ZOIDS ~Inside Story~   作:砂鴉

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さぁ、上陸の時に戻って別視点の物語を。
主役は――そりゃ、本作そのものの主人公の彼ですよ。


第57話:もう一つの上陸

 僕は、ゾイドが嫌いだ。

 

 ゾイドは僕から全てを奪った。父さんと母さんを、僕の家を、僕を助けてくれたおじさんも……。

 全てゾイドに奪われた。だから僕はゾイドが嫌いだ。大嫌いだ。

 

 その中でも、僕はシャドーが一番嫌いだ。

 

 大嫌いなゾイドなのに、常に僕の傍に居続ける。僕の傍から離れようとしない。イライラするんだ。

 シャドーは……“オーガノイド”というゾイドは、僕から全てを奪った。僕の大切な人が死んでいった原因は、全部オーガノイドなんだ。

 

 だからオーガノイドは、……ゾイドは、全ていなくなってしまえばいい。ゾイドがいるから、この星は不幸に見舞われるんだ。

 

 

 

 なのに、どうして僕は、ゾイド乗りになったんだろう。

 どうして僕は、そこに愉悦を見出すんだろう。

 どうして僕は、シャドーを従え続けているのだろう……。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「……うぅ」

 

 己のうめき声で目が覚めた。ゆっくり瞼を持ち上げると、そこは粗末な小屋の中のようだった。外からの風で小屋の構成材が軋むような音を立て、今にも崩れそうだった。

 ぼやけていた視界が徐々に鮮明になる。傍らに目を向けると、丸くなっていた黒い鋼の身体を持つ生命体が身を起こし、ジョイスを見つめている。

 

「お前か、シャドー」

「グルル……」

 

 シャドーはジョイスの身を心配するようにじっと見つめている。そんな様子に軽く苛立ちを覚え、ジョイスはシャドーを視界から外して思考を巡らす。

 

「僕は……そうだ」

 

 直前までの記憶を辿り、ジョイスはそれまでを思い出した。

 

 

 

 そう、ローレンジを追って格納庫に向かったフェイトを、連れ戻しに行ったのだ。誰かに指示されたわけでもなく。ただ、無意識のままに。

 格納庫に着いた時、フェイトはローレンジに説き伏せられていた。そして、ローレンジが出撃するというところであのドラゴン型ゾイドが姿を現したのだ。

 ローレンジがすぐにハッチを閉じるように指示を出す。だが、フェイトは自身も手伝おうとシュトルヒの元に走っていた。反射的に、ジョイスはフェイトを止めた。

 

『ジョイス!? どうして――』

『お前じゃ話にならない。あいつの指示通りに動くんだ』

『でも……!』

 

 ジョイスにも少しは分かっていた。半年以上、一緒に旅の日々を過ごしてきたのだ。フェイトは、どこまでも(ローレンジ)のことが好きだ。最後の最後まで、例え世界を敵に回そうとも彼の味方でいる。そこまで兄のことを好いているのだ。

 彼ら兄妹にどういった事情があるのかジョイスは聞いていない。興味がないから。だが、察することが出来ないほど馬鹿ではないと、自負できる。

 

『僕が行く』

『え……?』

『僕が出て、あいつを援護してやる。だから、お前は戻ってろ』

 

 ジョイス自身、なぜそう言ったのか理由は答えられない。ゾイドに乗ったのもつい数日前だと言うのに、経験で言えば目の前のフェイトよりも薄い筈なのに、なぜか自信があった。

 いや、理由とするならこれ以上ないほどの物があったのだ。そう、先ほど現れた龍の圧倒的力。姿を見ただけで肌がピリピリする感覚。それが、愉悦の様に感じられたのだ。

 また、心の奥がざわついた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。イラつくのだ。

 

 だが、結果はこのザマだった。ディロフォースの爪で一矢報いたとしても、結局は直撃弾を喰らって叩き落された。無様と言うほかない。

 実力で勝って、ゾイドの性能差で敗れた。当たり前と言えばそうかもしれないが、ゾイド乗りとしてこれ以上の屈辱はない。

 

 

 

 ――僕は、いったいなぜあんなことを。

 

 半ば反射的だった。ドラゴン型ゾイドを目にして、心の奥底からそう言った想いが湧き上がったのだ。気づいたら、それが命じるままに戦いに出向いていた。勝ち目のない戦いに。

 もしかしたら、ローレンジの言う自分(ジョイス)の思い出せない空白の過去が関わっているのだろうか

 

