奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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涼月と対馬来た!西村艦隊でラスダン成功しました!
ボイスが……泣けた……

あと、アビーとミドキャスが来た!


第35話「上昇、降下、旋回」

 鈴さん、頼みますよ……!

 

 ボーデヴィッヒさんに追跡されながら、私は彼女を振り切って逆に背中を取ろうとするが彼女はそれをさせてくれないことでまるで蛇が己の尾を飲み込もうとするかのような追走劇を繰り広げている。

 ボーデヴィッヒさんと篠ノ之さんを分断するための対価とは言え、このままで流石にマズいだろう。

 そもそも相手が両方とも私を感情的に(・・・・)狙うとは想定していたが、まさか愚策中の愚策を、いや、最早策ですらも戦術でもすらないことを仕掛けて来るとは信じられなかった。

 ただ、実際にこの組み合わせとなるとある意味当然の帰結とも言えることではあるが。

 

 よりによって……力押しとは……

 まだ感情の制御や戦術の重要性を理解してそうなボーデヴィッヒさんも何もしないとは……

 

 考えられる限り彼女たちは最も非合理的な手で攻めて来ている。

 ボーデヴィッヒさんは感情に身を任せて来るとは思っていたがそのペアまでもがそう来るとは驚いた。

 むしろ、その彼女よりも彼女のペアが暴走するとは思いもしなかった。

 その為、ボーデヴィッヒさんも流石に冷静になって少しは軍人的な判断をするとは思っていたがそれすらもしないとは驚いた。

 おかげで鈴さんの初撃でいきなり打撃を与えられたので鈴さんの方が当初の予定よりも先に相手を沈黙させるだろう。

 少なくとも、ボーデヴィッヒさんは篠ノ之さんが私を攻撃している最中に圧倒的に相性に優れる鈴さんの相手をすべきだったのだが。

 と言っても、その場合でも私は篠ノ之さんをすぐに倒して鈴さんの援護に回るが。

 

「……っと!」

 

 背後からボーデヴィッヒさんの砲撃が発射されるも回避に成功した。

 先程から立て続けに砲撃とワイヤーに攻撃も来るが、それらへの蛇行と機銃による防御と回避は功を奏しているらしい。

 本当はこのまま旋回して彼女と相対したいところであるが、今はボーデヴィッヒさんの注意を私に引き付けておく必要がある。

 

 と言っても……何時までも守るだけじゃいけませんね……

 

 今の彼女の攻撃を回避することは容易いことだ。

 しかし、それは私だけの場合に限る。

 この試合は「二対二」の戦いだ。

 私は今、鈴さんの邪魔にならないようにしているが、いずれ私に当たることをボーデヴィッヒさんが諦めれば鈴さんを狙う可能性もある。

 そして、それを助けようとした私を彼女は鈴さん共々狩るだろう。

 それは考えられる限り、最も最悪な展開だ。

 

 ……一計、案じますか……!

 

 

 

「あの陽知と言う生徒、先ほどから逃げてばかりですね」

 

「そうですね」

 

「折角、先攻を取れたと言うのに」

 

「まあ、ドイツの「シュヴァルツェア・レーゲン」相手なら仕方ないのでは?」

 

「あの「AIC」相手に突破できる人間は中々いないでしょうし」

 

 ……勝手なことを……

 

 試合が始まってから数分が経ち、来賓の人間から物事の本質を見ていない的外れな言葉が出てきている。

 確かに一見すると雪風は背後からボーデヴィッヒさんの追撃を受け続けているようにも見える。

 だが

 

 ボーデヴィッヒさんの注意を自分に引き付けるためにああせざるを得ないでしょう……

 

 それはあくまでも相性が最悪に等しい鈴音さんが彼女に狙われないためだろう。

 はっきり言えば、この勝負はボーデヴィッヒさんが鈴音さんを狙っていれば雪風は圧倒的に不利だった。

 それなのにボーデヴィッヒさんは感情に任せて雪風を狙ってしまい、完全に雪風と鈴音さんの思惑通りになっている。

 加えて、来賓の方々も勝手に思い込んでいるようだが雪風は危機に陥っていない。

 

 ……それに……

 あの程度のことで私の教え子が不覚を取る訳がないでしょうね

 

