奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
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「鈴、セシリアは大丈夫か?……て、雪風もいたのか」
一夏さんがシャルロットさんを伴って病室に入って来てセシリアさんのことを鈴さんに訊ねようとしたが、私がいたのは予想外だったらしい。
「はい。私も心配になったので。
ですが、どうやら打撲だけで済んだらしくて鈴さんの方もほとんど無傷ですので安心してください」
私は彼の不安を払拭するために鈴さんよりも先に彼の知りたいであろうことを伝えた。
「そうか……良かった……」
「ちょっと、雪風。
今、一夏は私に訊いたんだけど?」
鈴さんは私の対応に不満を覚えたらしい。
どうやらヤキモチらしい。
ただこの範疇ならば可愛らしいところだと私は感じる。
「すみません。
ただ、こう言ったことは早めに心配の種は取り除くべきだと思って―――」
と私が弁解しようとするが
「あ~、はいはい。
ったく……本当にあんたには敵わないわよ」
と少し不貞腐れながらも納得してくれたらしい。
こういう子供っぽいところは微笑ましいと私は思う。
「その様子だと鈴も無事らしいな」
鈴さんのいつもと変わらない様子に一夏さんは安心感と共にそう呟いた。
「……何?心配してくれてたの?」
鈴さんは一夏さんのその気遣いに嬉しさをほぼ見え見えだが隠しながら素直じゃない応答をした。
「当たり前だろ。幼馴染なんだから」
と一夏さんはさも当たり前のように何の含みもない言葉で鈴さんを本気で心配したことを包み隠さずに言う。
言いにくいのだがこういう所が割と一夏さんが女性に好意を持たれる理由の一つだと思う。
「そ、そう……あ、ありがとうね……」
それを受けて鈴さんはさらに照れているのを誤魔化そうとしたが完全に頬が緩みきっているので無意味だった。
少し可愛い。
「コホン……一夏さん、わたくしのことをお忘れでなくて?」
そんな鈴さんに嫉妬したのか、セシリアさんがベッドの上から咳払いをして話に割り込んで来た。
ただいつもと違って今回は危険行為が絡まないことだけあってとても暖かく見守れる。
「悪い悪い……
でも、セシリアも無事でよかったよ」
と一夏さんはセシリアさんのいつもと変わらない強気な令嬢らしい態度を見て安心したらしい。
誰の目からも鈴さんよりもセシリアさんの方がダメージを負っていたのは事実だ。
その彼女が普段と変わらないのだ。
もう心配の種はなくなったも同然だ。
「全く、一夏さんはもう少しデリカシーと言うものを持つべきですわ―――
て、痛っ……!?」
「あ、おい!大丈夫か」
と文句をこぼしながらも少し体を動かしたことで患部が刺激されたことで痛み出したらしい。
「こ、これぐらいはなんともありませんわ……!」
とセシリアさんは強がりを言うが割と痛いのが顔に出ている。
「……まあ、それならいいけど……
とりあえず、そこまで酷くなくて良かったよ。
ありがとうな、雪風。
二人を助けてくれて」
鈴さんとセシリアさんが普段と変わらない様子を見て、一夏さんは私にお礼を言ってきた。
「そうですわね。
雪風さん。危ない所を助けていただきありがとうございます」
「本当ね。ありがとうね、雪風」
二人も一夏さんに続いてお礼を言ってきた。
と言うよりも元々二人とも言おうとしていたのだが、一夏さんたちが入って来たことで中断されただけだったのだが。
「いいえ。当然のことをしたまでですよ。
二人が無事で私自身、本当によかったと思っていますし」
元々、二人じゃなくても他人の命が危ないのならば助けるのは当たり前だと決めているが、二人を目にして余計に助けたいと躍起になったのは事実なので二人が無事であったことに私がお礼を言いたいところなのだ。
と私が安堵している時だった。
「……な、なんだこの音は?」
ドドドドドドッとまるで牛の大群が大地を踏み鳴らすような音が廊下から響き渡って来る。
さらにはその音源は段々とこちらに近付いてくる。
仮にここが太平洋であっても水中聴音機なしでも解る程に。
その直後だった。
「織斑君!!」
「デュノア君!!」
「なっ!!?」
「いっ!!?」
保健室のドアがまるで砲撃を受けたかのように吹き飛び、数十名の生徒たちが雪崩れ込んで来た。
その結果この部屋は割と広いはずなのだが生徒たちで溢れかえり、まるでPT小鬼群が制海権を握っている海峡のように見えた。
