奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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色がついた……だと……
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第10「力と誇り」

「え……どうしたんですか?

 こんな高性能な兵器があると言うことはこちらの世界では「深海棲艦」を超えるほどの脅威がいるのでは?」

 

 私は困惑に包まれた空気の中で「IS」のあまりの性能から考えられる仮想敵について訊ねた。

 航空戦力と強力な火力、そして、かつての私たちと相対していた「深海棲艦」の張っていたバリア、つまりは「障壁」に該当する防御機能の所持。

 これだけの戦力をこの一機だけに詰められているとなると余程の敵との戦いが想定されるが。

 

「……織斑先生……これは……」

 

「………………」

 

 轡木さんは私の問いを聞いた瞬間に信じられないものを見るかのような目で見てきて、更識さんはどこか私のことを興味深そうに見てきた。

 これだ。この目だ。

 この世界で私に接してくる人は必ずこのような目を向けてくる。

 それは奇異の目でも恐怖への目でも敵意が込められた目でもない。

 

「理事長……これが私の言った彼女の「真実」なんです……」

 

 織斑さんは私に昨日の自分と同じような目を向けた轡木さんにそう言い、

 

「そして……彼女にとっての「戦い」とは……こういうことなんです……」

 

 と念を押してきた。

 

「………………」

 

 轡木さんは織斑さんの言葉を聞いた瞬間に、まるで自分を恥じるかのような表情をしてきた。

 

「雪風……落ち着いて聞いてくれ……」

 

 織斑さんは神妙な面持ちで私に何かを語りかけようとしてきて

 

「……この世界では……お前たちの世界にいるような人類の脅威(・・・・・)は存在しないんだ……」

 

「………………え?」

 

 そして、信じられないことを口に出してきた。

 今、この人は何と言った。

 

 人類の脅威が……いない……?

 

 それはあってはならないことのはずだ。

 なぜなら、

 

「ちょっと、待ってください……!?

 じゃあ、なんてこんな一個艦隊……いや、それ以上の戦力に相当する兵器(・・)を作れるんですか!?」

 

 私は「IS」の性能は当然ながら余程の戦闘や状況を想定したものと考えていた。

 しかし、彼女は、いや、彼女たちはそれを脅威に向けるべき兵器だと言うことを否定した。

 それはつまり

 

「まさか……」

 

 そんなことは考えたくなかった。

 だけど

 

「「IS」は……戦争で生まれたんですか……?」

 

 訊いてしまった。

 この世界には「人類の脅威」が存在しない。

 そうなると「IS」が刃を向けるのは同じ人類だと言うことになってしまう。

 だとすれば、それはとんでもないことだ。

 

 これだけの強さを持つ兵器が……人類同士の戦いに使われる世界なんて……

 

 「アラスカ条約」なる「軍縮条約」に相当する条約があるらしいが、このとんでもない性能を持つ「IS」の戦いを想像するだけで私は恐ろしかった。

 なぜならば、「条約」とは結局のところお互いに守る気がないのならば無意味になってしまうからだ。

 先程、織斑さんは「IS」は火力・高機動・防御の三拍子が揃った「兵器」と言った。

 それにこの世界で「IS」を保持していたのはこの世界ではどうやら世界規模の戦争で敗戦国であった日本だけだったらしい。もしこれが、大国が保持していたのならば、経済制裁などをされても意味を為さず、「IS」を独り占めして他国を脅かす可能性もある。

 私の世界にも人類同士の争いが過去にあった。

 今では、戦後復興に力を注ぐ国際連盟の存在と深海棲艦の存在で各国が弱体化したことでしている暇がないが。

 私は艦娘と言う戦うために生まれてきた存在だ。

 しかし、私や多くの艦娘たちは決してその力で驕ることはしなかった。

 それは生粋の武人であった長門さんを含めた人たちだってそうだった。

 これだけの戦力でのぶつかり合いは凄惨な戦いになってしまう。

 

「いや……雪風……実はな……」

 

 そんな戦いのために生まれてきた者として、私が矛盾した葛藤を抱えつつも「IS」を使った戦争の恐ろしさを考えていると

 

「これは戦争で生まれた訳じゃないんだ……」

 

「え……?」

 

 織斑さんはなぜか申し訳なさそうに、またもや私の予想を遥かに超えた今度は「絶望」ではなく、「驚愕」を与える言葉を告げた。

 

「先程も言っていたが……

 これは宇宙開発用に作られたものなんだ……」

 

「……そう言えば、そんなこと言ってましたね」

 

 「IS」が戦争に関わっていないという事実に幾らか救われたことで冷静になれたために「IS」の生まれたいきさつを落ち着いて聞くことができた。

 

 ……あれ?それなら、どうして「IS」は軍事運用されたんでしょうか?

