奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今回は完全に蛇足回です。
と言うか、なんでこんな賛否両論(と言うか、否しかなさそう)になりかねない回を作ったのすら自分でもわかりません。



第25話「鏡合わせ」

「風が気持ちいいな……」

 

 ラウラに対する対策会議が終わり、部屋に帰った後、シャルロットがシャワーを浴び終えるまで夜風に当たろうと思い俺は夜の散歩に出かけた。

 シャルロットも女なんだから、恋人や家族でもない相手に入浴中の音を異性に聞かれるのは嫌だろう。

 これは入学初日早々に箒相手にやらかしたことから来る反省である。

 よく考えてみたらシャルロット相手に一緒に着替えたり、シャワーに誘ったりと下手したらセクハラなことをしていたのを思い出すと冷や汗を感じる。

 ただ今は違うことを俺は胸に感じていた。

 

「……悔しかったな……」

 

 俺は夜風を浴びながら今日のラウラの件における自分の不甲斐なさに悔しさを思い出した。

 あの時、俺は二人が勝ったと思い油断した。

 そして、それが原因で俺は二人を助けられなかった。

 急に訪れたセシリアのピンチによって生まれた焦りが「零落白夜」を使う際の集中力を失い周囲への影響を頭に入れたことで使う勇気を持てなかった。

 その結果、俺はセシリア、いや、セシリアだけじゃなく鈴までもを見殺しにするところだった。

 それが悔しくてしょうがなかった。

 

「……いや、本当に悔しいのは……」

 

 だが、本当に悔しいと感じたのはそれだけじゃなかった。

 ラウラが憎んでいるのは俺だ。

 それなのにそのラウラとの因縁に俺は無関係な二人を巻き込んでしまった。

 そして、何よりも俺にはもっと悔しかったことがあった。

 俺が悔しさに浸っている時だった。

 

「……一夏さん?」

 

「え」

 

 先ほどまで耳にしていた声が近くで聞こえて来た。

 俺は声がした方を見た。

 すると、そこには

 

「……雪風?」

 

 ジャージ姿の雪風がいた。

 よく見てみると雪風は少し呼吸が早く、額に汗を浮かべており見た所、ランニングをしていたらしい。

 そう言えば、雪風のルームメイトで一番仲が良いクラスメイトののほほんさんから聞いた話によると雪風は早朝や夕食を食べ終えると自主トレをしているらしい。

 どうやらその最中だったらしい。

 本当にストイックな奴だ。

 

「どうしたんですか?

 こんな所に一人で?」

 

 雪風は俺がなぜこんな所にいるのかを訊いてきた。

 

「い、いや……

 今、シャルロットが……」

 

 女子の雪風の前で女子のデリカシーに関わる話をするのは、少しマズいと感じつつ、同時に俺も思春期なのでそう言った話をするのは気恥ずかしく思いながらもこの場にいる理由を答えようと思った。

 と思ったが同時に今、自分がかなり迂闊な発言をしたと気付いた。

 よく考えてみたらこの場にいるのが雪風で良かった。

 今の発言は事情を知らない女子に不可解に思われて詮索されていたかもしれない。

 事情を知っている雪風が相手で良かった。

 

「ああ……成程……

 確かにそれは部屋にいるのはマズいですね」

 

 どうやら雪風も察してくれたようだった。

 これがセシリアや鈴や箒だったら確実にマズかった。

 なぜかあの三人はこう言うことには鋭いからだ。

 本当に助かった。

 

「でも、意外ですね」

 

「ん?何がだ?」

 

 雪風は今の答えに何か意外なことを感じたらしい。

 一体、何だろうか。

 

「一夏さんがそう言ったデリカシーを持ってるなんて」

 

「ちょっと待った!?