「……いや」

 

 過ぎ去ったことを考えていても仕方がない。今は、次に思考を移すべきだ。過去の事など、思い出そうとしても出来なければ仕方がないのだ。

 

 身体を起こし、自分の体調を確認する。不調はない。動くのには問題ないだろう。服は……海に叩き落とされたからすっかり濡れているはずだ。すでに上着は脱がされ、小屋の中の粗末な物干しにかけてあった。

 誰かが助けてくれたのか。そう予測するには十分なことだ。

 

 その足元には、力尽きた様に蹲るニュートが居た。この純白のオーガノイドが居るということは、近くに彼の主(ローレンジ)も居るという事か。

 

 ひとまず体調は問題ない。そう確信し、ジョイスは小屋の戸に手をかけて開け放った。

 服がないからか、肌寒かった。空調を管理されたドラグーンネストの中にずっと、その前は比較的温暖なエウロペに居た所為だろう。上着を着ていないのもそれに拍車をかけているのか。

 

 肌寒い空気に軽く身を震わせ、一度小屋に引っ込んで上着を羽織る。まだ濡れているが、それでもだいぶマシにはなっているはずだ。そして、もう一度小屋の外に顔を出すと、

 

「……何やってるんだい」

「…………」

 

 砂浜に突っ伏しているローレンジが視界に写り、ジョイスは深くため息を吐いた。

 

 

 

***

 

 

 

「すまんすまん。助かったわ」

 

 砂浜に倒れていたローレンジを見つけたジョイスは、ひとまず彼を乱暴に引き摺って小屋の中に放り込む。その後、近くに待機しているグレートサーベルの中から食料を取り出してきたところだ。

 

「君、もう少し自己管理をしっかりした方がいいんじゃないか?」

「あー、まぁ言い訳できねぇな。でも、こうなったのもお前のためだぞ」

「僕をニュートとシャドーに頼んで小屋に連れ込ませて、君は砂浜でダウン。情けないとは思わないかい?」

「思うな。すっげぇ思う」

 

 突きつけているのはこちらなのに、ローレンジは堂々とそれを認める。少しは悪びれたりとかないのだろうか。ジョイスよりも人生経験が長い筈なのに。

 

 ジョイスが聞き出した話によると、ジョイスが海に落ちた後、増援としてアクア・エリウスが戦闘海域に現れたらしい。謎のドラゴン型ゾイドの対処はエリウスに任せ、ローレンジは大破したディロフォースをサーベラに咥えさせ、一路暗黒大陸上陸を目指した。

 だが、元々陸戦のサーベラに急ごしらえの海戦装備を施したのだ。その上、海へダイブする前に龍と一戦交えている。暗黒大陸上陸を前にしてサーベラも限界を迎えたのだ。当然、その負担はパイロットのローレンジにも与えられる。

 どうにか上陸は果たしたものの、シャドーとニュートにレイヴンの介抱を任せたのちに自分は力尽きたのだそうだ。ジョイスが見つけていなかったら、波にさらわれていた可能性もある。

 また、ジョイスは海に落ちたのだが、その直後にシャドーが体内に格納し難を逃れていたようだ。

 

「ま、そんなとこだな。ディロフォースは外にいるだろ。ところでさ……うま……他の連中は?」

 

 缶詰めの肉を平らげながらローレンジはそう問いかけた。「他の連中」というのは、ローレンジよりも先に暗黒大陸に向かったヘルキャットたちのことだろうか。

 

「誰の事か知らないんだけど」

「ええっと……サイツ、イサオ、ホツカ、カバヤ、ハトリ。他にも何人かいたっけ……。今回の任務で、態々俺の指揮下で動くって言ってきたんだ。指揮とか、柄じゃねぇのにさ」

 

 鬱屈そうにローレンジは愚痴った。確かに、彼の気質は指揮官ではなく戦士だ。フェイトやジョイスと旅をしていた時も、賞金稼ぎとして仕事をする時は二人から離れて単独行動に走った。その彼が指揮官。自分で言う様に、柄じゃないだろう。

 

「そいつらと面識はないし、僕は知らないよ。君が目を覚ますまでここには誰も来なかったし」

「そっか。まぁ暗黒大陸に着いたら各自情報収集に従事するよう言ってたからな。多分、もう任務に向かってんだろ」

 