 

 宇宙開発用に造られたとされる「IS」。

 しかし、なぜかここまで過剰とも言える戦力を持つ兵器になっている。

 私はここでふとあることを思い出した。

 

 そう言えば……航空機もかつては……

 

 私のいた世界では最強戦力と呼ばれた「航空機」。

 流石にヲ級以上の相手となると障壁が邪魔になって、艦娘じゃないと対抗できないが、あの大戦で人類が勝利できたのは帝国軍のパイロットである彼らの支援あってのことだ。

 

 結局は私たちのいた世界も……

 

 私はここで気づきたくもなかった矛盾に気づいてしまった。

 私のいた世界でも暇潰しに読書をしていれば解かるが、戦争はあらゆる技術を発展させる。

 この世界では「IS」は違うようだが、少なくとも私のいた世界の最先端の技術は戦争によって培われたものが多かった。

 かつて、ライト兄弟が夢を乗せて作り上げた航空機も戦争によってさらなる改良が施された。

 そこにあるのは虚しさだろう。

 

 でも……だからこそ、考えられないんですよね……

 これほどの技術が……

 

 こう考えていると「こちらの世界」を馬鹿にしているようで申し訳なく感じるが、戦争なしで「IS」が作られ、なおかつ軍事転用される由縁やきっかけが全く思いつかない。

 もしかすると、織斑さんの言った「IS」の性能がはったりの可能性はなくもないが。

 こう言った強力な兵器は持っているだけで威し、つまりは抑止力に繋がる。

 実際、私の妹が実験的に搭載された機関を基に建造された、たった一隻しかいない級名を冠する彼女は条件付きで出せるが実戦では出せないことからある意味盛ったとも言える最高速度が脅威的である。ただ、盛っていなくても彼女に追いつける艦娘や深海棲艦などはいなかったが。

 つまるところ、「軍事」の話を全部本当のことだけを外部の人間に漏らす、ないしは公開することなどありえない。

 

 いや……でも……織斑さんのことを疑うのは……

 

 どう見ても怪しい自分を信じてくれている彼女たちを疑うのだけはやめようと、私はたとえ希望的観測であっても彼女らの言う「IS」の性能が本当で、なぜここまで発達したのか要因を模索しようとするが

 

「雪風、何度も悪いが……

 また、お前にとっては信じられないことが……」

 

 織斑さんは私にこの世界に来てから何度目かと忘れてしまったが再び私が衝撃を受けるであろう事実をぶつけて来ようとしてきた。

 

「はい……」

 

 私ははっきり言えば、うんざりだった。

 異世界に来るわ、その異世界では私の故国が滅びてるわ、深海棲艦も艦娘もいないわ、信じられない性能の兵器があるわ、それが闘争の果てに手に入れたものではない。

 と、これだけの信じられない出来事ばかりに出くわし続けたのだ。

 もう、これ以上に驚くことはないだろう。

 と言うか、驚いてたまるか。

 

「「IS」はたった一人の天才によって作られたんだ……」

 

 私が最早、諦観とも言える覚悟を決めると織斑さんがそう言った。

 

「そ、そうなんですか……」

 

 私は織斑さんのその言葉を素直に簡単に受け入れた。

 一人の天才が世界や歴史に大きな影響や革新、変化を与えることは割とあることだ。

 

「意外だな……そこまで驚かないなんて……」

 

 織斑さんは私が衝撃を受けていないことを意外に思ったらしい。

 

「いえ、「IS」を作った人は確かにすごいとは思えますが、その天才の方を支える助手や支援者がいたと思いますので……

 割と私の世界でも天才と呼ばれる方は多くいましたので……」

 

 と私はさも当たり前のことを言った。

 実際、私の好きだった「あの人」を始めとした帝国軍の現場指揮官も艦娘と人間の総合戦力を無理なく両方とも運用できる戦術を編み出した英雄(・・)とされている。

 本人たちは物凄くそれを嫌っているが。

 それのどこが驚くことだ。

 人間なんだから、誰だって天才になる可能性はある。そこに至るのは個々の才能にもよるが不断の努力あってのものだ。

 確かに一人の天才の閃きが技術や歴史を大きく発展させることもあるにはあるが、それは他の支援者あってのものだ。

 特に近現代になると一人でできることなんて、限られている。

 