 お前の中の俺ってどんな人間なんだよ!?」

 

 雪風の心外な一言に俺は思わず叫んでしまった。

 これでも俺は女子相手に気を遣っている、いや、遣わないといけない立場にいる。

 この俺を除いて女子だけの「IS学園」ではそうでなくては学園中の生徒たちに白い眼を向けられかねない。

 色々と俺だって女子ばかりで肩身が狭い思いをしていることも多くあるのだ。

 そんな俺のどこが「デリカシー」がないと言うのだろうか。

 

「……そうですね。

 一言で言うと……「天然」でしょうか?」

 

「それだけはお前に言われたくない」

 

 雪風の口から出て来た一言に対して俺は反抗した。

 少なくとも、『天然』と言う言葉だけは目の前の少女だけには言われたくない。

 

「え?私のどこが「天然」なんですか?」

 

「本気でそれを言ってんのか……」

 

 どうやら雪風は自覚がないらしい。

 雪風は頭がいい。

 学業も優秀。

 「IS」の腕は「学年最強」。

 見た目は美少女。

 加えて性格は普段は礼儀正しくて優しいけど、芯があり男以上に漢気を見せている。

 と言った非の打ち所がない雪風だがとんでもない弱点がある。

 それは「天然」なところだ。

 他の生徒たちがいる中で満面の笑みで『吐いたことがあります!』とか言うし、訓練をする際に異常にハイテンションになるし、今回のラウラの対策会議でも俺は別に普通だったが明らかに他の三人に引かれている等、明らかに常軌を逸している。

 割と自分がとんでもないことを言っていることに気付いていないんじゃないだろうか。この子は。

 それが良くも悪くも雪風の良いところかもしれないが。

 

「ところで一夏さん、一ついいですか?」

 

「どうした?まだ訊きたいことがあるのか?

 別にいいけど」

 

 俺がなぜこの場にいるのかと言う質問を終えるとまだ雪風は訊きたいことがあるのか、雪風は再び訊いて来た。

 一体、今度は何だろうか。

 と俺が落ち着いていると

 

「どうしてさっきはあんな思い詰めた顔をしていたんですか?」

 

「……!?見ていたのか?」

 

 衝撃の質問を投げかけて来た。

 雪風は俺が悔しさを感じているのを目にしていたのだ。

 

「走っている私が近付いているのに気が付かなかったので妙に感じたので顔を窺ったら神妙な顔をしていたので……」

 

「そ、そうか……」

 

 雪風の言葉を聞いて俺はハッとした。

 確かに雪風はランニングをしていたのだから、近づいてきたら足音や呼吸の声で気づくはずだ。

 それなのに気付かないなんて、どれだけ考えこんでいたのが無自覚だった。

 

「い、いや……今回の件でさ……

 ちょっと、『悔しい』と感じていただけだ……」

 

「……『悔しい』ですか……?」

 

 雪風に隠し事をしても見破られると思って俺は深く詮索されないように今日の出来事だけを話そうと思った。

 

「ああ……二人が危ないのに助けに行けなかったことがな……」

 

 半分は本音だ。

 実際に二人を助けに行けなかったのは悔しかった。

 だけど、それ以上に悔しいことがあるのを俺は隠したかった。

 あんなことは大っぴらに人に話すことではないし、雪風の負担にもなるだろう。

 あれはあくまでも俺と千冬姉だけの胸にしまっておくべきだ。

 

「あの時、雪風がいなかったらきっと二人は無事じゃなかったはずだ……

 なのに俺は助けに入らなかった……

 「零落白夜」を使えばすぐにでも助けに行けたのに……」

 

 俺は余り深く探られないように悔しいと思ったことを素直に話した。

 こうすれば雪風も理解してくれると思って。

 俺が割と真剣な気持ちで告白して返って来たのは

 

「……あなたは馬鹿なんですか?」

 

「……は?」

 

 雪風の『何言ってんだこいつ?』と言った顔だった。

 余りにも予想外過ぎる反応に俺は戸惑いを覚えたが

 

「ど、どこがだよ?」

 

 すぐに不機嫌になり噛みついてしまった。

 俺は真剣に落ち込んでいるのにそれを『馬鹿』と言われたのだ。

 怒るのは当たり前だ。

 何でそんな風によりにもよって雪風に言われなくちゃいけないのか(・・・・・・・・・・・・・・・・)教えてもらわないと気が済まない。

 

「自分の無力さを嘆いて気負い過ぎていることですよ」

 

「え……」

 

 しかし、雪風の口から出て来た言葉にそんな苛立ちは吹っ飛ばされた。

 そして、彼女は一瞬目を瞑ってから俺をじっくりと見つめた。

 そのまま

 

「確かに大切な人を助けられなかったのは悔しいでしょうが……

 でも、何もかも気負い過ぎるのは危険ですよ。

 自分を大切にしなさい」

 

