海鳴市では結構な人気を誇る喫茶店「翠屋」。普段は主婦や学校帰りの生徒でにぎわうこの店には、もう一つ裏の顔があった。「翠屋」は海鳴市周辺の情報を探る外界宿なのだ。ちなみにフレイムヘイズの間では、旨いコーヒーが飲める外界宿として少しばかり有名だったりする。そのカウンターで、一人の青年が午後のひと時を満喫していた。
「あちこちの外界宿を回ったが、これほどのコーヒーをごちそうしてくれたところは
ここが初めてだ。噂通りのいい腕をしている。」
青年、『銀氷の張り手』カムイはマスターに惜しみない賛辞を贈る。
「ふふ、かの有名な『銀氷の張り手』にそう言ってもらえるとは。光栄です。」
『そうでしょそうでしょー。カムイが手放しでほめることなんてめったにないんだからもっと誇りなさい。』
カムイの契約者たる紅世の王``深淵の晶``フレティアが誇らしげに言う。自分のフレイムヘイズの武勇が極東にまで轟いていることがうれしかったのだ。
「なんでお前が威張ってるんだ。」
そんな契約者の心情などつゆ知らず、カムイは呆れてしまう。
『ふん、あんたは乙女心がわかってないのよ。』
「乙女っていうような歳かよ。」
『なんて失礼な!!私は永遠のレディーよ!!』
「はいはい。」
『むー、適当すぎ!大体あんたはいつもいつも―あいた!!』
パートナーの戯言に付き合うのが面倒になったカムイは腕輪型神器「グラキエス」を軽く指ではじいてフレティアを黙らせた。
「ははは、あなた方は仲がいいですね。」
彼らの微笑ましいやり取りを見たマスターから笑みがこぼれる。
カムイは少し照れくさそうに頭を書き、ごまかすように本題に入った。
「さて、依頼について詳しく聞かせてほしい。」
マスターの表情も真剣なものになる。
「わかりました。まずは改めて自己紹介をさせていただきます。私は高町士郎、外界宿海鳴支部の管理を任されているものです。お会いできて光栄です。『銀氷の張り手』そして``深淵の晶``フレティア」
「すでに知っているようだが、``深淵の晶``フレティアのフレイムヘイズ『銀氷の張り手』カムイだ。よろしく頼む、士郎。」
『よろしく~。』
「こちらこそ、よろしくお願いします。さて、依頼についてですね。すでに実物をお持ちだとは思いますが、あれと同じものがもう二十個ほど存在するようです。そのうちいくつかはすでに回収できています。」
『大したもんじゃない。自力でこんな怪しいものを回収できるなんて。』
フレティアが感心したように言う。しかし、士郎表情はさえない。
「どうした、何か問題でも?」
「回収そのものは順調なのですが、なんといいますか、回収者に少々問題がありまして。」
「部外者か?」
「まあ、部外者といえば部外者なのですが・・・・・・。」
今一つ煮え切らない態度の史郎にフレティアが発破をかける。
『なによ、はっきりしないわね。さっさと言いなさいよ。』
「実は、件の回収者というのが―」
士郎がその先を言いかけた時、店の扉が勢いよく開く
「ただいまなの!」
現れたのは9歳か10歳ほどの可愛らしい少女だった。栗色の髪をツインテールにまとめ、見ていて気持ちの良い笑顔を浮かべている。
「ああ、お帰りなのは。」
士郎はそんな少女の姿を見て、最上の笑顔を浮かべる。
「あれ、お客さん?お店もう開いてたっけ?」
なのは、と呼ばれた少女はカムイの姿を認めると不思議そうに首をかしげる。まだ開店までは少々時間があったのだ。
「こんにちは。僕のことは気にしないで。お客じゃないからね。」
カムイはなのはの疑問を解消すべく、できるだけ穏やかな口調で話しかけた。
「はい!私は高町なのは、聖祥小学校の三年生で、お父さんの娘です。お兄さん、お客さんじゃないなら誰なの?」
子供の好奇心を満たすには説明が足りなかったらしい。カムイは仕方なしに適当な訳をでっちあげる。
「こんにちは。きちんと挨拶ができて偉いな、なのはちゃんは。僕はカムイ。そうだね、君のお父さんの仕事仲間かな。」
「お兄ちゃんとあまり歳が変わらないのにもうお店開いてるんだ。すごいの!どんなお店なの?場所は?」
なのはは目を輝かせてカムイを見つめる。その様子は何とも可愛らしく、微笑ましい気分になった。
(・・・・・・ロリコン。)
取り合えず、脳内に直接語り掛けてきたパートナーのことは全面的に無視する方針を固めた。どう答えたものか、と逡巡していると、史郎が助け舟を出した。
「なのは、早く着替えておいで。おやつも用意しているよ。」
「ほんとに!!わーい!!お兄さん、ゆっくりしていってくださいなの。」
子供は所詮子供。おやつの魔力を前にしては好奇心も白旗を挙げるらしい。
「可愛らしい娘さんじゃないか。」
「ええ、自慢の娘です。」
士郎は誇らしげに胸を張ってこたえる。どことなく、親ばかのにおいがしなくもなかった。
閑話休題
『その自慢の娘が回収者ってわけね。』
フレティアがこともなげに言い放つ。
「お気づきになりましたか。」
史郎はため息をついてうつむき加減で答える。
「ま、あんだけ妙な力を垂れ流しにしてたらね。俺でなくても、少し勘のいい奴なら見抜くだろうさ。」
『それで、あの娘は何者?まさか、こっち側の人間ってわけじゃないんでしょ?』
「もちろんです。なのは、娘は何も知りません。世界の本当のことも。ただ、最近魔法少女ととして覚醒したようでして。」
「魔法、」
『少女?』
その時のカムイの表情を表現するとすれば、ハトが特大の豆鉄砲を食らったというところだ。
「えっと、自在師じゃなくて?」
「はい、私も未だに信じられないのですが。存在の力ではない力を使うようでして。紅世がらみではないと思うのですが・・・・・・。」
士郎は心底悩ましそうにいう。
カムイはカムイで、想定よりも面倒な事態に内心頭を抱えていた。
第二話でした。たぶん前回よりは読みやすくなっていると思います。投稿ペースは週一くらいでいけたらいいなと考えています。
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