さらには微かに見えるのだが生徒たちは一夏さんやシャルロットさんを囲むようになり、さらには夢中になって二人に次々と手を伸ばそうとしている。
ちなみに私はと言うと
「ゆ、雪風……大丈夫……?」
「鈴さんの方こそ……」
鈴さんと共々、生徒の波によって窓まで流されてそのままガラスに顔を押し付けられて身動きが取れず一夏さん達の様子をギリギリ視界の中に入れている状況だ。
転ばなかったことで踏まれずに済んだのは不幸中の幸いだが。
「な、な、なんだなんだ……!?」
「ど、どうしたのみんな……ちょ、ちょっと落ち着いて」
全くその通りだ。
けが人がいるのに、しかもここは病室だ。
騒ぐのは明らかに非常識だ。
と言うか、早くどいて欲しい。苦しい。
―これ!―
そんな興奮状態の彼女らはどうやら何かの紙を取り出してそれを一夏さんたちに見せつけた。
「な、なになに……
『今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うために、二人での戦闘を必須とする。
なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』―――」
そう言うことですか……
どうやら「トーナメント」の試合形式が変更されたらしく、彼女らは二人とお近づきになりたくて必死らしい。
何と言うか、分かり易い理由である。
「私と組もう、織斑君!」
「私と組んで、デュノア君!」
彼女たちは一方的な勢いで二人に手を伸ばす。
彼女らの勢いや集団心理、執着には私ですら圧されるが、それよりも危惧していることがある。
それは
「え、えっと……」
シャルロットさんの事だった。
シャルロットさんは本当は女性であり、今回の「トーナメント」での訓練で露見する可能性も高いのだ。
仮に実情を知らない人間とペアを組まれでもすればその分、二人での時間が増えてその危険性も高まる。
実際、シャルロットさんの困惑している反応がそれを物語っている。
彼女の大人しい性格と育った環境によって形成された強く出ることの出来ない性根から断るのは無理だろう。
その時だった。
「悪いな。俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」
助け船を出す様に一夏さんがそう宣言した。
その結果、先ほどまで騒いでいた生徒たちが静まり返った。
それは彼の言葉が名実共に反論の余地のない正当性のあるものであると言う証左であった。
一夏さん、上手いです!
これは女の私では不可能な手段だった。
「まあ、そう言うことなら……」
「他の女子と組まれるよりはいいし……」
「男同士て言うのも絵にもなるし……
ごほんごほん」
どうやら渋々納得してくれたようだ。
ただ問題になるのは一夏さんのその後だ。
シャルロットさんが何も隠さずに普通に名前を明かせるようになった後に一夏さんが色々な意味で危ない気がする。
それと最後の発言はそう言う意味ではないはずだ。
いや、きっとそうだ。
二度と更識さんにこの件で弄られるのはごめんだ。
違って欲しい。
とようやく、一騒動が収まると思った矢先だった。
「あ、陽知さん!」
「……え?」
なぜか、今度は彼女たちの意識が私に向けられ始めた。
「陽知さん、私と組んで!」
「陽知さんとなら優勝を狙えるし!」
「お願い!」
次々と彼女たちは私にペアを組むことを要請して来た。
……こ、この子たちは……!!
私は彼女たちの節操のなさと意識のなさに呆れと怒りを感じてしまった。
つまりは彼女たちは「トーナメント」で噂されている「特権」を得るために自分の力では無理だと諦めているが、鈴さんやセシリアさん、一夏さんを倒している私と組むことで手に入れようとしているのだ。
別に元軍人なので誰かに力を請われることに関しては仕方がないとは断じているがそんな私でも彼女たちのその行動にはあることを理由に怒りを感じている。
それはたった一つ。
「そうですか、では条件として「トーナメント」までの間、
「「「「え」」」」
共に肩を並べる人間がそんな意思も意地もない姿勢であることだ。
別に私と言う戦う力で己の足りない部分を補おうとするのは許せる。
そもそも、私自身大戦中や総旗艦時代に対空戦闘では空母、火力を戦艦や重巡、水雷戦を水雷戦隊、数や装備の向上を妖精さんや人間の方々による協力で補う形で生き残って来た身だ。
しかしだ。自分の力不足を恥じて研鑽を積みそれでも届かないから私を当てにするなら未だしも最初から私任せにしているその性根は許し難い。
だから、私は最低限の条件を言っただけだ。
「どうしました?
