奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「と言っても、問題はラウラのあの防御兵器だよな」
「ですね」
「うん」
全員の意思が固まってから私たちが始めたのは対ボーデヴィッヒさんを想定した会議だった。
一夏さんの言う通り、あの見えない防御はかなり危険だ。
見た所、あれは直線状の攻撃に圧倒的に強い。
はっきり言えば、私の天敵に等しい。
「まさか、「AIC」があそこまで完成されているとは思いもしませんでしたわ……」
「「AIC」……?」
セシリアさんの口から出て来た単語に一夏さんは復唱した。
「「シュヴァルツェア・レーゲン」の第三世代兵器よ。
「アクティブ・イナーシャル・キャンセラー」の略。
「ふ~ん」
鈴さんのその説明に一夏さんはわかったようなわかっていないような反応をした。
「……ちなみに一夏さん、「PIC」はご存知ですわよね?」
セシリアさんは「IS」の基本中の基本である「PIC」のことを一夏さんに確認した。
これについては私も確りと覚えたことだ。
でも、なぜセシリアさんがわざわざ基礎中の基礎を一夏さんに訊ねた理由を私は何となく理解できてしまった。
「……知らん」
「や、やっぱり……」
「一夏……」
やはり一夏さんは覚えていなかった。
一夏さんのことだ。
科学の問題に関しては基礎知識があるし理解力はあると思うのだが、専門知識や専門用語に関しては無関心ゆえに覚えるのが苦手なのだろう。
何と言うか、彼らしい。
「あ、あのねえ……
基本でしょうが、基本!
全ての「IS」はこの「パッシブ・イナーシャル・キャンセラー」によって浮遊、加速、停止をしてんの!」
幼馴染の少し間の抜けた発言に鈴さんは呆れながら噛みついた。
……神通さん、どうやら一夏さんには座学も必要だと思います……
私は心の中で弟弟子の知識不足を嘆いた。
「おお、どこかで聞いたことがあると思ったら、それか」
「あんたねぇ……!」
一夏さんは鈴さんとは対照的にお気楽な言い方をし、それが余計に鈴さんの油を注いだ。
仕方ありませんか……
ただこのままでは埒が明かないと思い私は
「でも、そう言う仕組みだったんですか。あれ」
「「「……は?」」」
「……え?」
「AIC」に対して感想を漏らすことで自らの無知さを見せつけることで空気の流れを変えようとしたのだがなぜか皆さんは一夏さんを除く全員が素っ頓狂な声を出してしまった。
空気の流れを変えることには成功したがこの状況は予想外だ。
何かマズいことでも口走ってしまっただろうか。
「あ、あの……皆さん、どうしたんですか?
そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」
「い、いや……あんた、もしかすると……」
「雪風、もしかすると「AIC」のことを
鈴さんとシャルロットさんは恐る恐る訊いて来た。
「え?そうですけど、それが何か?」
「いやいや!?」
「『それが何か?』て……」
「雪風さん、本気でそれを言ってますの?」
私はさも当たり前のことを言ったつもりなのだがなぜか一夏さん以外の全員から呆れられた。
ちなみに一夏さんはと言うと
「へえ~……雪風も知らなかったんだ。
じゃあ、別に―――」
「あんたは黙ってなさい!」
「一夏さんは勉強不足ですわ!」
「―――はい……」
鈴さんとセシリアさんに黙らされた。
「で……あんた、本気で何も知らないで戦っていたの?」
話は戻り鈴さんが問い詰めるように私に確認して来た。
「はい。確かに最初に雷撃をかましたのに爆発もしないのは妙におかしいと思ったので、何発か様子見の砲弾も浴びせましたけど……
道理で効果がない訳です。」
砲雷撃を防がれたのは大体、更識さんとの水の障壁や槍や鈴さんの衝撃砲で体験していたが、それでも砲撃や魚雷は確かに暴発をしたりしたので、今回のボーデヴィッヒさんとの戦いで双方とも何も起きなかったことに例の防御は障壁とも明らかに違うと予感していたがその理屈は解からなかった。
