ZOIDS ~Inside Story~   作:砂鴉

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トローヤの戦いも佳境です。


第82話:トローヤの戦いⅥ 惨禍が哭く

 徐々に、戦場に光が戻ってくる。それは日蝕の終わりを表していた。だが、戦況は、戻ってくる光とは真逆の悲惨なものだ。

 

 ギルベイダーは上空から短針弾頭(ニードルガン)とプラズマ粒子砲を吐きつけ、大地を這うゾイドたちを薙ぎ払う。それを、エナジーライガーが全力で迎撃し続けた。

 翼の重力砲が撃たれないことが幸いだ。一度だけ使われたその力は、半径一キロの範囲をまとめて押しつぶすものだ。いくら段違いな力の持ち主であるエナジーライガーと言えど、それを防ぐ術はない。

 

 前線まで出ていた鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の部隊は後退中だ。小型ゾイド、それも近接しての攻勢がメインのゾイドで締められているSSゾイドでは上空から襲いかかるギルベイダーに対抗する術がない。

 

『はっはっは、逃げろ逃げろムシケラども。この魔龍が、全て破壊し尽くしてくれん!』

 

 おそらくコックピットに居るのだろうドルフ・グラッファーの声が響く。恍惚と魔龍に酔いしれているような姿に、ヴォルフは見覚えがあった。一年前の帝都決戦の際、あの時のギュンター・プロイツェンも同じではなかったか。

 古代の超ゾイドは、人の精神すら蝕むのか。プロイツェンに決別を宣言した際の言葉が誤りではなかったと確信しつつ、ヴォルフはひたすらエナジーライガーを稼働させた。

 

 計器類を確かめながら、最適な攻撃を見出しての攻勢。初めて乗るゾイドでこの操縦は、想像以上に精神的疲労が大きい。ただでさえ、目覚めさせてすぐの強行軍をしたのだ。疲労も、エネルギーの消費も無視できない。

 

 エナジーライガーの火力は、機体のサイズを無視してギルベイダーと渡り合えていた。だが、この拮抗もいつまで保つのか分からない。ギルベイダーはまだまだ余力を残しているのに対し、エナジーライガーは今放出しているそれが、現在出せる最高火力なのだ。

 切り札は……あった。だが、それは本当に決着をつけるためのもの。時間制限もつけられる限界突破の手段を、早々に切る訳にはいかない。

 

 ギルベイダーを倒すことが目的なら、すぐにでも使って早期決着をつけるべきだった。だが、それはできない。なぜなら、ヴォルフ達の目的は()()()()だけではないのだから。

 

「……フィーネ、フェイト、どうだ?」

 

 エナジーライガーのコックピットは不思議な形だった。どこか異空間のような場所に椅子がセットされ、不思議な球体に己の意識を集中させて操る。既存のゾイドではない。人が乗るような形でもない。バーサークフューラーの原型となった完全野生体、その操縦を突き詰めたような感覚だ。

 その感覚に、嘗ての古代ゾイド人のゾイドとのかかわりを感じながら、現代に蘇った古代ゾイド人とその繋がりがある者に問いかける。

 

「ええ、感じるわ。リエンは……ギルベイダーの中。中心よ」

「ギルベイダーの声に、ちょっとだけど哀しみがある。リエン、だよね」

 

 上空から戦況を見守るシュトルヒから返ってくる言葉に、ヴォルフは「やはりか」と心中で苦言を洩らす。

 フェイトとフィーネにとって、ギルベイダーを倒すのは尤もだが、それ以上に達成する目的があった。それは、別れ、再会を誓った友を助けること。

 方法など何も分からないが、ぶっつけ本番で、思いついたことを試すほかない。今現在思いつく方法と言えば、感じた居場所に直接殴り込みをかけるくらいか。

 

「……よし、ザルカ。いるのだろう?」

『フハハハハ! 何かなヴォルフ』

 

