奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今回の戦闘シーン……
もう少し表現力が必要だったと思います。


第38話「線、円、杭」

「……っ!?」

 

 目の前の女は今まで見せていた冷静さを捨てて突然激昂し、真っ直ぐに迫って来た。

 

 何だ……あの目は……

 

 ただ単調に突撃してくると言う「AIC」相手に最も愚かなで攻めて来ているのになぜか私は言い様のない焦りを感じていた。

 

「くだらん、はったりを……!!」

 

 私は今にも迫って来るヤチを目にしながら、今感じている動揺を振り払うかのように迎え撃とうとした。

 「AIC」相手に真っ向から挑む相手等、感情的で直線的で絵に描いた愚図のはずだ。

 それなのになぜか私は折角訪れた千載一遇の瞬間を前にして言い知れぬ不安を抱いている。

 相手は完全に頭に血が上っているはずだ。

 なぜこのような感覚に私はいるのだ。

 

 先程のようにはいかんぞ……!!

 

 私は先ほど、ヤチが見せた戦術で不意を突かれたことを思い出し奴が投げんとしてる物を待った。

 すると、ヤチは何かを投擲しようと腕を振りかぶった。

 

 やはりか……!!

 

 奴は私にグレネードを投げつけて来た。

 奴が狙ってきたのは先程と同じでグレネードの爆発による煙による目隠しであったのだ。

 どうやら、感情に任せた突撃ではないのは当たっていたらしい。

 

「何度も同じを手を食うかっ……!!」

 

 最早、その策すら読めるとなればこの焦りはなくなったも同然だ。

 どうやら、私は奴が何かして来ると感じて焦りを感じていただけだったらしい。

 だが、今やそれすらも乗り越えようとしている。

 

 勝った……!!

 

 私は「AIC」を展開し奴のグレネードが拡散する前に停止させた。

 これにより、爆発の範囲は最小限に留まり、これで奴が迂回しても上昇しても下降してもすぐに対処できる。

 

 終わりだ……!!

 

 奴が全くそう言った素振りを見せなかったことで私は煙の中に突っ込んだ。

 

「………………」

 

「はっ……!やはり、これか!!

 グレネードの爆風の目隠しからのそれによるロケットランチャーの不意打ち!!

 貴様のそれは破れかぶれの突撃に過ぎんわ!!」

 

 グレネードの爆発によって生じた爆風の先ではヤチがロケットランチャーを発射していた。

 奴の狙いはやはり、これだったのだ。

 至近距離からのロケットランチャー。

 成程、確かにロケット弾が私の脇に入れば「AIC」でも防ぐのは無理だっただろう。

 それは私が予め用意していた「AIC」によって防がれた。

 そして、そのまま、ロケット弾は安全装置によって不発となり真下へと落ちて言った。

 完全にこの勝負は貰ったと私は感じた。

 だが

 

 ……どうして、その目(・・・)をやめない……!?

 

 今まで見て来た「AIC」に対して破れかぶれの突撃する際に相手が見せていた「恐怖」をヤチは策が敗れたのにも拘わらず、決して見せていない。

 それどころか、先ほどから変わらないあの目(・・・)で私を見据え続けていた。

 その目にはただ相手を倒す。

 たったそれだけの意思しか感じられなかった。

 

 ……っ!?

 何を焦っているのだ、私は……!!

 私は今、奴の策を破ったばかりではないか!!

 それに敵を倒すと言うのは誰もが考えることだ!!

 

 今は試合中だ。

 当然、誰もが見せる相手を倒すと言う意思を奴もしているに過ぎない。

 私はそう考えた。

 その方がなぜか幸福だと感じたからだった。

 私はその恐怖を払拭しようと手を前に出し奴を拘束しようとした。

 その時だった。

 

「ユキカゼは―――」

 

 

「……っ!!?」

 

 戦術を回避したばかり、いや、した筈なのに最早停止結界とは目と鼻の先で速度を落とさずそのまま自滅するであろうヤチに私は焦りを、いや、これは

 

「―――沈みません!!!」

 

 恐怖(・・)を感じた。

 そして、私が今まで抱いていたのは焦りだけでなく恐怖(・・)でもあったことにようやく気付いた。

 

「なっ!!?」

 

 い、「瞬時加速」だとぉ……!!?