「でも、すごいですね。平和な世界でここまで科学が発展するなんて……」

 

 そう考えると、軍事運用されているとは言え、「IS」を開発したこの世界の人々は平和の中でここまで優れた技術に発展させたのだ。

 それはとても尊敬できるうえに喜ばしいことだ。

 平和の中で生まれた科学技術の発展に私が喜びを感じていると

 

「「「「………………」」」」

 

「……あれ?」

 

 なぜか再び私以外のこの場にいる人間がドヨンとした雰囲気と言ったら解かるほどの苦い顔をしてきた。

 この中で第一印象で最も明るいと見ていた更識さんすら、なぜか苦々しい表情をしていた。

 このやり取りは三度目だった気がする。

 

「織斑先生……血圧が上がりそうなのだが……」

 

「理事長……それは私もです……と言うよりもあいつの親友である私の方が心苦しいのですが……」

 

「この娘……割と天然なのかもしれないわね……」

 

「こ、心が痛いです……」

 

「……?」

 

 と轡木さんが心苦しそうに呟いたのをきっかけにこの場にいる全員が弱音らしきものを漏らしてきた。

 なぜだ。私は彼女たちの世界の発展に賛辞を贈っただけではないか。

 なぜこんなにもこの人たちはそれを苦しそうに受けて止めているのだろうか。

 

 はっ……!?まさか……!?

 

 彼らの苦悩の理由を考えていると私はここで自らの迂闊さに気づいてしまった。

 彼女たちは「IS」と言う優れた科学技術の産物を保持している。

 しかし、科学技術がいつも正しい方向に使われるとは限らないのだ。

 「IS」は兵器として扱われた。

 たとえ、「アラスカ条約」が存在していても一度でも「兵器」とされたのならば、それはとても辛いことなのだ。

 

『すまない……みんな……すまない……』

 

 かつて、「あの人」の私室から聞こえてきた声。

 それは私たちと向き合って見守ってきた「あの人」の悲痛な叫びだった。

 あの人は「若き天才」と言われていたけれど、根が真面目過ぎたことでほぼ更迭に近い感じで艦娘のいる鎮守府に着任された。

 当時、艦娘は深海棲艦に対する戦力と重宝されていたが、同時に意思や感情がある私たちのことを厄介に思う軍の人間は多かったことが彼が提督に選ばれた理由だった。

 つまりはまだ未知の存在とも言えた私たち艦娘の扱いは大本営や参謀部の人間にとって不都合な人間を失脚させるための手段でもあった。

 はっきり言えば、現場の人たちぐらいしか私たちのことを色眼鏡ではなく、本当に人として見てくれた人間はいなかった。

 中央の人間の多くは私たちのことをただの「兵器」扱いしかしてなかった。

 何せ、私の最後の戦友である彼女を「失敗作」だと平気で言う連中だった。

 その中で「あの人」は私たちを「人間」として扱ってくれた。

 だからこそ、私は、いえ、多くの艦娘たちは彼に惹かれ、同時に自らが「艦娘」であることに誇りを感じた。

 

 きっと、皆さんは「IS」を誇りに思っていたのに……

 それなのに……私は……

 

 唇を噛み締めながら「IS」を兵器にしか思っていなかった己の無神経さを私は恥じた。

 もしかすると彼女らにとって、「IS」が軍事運用されたのは望まないことだったのかもしれない。

 それなのに私は「IS」を何度も兵器だと断じた。

 それは心を蔑にすることだ。

 仮に「あの人」が私たちのことを兵器扱いした人間を目にしたら、たとえ、軍の上層部の人であろうと問答無用で海に蹴飛ばすだろう。

 実際、彼は深海棲艦の巣の一部を破壊する作戦の中で、現場の声を無視して反撃してこないとタカをくくった自らの手柄欲しさの為に参加した参謀が予想外の敵の戦力と劣勢に怯えて、中破して母艦に曳航されていた艦娘を囮にして逃げ出そうと言った瞬間に

 

『腹を括れ、ここは海の上だ。

 陸でどれだけ威張り散らせてもここでは貴官も一人の兵士に過ぎない。

 貴官も将の一人ならば、兵を犠牲にする戦いではなく兵を一人でも生かす戦いを考えろ』

 