我こそはと言う人はいませんか?」
「え、いや……」
「えっと……」
「そ、その……」
私は彼女たちにその気概がないことを知ったうえで意地悪くそう宣った。
結果、彼女たちは徐々に後退り
「え、遠慮させていただきます!!」
「ご、ごめんなさい!!」
「自分で頑張りますうううううううううううう!!」
そのまま我先にと退散していった。
「ふ~……」
「うわぁ……あんた、えげつないわねぇ……」
生徒たちが走り去っていった後、鈴さんが呆れながら言った。
どうやら、人の波が去ったことで彼女も解放されたらしい。
「当然です。
大体、肩を共に並べる相手を選ぶ権利ぐらいは私にもあるはずです」
「あんたらしいわねぇ……
と言うか、一夏なんで私と組まないのよ?」
「そうですわ!ぜひわたくしと!」
「え、いやその……」
困った事になりましたね……
ようやく生徒たちが去ったというのに今度はこの二人だ。
しかも厄介なことにこの二人は他の生徒たち一夏さんに対する想いは真摯だ。
この二人は簡単に引き下がらないだろう。
それに加えて、この二人には実力と言う説得力もある。
特にシャルロットさんも中々優れているようだが実力面では明らかに鈴さんの方が上だ。
どう説得しようと思案している時だった。
「オルコットさん、あなたはダメですよ」
「……!」
そんな勢いの二人の中、セシリアさんに待ったをかける人物が介入して来た。
「山田先生……!」
それは山田さんだった。
彼女の様子を見てみるととても残念そうな顔をしていた。
「どういう事ですか?」
彼女のその深刻そうな表情を受けて彼女が何を以ってセシリアさんの出場を止めようとしているのかを私は訊ねた。
「……オルコットさんの「IS」の状態をさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。
当分は修復に専念しないと、後々重大な欠陥を生じさせますよ。
「IS」を休ませる意味でも「トーナメント」参加は許可できません」
山田さんは強い意思を込め、そして、生徒の未来を想うように語る。
ただ、山田さんの語ったそれは余りにもセシリアさんにとっては残酷なものだった。
「そ、そんな……!う、うぅ……!」
セシリアさんはそれを受けて泣くのを堪えようとするも堪え切れずに涙を落した。
当然だ。
彼女は「トーナメント」の噂を耳にしているか否か以前に「代表候補」であることに誇りを抱いているのだ。
それなりに「トーナメント」に懸ける熱意も他の生徒たちよりも上のはずなのだ。
そして、私はなぜ彼女が「代表候補」であることに熱意を抱いているのも知っている。
それがこんなことで無駄にされたのだ。
悔しくないはずがない。
「……ねえ、雪風……
私と組んでくれない?」
「……え?」
そんなセシリアさんの悔しさが部屋に満ちる中で鈴さんが突然そう言ってきた。
「……あの女を叩きのめさないと……マジで気が済まない……!!」
鈴さんは怒りを込めながらボーデヴィッヒさんを倒すことを決意した。
「セシリア、それと安心しなさい。
優勝しても例の件を私は使うつもりはないから」
「……鈴さん……」
「………………」
鈴さんは続けてセシリアさんに約束した。
恋敵とは言え、その決着は堂々としたものにしたい。
その姿に私は熱気を感じると共に少し、自分の見識が狭かったことを恥じた。
こういう人だって必ずいるのだと。
「で、雪風。どうなの返事は?」
鈴さんは私に対して答えを知っているのにも拘わらず質問して来た。
当然ながら私は
「喜んでその申し出を受け取らせていただきます」
彼女の手を取って「是」と受け取った。
元々、鈴さんは私と常に訓練をしている仲だ。
何よりも神通さんの弟子同士と言う共通点もある。
これ程、肩を並べることが嬉しくて仕方がない生徒は先ずいないだろう。
「よし、決まった!
これであのボーデヴィッヒにぎゃふんと言わせてやるんだから!!」
鈴さんは慢心ではなく自信を以って断言した。
「それはせっかちじゃないかな?」
「そうだぜ、俺達もいるんだから」
その鈴さんの宣言に一夏さんとシャルロットさんの二人が噛みつく。
成程、つまりはこの場にいる全員がこう思っているのだろう。
ボーデヴィッヒさんを倒す。
それは詰まる所
「じゃあ、皆さんで決勝で戦いましょうか?」
全員が決勝戦まで勝ち進むと言うことであると言う。
「「応!!」」
「うん!頑張ろう!」
「……少し、羨ましいですけれども……
皆さま、ありがとうございます……」
セシリアさんは残念そうにしながらも少し笑顔を取り戻し、私たちは全員で決勝までいくことを決意した。
ラウラが原作で鈴とセシリアにやったことを現実に例えると
部活動で頑張ってレギュラー勝ち取った学生を大会前に怪我させて出場停止にさせたことなんですよね。