奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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新年あけましておめでとうございます。
今年も読者の皆様に出来る限りの作品を投稿が出来ることを祈りたいところです。
今年もよろしくお願いします。


第39話「存在の価値」

「雪風……」

 

 控室のモニター画面で雪風たちの試合の動向を見舞っていた俺は愕然とした。

 元々、相手のペアに箒がいることに俺はやきもきしていた。

 そんな中で雪風の鮮やかな神業とも言える戦術と鈴の気迫と怒濤とも言える攻撃に目を奪われていたが、それでも箒の泣き叫ぶかのような顔に心を痛めたが、そんなものを吹き飛ばすかの如く行われたラウラの行動に俺は今すぐにもアイツを殴りたくなる衝動にかられた。

 だが、そんな憤怒さえもかき消すかの如く俺は雪風が再び見せたあの目(・・・)を見て、いや、今まで見て来たどんなあの目(・・・)よりもゾッとする目を見て自分の無力さを感じた。

 

 またお前はその目(・・・)をするのか……

 

 「約束」を交わしてアイツが何時か俺にあの目(・・・)に隠されたアイツの過去を話してくれると俺は信じている。

 けれども、やはり俺はあの目(・・・)を見るのが怖かった。

 今、試合と言う形式でそこにルールがあるし、俺は雪風のペアでもない部外者で、そこに俺が無力感を感じるのは気負い過ぎだと言われても仕方がないのかもしれない。

 それでも俺はあいつが背負っているであろう悲しみを肌にひしひしと感じてそれが辛かった。

 

 まだ……

 ラウラにはシールドエネルギーが残っているのかよ……

 

 既に勝負は決したも同然だ。

 ラウラは仰向けに倒れているがそれでもまだ意識が辛うじて残っている。

 しかし、それでも直ぐに起き上がろうとしないのは全身に痛みがあるのと、それ以上に雪風に刻まれた心へのダメージで立ち直れないのだろう。

 シールドエネルギーが残っているのはラウラがやって来たことはともかくとして残酷なことだろう。

 

 だけど……雪風は……

 

 雪風はトドメを刺そうとしない。

 それは既にラウラに戦う意思がないこととそんな相手を撃つことを雪風は躊躇っているのだ。

 怒りは残しているが、それでもラウラを必要以上に痛めつけたくないのだ。

 まるで、それは降参を呼びかけている様だった。

 

 

 

 まだ……シールドエネルギーが残っているのか……?

 

 上空から落下させられ、ロケット弾による爆風と砲撃によって機体をボロボロにさせられながらもシールドエネルギーは未だに尽きていなかった。 

 だが、それは今の私にとっては絶望そのものだった。

 

「……まだ、続けますか?」

 

「ひっ……!」

 

 ヤチは私に試合の継続の可否を問うてきた。

 改めて、突き付けられた事実に私は一瞬思考が真っ白になったが、私には思考を放棄をする猶予は与えられなかった。

 

 そうだ……早く、戦わなければ……

 

 直ぐにでも立ち上がり目の前の女にリボルバーカノンを向けようとした。

 だが

 

 あ、あれ……?

 

 何故かリボルバーカノンの照準を奴に定めようとしても右手がまるで壊れた人形の球体部分のようにガクガクとぎこちない動きをして上がろうとしない。

 右手を見た所、機体に破損部分は目立つが、身体には「IS」に安全性を証明するかの如く目立った外傷はなかった。

 右腕を動かそうとしてるのに右腕が動かないことから骨折や神経断絶等と言った外見ではわからない負傷をしたのではないかと言う考えが浮かんだが、右手は確かに動かないが力を入れても全身にある鈍痛は存在するが激痛は走らず、それはないと言うことを把握できた。

 

「ぐっ……!」

 

 それならばと私は奴に接近して「AIC」やワイヤーで拘束しようと飛行を試みた。

 そして、立ち上がろうとした時だった。

 

「……え?」

 

 足を立てようとした瞬間に足場がないような感覚に陥り、突然視界が回り私はそのままバランスを崩して仰向けに再び倒れた。

 

 な、何だ……!?

 一体、何が起きている……!?

 

 「IS」の「PIC」によって普通はこんなことはあり得ない。

 それなのに私は足下がおぼつかない乳幼児が直立しようとしている状態よりも脚が言うことを利かない。

 そんな私の無様な姿を

 

―アッハッハッハ!!―

 

「!?……っう……」

 

 まるで道化芝居を見るかのようにアリーナ中の人間は大笑いしている。

 

 くそっ……!!

 

 私はそれに煽られるかのように立とうとした。

 しかし、それでも立つことが出来ず何度も転倒し、それを見て観客が再び大笑いすると言う繰り返しが続くだけだった。

 

 立たなくては……立たなくては……立たなくては……!!

 

 これ以上、醜態をさらすまいと焦燥感に駆られるがそれでも立つことが出来ない。

 まるで立つことを身体が拒否するかの様だった。

 

 ま、まさか……

 

 私はようやく、今身体に起きている異状の正体に気付いた。

 

 恐怖で……戦うことを避けているのか……!!?