 このような危機的状況化にあって、豪快に笑い声を響かせることのできる姿は流石だ。心強い仲間に感謝しつつ、ヴォルフは口を開く。

 

「奴のゾイドコアは? 場所は測定してあるのだろう?」

『フッ、当然だ。奴の短針弾頭(ニードルガン)とプラズマ粒子砲の砲塔が見えるな。あれの下には、内部に通ずる道がある。空輸の役割も持たせてあるのだろう。そこからさらに先、入り組んだ通路の奥に、ゾイドコアが安置されているはずだ』

「よく分かったな」

『フハハハハ! ワタシは天才科学者だぞ。共和国のイカレ科学者よりも有能だ。このくらい出来て当然よ!』

 

 ザルカのことだ。決戦に赴くまで独自にギルベイダーのことを調べていたのだろう。頼りになると同時に、うすら寒さも覚えた。今は味方だが、彼が研究意欲のままに再び世界を敵に回したら、果たしてどれほどの被害を出してしまうのか。

 

「コアにたどり着くには、やはり格納庫の壁に穴を空ける必要があるのだな?」

『うむ。だが、以前のようにブレードライガーで突貫する策には賛同できん。届かないからな。だが、すでに手はあるのだろう?』

 

 含みを持たせたザルカの言葉に、ヴォルフは疲労を振り払って笑みを浮かべて見せた。当然だ。いったい何のために、この獅子皇(エナジーライガー)を駆って来たと言うのか。

 

「よし、全軍。現状を教えてくれ」

 

 ヴォルフの元に、ズィグナーと連合軍のそれぞれの指揮官から報告が届く。鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の小型ゾイドは一時撤退。三分の一が骸へと変わり果てたが、どうにかまだ生きている。連合軍の重砲隊もギルベイダーの砲火を浴びて損害を受けているが、まだ生きている。トローヤの背後に忍ばせた海中部隊と空戦部隊は、まだ温存してある。

 被害状況をまとめ、ヴォルフは今後の策を打ち出す。更なる被害がもたらされるかもしれないが、それを説明する余裕はない。端的に、速やかに伝える。

 

「……全軍に告ぐ。魔龍には、ニクス大陸の頭となる人物が捕らえられている。今後、エウロペとの間で良好な関係を築くには、失ってはならない人物だ」

 

 政治的な話を持ち込むのは、本意ではなかった。要するに、今回の問題を解決することで、関係を断っていたニクスの民との政治的なつながりを無理やり作ろうと言うのだ。

 本心なら、ただ友の助けに、マリエスを助けたいからだ。だが、それは個人的なことで、この場の全員を同じ目的に導くことはできない。政治的に重要性を示し、犠牲を払ってでも助けねばならないと全ての者に感じてもらわねばならない。

 

「彼女を失うことはできない。これから、救出のためにある者たちを魔龍の内部に進入させる。皆は、私の合図で全力の砲撃を行ってくれ。狙いは奴の胸部砲塔と、翼の鋸と砲塔だ。魔龍に反撃の隙を与えるな」

 

 指示を出しつつ、ヴォルフは汗をぬぐった。精神的疲労だ。本来ならオーガノイドを介して繋がるのだろう古代ゾイドの操縦を、ヴォルフは生身で行っているのだ。この状態がいつまで保つか分からないし、これ以上の力を発揮させて耐えられる自信もない。

 エナジーライガーの意識が流れ込んでくる。ヴォルフがこれからしようとしていることに感づき、教えてくれたのだろう。

 

【我の全力、時間は十五分だ。心せよ、皇】

 

 制限時間は十五分。それは、魔龍を破壊し尽くせる力を発揮できる制限時間であり、それを過ぎればヴォルフの身が保たない。いや、ヴォルフの身もだが、エナジーライガーの機体も。

 

「フェイト、フィーネ」

 

 すべてを賭ける二人に、ヴォルフは告げる。

 