 と下手をしたら左遷確定の啖呵でその参謀を黙らせたことがある。

 そんな彼だからこそ、私たちを常に死地へと向かわせることに悲しみを抱いていたのだ。

 よく、海軍での彼の直属の上司であり彼の恩師の一人が『彼に背負わせるのは忍びないな……』と言っていたほどだ。

 

「すいません……無神経な言葉を……」

 

 私は一言でも彼らに詫びたかった。

 「兵器」を「兵器」扱いするのが何が悪いと言う人間もいるだろう。

 だけど、その戦う力や強さに何かしらの誇りを感じる人もいる。

 それを蔑にすることは軍人、いや人間(・・)として恥知らずだ。

 そこを履き違えることなど私にはできない。

 

「「「「………………え?」」」」

 

 私の謝罪に彼女らは戸惑いを込めた困惑を見せた。

 なんてことだ。

 こんな反応をするということは既に彼女らの頭には私、いや、下手をしたら「艦娘」や「帝国」の人々は傲慢な存在だと認識されているのかもしれない。

 私の不注意で。

 

 私の馬鹿……!

 

 きっと、彼女らの中では私が恥を知らない人間だとされているのだろう。

 私はそれこそが最も恥じるべきことだと思っている。

 こんなことなら、昔みたいに年甲斐がなくたって、鎮守府で「あの人」に出会った時のような無邪気さを前面に押し出した態度で接すればよかった。

 少なくとも、私一人の矮小な羞恥心による恥ずかしさと言う被害だけで済む話だっただろうし。

 

 いや……それはそれで……帝国の名を穢しそうですね……

 だけど、今、私がすべきことは皆さんに謝罪することです!

 

 とりあえず、不快感を与えてしまったことへの謝罪が最優先事項だ。

 そのためなら、土下座でもしよう。

 

「ここにいる皆さんは「IS」のことを誇りに思っているんですよね?

 それなのに私は……「IS」を「兵器」だと言い続けました……」

 

 私は彼女らに対する無礼を詫びた。

 彼女らにとっての誇りを穢したことは彼女たちへの侮辱だけではなく、かつての私たちを庇ってくれた多くの帝国軍の人々への侮辱にも繋がることにもなる。

 

「ゆ、雪風?」

 

「なっ……」

 

「この娘……」

 

「雪風さん……」

 

 私の突然の謝罪に彼女らは驚いている。

 だけど、それでも私はそれを辞めない。

 

「皆さんの気も知れずにごめんなさい……!」

 

 私は頭を下げた。

 私もかつては「艦娘」の一人として、ただの兵器扱いをされたこともある存在だった。

 その時の屈辱や苦痛、悲しみは誰よりも知っている。

 だけど、それでも私は戦えることに、いや、戦える力を持っていることに嬉しさは感じていた。

 目の前で多くの仲間を失ったこともあった。

 しかし、それでも自分が戦うことで誰かを守れることは最初から守れないことよりも本当にマシなのだ。

 だからこそ、「兵器」がただの暴力に使われることやそれを扱う人間が乱暴な存在としか見られないことに憤りを感じることが多くあった。

 ゆえに私は彼女たちに謝りたかった。

 

「雪風……そのだな……」

 

 罰を待っていた私に織斑さんは

 

「……「IS」は兵器として……世間では

 認識されていないんだ……」

 

 叱責でも、罵倒でも、赦しでもなく

 

「……え?」

 

 再び理解不能な事実を突きつけてきた。

 

「とりあえず、お前には十年前の「事件」を知ってもらう……

 その方が早い……」

 

 と彼女は腕に抱えていた開くとまるでワープロみたいな機械を開いてきた。

 

「これから、お前に見てもらうのは……

 初めて、「IS」の存在が世間に知られた「白騎士事件」と言う名前の資料だ……」

 

 と彼女は重々しい口調でそう言った。




 艦これ世界の科学技術は雪風が負傷した時代ならばIS世界(つまりは現実世界)における当時と比べると科学技術は5年先ほど進んでおり特に航空技術やロケット技術は圧倒的に上(深海棲艦に対抗するには航空機の方が効率がいいので)と言う設定です。
 簡単に言えば、マブラヴでBETAの脅威がそこまで大きくない感じなので。こう言った世界観だと、ある程度の闘争が科学技術を発展させるには平穏が必要とされており、コントロールできない闘争だと逆に衰退するはずですから。
 つまり、某スパロボの影鏡の理論は最初から破綻していると言うことです。

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