 食べ終えた缶詰めを放り、カランと乾いた音を立てて転がし、ローレンジは立ち上がった。もう体調は戻ったのだろうか。その動きにぎこちなさは感じられなかった。

 

「行くのかい?」

「ああ、とりあえずヴォルフ達と連絡を取って、それからだけどな」

 

 

 

 小屋の中に散らかしていた荷物をまとめ、ローレンジはグレートサーベルのコックピットに戻った。傍らにはディロフォースが鎮座している。直撃弾を喰らった筈なのに、機体は形を保っていた。

 

「ギリギリ躱せたんじゃないのか? シャドーに感謝だな」

 

 ローレンジはジョイスがディロフォースを眺めているのに気付き、予想を言った。ジョイスが躱しきれなかったと思っていても、実際はギリギリ掠めただけだったのかもしれない。なにせ、ディロフォースにとっては大型ゾイドの攻撃が霞めただけでも致命傷だ。回避に必要な運動性能は小型ゾイドの中でも群を抜くものだった。

 ちなみに、そのシャドーはディロフォースの回復に努めている。コアと融合し、自然回復力を高めているのだ。

 ローレンジの言う通り、シャドーに感謝すべき、かもしれない。

 

「あーくそ、繋がらねぇ。やっぱ無茶やってイカレちまったか?」

 

 ローレンジは操縦席で何やら唸っている。ローレンジの言葉からして、通信システムが故障したのだろう。ジョイスは徐にコックピットまで這い上がると、ローレンジの背後に立った。

 

「僕がやってみようか?」

「……出来んの?」

「さぁ、たぶん」

 

 自分でも確証がないと思いつつ、思った通りに口にする。ローレンジは暫しジョイスを見つめ、「やってみ」と席を譲った。

 グレートサーベルのコックピットに座り、計器類の調子を見る。正直さっぱりだが、なぜだが手は思考と関係なく動いた。まるで、ゾイドについて、セイバータイガー系統の知識を身体が熟知しているかのようだった。

 不思議だが、早々にどうでもよくなった。

 

「……治ったよ」

 

 席を譲り、今度はローレンジが計器を弄った。ドラグーンネストの周波数はローレンジしか知らないので、この先は彼頼みだ。

 ローレンジは機器を弄り、周波数を入力していく。

 

「……よし。おい、ドラグーンネスト、応答しろ。こちら、コーヴだ。……ホントに直ってんのか?」

 

 ザザ……、と雑音が鳴り続け、しばらくするとそれが治まってくる。やがて、通信担当の声が返ってきた。

 

『こちら、ドラグーンネスト一番艦です。コーヴさんですね』

「お? そうだ。こっちは無事暗黒大陸に上陸できた。それで……」

 

 すこし聞き取り辛い。ジョイスは後ろの座席から身を乗り出し、声を拾おうとする。その時だ。

 

『ロージ! だいじょうぶだった!?』

『あんた! ホント無茶ばっかりねぇ、結構ギリギリだったんじゃない?』

『ローレンジ! 無事なんだな! よかったぁ……俺、お前が死んじまったかと』

『よかった、無事なんですね』

『はっはっは、さすがだ! お前なら、この程度造作もなかろうな!』

 

 通信機に向かって数人が一斉に怒鳴り散らした。何とか聞き取れた声からして、フェイト、アンナ、ウィンザーにあと二人、と言ったところだろう。

 そのもう二人の声だが、ジョイスには聞き覚えがなかった。だと言うのに、なぜか気になった。酷く心がざわつく。数刻前のドラゴンとの戦闘以上に。

 

「だぁー! 一斉に怒鳴るんじゃねぇ! やかましい!」

 

 その音量に顔を顰めていたローレンジは自身も怒鳴り返す。正直、両者ともうるさいので、通信先のその他団員やジョイスにとってはとんだ迷惑行為だ。勘弁してくれと言いたい。

 

 ――だけど

 

 ジョイスはある感心を覚えていた。

 一つはヴォルフに対して。

 今の状況を引き起こした――というよりローレンジに今回の無茶をさせたのはヴォルフという指揮官だ。ジョイスは今回のことで初めて顔を合わせたのだが、こんな無茶苦茶な指揮をする人物は信用出来ない。少なくとも、ジョイスが彼の指揮下で動こうという気は一切起きなかった。

 だが、ローレンジは何の文句も言わず――憎まれ口を叩くことはあるが――平然とヴォルフの指示で動いている。ヴォルフという男には、それだけの価値があるのだろうか。それは、同じように彼の指揮下で戦う鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)メンバーにも言える。