「十分だ。十分でマリエスを解放し、脱出しろ。チャンスはそれだけだ、二度目はない」

 

 二人に科せる時間はそれだけだ。魔龍を完全に破壊するのに五分を割くとして、十分が、マリエスを魔龍から解放する一回きりの時間。

 

「ズィグナーとアンナは後退。部隊を再編して、魔龍への攻撃に転じろ。共和国の高速戦闘隊は、そのまま足止めを続けてほしい。エリウス、合図と同時にそちらからも頼む。海戦部隊は対空砲火で、空戦部隊はギルベイダーの背中を叩け」

『はっ』

『まかせて、ヴォルフ』

『了解だヴォルフさん。やるぞお前ら!』

『出番だな。任せろ!』

 

 ズィグナー、アンナ、パリス、エリウスがそれぞれ応える。

 パリス率いる高速戦闘隊は、今現在も上空へ向けて砲撃を繰り返し、後方からは連合軍の厚い弾幕が張られている。あとは、最後の一押しにヴォルフの身体がどこまで保てるかだが……。

 

『なぁ、あんた』

 

 そこでヴォルフは見知らぬ声を聞いた。

 

「お前は?」

『へリック共和国高速戦闘隊所属、レイ・グレックだ。さっきの作戦、(かなめ)はあんたとそのゾイド、だよな』

 

 高速戦闘隊の枠から離れ、駆け寄ってきたゾイドはシールドライガーDCS-J。その特異性はヴォルフも知っており、同時にパイロットであるレイ・グレックの力量も推し量れた。

 

「レオマスターか? その通りだが、なんだ?」

『ここまでの戦いを見てたんだが、あんたの操縦(それ)ライガーのものじゃないよな』

 

 ヴォルフはこれまでアイアンコングに乗ってきた。当然ながら、タイガー系統を始祖とする高速戦闘ゾイドに乗った経験はほとんどない。成り行き上エナジーライガーに乗っているが、その計り知れないスペックに振り回されている感覚は否めなかった。

 

「不安、だろうな。君のようなライガーのスペシャリストからすれば、私の操縦では追いつかないだろう。並みのライガーを遥かに凌駕するこいつは、私を壊しかねん」

『ああ、不安だ。でも、そいつはあんたしか受け入れてないんだろうな』

「――分かるのか!?」

『これでもレオマスターだ。ゾイドを見れば、考えてくることも少しくらい分かる』

「そうか……」

 

 エナジーライガーの座席に腰を落ち着けながら、ヴォルフは一つ浮かんだ案を考慮した。レオマスターの力は絶大だ。パイロットとして、ライガーのスペシャリストだが、それを超越した力を、レオマスターは有しているのだから。

 ライガー系に突出したと実力を持っていると思われがちなレオマスターだが、その神髄はライガーに留まらない。ゾイド乗りとして、もっと深い部分で力を持っているのが、レオマスターなのだ。

 

「レイ、と言ったな。君に頼みがある」

『俺に?』

「この戦いの間でいい。私に、教示をしてほしい。ライガーの扱い方について」

 

 レイが言葉に詰まるのを、ヴォルフは通信機越しに感じた。当然だ。凌ぎを削るこの戦場で、いきなり教導を乞われたら誰だって困惑する。

 

「私はこれまでアイアンコングを愛機としてきた。高速ゾイドを扱ったたことが無くてな。この戦いを勝利に近づけるため、僅かな間でも私は技術を高めねばならん。レオマスターなら、適任だろう?」

『なっ……けど、そんなの――無茶苦茶だろ!』

「無茶苦茶でもいい。それで私は、私の部下を、同志を守ることが出来るのだ。それならば、どんな方法でも試す。頼む、レイ・グレック!」

『……ああ、だが…………』

 

 熱意籠った願いに対し、レイは困惑する。レイがレオマスターの称号を得たのは、ガイロス帝国がニューへリックシティを攻撃した戦いの後だ。湾岸に押し寄せたガイロス帝国を追い返すまでの時間稼ぎとして、レイは獅子奮迅の働きを見せていた。その活躍からレオマスターに認定されたものの、その名に恥じない実力を備えていると胸を張って言えなかった。

 

 ――俺は……負けたんだぞ! タイガー乗りに!

