを一気に解決できる手段を軍が手放すとは到底思えない。

 どうやら、何か重大な欠陥があるらしい。

 

「……搭乗者に肉体的にも精神的にも負担をかけるからだよ……」

 

「……え」

 

 シャルロットさんはとても深刻な顔で言った。

 私はその表情からその負担が只事ではないことを悟った。

 

「「VTシステム」は搭乗者本人に本人の能力以上の動きを強要させるんだよ……

 だから……」

 

「身体への負担が尋常じゃない……」

 

「そう言うことだよ……」

 

 シャルロットさんの分かり易過ぎる説明を受けて「VTシステム」が抱える身体的な問題を把握できた。

 確かにそれが本当ならばかなり危険だ。

 動きを完全に模倣することはできてもそれを駆使する生身の人間だ。

 そして、人間の身体には個人差がある。

 「瞬時加速」でも骨が折れそうになるのだ。

 実際、私も「瞬時加速」の進路を無理矢理変えた際に肋骨が悲鳴をあげそうになった。

 それを基となった人物の身体能力を基準として機体が行使し続ければ本来の搭乗者の負担は極めて危険だ。

 如何に「IS」が安全であろうともただで済む筈がない。

 

「……精神的な理由は……?」

 

 「VTシステム」の危険性としてあげられたもう一つの理由についても私は訊ねた。

 既に身体的な面で危険なのは理解し、あんなものはすぐにでも破壊すべきだと言うのも承知だ。

 それでも、私はもう一つの理由が気になってしまった。

 

「「VTシステム」が搭乗者の身体能力を無視して動くのは分かったよね……?」

 

「はい。それはわかります」

 

「……じゃあ、身体に主に指示を出す際に使われるものが何かは分かるよね……?」

 

「……!?……「神経」ですか……?」

 

「うん……」

 

 シャルロットさんからの問答でようやく私は「VTシステム」の最悪とも言える副作用に気付いた。

 身体を動かす際には脳から命令を伝えるには「神経」が使われる。

 そして、「神経」は電気信号によって脳と身体を繋いでいる。

 だが、先ほど説明されたように「VTシステム」は本人の身体能力ではなく理想とされる動きを基準として動かしている。

 となると、本人の意思で身体を動かしている時以上に電気信号が流れるはずだ。

 「神経」に悪影響が出る可能性があり得る。

 

「……下手をすると、呼吸困難に陥る可能性も……」

 

「……!?」

 

 シャルロットさんの口から出て来た最悪の状況に私は愕然とした。

 神経と呼吸は密接に関係している。

 呼吸困難は適切な治療をしなければ脳細胞を破壊し、最悪死に至る。

 それはガダルカナル島で陸軍の兵士を救出した際に海に落ちた中で多くあった事例だ。

 私はなぜ「VTシステム」が使用どころか、搭載すらも禁止されたのかも理解した。

 あれは「兵士」を使い捨ての「道具」にするためのものでしかないからだ。

 

「………………」

 

「雪風……?」

 

 私は黒いそれを見つめた。

 今、それは動こうとしない。

 どうやら、機体が自らの部品である(・・・・・)搭乗者を少しでも温存しようとしているらしい。

 

「シャルロットさん、少しワガママを聞いてくれませんか?」

 

「……え」

 

 私はあることを決意した。

 




VTシステムが原作よりも強い理由。
原作ではラウラの雑念があったけれども、今回は完全にラウラの意思ではなくVTシステムの動きが優先されているからです。

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