ZOIDS ~Inside Story~   作:砂鴉

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しばらく説明の回が続きます。すみません。



第37話:調査依頼

 ガイロス帝国皇帝、ルドルフ・ゲアハルト・ツェッペリン三世の、その日の朝は早かった。

 

 普段ならば午前六時に起床し、軽く身だしなみを整え朝食をとる。そして皇帝としての激務に身を投じていく。

 

 だが、今日は違った。朝日が顔を出したばかり、まさに日の出と同じタイミングで自室の扉がノックされた。前日の政務も夜遅くまでかかっており、ルドルフの心中にはまだ眠っていたいという欲求が大きい。しかし、彼はその音に素早く反応し、寝間着の上に上着を羽織り、鏡を見て軽く身だしなみを確かめるとすぐさま対応に出る。

 

 何かミスでもあっただろうか。昨晩の政務の内容を頭の中に思い浮かべる。

 このような時間に起こされるということは、少なくとも良い知らせでないのは確実だった。何か大問題が発生し、その対応のためにこの時間に起こされた。そう考えるのが自然だろう。

 

 ルドルフが扉の前まで歩み寄ると、扉の向こうから声がする。

 

「陛下。このような時間にまこと申し訳ないのですが、すぐにお耳に入れたい事がございまして……」

 

 その声は、一年前にルドルフと共にプロイツェンの野望に立ち向かったホマレフ宰相のものだった。現在のガイロス帝国の重鎮の中でも、ルドルフが特に信頼している男だ。

 

「ホマレフ?」

 

 ルドルフは驚きを隠せなかった。ホマレフは忠義の厚い男だ。ルドルフのことを何よりも大切に思い、仕える忠臣だ。朝も早くに呼び出された上、それを断行した人物がまさかホマレフだとは思いもよらなかった。

 すぐに自室のドアを開く。そこには、沈痛な表情のホマレフ宰相が立っている。

 

「陛下。お休みの所をお邪魔し、申し訳ありません」

「それはいい。それより、いったいなにがあったというんだ?」

 

 ホマレフの言葉を遮り、ルドルフは答えを話すよう促す。しばらく表情を変えぬままホマレフは思考し、やがて身を屈め、ルドルフの耳元でささやく。

 その報告を聞いた瞬間、ルドルフの中に残留していた眠気は一瞬で吹き飛んだ。目が覚めるような話とはまさにこのことだ。最近の事象を素早く思い返し、そしてすぐに指示を出す。

 

「ホマレフ。朝早くで悪いが、議会を招集する。主だった者たちをすぐに集めるんだ。そうだな……皆の頭を覚まさせる時間も必要だし、二時間後に会議を始める。そう伝えてくれ」

「はっ、お任せを」

 

 ホマレフは直立し敬礼。すぐに踵を返して部屋を後にした。

 ルドルフも一度自室に戻り、扉を閉める。ガチャリと音がして扉は閉じられ、ルドルフはそれに背を預けて重く瞳を閉じた。

 あの判断は、間違っていたのだろうか。報告の内容を聞く限り、事態は深刻に思われる。派遣した彼らは……おそらく。

 

 ――いえ、彼らの努力を無駄にするわけにはまいりません。なんとしても、早急に手を打たねば。

 

 ルドルフは力の無い皇太子ではない。一年前の様に、自らのために多くの命を失わせ、それを踏み台にするしかなかった力の無い存在ではない。

 ルドルフは皇帝だ。ガイロス帝国を善き未来へと導く偉大な指導者。過去を悔やみ、喪に服すのではなく、事態を悪化させないよう手を打ち、自分を信じてくれる民のために最善を尽くす名君になる。そう誓ったのだ。

 

 頬を叩き、気合を入れ直すとルドルフは自室の机に腰掛ける。そして、これからの戦いに向けて動き出す。自らにできることを、全力で。

 

 平和を、守り通すために。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 議会の場にはガイロス帝国の主要人が揃っていた。朝も早いというのにルドルフの命に素早く動いてくれた。よき重鎮に恵まれたものだとルドルフは誇らしく思い、円卓の上座に着く。

 