 そしてもう一つ、これはローレンジに対してだ。

 ジョイスはこの一年間ローレンジと共に旅をしている。妹想いで、旅のチームリーダーとして信頼に足る男だ。ゾイド乗りの実力も、少なくとも今のジョイスが知る中ではかなりの腕前――いや、世間的に見ても相当な高レベルだ。

 だが、そんなことではない。今ジョイスが気づいたことは、ローレンジは、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の皆に好かれているということ。実力云々ではない。人柄的に、好かれているのだろう。皆を引き付けるカリスマ……いや、共に戦う場での安心感。

 

 そして、そんな二人(ヴォルフとローレンジ)は、強くつながっている。戦友の“絆”とでもいうのだろうか。

 

 ――羨ましい? 僕は、なんでそう思ってしまうんだ……?

 

 眩しく思えるヴォルフとローレンジ。ヴォルフが部隊をまとめる統率力を見せていれば、ローレンジは親しき者たちと強く信頼し合える。

 そんな二人の関係が、眩しくて仕方ない。

 

 ――僕にもできるのだろうか。そんな戦友が。そう考えてしまうってことは、僕は……。

 

 漠然と、ジョイスは胸の内に浮かんだその思いについて思考した。

 

 ジョイスが思考の海に沈んでいる間にも、ローレンジはヴォルフと状況の確認をしあっていた。

 

「そっちは? 上陸できたのか?」

『ああ、お前が相手した龍はエリウスが撃退に成功した』

「マジか。あのおっさんも化け物だな」

『イメチェンしたのか、風貌も化け物らしくなったぞ』

「なんだそりゃ」

 

 苦笑していると通信先からエリウスの濁声が聞こえる。どうやらヴォルフの発言を聞いたウィンザーが大笑いし、それにエリウスが目ざとく反応したそうだ。バンも思わず吹き出してしまったためか、完全に巻き込まれている。

 それが多少治まるのを待って、ローレンジとヴォルフは情報交換を再開する。

 

『ふふっ……我々は、エントランス湾に上陸した。手荒い歓迎もあったがな、どうにかこの地にたどり着いたよ』

「エントランス湾か……。うん、なるほど。こっちはニフル湿原の南端。貰った地形データによると……カオスケイプ、だな」

 

 暗黒大陸の地図をモニターに表示する。各地の名称は便宜的なものだが、暗黒大陸を冒険した者たちが現地民と知り合い、聞き出した名前らしい。そのため、その名称をそのまま使っている。

 ローレンジの現在地点はニフル湿原の南端だ。嘗てはブラッディゲートなる港があったそうだが、すでに放棄されて長い。先ほど使っていた小屋と、後はボロボロの廃墟に砂浜があるのみだ。

 ヴォルフ達はエントランス湾に上陸したらしい。ニフル湿原とは山脈により分断されており行き来は困難だ。

 また、ガイロス軍が消息を絶ったのは北の砂漠地帯――黒の砂漠(ブラックラスト)からヨツン平野にかけての地点。こちらも北の山脈――ムスペル山脈により分断されている。

 当初の予定では、ウィンザー率いる少数部隊がブラックラストへ向けて山越えをし、ヴォルフ達は拠点確保しつつ周辺の探索。ローレンジが西側の探索となり、これで大陸東側とさらに東に位置するテュルク大陸以外は網羅できる。謎の多い暗黒大陸を虱潰しに調べ上げ目標(PK)を探し出そうと言う魂胆だ。

 もちろん、それによって時間がかかるのは確定だ。だが、そこは仕方ないと割り切る。ヴォルフは敵の拠点の一つは分かっているが、本拠地は未だ謎なのだから。

 

 ――拠点の一つに奇襲をかけるより、こちらがまだ気づいてないと思わせてボロを出させる。まぁ、連中の馬鹿にかけるしかない、か。

 

 通信先ではヴォルフがバンとフィーネにフェイト、それからアンナを一旦退出させている。何か役割があるそうだが、ローレンジは深く突っ込む気はない。だが、フェイトだけは納得いかないのか、通信機越しに話しかけてきた。

 

『ロージ、約束だからね! これが終わったら遊びに行こう! 絶対、絶対だよ!』

「ああ、分かってる」

 