 

 ヤチは私が手から「AIC」を発動した瞬間、今までのどのような速さよりも速く速度を出し、「AIC」の有効範囲直前で急上昇した。

 それは「瞬時加速」を使ったものであると言うことは理解したが、私はそれが信じられなかった。

 奴は旋回攻撃でしか私の「AIC」を突破できないはずだ。

 それなのに速度と距離は生めるが、制御の効かない「瞬時加速」を使うのは余りにも理にかなっていない。

 

 そうか……!!

 徐々に円を小さくするつもりだな……!!

 

 ヤチは「瞬時加速」で私との距離を稼いだ後に再び旋回を行い、その円を少しずつ狭めていくことで再びあの戦術を行使すると私は推測した。

 今まで奴の戦術によって何度も突破されたことに恐怖を感じていた私は一刻も早く奴の狙いを知りたいがためにそう考えることにした。

 最早、勝つ為ではなく少しでもこの恐怖を和らげるために。

 しかし、それは直後

 

「……え?」

 

 間違いであることを叩きつけられた。

 ヤチが中空までに辿り着いた時であった。

 

「なっ!!?」

 

 私の眼前へとその黒い鉄の塊は迫っていた。

 それを私は反射的にいつものように(・・・・・・・)「AIC」で受け止めた。

 その直後、それはガキンと金属音を強く鳴らし停止した。

 しかし、その全貌を目に収めた時、私はそれが愚かな行動であることを悟ることになった。

 

やはり(・・・)……あなたはそうしてきますよね。

 あなたは」

 

「……!!?」

 

 ヤチの一言と自らが停止させた物を受けて私は身体がびくりと震えた。

 

 い、()だとぉ!?

 

 それはまるで錨のような形をした見るからに質量がある鉄の塊に鎖が付いている見た目の物だった。

 そして、その鎖は伸び切っていた。

 その鎖が伸び切った先にあったのは

 

「がっ!!?」

 

 ヤチの腕だった。

 それを理解した途端にその鎖は私に向かってまるで天に伸びる塔が倒れこむかのように私の左腕に叩きつけられた。

 

 「AIC」で空中に停止された錨を軸にしただとぉ……!!?

 

 ヤチの行動の真意を理解した私は驚愕した。

 ヤチは私の「AIC」を利用してこのようなカウンターを仕掛けて来たのだ。

 「AIC」は慣性を奪い、対象を完全に停止させる。

 それは空中・地上問わずに。

 ヤチはその性質を利用し「瞬時加速」を使って得た直線を空中に停止させられた「錨」を軸にし、無理矢理、円の半径に変えたのだ。

 まるで振り子のように。

 そして、その半径となる鎖をヤチは「瞬時加速」による速度によって生まれたエネルギーごと私に叩きつけたのだ。

 

 「瞬時加速」の反動を恐れずにやったのか……?

 

 この攻撃に対して驚愕を感じるとともに私はヤチの異常さに怯んでしまった。

 「瞬時加速」は速度をえられる分、制御が難しく下手に軌道を変えれば骨折の可能性がある。

 それなのにヤチはそれを躊躇うことなく行った。

 

 この学園の生徒に……そんな覚悟があるのか……!!?

 

 この学園の生徒の殆どはファッション感覚で「IS」を学ぼうとしていると私は編入初日に感じていた。

 だから、少しでも身体に、いや、生命にリスクがある、いや、それ以上に怪我どころか痛みすらも避けてこのようなことは出来ないと私は高を括っていた。

 しかし、ヤチはそれに対して「NO」を叩きつけるかの如く、全く恐怖を見せることはなかった。

 

 ぐっ……!早く、「AIC」を解除しなければ……!!