「みな、朝早くに急な召集をしてすまない。僕も今朝早くに報告を受けたもので、まだ断片的にしか聞いていないんだ。ホマレフ」

 

 ルドルフの言葉にホマレフが立ち上がり、円卓の中心に設置されたモニターを起動した。そこには惑星Zi全土の地図が示されている。

 

「では、まず我々ガイロス帝国では、現在新大陸の調査が進められております。昨年にへリック共和国との和平が成立し、戦乱も終結した今、疲弊した国力の回復。そのために新大陸の資源確保を行う計画。並びに、()()()の調査。これが、主な理由です」

 

 そこで示された地図を操作し、北エウロペとさらにその先の大陸が拡大されて表示された。

 

「予てより、我々はこの北方に存在する大陸、通称“暗黒大陸ニクス”を調査の対象としてきました。極寒の地獄のような大陸だという噂もありましょうが、それは嘗ての調査が寒冷期に行われたからこそ。温暖期であれば、この地の気候も落ち着き安全な調査が行えます」

 

 その言葉に重鎮の皆が頷く。

 実はこの話が行われたのは二回目だ。プロイツェンの反乱による帝都の混乱も治まり、新たな皇帝ルドルフの統治の元、ガイロス帝国は緩やかに、だが確実に安定した国家への復帰を果たしている。そして、ホマレフが述べた理由から“暗黒大陸ニクス”への調査が始まったのだ。

 それよりも先にエウロペ全土の調査が優占されるべきだという声もあった。だが、エウロペはへリック共和国というもう一つの国家と共に、両国の先祖である移民船団の者たちが必死になって開拓を進めてきた地だ。大陸全土を網羅したとは言い切れないものの、そろそろ新たな大陸に調査の手を伸ばしてもいいのではないか。そんな話題が上がったりもしている。

 さらに、両国の国民の中には、いわゆる“冒険家”という人種が存在している。彼らはエウロペの東に位置する中央大陸デルポイ、そして北の暗黒大陸ニクスにも足を伸ばし、多くの“土産”を持ち帰り小さな噂にもなっていた。

 

 そして、暗黒大陸調査のきっかけを作ったのが、そんな冒険家が見たという一つの映像だった。

 

 冒険家は暗黒大陸のとある山から希少な鉱石を発見。青緑色に怪しく明滅する鉱石の美しさに目を奪われ、大満足のままエウロペに帰還しようとしていた。その時だ。突如辺りが暗くなり、上空を見上げると、計三機の巨大な鯨型ゾイドが悠々と暗黒大陸に上陸したというのだ。その鯨――ホエールキングの機体側面には、蜂の紋章が刻まれていたという。

 

 蜂の紋章。それは、一年前に帝都を火の海に包んだ男――ギュンター・プロイツェンの私兵部隊、PKのものである。

 

「しかし、ニクスにてPKらしき影が目撃された。その情報を元に、我々はプロイツェンナイツ捜索部隊を結成、暗黒大陸へと送り出しました。それが、今日より三月前のこと。……ここまでは、みなもご存じでしょう」

 

 ホマレフはそこで言葉を切り、重鎮たちを見回す。意識の相違などを防止するための確認事項に、集まった全員が頷き返す。

 

「では、ここからはシュバルツ中佐にお願いしましょう。中佐」

 

 ホマレフに促され、それまで後ろに控えていたガイロス帝国軍第一装甲師団師団長であるカール・リヒテン・シュバルツが進み出た。

 

「はっ、この捜索にはガイロス帝国軍特務師団、ガーデッシュ・クレイド大尉率いる部隊が捜索に当たりました。暗黒大陸入りの報告を受けたのが二ヶ月ほど前。そして昨夜、彼らからの報告が途絶えました」

 

 シュバルツの言葉にざわつきが起きた。ガーデッシュ・クレイドは、ガイロス帝国軍でも名の知れたコング乗りである。マニューバスラスターを追加装備したアイアンコングを愛機とし、多くの特殊任務をこなしてきた。ゾイド乗りとしても、指揮官としても、非常に優秀な人物である。その腕前は、ガイロス帝国の猛将と呼ばれ、彼のへリック共和国の知将クルーガーを力で打ち破ったアクア・エリウスに匹敵するとも云われる。

