ZOIDS ~Inside Story~   作:砂鴉

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第8話:魔獣再誕

「お前が、ザルカだな」

「フハハ、いかにも」

 

 そこに居たのは一人の老人。皺の深い顔がそれを表明している。だが、とても老人には見えない生気を持っていた。赤いサングラスが、怪しく輝く。

 

「なら、構う必要はない。さっさと仕事をさせてもらうよ」

 

 ヘルキャットの照準を操作し、背中のビーム砲をザルカに向けた。トリガーに指がかかる。これを引けば、依頼達成だ。

 

「撃つのかね? このワタシを」

「そうだ。それが、俺の仕事だからな」

 

 

 

「どうした? 撃たんのか?」

「…………」

 

 ローレンジは答えない。答えないまま、トリガーから指を離し、コックピットを開いた。

 

「……その前に、聞きたいことがある」

「オリンポス山頂崩壊の事か」

「――ッッッ!!」

 

 ローレンジの動揺が伝わったのだろう。ザルカはさらに不敵な笑みを浮かべた。

 

「なに、ワタシを狙うキミのことはすでに聞いているさ。あの方からな。そして、キミの出自も調べさせてもらったよ」

「……あの方、ねぇ。もしそいつが俺の予想通りの奴なら、これは盛大な茶番になっちまうな」

「それもよかろう。そして、今ここで君にあの山の真実を語ってもいいが、それはまだだ。役者がそろっておらん」

「役者?」

 

 ローレンジの疑問に答えるように、背後の通路から爆音が伝わってくる。ローレンジが倒していなかったスリーパーゾイドが新たな侵入者に蹴散らされているのだろう。

 そして、ひときわ大きな爆音と共に三体のゾイドが広間に飛び込んできた。白いオオカミ型ゾイドが二機、蒼いライオン型ゾイドが一機。

 

「コマンドウルフにシールドライガー!? 共和国の――」

「――独立高速戦闘隊だ! 元帝国の研究者ザルカ、貴様の身柄を拘束する!」

 

 飛び込んできたシールドライガーの通信機から勇ましい声が響く。独立高速戦闘隊の隊長、エル・ジー・ハルフォード中佐だ。

 

「クッソォ! スリーパーどもにてこずらされた!」

「落ち着いて、パリス中尉。犠牲も出たけど、何とかここまでたどり着いた」

 

 通路からは未だ戦闘音が響く。味方の援護を当てに、三機で強行突破してきたのだろう。どの機体も傷を負っており、その身体にスパークが走っている。

 

「やっと来たか。ハルフォード、オリンポス山の調査に当たった共和国部隊は、君だったな」

 

 ザルカの言葉に、ローレンジは思わずシールドライガーを見返す。それに気づいているのかいないのか。ハルフォードは変わらぬ態度だ。

 

「ああ、あの時は弟共々、散々な惨状を見せられたよ。貴重な古代遺跡が台無しだった」

「なに、あの遺跡のデータは全てワタシとあの方の元に届いている。問題はないさ」

 

 どこまでも余裕なザルカの言葉に、ローレンジもハルフォードも顔をしかめた。

 

「さて、そろそろ語るべきか。あの日、ワタシはあの方の指示の元であるゾイドの研究を行っていた。古代史に語り継がれる伝説のゾイドさ。ワタシの目的はそのゾイドの復活。だが、ゾイドを再生させる研究だというのにコアもないのでは話にならん。そこで、ワタシは別のゾイドのコアを代用し、そこにいくつかのゾイドのコアを融合させることにした」

「コアを……融合、だと……?」

 

 ゾイドは、コアと呼ばれる心臓部があれば体のどの部位が破損しても再生できる力がある。だが、それは裏を返せばコアが無ければゾイドの復活はないということだ。

 

「古代の資料を漁り、そのゾイドの姿に最も近い現存ゾイドはゴジュラスだと分かった。苦労したよ。共和国からその切り札を奪ってくるのは」

「十年以上前か。共和国の基地が謎の奇襲を受け壊滅した事件。あれは、やはりお前たちの仕業か」

「フン、あの方は豪胆なことをするものだ。だが、おかげでゴジュラスのコアが手に入った。ワタシはそれに無数のゾイドのコアを融合させた。

 ……だが、手探りの実験には失敗がつきものだ。様々なゾイドのコアを融合させることに耐え切れんくなったコアは暴走。大爆発を起こした。同時に、上半身が完成していたゾイドは断末魔に凄まじいエネルギー波を放った。あの方は予測していたのだろうな。万が一それが起きたら、それが一か所に注がれるように山頂の遺跡を改造していた。そして、エネルギーの向かう先だったのが……」