 そもそも雪風があんな攻撃を喰らうはずがない。

 雪風には元々、天賦の才があることに加えて、手前味噌ながら「二水戦」で鍛え上げられたことによる基礎、そして、長年戦場に在り続けたことで培われた経験がある。

 そのような彼女があんな機体の性能に頼り続ける相手の攻撃になど当たるはずがない。

 その証拠に彼女は最低限の動きと機銃による迎撃で全ての攻撃を防いでいる。

 ボーデヴィッヒさんは確かに戦闘技術はある方だろうし、機体の性能はあるのならばある方が良い。

 だが、それはあくまでも並みの相手が相手の場合や物量戦に限る。

 軍人同士の、しかも「一対一」の戦いと言うのならば、彼女の技術などひよっこ同然だ。

 加えて、彼女は「二対二」と言う集団戦なのに全く、ペアと連携すら取ろうともしない。

 

 ……反撃開始ですね

 

 そろそろ雪風が反撃する頃と思い私は雪風の方へと目を向けた。

 そして、同時に私は心のどこかでなぜこうなっているのかを理解して罪悪感も抱いていた。

 

 

 

「おのれぇ……!

 ちょこまかと……!」

 

 背後からの砲撃の連続とワイヤーの群れを回避し続けた結果、ボーデヴィッヒさんはかなり頭に血が上っているようだ。

 

 これなら上手くいきそうですね……

 

 今の彼女のその様子を見て私は今からやることに自信を感じた。

 「怒り」と言う感情は時として、実力以上の力を発揮する原動力になることは私も知っている。

 しかし、そこに覚悟がないのならばそれは大したものではない。

 恐怖と隣り合わせではない勇気など、蛮勇にも劣るのだから。

 

 いきます……!

 

 私は空へと可能な限りの速度を出しながら上昇した。

 このまま行けばアリーナのシールドにぶつかるだろう。

 

「馬鹿め……!!

 わざわざ逃げ場がない場所に向かうとは、血迷ったか……!!」

 

 ボーデヴィッヒさんは私を追うが途中で動きを止めて中空にて待機しカノン砲とワイヤーを展開し私を待ち構えた。

 彼女の言う通り、私は既に逃げ場などない場所へとわざわざ向かっている。

 もし、この後に私が減速したり立ち止まったり、ボーデヴィッヒさんを迂回してしまえば彼女に簡単に捕らえられるだろう。

 誰もが、いや、神通さん以外の全ての人間がこれで『詰んだ』と思っているだろう。

 

―警告。

 付近に障害物在り―

 

 その警告が鳴り響いたことで私は自分がシールドの付近まで来たことを知ることが出来た。

 どうやら、これが私が稼げる最大限の距離であるらしい。

 

 雪風、反転します……!!

 

 私は一気に反転した。

 そして、そのまま

 

「ようやく、観念したか……!!」

 

「………………」

 

 自らの真下にボーデヴィッヒさんがまるで獲物を狙うように巣を張り巡らした蜘蛛や岩場と岩場の間に潜むタコのようにしているのが見えながらもそれらをむしろ突き破るかのように海鳥のように急降下した。

 ボーデヴィッヒさんはどうやら私が自暴自棄になっているように思っているらしい。

 

 雪風、突入します……!!

 

 最大速度一歩手前の速度を維持しながら変わらず降下し続けた。

 

「はっ!逃げ場がなくなって破れかぶれの突撃か!!」

 

 ボーデヴィッヒさんはワイヤーではなくカノン砲を向けて来た。

 どうやら前回の件で私にはワイヤーではなく、カノン砲と「AIC」の方が有効だと判断したらしい。

 

 予想通りです……!!

 

 それを見て私は右手を大きく振りかぶりとある物(・・・)を彼女目掛けて投げつけた。

 

「……!?グレネードだと」

 

 私が投げたのは爆雷だった。

 重力加速度と投擲による加速が加わり、爆雷は私よりも早くにボーデヴィッヒさんの前へと躍り出た。

 その結果、爆雷は彼女の目前で四つの缶状に分離した。

 

「ちっ……!」

 

 ボーデヴィッヒさんはそれを見て左手を突き出した。

 しかし、既に信管が外れていた爆雷は彼女の前で一時的に停止するがその爆発までは止められず黒煙をまき散らした。

 そして、私は

 

「これで仕切り直しです」

 

「………………」

 

 彼女の水平面上に相対することが出来た。

 今の爆雷はただの目くらましだ。

 彼女が左手を突き出すと同時に私は斜めに迂回していた。

 そうすることで今までの追う追われるの変化のない繰り返しを終わらせた。

 

 行きます……!

 

 私は今まで出すことを控えていた最高速度を出しながら彼女に向かって前進した。

 

「真正面から来るとはな……馬鹿が……!