 この場に立つカール・リヒテン・シュバルツ同様、ガイロス帝国のゾイド乗りのエースと目される男だ。

 

「それだけではありません。彼の部隊から送られた最後の映像がこちらです」

 

 シュバルツが一つの映像を映し出す。その瞬間、その場の誰もが息を飲んだ。それまで厳粛な態度で話を聞き入っていたルドルフですら瞠目し、驚愕を瞳に宿したほどだ。いや、ルドルフの驚愕は他の誰よりも大きい。恐怖の色すら窺えた。

 

 映像に写されていたのは恐竜型ゾイドだ。長く太い尻尾に力強く大地を踏みしめる脚、それと比較すると小さな腕には鋭い爪が伸びている。破壊に歓喜するような凶悪な表情を宿した顔。鋭い牙と口内の奥から覗く砲塔。

 

「ジェノ、ザウラー……?」

 

 その場の者を代表するように、ルドルフが震える声で口にする。この場に居る者はみな情報資料というかたちでその姿を目にしている。だが、実物を目の当たりにしたのはルドルフだけだった。

 

 映し出されたジェノザウラーはコング用のスラスターを背中に背負い、脚部両側に一本ずつ鋭い刃を生やしている。順当に見ればジェノザウラーの機動性と格闘能力に手を加えた強化タイプだろうか。

 

「皆様もすでにご存じかと思われますが、これはジェノザウラーです。一年前、プロイツェンが自らの私兵二人に与えたというゾイド。彼のデスザウラー復活の際に偶発的に誕生したゾイドであり、現時点では、()()()()撃破されたと報告を受けています」

 

 両方とも撃破されている。それが示すことは、すなわちジェノザウラーは既に存在しないはずだということだ。ジェノザウラーは元から惑星Ziに生息していたゾイドではなく、デスザウラーという存在から生まれたゾイドだ。すなわち、親であるデスザウラーが破壊されている今、誕生するはずがないのである。

 

「以上の事から、PKはいまだ健在。暗黒大陸にて戦力増強を行っている模様です。そして、これは私の推察でありますが、彼らは例の鉱石の運用も行っているのではと考えられます」

 

 シュバルツの言う例の鉱石とは、冒険家が暗黒大陸で発見した青緑色に輝く鉱石のことだ。名を、『ディオハリコン』という。

 ディオハリコンは取り込んだゾイドのゾイドコアに作用し狂暴化、その能力を強化するという力を持っている。戦闘に置いて大きな力を持つこの鉱石の利用について、ガイロス帝国ではすぐさま情報規制を行い、この事実が知れ渡ることを避けた。だが、今回の件の舞台は暗黒大陸だ。この鉱石の採取場所であり、彼らがディオハリコンの存在を利用するのは確定的だ。

 

 報告を終え、シュバルツが一礼して下がった。

 

「ありがとう、シュバルツ中佐。みんな、聞いての通りだ。プロイツェンが残した種が再び芽吹きつつあるのは明確。すぐにでもその野望阻止に――」

「しかしルドルフ殿下。今の我らには新たな調査部隊を組織する余裕もないでしょう」

 

 ルドルフの言葉を遮ってまで口を開いたその人物に皆の視線が向いた。

 その人物はプロイツェンの失脚に伴い、空いた席に座った者だった。

 

「マグネン殿……」

 

 ホマレフが口を開いた男――マグネンの名を呼び、マグネンは自信ありげに立ち上がる。

 マグネンは以前よりプロイツェンに属していると噂される男だった。当然プロイツェンの悪事が白日の下にさらされた現状、プロイツェンに組していた者たちが息をする場はない。しかし、彼はそういった噂は全て()()()()()()噂でしかないと切って捨てた。事実、彼がプロイツェンと繋がっていたとされる証拠は何一つ挙がることなく、噂を証明することが出来なかったため、プロイツェンの後釜としてこの場に座ることを許されたのだ。

 その裏にはマグネンの巧妙な立ち回りがあったとされるが、生憎それすら噂の域を出ない。

 