しかし、あれの対処法はある程度思いついていたので戦おうとしていたのだ。
そして、今の説明で「慣性」を止められたと気付いて運動そのものを止められたのが原因だとようやく合点がいったのだ。
「いや、その反応可笑しいから!?」
「どれだけ冷静なんですか、あなたは……」
「しかも、善戦してたし……」
なぜか三人にはさらに呆れられた。
「いや、いつも通りにしただけですよ。
相手が自分の考えた通りのことをするなんて限りませんし、こういうことは状況に合わせて対処するのが肝心です。
訓練で鍛えるべきなのは冷静に物事を考える力と思い付いた対処法を行使するための技術ですよ」
そうでなくては戦場では死ぬ。
いつも相手が事前情報通りに動くとは限らない。
その為、戦いにおいては重要なのはまず指揮官がギリギリの条件で達成される作戦ではなく、ある程度の余力を残したままに達成できる作戦だ。
一度の挫折で全ての戦略が破綻するようなものは作戦としてはお粗末だ。
と言っても、どう考えてもギリギリの作戦しか選択肢にないのならばやむを得ないが。
ただし、それはあくまでも勝算とその根拠が確りとある場合に限るが。
根拠が楽観的なものでしかない場合はそれは作戦ですらない。
そして、次に戦いに臨む者に求められるのは現場における判断力だ。
当然、それは司令部にも求められるが各将兵にも求められる。
たとえ、どんなに予想だにしない状況を目にしても冷静に行動しなければならない。
どんな微かなことをも見逃さないために。
なぜならば、それが危険であり突破口の兆候かもしれないからだ。
「いや、言っていることは正しいんだけど……」
「それを実行するのは……」
「天才なの……雪風って……」
「え?いや、私は
「あんたみたいな
私はあくまでも最低限のことを言ったつもりなのだが、なぜか鈴さんに突っ込まれた。
「まあまあ、落ち着けって……
でも、これってある意味ラッキーじゃないのか?」
「……え?」
「どういう事ですの?」
そんな私の主張で混乱するこの場で一夏さんが沈静化を図って来た。
おかしい。元々、私は彼の作り出した空気を変えようとしたのだが、なぜかいつの間にか立場が逆転している。
しかし、それでも一夏さんの言う『ラッキー』と言うのは私も興味深い。
何を以ってそう主張するのかは気になって仕方がない。
「だって、前情報なしで「AIC」……だっけ?
それを見破ったんだろう?だったら、雪風の発想を基にして攻略法も見つかるんじゃないのか?」
「あ」
「……確かにそうですわね」
「一夏、いいアイデアだよ」
「だろう?」
一夏さんの助け船のおかげでようやく路線は元に戻った。
ただ一つ感じたのは
「……ただ、私任せなのがイマイチ締まらないですね……」
「し、仕方ないだろ……
で、雪風。ラウラと戦っていて何か考え付いたことてあるのか?」
私頼りと言うのは少し締まらない気がした。
一夏さんはそれを指摘されて少し気恥ずかしくなりながらも私に考えを求めて来た。
同時に鈴さんたちも私に視線を向けて来た。
どうやら彼女たちも興味があるらしい。
「……そうですね……
どうやら、「AIC」には有効距離と範囲があると言うことですね。
恐らく、腕を突き出してましたので彼女の前方までがそうでしょう。
ですので、考えられる有効な攻撃としては高速で移動しながら疑似的な空間制圧攻撃でしょうかね?」
「……?どういう事だ?」
ボーデヴィッヒさんと戦った時に彼女の動きや例のワイヤーの撃墜から理解したところ、「AIC」は強力であるが同時にかなり限定的な防御兵器だと感じた。
そして、それを理解して考えた攻撃手段を私は口に出したのだが、一夏さんは理解できなかったようだ。
「な、成程……」
「確かにそれなら……」
「うん、いけるけど……」
「え、え?」
ただし、それは一夏さんに限るのみだったらしい。
どうやら他の三人はわかってくれたようだ。
「なあ、どういうことなんだ?