 

 肩に鎖がのしかかり続け、「絶対防御」があるのにも拘わらず、肩が悲鳴をあげ続ける。

 そのまま鎖がめり込み、鎖によって切断されるような錯覚を抱き私は停止している「錨」を留めている「AIC」を解除することを何よりも優先した。

 そして、「AIC」は解除され錨と言う軸を失ったことで鎖には先ほどまでの張りはなくなった。

 束の間の安堵を覚えた瞬間だった。

 

「何処を見ているんですか……?」

 

「え―――?がっ!!?」

 

 背後からヤチが私に組み付き、羽交い絞めにしそのまま私を押し出すかのように真下へと降下しだした。

 

「き、貴様……!?

 今度は何をする気だ……!?」

 

 ようやく恐怖から抜け出せると思ったのに再び、いや、先ほど以上に恐ろしさを感じ私は完全に冷静さを失った。

 そして、次の瞬間に何をされるのかわからないことで未知への恐怖を和らげようとそれを知ることで仮初の安堵を得ようと考えて愚かしくも背後の女に訊ねた。

 すると

 

「……下を見なさい」

 

 それは慈悲なのか、それともさらなる恐怖を私に与える拷問なのか。

 ヤチはただ冷淡にそれだけを伝えた。

 ヤチの真意が理解できず、私は恐る恐る下を見た。

 そこには

 

「……!!?」

 

 先程「AIC」で不発に終わり、真下へと落ちて行ったロケット弾が存在していた。

 まるでそれは私のことを串刺しにしようとする巨大な杭にも見えた。

 そして、その瞬間私は悟った。

 私は最初からヤチの掌の上で踊っていたことに。

 ヤチは最初からロケット弾を不発に終わらせてそれを私のトドメにしようとしたのだ。

 

「あ、あぁぁぁああぁぁあああ!?!!?!?」

 

 それを理解した瞬間、私は完全に正気を失った。

 今まで自分がして来たことは足掻きにすらならず、背後の女を倒すどころか最初から(・・・・)敗けていたことに。

 そして、同時に私はようやく気付いたのだ。

 この女を敵に回す。

 それがどれだけ恐ろしい事なのかと言うことを。

 

「……さて、その前に一つやっておかなければならないことがありますね」

 

「……ひっ!?」

 

 ヤチは突然、私の脇から腕を抜いた。

 しかし、それでも尚、私の腕を自由にさせずに私の身体をクルリと自分の方へと向けた。

 折角の脱出の機会と「AIC」の発動を狙えたのにも拘わらず、私は恐怖から抵抗できずにジタバタすることすら出来なかった。

 一体、次は何をされるのかと思っていた瞬間だった。

 

「フンっ……!!」

 

「あがっ!!?」

 

 私の左頬に鈍痛が走った。

 

「本来ならば、鉄拳制裁など言う言葉は嫌いですが、今回だけは別です」

 

 ヤチは右手を握りしめたまま私のことをただ目にするだけで命を奪われそうな眼光を向けながらそう言った。

 そして、最後に

 

「沈めっ……!!」

 

 ヤチはたったそれだけを言って私に至近距離からロケット弾を喰らわせ、私はそのまま落下した。

 そして、その直後にヤチの砲撃が何度も何度も襲い掛かり、その直後に爆発が起こった。

 

 

 

「っ……!ラウラっ……!」

 

「あわわ……」

 

「はあ~……」

 

 先輩は教え子が雪風によるトドメ、いや、最早そんな言葉が生温いとすら感じる一方的な蹂躙を目にして教え子の名前を叫ぶ。

 既に誰もがボーデヴィッヒさんに嫌悪を向ける中、そんなことを気にも留めずに教え子のことを心配するのは彼女の教え子への想いが本物である証拠だった。

 しかし

 