「現在、ガイロス軍部は戦争の後始末に猫の手も借りたい状況。危険な兵器の処分作業に加え、放置されているスリーパーゾイドの回収。未だ戦争の爪痕が色濃い地方のいざこざの処理。さらには戦争の無くなったために力の矛先を無くしたならず者による盗賊行為の始末……現状、それで手いっぱいではないかね? シュバルツ中佐?」

 

 若干得意げなマグネンの言葉の矛先は、この場において最も軍の動きを把握しているだろうシュバルツに向けられる。

 

「はっ、否定はできません。しかし、これは私個人の意見なのですが、今回の案件はプロイツェンの残した種――ガイロス帝国を揺るがす問題かと存じます。これが巨大なものとなる前に早急に手を打つべきと、私は思う次第です」

「私は、軍部が現状で手いっぱいではないか、と聞いただけだ。出過ぎたことを言うな」

「申し訳ありません。自分は一介の軍人に過ぎません故、些細なことも常に頭の片隅に留め、ご意見を申し上げることにしております。戦場では、ほんのわずかな波紋が、大きな変化をもたらしますゆえ」

「それが出過ぎた口と言うのだ」

 

 シュバルツは一切表情を変えず、またマグネンは一転して不快気に眉をひそめた。

 

「ゴホン」

 

 軽くホマレフが咳払いし、それに気づいたマグネンはどかっと席に着く。そして、場が静まったのを機に議論が再開された。

 

 先ほど上がった意見は事実である。マグネンの語ったガイロス軍の多忙さは火を見るよりも明らかであり、どの部隊もそれぞれに果たすべき役割が割り当てられている。というのも、暗黒大陸ニクスで確認されたPKだけでなく、西方大陸エウロペ内部でも、元プロイツェン派から現体制に対する反対行動はたびたび報告があった。その処理、並びに今も暗躍するPKの活動拠点発見にも戦力が割かれており、遠く、暗黒大陸に派遣する余裕はほとんどない。

 今回の行方不明となった特務部隊派遣も、ギリギリの状況でどうにかひねり出した戦力という状況だった。

 懸念事項はまだある。今から数ヶ月ほど前の話だが、へリック共和国の秘密研究所が襲撃を受けるという事態があった。

 これ自体は、共和国の内部調査による物だと分かっているのだが、ルドルフが()()()から耳にした情報によると、ここにも謎の組織が関わっているとのことだった。そして、その共和国の研究所には、共和国軍部にも存在を隠されていた古代ゾイド人の少女がいたのだが、少女の行方は再び闇の中だ。

 

 再び何かが起こる予感は、日に日に増すばかりだ。そして、その何かが起こった時のために、戦争の爪痕を一刻も早く無くすことは急務。何が起ころうと揺るがない、地盤固めが必要だった。

 

 新たな脅威を見過ごすことはできないという意見と、それに備えての準備を進めるべきという意見。両者とも最終地点は新たな脅威への対応である以上、議論は平行線を辿り、決着にたどり着かない。

 

 

 

 実の所、ルドルフにはこの事案を解決する案があった。

 要するに、余裕がないからどちらを優先すべきかで迷うのである。ならば、余裕がある者たちに託せばいいのだ。そして、その伝手が、ルドルフにはあった。

 共和国ではない。共和国も同様の理由で余裕がない上、PKは元々ガイロス帝国所属だった。自国の問題である以上、他国に縋りつくのは帝国の威信に関わる。

 

 つまり、()()()()()()()()()()に託せばいいのである。

 

 ――でも……彼らは今……。

 

 手を組み合わせ、ルドルフは思考した。

 この案を頼もうと思っている者たちは、PKとも因縁深い。PKが関わっていると知れば、例えガイロスの問題であろうと独自に調査し、刈り取りにかかるだろう。なにせ、PKの生き残りとは、彼らが刈り損ねた根っこに他ならない。

 

 だが、懸念事項もあった。

 彼らは今、新たな目的に向けて動き出している。その目的は、ルドルフも直に聞いており、その後押しを心に決めてもいた。国を挙げての援助すら約束している。未だ不安定なガイロス帝国にあって、だ。

 その近況報告も聞いた。ことは順調に進んでおり、早ければ三年後には旗揚げが出来ると楽しげに語っていた友の顔も覚えている。

 