「……なっ!?」

 

 俺に対して自分を責めるのは間違いだと告げた。

 それは明らかに雪風なりの俺への気遣いが込められている。

 雪風は優しい。

 今のぶっきらぼうな物言いも優しい言い方じゃ俺の悔しさをなくせないと思っての事だろう。

 決して相手を苦しめようとしない。

 厳しいようで優しい。

 誰の眼から見ても目の前の少女は正しい(・・・)だろう。

 だけど、俺は

 

「……それをお前が言うのか?」

 

「……え?」

 

 素直に受けとめられなかった。

 なぜなら

 

「いつも誰かを守るために必死になるお前が言うのかよ」

 

「……!?」

 

 あんな目(・・・・)をして、自分を犠牲にすることを厭わない雪風だけには言われたくなかったのだ。

 これが八つ当たりだってことは分かっている。

 きっと、雪風に対する嫉妬もあるのだろう。

 俺にはできなくて雪風にはできることが悔しいのだ。

 でも、何よりも苛立っているのは

 

「『自分を大切に』って……

 俺が一番お前に言いたいことだよ」

 

「そ、それは……」

 

 何よりも優し過ぎる目の前の少女が自分のことを棚に上げて他人を止めようとすることだ。

 こいつのことだ。

 きっと俺のことを止める癖にその分、自分のことをその分を肩代わりするだろう。

 その例が「あの無人機」の際の行動だった。

 下手をすれば雪風はあの時死んでいた。

 俺が不注意なのが最大の原因だったけどあの時、俺は本気で怖かった。

 助けてくれたのは嬉しかったけど俺を助けたのに雪風が死ぬなんて俺は嫌だ。

 なのにこいつはまだ自分を投げ捨てでも俺を止めようとする。

 それは辛くて仕方がない。

 

「俺は……そんなに頼りないか?」

 

「そんなことは……!」

 

 俺は雪風にそう投げかけた。

 雪風は否定しようとするがその先が続かなかった。

 それはきっと俺を見下してはいないが、だからと言って俺が危険な目に遭って欲しくないと言うこいつなりの優しさなのだろう。

 でも、だからこそ俺は

 

「じゃあ、お前が背負っているのは何なんだよ」

 

「……え?」

 

 雪風がどうして俺もするであろう行動をするのかだった。

 雪風は俺の言葉を受けて不思議そうな顔をした。

 いや、正確には『どうして、それを?』と核心を突かれたかのような顔だった。

 

「……なんでそんなことを訊くんですか?」

 

 雪風はすぐに平静を取り戻し俺を睨んで来た。

 それはこれ以上、詮索するなと暗に言っているように見えた。

 俺は一瞬、雪風のその気迫に呑まれかかるが

 

「……だって、お前矛盾してるだろ」

 

「……矛盾……?」

 

 なけなしの勇気を振り絞って雪風に感じて違和感をぶつけた。

 

「他人を助けるくせに他人が他人を助ける時に少しでも傷つくと怒るだろ、お前」

 

「……!?」

 

 雪風はいつもそうだ。

 他人の事ばかりを優先する。

 いつも他人の為ばかりに怒っている。

 俺はこいつが自分の為に怒る姿を見たことがない。

 なんでこいつは自分の為に行動しない。

 そんな雪風に俺は矛盾を感じてしまう。

 

「……雪風、お前言ったよな?

 『なんで守りたいのか?』て」

 

「そ、それは……」

 

 初めて雪風と戦った後のこと。

 俺は雪風に疑問をぶつけられた。

 どうしてあんな風に叫んだのかと。

 そんな俺の「答え」を雪風は否定しなかった。

 そして、『強くなりたいか?』とも訊いて来た。

 あの時は嬉しかった。

 自分は間違っていないし、こんな強い奴にそれを認められたんだと。

 でも、それだと今の状況は矛盾している。

 

「あの時、俺に投げかけた言葉は嘘だったのか?」

 

 俺はそんなことをあり得ないと理解しながらも雪風に訊いた。

 

「そんなことは……!」

 

 雪風は辛そうに答えた。

 それを見て俺は罪悪感を覚えた。

 だけど、それを見ても我慢できず

 

「だったら、俺にも守らせてくれよ……」

 