 

 この身体の異状。

 それは奴によって叩き込まれた恐怖による戦いへの忌避感だったのだ。

 奴の掌の上で転がされたことへの絶望。

 先程、奴によって受けた痛み。

 そして、奴の眼光を向けられた恐怖。

 それらが私の戦意を挫き、心因的な理由で戦うことから私自身を遠ざけているのだ。

 

 「……っ!」

 

 私は必死に立とうとしても心の中で奴と戦いたくない自分を理解しながらもヤチの方へと目を向けた。

 

 ……なぜ、私を見ていない……?

 

 ヤチは私の方へと目を向けず、忌々しそうに観客席を睨み付けていた。

 それはまるで私を既に敵として見ていない(・・・・・・・・・・・)と遠回しに物語っている様だった。

 

 立て、立て、立て、立て、立て、立てぇえ!!!

 

 そんなヤチの態度すらも関係なく私は自分の身体に言い聞かせるように心の中で叫んだ。

 

 戦わなくては……!

 戦わなくては私の生まれた理由(・・・・・・)がぁ……!!

 

 既にヤチに対する憎悪も敵意も憤怒もなく、私はただ焦りから戦闘を続行しようとした。

 私は元々、生まれながらの兵士だ。

 だが、そんなことに悲嘆したことがない。

 ただ私が恐れるのは

 

 私は「出来損ない」じゃないんだぁ……!!

 

 自分の存在を『出来損ない』と扱われることだった。

 元々、最高の兵士として私は同じ生まれの者よりも私は優れていた。

 しかし、そんな私はとある実験の失敗でそのアドバンテージを失い、高官からは『失敗作』と罵られ、同僚や同じ生まれの者からも蔑まれた。

 私の存在価値は失われたのだ。

 

 教官だけが……

 教官だけが……私を……!!

 

 そんな無意味で惨めに終わりそうになった人生を教官は救ってくれた。

 再び、兵士としての価値を与えてくれた。

 

 なぜです……

 なぜそのような目で私を見るのです……!?

 

 初めてヤチと戦った時に間に入った教官は私を悲しそうな目で見た。

 

『私の弟と後輩は私よりも強い。

 何時か会わせてやりたい』

 

 私の前で教官は自らの弟や「もう一人の世界最強」と呼ばれる後輩を誇らしく語り、そして、同時にいつも身に着けていた強者としての顔を捨ててさえいた。

 私の指導を始めた時から見せない顔で。

 

 嫌だ……

 教官さえも……認めてくれなくなるなんて……

 

 教官にさえ兵士としての私を否定されたら私はどう生きていけばいいのだ。

 それだけは嫌だった。

 

 戦わないと、戦わないと、戦わないと……!

 

 私はなんとしてもヤチとの戦いだけでもやらなければならないと考えた。

 試合放棄などをすれば、それこそ無力など言い訳にならない程に「欠陥品」だ。

 しかし、それでも体は動かない。

 

 恐い……

 

 ただ恐い。

 ヤチが恐い。

 死ぬことはないと言うにヤチの存在が恐ろしかった。

 

 恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い……!!!

 

 ヤチへの恐怖を隠しきれなくなり、私の中の『戦う』と言う意思は徐々にすり減っていく。

 

 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……!!!!!

 

 再び「出来損ない」と言われるのが恐かった。

 存在価値を失うのが恐かった。

 周囲から嘲りを受けるのが恐かった。

 教官にすら見放されるのが恐かった。

 その強迫観念がかろうじて私を試合放棄から遠ざけた。

 そんな時だった。

 

『願うか……?汝、自らの変革を望むか……?より強い力を欲するか……?』

 

 その声はどことなく聞こえて来た。

 その声はどこかどろりとした闇をまるで泥にしたようなものに思えた。

 その声を聞いているとどこか自分が消えていくような感覚に陥った。

 しかし、今の私にはその感覚は恐怖よりもむしろ、安らぎに近いものを与えてくれるように感じた。

 

 そうだ……心なんてあるから私は弱いんだ……

 

 闇に心が溶けていくような感覚に包まれて行くことで考えることを失い、自分を奪われるような感覚にいながらも、私はそうすることで恐怖すらも失うことが出来るとして安堵を覚えていた。

 

 いいだろう……こんな恐怖に……苦しみに怯えるのならば心などいらん……!

 だから、私に力を……!!

 兵士として生まれた私の存在に価値を与えてくれる力を……!!

 

 私がそう強く望んだ瞬間だった。

 

『Damage Level...Ⅾ.

 Mind Condition...Uplift.

 Certification...Clear.

 

 <Valkyrie Trace System>...boot.』

 

 羅列されるデータを目にした直後、私の意識は失われた。そして、私はようやく安らぎを得た。




恐怖から逃れる方法。
それは……まあ、考えるのをやめることですね。

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