 

 エウロペのライガーキラーに敗北したことが、レイの中で重くのしかかっていた。

 敗北した事実が、レイに教導することを拒む。だが、

 

『話は訊いたぜ、レイ』

 

 会話に割り込んだのは、トミー・パリスだ。

 

『なに迷ってんだよ。この戦いに勝つ唯一の方法だろうが。迷ってんじゃねぇ! 我武者羅にでもやれよ! オレ達は、民を守る兵士だろうが! 目の前に方法があるってのに、テメェの個人的なプライドで拒むな! レオマスターの名に恥じるような、情けねぇツラ見せんな!』

『パリス中尉――トミー』

 

 トミー・パリスはレオマスターではない。だが、同じ高速ゾイド乗りだ。共和国軍内では避けられているが、高速ゾイド乗りとしてのキャリアと経験は大きい。レイが師事している相手は同じレオマスターのアーサー・ボーグマンだが、彼は大きすぎて『叶わぬ目標』の姿でもあった。それに比べ、トミー・パリスは先輩で、いつか追い越したい相手だ。

 そのトミー・パリスに叱咤され、レイの気持ちは奮い立たせられる。

 

『あああ! 分かったよ! ヴォルフ、あんたに教えてやる。口下手だから、見て盗めよ!』

「すまん、助かるぞ」

 

 ヴォルフのエナジーライガーの前に、レイのシールドライガーDCS-Jが出た。降り注ぐ短針弾頭(ニードルガン)を二連加速ビーム砲で最小限薙ぎ払い、プラズマ粒子砲を掠める様に躱していく。Eシールドがダウンするのを嫌ってか、シールドを張らずに機体を制御して被害を抑え込む。

 まだまだ新米レオマスターだが、その名は伊達ではない。レイの動きの一つ一つが、ヴォルフの思考に高速ゾイド(ライガー)の動きを、戦い方を叩き込んでいく。

 

 ――いける!

 

 ヴォルフの思考に、何かがピタリとはまった。その感覚を覚えた瞬間、口が動く。

 

「全軍! 一斉射撃(フルファイア)!」

 

 後方から生き残りのゴジュラスが、カノントータスが、ブラックライモスが、備えた砲塔が一斉に火を噴く。指揮を執るのはキャノニアーゴルドスとアイアンコングMS。ロン・アイソップ大尉とガーデッシュ・クレイド大尉の指揮の下、帝国共和国の重砲撃ゾイドの砲撃が間欠泉のようにギルベイダーの胸部砲塔と翼に押し寄せる。

 ギルベイダーの背中の回転鋸が怪しく光る。同時に、腰のミサイルポッドも発射準備が整った。ミサイルはデスザウラーのものと同じ多弾頭拡散(スプレッド)ミサイルだ。ギルベイダー周辺で近接射撃を行うパリス率いる高速隊を仕留めるためだ。

 

 だが、ギルベイダーがそれらを放つことは出来なかった。ミサイルは放つと同時に即座に迎撃され、回転鋸のビームスマッシャーは放つ前に基部を直接たたかれた。放たれたビームスマッシャーを防ぐことは不可能だが、エネルギーを注がれている内に邪魔をすることはできた。

 ミサイルを迎撃したのは海に控えていた対空砲搭載のウオディック。回転鋸を叩いたのは、真紅のレイノス率いるグレイヴクアマたちだ。

 

『待ちかねたぜヴォルフ様よぅ、お前たち! 踏ん張りどころだ! このデカブツに攻撃させるなぁ!』

 