全くわからないんだけど」
一夏さんは訳が分からないらしい。
ただ、私は彼のこの素直な性格は悪いものではないと感じている。
一夏さんの見栄を張らない、無知であることを隠さない性格はある意味では美徳だろう。
少なくとも、自分の知識不足を認めないで虚栄心のままに突っ走って味方を危険に晒す人間よりは好感を持てる。
ただし、知らなさ過ぎるのも問題だが。
「雪風が言いたいのは相手の周囲を高速で移動して旋回しながら飛び道具で攻撃し続けることだよ。
例えば、ほらコンパスの鉛筆みたいに」
「あ、成程……じゃあ、ラウラは円の中心てことか……」
「そうそう」
一夏さんの疑問に対してシャルロットさんが分かり易く説明してくれた。
これは助かる。
「……でも、そんなことが可能なのか?」
私の思い付いた攻撃方法に対して
これも一夏さんの良いところだ。
「……普通なら無理よ。
そもそも射撃は弾速や距離を頭に入れたりすることも必要だけど、相手の行動パターンを把握しないといけないし」
「高速での移動となるとさすがのわたくしでも難しいですわね……」
鈴さんとセシリアさんは同時に「不可能」だと断じた。
そう、実はこの作戦、理論としては至極簡単ではあるのだが実践となると困難なのである。
「じゃあ、やっぱり―――」
一夏さんは二人の反応を目にして諦めようとするが
「でも、それは
「―――え?」
だが、セシリアさんの一言でその流れは変わった。
続けて
「そうね……
悔しいけど、これは
「
鈴さんが私がこの戦術を行えることを認めた。
「一夏さんも覚えていらっしゃると思いますが……
雪風さんは「クラス代表決定戦」でわたくしの行動を何度も先読みしていましたわ」
「……あ!」
一夏さんはセシリアさんの言葉を受けてあの戦いのことを思い出したようだ。
その経験から私がやろうとしていることは痛いほどわかるはずだ。
何せ、他ならぬ彼が私の先読みを突破したのだから。
私には長年の経験と神通さんによって鍛え抜かれた「水雷戦」の戦術がある。
相手の移動する地点の先読みから編み出せる偏差射撃。
水雷戦と対空戦闘によって培われた速度を出しながらの戦闘。
その二つが私に例の攻撃方法を可能とする。
ただ、この攻撃方法には一つ問題がある。
「でも、これぐらいの対策はボーデヴィッヒさんも打ってくると思うんですよね……」
「そうですわね……」
「確かに……」
「うん……」
一応、
仮にそうでなければかなり助かる。これ程楽な相手はいないはずだ。
だが、現実は違う。そんな油断や慢心などするような相手などいない。
どんな時だって相手は真面目なはずだ。
加えて、この作戦には致命的な欠陥がある。
それは
「それにこの作戦……一夏さんには無理ですし……」
「「白式」には「雪片」しかないからね……」
近接武器しかない一夏さんにはこの戦術は参考にもならない。
こんな所で「白式」の弱点が大きくなるとは。
となると、この作戦は「机上の空論」でしかないだろう。
誰もが一夏さんにはこの作戦は無理だと諦めていた時だった。
「いや、そうとも限らないんじゃないかな?」
「「「「……え?」」」」
なんとシャルロットさんが待ったをかけてきた。
「問題は一夏が飛び道具を持っていないことなんだよね?」
「え?あ、はい……
そうですけど……」
シャルロットさんの目には明らかに何か決意が込められ、声には以前にはなかった自信があった。
「だったら大丈夫だよ。
これは
「「あ!」」
シャルロットさんの発言で私と一夏さんは彼女が何を言おうとしているのか理解した。
これは盲点だった。
「ちょ、ちょっとどういう事よ?」
「三人だけずるいですわ!」
鈴さんとセシリアさんは私たちだけが納得していることに不満なようだった。
「すみません。多分、デュノアさんが言いたいのは「使用許諾」を出した射撃武器を一夏さんに貸すことだと思います」
「うん」
私の出した答えが合っていたことにシャルロットさんは少し嬉しそうに頷いた。
そう、シャルロットさんは一度アサルトライフル「ガルム」を一夏さんに貸している。
この時点で一夏さんには「使用許諾」が降りていることになる。
つまり、一夏さんはシャルロットさんと組むことで銃と言う射程を得たのだ。
「あ、そっか……!」
「成程……」
これは「二対二」の戦いだ。
ないものがあったり、直せない欠点があれば誰かに補ってもらえばいいし、逆も然りだ。
さらに幸いなことにシャルロットさんの機体は武器搭載量ならば学年最大だ。
これほど支援に向いている機体はいないだろう。
でも……彼女の「変化」には驚かされましたね……