「……え?」

 

 雪風のあの目(・・・)を見たくなくて俺は自分にもみんなを守らせてくれと求めた。

 それは雪風のあの目(・・・)が怖いからじゃない。

 なんでこんな優しくていい奴があんな目(・・・・)をしなくちゃいけないのかと俺は悲しみを抱いたからだ。

 でも、その理由は分かる。

 こいつが背負い過ぎてるからだ。

 きっとこいつは俺が何を言っても止まらないだろう。

 それは今、俺自身がラウラとの因縁を隠そうとしているのと同じようなものだろう。

 誰かを巻き込みたくない。

 

「お前が何を背負っているのかわからない……

 だけど、あんな目(・・・・)をしないで済むように俺も頑張るよ……

 だから、もう少し俺にも頼ってくれよ」

 

「………………」

 

 自分でも軽率だと理解している。

 明らかに雪風の方が強いのも理解している。

 そんな俺が雪風に頼ってくれなんて言うなんて烏滸がましいことぐらいは弁えている。

 それにこいつは俺なんかと比べちゃいけない程に辛い過去があることぐらいはこんな俺でも察することが出来る。

 

『ええ……特に「姉」と言うものはそう言うものです』

 

『私の目の前で二度と(・・・)誰も死なせない……!!!』

 

『……私、両親がいないんですよ……』

 

 姉のことを言及する顔、あの時の雪風の叫びと剣幕、そして雪風が孤児であることから雪風が過去に大切な人間を目の前で失っていること位は理解できる。

 だから、あれだけ誰かを守ることに必死になるのだろう。

 でも、こんなこと言っちゃいけないのかもしれないけど、それだと過去に縛られ過ぎているようにしか俺には思えない。

 過去を理由にして自分の未来を捨てているようにも見えてしまう。

 

「……そうですね。

 確かに私は自分だけで解決しようと必死になり過ぎてますね……」

 

「……!

 雪風!」

 

 俺は雪風が一人で背負い過ぎるのを止めてくれると期待したが

 

「……!?

 ゆ、雪風……?」

 

 俺が目にしたのは今まで見たことのない雪風の姿だった。

 俺はそれを見て自分の過ちに気付いた。

 こいつはこう言う子だと。

 

「じゃあ、失礼しますね……!

 おやすみなさい!」

 

「あ、おい……!」

 

 雪風は俺のことを直視しないようにそのまま走り去ってしまった。

 いや、正確には俺に自分の今の顔を見せたくないのだろう。

 

「………………」

 

 雪風が去った後、俺は呆然とした。

 次の瞬間、俺は

 

「くそっ……!!」

 

 自分の浅はかさに苛立って自分の脚を痛めつける様に地面を思いっきり蹴り上げた。

 足に鈍い痛みが走った。

 

「何やってんだ……俺は……!!」

 

 自分が雪風を追い詰めてしまったことに俺は今さらになって気づいてどうしようもなく苛立ってしまった。

 

 ヒーロー気取りかよ……

 

 軽はずみな一言で俺は雪風を苦しめてしまった。

 少しでも雪風の何かを背負えるとでも思いあがったことで。

 いや、そもそも本当に逃げていたのは俺だ。

 本当のことを話すまいとして雪風の助言を中途半端なものにして八つ当たりをしてしまった。

 勝手に自分が『本当のことを知りもしないくせに』と自分が勇気を出さなかったことを言い訳して片意地を張ってしまった。

 

「俺は馬鹿だ……」

 

 自分が先ずそんな勇気も強さもないのに雪風にそれを求めてしまった。

 そんな後悔と罪悪感が胸を締め付けた。

 誰よりも強く振る舞おうとする少女の気持ちを知っていたのに俺はそれを受け容れなかった。

 心なしか先ほどまで涼しかった夜風が肌を刺す様に感じた。

 あの雪風の無理をしてでも笑おうとする泣き顔が辛かった。




両者の共通点。
互いに互いが誰かを守ることを否定しないし相手のことを尊重してしまう。
そして、自分の弱さを他者に晒すことで他者の負担になるまいとしてしまうこと。

今回拗れたのは雪風は経験者で一夏がまだ経験していないことが原因です。
しかも、両方と大っぴらに話せないのが悪化した理由です。

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