 攻撃の隙間を与えない。それは、実際に行うと想像以上に難しかった。ギルベイダーの装甲は飛行ゾイドのものと思えないほど固く、帝都に現れたデスザウラーをも凌駕していた。安定感抜群で、攻撃など意にも介さない。だが、撃ちだされた短針弾頭(ニードルガン)を防ぐことは出来た。また、エネルギーを必要とする武装は、砲身に直接打撃を与えることで発射を妨害できる。

 圧倒的な個から放たれる攻撃に対し、集ったゾイドたちの集の火力で対抗する。大元(ギルベイダー)を叩くことは出来なかったが、出された弾やビームを妨害することはできる。そして、ギルベイダー付近で暴発したギルベイダー自身のエネルギーが、装甲を傷つけ、空に留まることを妨害する。

 

『ほぅ。ムシケラが足掻きよるわ』

 

 ドルフの余裕ぶった声が響く。

 ヴォルフは、その声には一切耳を貸さない。すでにギルベイダーの意識に飲まれているだろう彼と問答したところで仕方がない。それ以前に、ヴォルフは二点に意識を集中していた。

 一つは、目の前で躍動するレイのシールドライガーDCS-J。その動き方から、この後の自身とエナジーライガーを想像する。そしてもう一つは、エナジーライガーの切り札を起動してからの時間。

 

 エナジーライガーと意識が同調すると同時に、ヴォルフは背中が熱くなるのを感じていた。エナジーライガーも同じだろう。背中に張り出した古代人のシステムが音を立ててエネルギーを生み出す。そして、システムが生み出したエネルギーが最高潮に達するのを感じた。

 

 ――今だ!

 

「エナジーチャージャー全開。行くぞ!」

 

 エナジーライガーが、猛々しく吠えた。

 上空ではエネルギーを注ぎ込んだギルベイダーの翼の主砲が唸る。機体の周辺に著しい重力場を展開し、ギルベイダーの周辺に展開していたグレイヴクアマが瞬く間に叩き落される。

 吹き荒れる重力の嵐。そこに、エナジーライガーが突っ込んだ。背中の赤い翼――エナジーウィングを真紅に輝かせ、グングニルホーンを翳し、一本の飛矢と化したエナジーライガーは、放出したエネルギーを翼と角に集中させ、ギルベイダーの胸部装甲に飛び込む。

 エナジーウィングから空気中に放たれるエネルギーは、ギルベイダーの主砲から放出された重力エネルギーとせめぎ合い、相殺する。

 そして、押しつぶす重力を真っ向から押し上げたエナジーライガーのグングニルホーンが、ギルベイダーの装甲を穿った。

 背中のエナジーチャージャーから生み出されるエネルギーは、角と翼だけでなく、チャージャーガトリングとチャージャーキャノンに注ぎ込まれ、それはギルベイダーの装甲を打ち破る力と化す。

 

 古代の超ゾイドを破壊するためのゾイド、エナジーライガー。その圧倒的力が、惨禍の魔龍を唸らせた。

 

 

 

『……見事、だが、所詮それまでよ』

 

 ドルフが勝ち誇ったように呟いた。それを肯定するように、一時に全力を注ぎこんだエナジーライガーは、ギルベイダーを破壊すること敵わず、大地へと離脱する。

 

「道は、開けた」

 

 ヴォルフは、会心の笑みを浮かべた。ヴォルフの役目は、ギルベイダーの深部へ至る道を切り開くこと。そこへ突入するものは、すでに準備が整っているのだ。

 

「ジーク、お願いね!」

『グォオオ!』

 

 エナジーライガーが切り裂いた、重力嵐の中の一筋の道。そこに、少女たちが飛び込んだ。赤い翼竜は小柄で、華奢で、今にも落ちそうだ。だが、内包したオーガノイドの力と、己が乗せる二人の少女の想いに後押しされ、シュトルヒは身の丈に合わない突撃を敢行した。

 