 苦笑しながらローレンジは穏やかな口調で返した。ドラグーンネストを出る直前、フェイトと話していたことだろう。その辺りを見ても、本当にローレンジは面倒見のいい性格をしているように思う。

 同じことをヴォルフも思ったのか、ローレンジは茶化されて気恥ずかしげに頭を掻いた。

 場が程よく和み、ヴォルフはグレートサーベルに遭遇したゾイドの情報を送ってきた。海上で一戦交えたドラゴン型ゾイド――ガン・ギャラドを始め、見たこともないゾイドがモニター上に表示されていく。

 また、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)側もザルカの開発したSSゾイドを主軸とした部隊を展開し応戦したようだ。ジョイスの駆るディロフォースの量産タイプも、その中に含まれていた。

 

 ジョイスが新型ゾイドに目を奪われているうちに、話は今後の活動に移っていた。ローレンジはヴォルフの指示を聞きながらグレートサーベルから信号を発信、程なくしてニクスに散ったという五機のヘルキャットから返答の信号が届いた。

 各部隊の現状を訊き、ヴォルフが思考を始めたようだ。ローレンジも何かを思案するようにモニターに、その先のヴォルフに目を向け続けていた。

 

 ――なんだ、ガラじゃないとか言いつつ、様になっているじゃないか。

 

 そんな感想を、ジョイスは抱いた。

 思えばジョイス、フェイト、ザルカとの四人で活動していた頃も、リーダー格はローレンジだった。フェイトに対する面倒見の良さもあり、さながら今のローレンジは山賊集団の頭だ。ならず者たちをまとめ、いけ好かない高官と対等に交渉するならず者たちのトップ。

 あんがい、ローレンジは一人で活動するより、ならず者をまとめる頭としての方が合っているのかもしれない。そんな感想を、ジョイスは抱いた。

 

『……本隊はここを確保。朱雀隊、青竜隊からメンバーをえりすぐり、大陸北部の調査に向かわせる。ローレンジは白虎隊と共に大陸西部を探索だ』

 

 やがて、ヴォルフが結論を下す。ローレンジたちが当初考えていた予定通りの行動を続けることとなった。それが正しいか、誤りか、それはこの先の敵の動きから判断する、ということだろう。

 それについて意見が幾つか出されるが、ヴォルフはすでに答えを用意していたのだろう。内通者の可能性や、プロイツェンナイツの本拠地など考えられる可能性を全て潰していく。

 

「ヴォルフ。一つ、お前に訊きたいことがある」

 

 そこで、ここまで沈黙し話に耳を傾けていたローレンジが口を開いた。らしくない躊躇を交えつつも、ローレンジは疑問を吐き出した。

 

「お前、()()()()見抜いてる?」

 

 

 

***

 

 

 

 鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)との通信を切ると、ローレンジは大きく伸びをした。コックピットに収まって会話を続けるのはかなり疲労したのだろう。アンダー海を陸戦ゾイドで泳ぎ切った上にあまり休息を取らずに話し合い。精神的にも、肉体的にも、疲労は溜まっていた。

 

「ローレンジ、さっきのは?」

「あ? あー、まぁ……気にすんな。俺の勘だから。うん、ちょっと、そいつを幹部連中にくらいは意識させとこうと思ってさ」

 

 ジョイスが訊いたのはさきほどのローレンジの発言についてだ。あの後、すぐにドラグーンネストの内部で騒ぎが起きたらしく、それについては有耶無耶になってしまったのだ。

 ジョイスも少し気にかかっており、問い詰めようとした。ローレンジの態度から、ローレンジはあらかたヴォルフの回答を予想できていたように思ったからだ。しかし、ローレンジにもあしらわれてしまい、これ以上は訊きだせないと悟る。

 

「今日はここで休んで、明日から調査を始める。着いてきちまったんだから仕方ねぇ、ジョイスも俺と一緒に来い。いいな」

「……ああ」

 

 こうして、ニクス上陸の最初に一夜が更けていく。

 

 

 

「なぁ、ローレンジ」

「ああ?」

 

 小屋に寝袋を敷き、快適とは言えない空間に横になった二人。真っ暗な闇の中で、ジョイスはなんとなく口を開いた。

 

「君、昔はどんな奴だったんだい?」

 

 ただの疑問で、なんとなしに話題になればと思い、訊いた。

 

「……そのうち、教えてやるよ」

 

 ローレンジは、どこかさびしげに、ポツリとつぶやいた。

 その日、二人が口を開くことはなかった。

 


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