「俺の、村……フォレスト、コロニー……」

 

 愕然として、ローレンジは呟く。ローレンジが全てを失ったあの事件。それは、綿密に計画された上で引き起こされたのだ。

 

「ザルカ……テメェはッ!!」

「ワタシに怒りを向けられても困るな。ワタシがこの真実にたどり着いたのはあれから五年は経ったあとだ」

 

 ザルカの言い訳を聞くつもりは、ローレンジには無かった。さっきは渋ったが、今度は迷わずトリガーを引く。ビーム砲がザルカ一人に向けて放たれ――防がれた。

 

「なっ……なんだありゃあ!?」

 

 パリスが驚愕する。それもそのはず、ザルカに向けて放たれたビーム砲は巨大な爪によって防がれたのだ。小型ゾイド一機分はある腕。そこから伸びる、太く強靭な爪。今まで見たこともない質感だった。

 

「フハハハハハ! 見るがいい! これが、ワタシの研究の成果だ!!」

 

 爪が退けられ、ザルカがカブトムシ型のゾイド――サイカーチスに乗って飛び立つ。同時に広間に一斉に明かりが灯る。ライトアップされた広間には一体のゾイドの姿が浮かび上がった。

 幾つもの牙が生えた口。頭部にはレーザー機銃が装備されている。さらに先ほどヘルキャットのビーム砲を軽々防いだ爪。そして、無駄の無い装甲は黒光りし、どこまでも厚い。並のゾイドの攻撃では――いや、ゴジュラスクラスのゾイドでも傷一つつけられないのではと錯覚する様だった。そして腹部には、怪しく明滅するゾイドコア。遺跡のあちこちからパイプが伸び、機体にエネルギーを注ぎ込んでいる。

 

「どうだ! これこそ太古の昔、古代ゾイド人の文明を無に帰した最終兵器――デスザウラーだ!」

 

 

 

「もっとも、こいつはコアを代用したプロトタイプ。プロトデスザウラーというべきだがな。それでも、圧倒的な力を持つ」

 

 デスザウラー。

 それが、このゾイドの名前。

 

「――ザルカ! 一つ聞かせろ、なぜそれを今創り出した」

 

 ザルカが訝しげにローレンジを見る。怒りが冷めたわけではない。だが、聞くべきことはまだあったのだ。

 

「お前の言うことが本当だとして、そいつは半端な状態で山一つ変えるほどの力を持っている。完全復活したら、この星を滅ぼすかもしれない! そんなゾイドを何故復活させた!」

「無論、ワタシをマッドサイエンティストとして追放した帝国の無能どもに復讐するためだ。あの方が用意してくれたこの遺跡は、素晴らしい開発場になったよ。だが、それだけではない」

 

 サイカーチスが遠ざかり、逆に上半身だけのデスザウラーがゆっくりと動き出す。

 

 

 

「……デスザウラーは、古代ゾイド人が戦乱の世に終止符を打つために生み出したゾイドと伝わっている。だが、強大過ぎるデスザウラーは生みの親である古代ゾイド人すら滅ぼす力を持っていた。故に、その力で壊滅の危機に瀕した古代ゾイド人によって封印されたのだ。

 …………可哀そうだとは思わんかね?」

「……は?」

「身勝手な人間のために生まれ、その身勝手な人間によって封印される。デスザウラーは、古代ゾイド人によって翻弄されたゾイドなのだよ。ゾイドを愛する者なら、可哀そうと思ってしかるべきだろう」

「なに……言ってんだ、お前……」

 

 愕然と、呆然と告げるローレンジにザルカは愉快気に笑みを深めた。そして、最後の言葉を告げる。

 

「さぁデスザウラーよ! このワタシの復讐がお前の復讐に手を貸そう。この者どもを焼き払い、この世界を葬り去るのだ!」

 




ゴジュラスのコアを代用。完全に思いつきで入れた設定です。異論は認めます。

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