 エナジーライガーの背後に控えていたシュトルヒに対し、ギルベイダーは冷徹に攻勢に出た。突入のために援護砲撃も止んでおり、シュトルヒへの砲撃を撃ち落とす援護射撃もない。

 短針弾頭(ニードルガン)の鋭い穂先が、シュトルヒの身体を串刺しにすべく唸った。

 

 そこに、別のゾイドが割り込んだ。シュトルヒと同じ赤い機体色だが、シュトルヒよりも獰猛なテラノドン型の翼竜。胸部の三連ビーム砲に怪しく輝く鉱石(ディオハリコン)の力を注ぎ込み、己の命を削りながらも唯一の護衛役を果たすレイノスは、短針弾頭(ニードルガン)を一気に迎撃する。

 

『まったく、ガキに無茶させる。それがガキの特権ってか?』

 

 尻尾のマシンガンをギルベイダーの頭部に叩き込み、視界を塞いだのはアクア・エリウスのレイノスだ。試験的に導入されたディオハリコンの影響で機体の石化が始まっているが、最後の一働きと全力を注ぎこむ。

 

「エリウスさん!?」

『若者の道を切り開くのは、ワシら年寄りの役目だ! 行け! 大事なモンは、さっさと取り戻して来い!』

 

 それを最後に、レイノスは空中に居られなくなったのか離脱する。最後の護衛もなくなったフェイトたちだが、すでにギルベイダーの胸部への道は目前だった。

 

「フィーネ行くよ!」

「ええ、頑張ってフェイト、ジーク!」

 

 二人の少女と銀色のオーガノイドは、ギルベイダーのコアに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ギルベイダーの内部構造は、ザルカの予想した通り空輸も意識したものになっていた。内部でゾイドを整備するための設備がボロボロの状態で放置されている。長い間トローヤの地下で眠り、ロクに整備されていなかったためだろう。使える状態ではない。ただ、その整備工場の存在は、ギルベイダーすらもゾイドで、兵器であることの証明であった。

 シュトルヒは床に接するギリギリの高さで低空飛行を続けた。少しでも高度を下げたり、左右に振れたりすれば、壁に接触しバランスが崩れる。暴れるギルベイダーの中で繊細な操縦を続けることは、非常に困難だ。

 しかし、フェイトはそれを成し遂げた。合体したジークと、ジークとの繋がり(リンク)を介するフィーネの助けもあり、綱渡りのような操縦をどうにか成し遂げる。

 

 ギルベイダーの内部を突き進み、壁にぶち当たる。事前にザルカから知らされて居たそれに、フェイトは冷静に対処する。格納庫とコアを分ける壁に、フェイトはシュトルヒの最大武器、SAMバードミサイルを撃ちこんだ。

 強固な装甲を誇るギルベイダーも内部までは手が回っていないようだ。一撃のもとに粉砕された壁を飛び越え、シュトルヒはその部屋に着陸する。

 

 首をおろし、コックピットを開く。フェイトとフィーネはすぐに降り、部屋を見回した。

 

 そこは、コアが安置されている部屋。壁はコアと同じ青に統一され、生命体であることを証明するように、不気味な鼓動が反響する。壁は、それ自体が生き物であるように躍動し、地面は生物の体内であることを証明するように柔らかい。表すなら、まるで胃の中に立っているようだ。

 そして、その部屋の中心に、それはあった。青く輝く神秘の球体。ギルベイダーのゾイドコアだ。

 

 ゾイドコアの中心には、コアと呼ぶに値しない別の存在があった。それを見て、フィーネとフェイトは少し安堵の笑みを浮かべた。

 また会えた。その事実に、顔を綻ばせ、フェイトが口を開く。

 

「迎えに来たよ、リエン」

 

 

 

 半ば取り込まれるようにして、下半身をコアに埋め込まれた赤い髪の少女。変わり果てた姿のマリエス・バレンシアが、そこにいた。

 

 

 

 エナジーチャージャーの稼働限界まで、後十分。

 


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