何よりも私が驚いているのは彼女の進言の価値よりも彼女が
以前までの彼女ならば、こんなことを言える勇気もなかった。
いや、そもそも言えるほどの余裕がなかったのだ。
元々、彼女は他人に遠慮してしまう性格なのだ。
なのに彼女はしっかりと相手のことを見て話せるようになったのだ。
素の自分で。
きっと、これが彼女本来の性格なのだろう。
しかし、これですべての条件が整ったも同然だった。
「となると、基本方針としては……
当たり前のことではありますが、序盤に相手を分断して「一対一」の戦いに持ち込み、片方がボーデヴィッヒさん相手に時間稼ぎを行い、もう片方が先に相手のペアを倒して「二対一」の戦いに持って行くことですね」
これほど、恐ろしく単純な誰でも思い付く作戦は存在しないだろう。
しかし、基本は大事なので念頭に置いていてもらわないといけない。
それと私はもう一つ保険としてはとあることも伝えておこうと思った。
「ですが、相手も多数との戦いを想定している可能性もあります。
ですので、必ず片方が攻撃されたら片方が助けることを忘れないようにしてください。
割り振りについてはお互いのペア同士で―――
……って、どうしたんですか、皆さん?そんな顔をして?」
私が作戦を説明しているとなぜか皆さんは私の事を見入るように見ていた。
「い、いや……何と言うか……」
「今の雪風って……」
「手慣れてらっしゃると言うか…………」
「すごく様になっていると言うか……」
「あ……」
彼らは私が作戦を説明している姿を目にして違和感を感じているらしい。
どうやら、「総旗艦」や「訓練艦」の時のような振る舞いを無意識にしてしまったらしい。
これは不味い。
「と、とりあえず!ボーデヴィッヒさんの足止め役と相手のペアを倒す役は各自で決めましょう!
それと「AIC」対策としては当然連携も大事ですけど、もう一つボーデヴィッヒさんの判断力を鈍らせることも忘れないようにしてください!」
私は少しでも誤魔化そうとさっさと基本方針を伝えると同時に「AIC」の突破口にまではならないまでも、気休めにはなるであろう作戦も伝えた。
「え?それって、どうやって?」
一夏さんはそのやり方がわからないらしく訊いて来た。
それを見て私は少しにやりと口元を上げながら答えた。
「……そうですね、簡単に言えば
「は?」
「い、
私の一見するとふざけているように思える発言を聞いて全員が呆然とした。
「はい。具体的に言えば、相手が動こうとした所に罠を張ったりとか、相手の視界を奪うとか、相手を怒らせるとか、とりあえず相手の集中力を奪うことです」
「い、いやそんな笑顔で言われても……」
「この子、正々堂々しているように思えるけど……やり方選ばないわよね……」
「恐ろしいのはそれをほとんど、雪風さんが出来てしまうことですわ……」
「雪風のギャップが激し過ぎる……」
なぜか全員に引かれてしまった。
いや、自分でも十分卑怯なことを言っているのは自覚しているけど、ここまで引かれると正直心が傷つく。
「仕方ないじゃないですか。
打つ手がないなら、ないなりに工夫して食い下がる。
それが勝負の基本ですよ」
少し悲しいので一応弁解させてもらった。
はっきり言うと、ボーデヴィッヒさん相手だと私には、いや、この場にいる全員には打てる手が限られている。
例の作戦にしても失敗する可能性もある。
ならば、少しでも成功する可能性を高め、失敗した時の善後策も考えておくべきだろう。
「それに「IS」による試合と言っても操るのは「人間」です。
だから、これは十分有効な手です」
私は持論を出した。
確かに装備や兵器は最新式で強力な方がいいのは当たり前だ。
それは私も否定しない。
実際、そっちの方が味方の被害も少なくしつつ、自軍を勝利へと導くことにも繋がる。
だが、それらが全てじゃないのも事実だ。
どんなに優れた武器を持っていようが、結局の所それらの性能を最大限に引き出せなければ「宝の持ち腐れ」だ。
だからこそ、戦いにおいては相手の判断力を鈍らせるのは重要なことだ。
「そうか……」
私の持論を聞いて一夏さんは納得してくれたようだ。
いや、一夏さんだけじゃない。
他の三人も思う所があって受け入れてくれたようだ。
「よし!
とりあえず、みんな。
この方針で行こう!」
「うん!」
「そうね!」
「はい」
「私もなるべく皆様の力になりますわ!」
こうして、全員がこの方針に納得したところで会議は終わった。
Q.ラウラの「AIC」をどうやって攻略する?
A.速さと早さと計算と数で封じ込めればいい