「「世界最強」の教え子のクセに……」

 

「全く、教育が行き届いていないな」

 

「恥さらしもいいところね」

 

 この場では誰よりも品性が求められる社会的地位を持つ来賓の多くの人間からは影口が囁かれ始め、最低限の礼儀すらも失われつつあった。

 

「無名の選手に負けるとはな」

 

「しかし、あの生徒……

 何者なのだろうか……?」

 

「「第三世代」の中でも1、2を争う機体を倒すとは」

 

 次に囁かれ始めたのはこの試合に出た選手のなかで最も期待度も知名度も、後者に至っては皆無に等しかった雪風がその下馬評を覆した事への驚愕であった。

 この学園は殆ど外の世界とは遮断されており情報が伝わりにくい。

 それはデュノアさんの件でも解ることだ。

 そして、それは内外共通のことだ。

 だからこそ、雪風の桁違いの戦闘力を前情報なしで垣間見たことで外部の人間は驚きを隠せないのだ。

 だが、それは

 

「あの役立たずが……!!

 あんな醜態をさらしておきながら、代表候補生でも無名の生徒に負けるとは……!!

 折角、「世界最強」を教官にしておきながら……!!」

 

 増々、ボーデヴィッヒさんを惨めにすることであった。

 だが、それは私にとっても苦い思い出を彷彿とさせることだった。

 

「あの恥知ら―――」

 

 ドイツからの来賓が罵倒を続けようとした時だった。

 

「黙りなさい」

 

「―――なっ」

 

 自らがかつて大切な誰かを助けるために他人に味合わせてしまったことと類似した状況と余りにも無責任なその態度に我慢できず思わず声を出してしまった。

 その結果、悪態をついていたドイツの来賓、いや、この場にいる全ての人間が黙り出した。

 

「ボーデヴィッヒさんの犯したことは確かに貴国の名誉を傷付けたのは事実です。

 そして、その責任は我々教員にもあることです。

 ですが、同時に貴国にもその責任があることを忘れ、彼女だけを悪し様に言うのならば、私はこの試合で彼女と戦った二人の教え子の師として許しません」

 

「ぐっ……!」

 

「川神……」

 

 この空気はボーデヴィッヒさんが自ら招いたことではあるが、このような状況を生み出したのはこの場にいる私を含めた大人たちだ(・・・・・・・・・・)

 それを自覚しないまま彼女だけを責めるのは間違いだ。

 それに彼女はまだ年齢的に考えれば、ああなるのも無理がないのだから。

 少なくとも、今の私の一言で来賓の多くはこれ以上ボーデヴィッヒさんへの非難は表向きには出ないだろう。

 そして、先輩に向けられるであろう弾劾は私に多少向けられることで少しは軽くなるはずだ。

 

 それに……まだ、この試合は終わっていません……

 

 驚くことに未だに試合は決していなかった。

 運よく、ボーデヴィッヒさんのシールドエネルギーは尽きていないらしい。

 だが、既にそれは風前の灯火であり、同時に精神面では勝負は決まったも同然だ。

 ボーデヴィッヒさんは今にも勝負を捨てたいだろう。

 だけど、それは周囲が許さないだろう。

 誰もが彼女が最後まで完膚無きまでに叩き潰される様を見たくて仕方ないはずだ。

 そして、それは雪風にも歪な期待(・・・・)もかけられている。

 まるで、古代ローマのコロッセオやフランス革命直後のギロチンによる公開処刑のような異常な熱狂を誰もが望んでいる。

 けれども、私は教え子をそんな拷問器具や処刑器具のようなものにさせるつもりはない。

 

 優しいあの娘をそんなことに利用させてなるものですか……

 

 あの強くも尊く気高くも同時に可憐で心優しい彼女を穢させる等、あってはならないことだ。




修羅ぬい、インストール。
ラウラ10Ⅾ100状態。
雪風は不知火の妹だった。

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