 あの時と同じと思うなよっ!」

 

 私が繰り出すのを目にしてボーデヴィッヒさんが砲撃を捨てて手の甲から刃を展開し迎え撃ってきたことで反航戦となった。

 前回の戦いの経験から彼女は私相手に射撃戦は分が悪いと判断したのだろう。

 「AIC」による拘束、手の刃による白兵戦、そして、ワイヤーによる死角面の補強。

 彼女の布陣はこの反航戦においては全く隙が無い様に思われるが。

 

「いいえ……

 前回と同じではありません!」

 

「……何?」

 

 これは球の世界での戦いだ。

 前回の半球の世界とは異なる。

 

「くだらん、はったりを……!」

 

 私と接触しようとした時、彼女は左手を突き出してきた。

 どうやら「AIC」を展開するらしい。

 

「雪風は……沈みません……!!」

 

「な、何……!?」

 

 私は彼女が「AIC」を展開している空間に入る直前に最高速度のまま真下へと潜った。

 そして、そのまま地面へと向かって急降下し続けた。

 

「ちっ……!また逃げ回るつもりか!!」

 

 正面から来ると考えていたボーデヴィッヒさんは再び私が矛を交えないとすると私を逃がすまいと追撃して来た。

 

 まだです……

 

 私は降下しながらある瞬間を待っていた。

 

「このまま地面に激突するつもりか貴様!」

 

 後ろから私を追いかけるボーデヴィッヒさんは嘲るように砲撃と共に叫んだ。

 確かに今のまま行けば私は地面に激突するだけだろう。

 地面に激突すればシールドエネルギーが削られ、さらには大きな隙が生まれボーデヴィッヒさんに拘束されて一気に勝負は決まるだろう。

 しかし、それでも

 

 「二水戦」をなめるなぁ…!!

 

 私は減速するつもりはない。

 今から私がやろうとしているのは自らの恐怖心との戦いだ。

 今、私は十秒も経たないうちに地面に激突しする未来と背後からはボーデヴィッヒさんの砲撃が身体を掠める中にいる。

 しかし、この程度の恐怖などで私は動じるつもりはない。

 だが

 

「ぐっ……!」

 

 高度10メートルの距離でボーデヴィッヒさんは速度を緩めて(・・・・・・)そのまま離脱した。

 どうやら、この勝負は私の勝ちらしい。

 対して、私は

 

「はああぁ……!!」

 

 あわや激突と言う地面すれすれの距離で進行方向を下ではなく斜め上に変えた。

 そして、そのまま

 

「なっ……!?」

 

 速度を緩めていたボーデヴィッヒさんの背後に速やかに回り込み彼女の上空を獲った。

 完全に制空権を得た。

 

「ぐおっ!?」

 

 私は彼女の背後に魚雷二発、砲撃二連撃、機銃の雨を有りっ丈叩き込んだ。

 

「……ぐっ!

 おのれぇ……!!」

 

 ボーデヴィッヒさんは私の総火力を受けてこちらに顔を向けようとした。

 恐らく、「AIC」でこれ以上の打撃を避けるつもりだろう。

 だが

 

「もう遅いですよ」

 

 今となってはそんなことは手遅れだ。

 

「何っ……!?」

 

 私は彼女が私の方へと向こうとして反転した方向に回り込み単装砲を喰らわせた。

 それを彼女は左手だけを伸ばして「AIC」を展開して防いだ。

 

「がっ……!!?」

 

 再び彼女の背後へと回り込み私は魚雷をぶつけた。

 既に彼女は私の描く円の軌道の中心にいる。

 速度を出して逃げようとも今からでは既に最高速度を出している私相手には速度では勝てず、私が円の軌道を広げれば再び円の中心に押し込められる。

 「瞬時加速」と言う手もあるが、それでもこの状況で使うとなると制御が効かず逆に隙を生むことになる。

 

「ちぃ……!」

 

 ボーデヴィッヒさんは埒が明かなくなって苛立ちを込めながらワイヤーを展開して自分の周囲を旋回する私を足止めしようとした。

 だがこの状況では

 

「その程度……!!」

 

「なっ!?」

 

 私の進行方向にワイヤーが来ることなど丸わかりでありこんなもの当てるなど容易い。

 私は機銃と連装砲で迫り来るワイヤーを迎撃し半数以上のワイヤーを破壊した。

 既に私たち(・・・)の作戦は成功した。

 私の役目はボーデヴィッヒさんの完全なる打倒ではなく、彼女をこの円の中に閉じ込めていることだ。

 今、地上近くでは鈴さんが篠ノ之さんを少しでも早く撃破しようとしている。

 私の役目はボーデヴィッヒさんを釘付けにして、少しでも彼女に打撃を与えつつ鈴さんの邪魔にならないようにすることだ。

 そして、鈴さんと合流後一気に片を付ける。

 既に反撃の準備は整った。


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