 考えてみれば、暗黒大陸のそれは不確定事項である。襲って来たジェノザウラーは自分たちが知らないだけで、暗黒大陸に存在するゾイドであり暗黒大陸の原住民族による行き違いからの交戦。そこに、偶々プロイツェンナイツのホエールキングを奪った者が割り込んだ。そんなもしもの可能性がないわけではない。

 都合のいい思考だが、そうであってほしいとも思う。

 そんなことのために、彼らの歩みを邪魔したくない。しかし、それが真実であった場合、もたらされる事態は彼らすらも巻き込み、再びこの星に戦乱が吹き荒れる。やっと平和を取り戻したというのに……。

 

 どうするべきか……。

 

「――か、陛下」

「……ん、あ――すまない。考え事をしていた」

 

 ルドルフが顔を持ち上げると、皆の視線が集まった。ルドルフは思考の片隅から聞こえていた議論を思い出す。結局は平行線のまま決着に至らず、最終的な判断を委ねられたといったところだったはずだ。

 最終的な決定権は皇帝であるルドルフが持つとはいえ、皇帝とは辛い立場だ。どれほどの難題が降りかかり、それに対する知恵や意見を授けてくれる者が居ようと、最終的な結論を出すのはルドルフ自身なのだ。重圧が、まだ十一の幼き皇帝の肩に重くのしかかる。

 だが、皇帝としてガイロスをより良い方向に導くと決めたのはルドルフ自身だ。このような事態、これから先も訪れよう。ならば、立ち向かうしかない。

 

 ――ごめんなさい。ヴォルフさん。

 

 心の中で謝罪し、ルドルフは彼らに頼ることを決めた。

 

「今回の件だが、“彼ら”に協力を仰ごうと思う」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 議論の場ではその後も意見が飛び交ったものの、最終的にルドルフが提示した案で通すこととなった。ルドルフの知る彼らに調査を依頼し、その成果に応じてガイロス帝国からも部隊を送り込む。それが、最終的な結論であった。

 

「これで良かったのでしょうか……」

 

 ルドルフは小さく呟いた。

 その後ろに着き、後を追うのはホマレフにシュバルツ。議会の終了後、ルドルフ自身が頼み、彼らと共に通信室へと向かっていた。彼らへの協力要請は、皇帝であるルドルフ自らが行うのだ。

 

「彼らはプロイツェンと因縁深い。きっと引き受けてくれましょう」

「そうじゃないんだ。これは僕たちガイロス帝国の問題だ。なのに、その内輪の問題を、僕らの都合で、しかも彼らの都合を無視して手伝わせるんだ。僕の采配の甘さが……」

 

 ホマレフはルドルフが最も信頼する側近であり、シュバルツはルドルフにゾイド乗りの基礎を教えた男だ。ガイロス皇帝ルドルフではなく、一人のルドルフという子どもからの目線で苦労を吐露できる、帝国内では数少ない者たちだ。

 

「陛下。陛下は一人で背負いがちなのです。彼らに任せてしまうのは、私も心苦しく思います。彼らには一年前にも多大な恩がある。それは、ガイロス国民皆が心に置いていること。陛下一人がお辛いわけではありません」

 

 シュバルツの言葉に思わず泣きついてしまいそうで、ルドルフは気丈に振る舞おうと顔を上げた。

 

「すみません。シュバルツ先生、ホマレフ。もう、大丈夫です」

「では行きましょう。こちらです」

 

 そこからはシュバルツが先導し、通信室へとたどり着く。そして、ごく限られたものだけが知る秘匿回線を繋ぎ、しばらくしたのち、回線が開かれた。

 すこし繋がりが薄いのか、モニターにラグが走りつつもやがて、安定してくる。そして、モニターに映し出された金髪の青年にルドルフは思わず表情を緩ませた。あれ以来会うことはなく、通信越しとは言え、再会は数ヶ月ぶりだ。懐かしさに、場違いな歓喜が心の奥から持ち上がる。

 そして、通信が安定したのを待たずしてルドルフは口を開き――

 

 

 

 ――そのまま固まった。

 後ろに控えるシュバルツ、ホマレフも同様である。

 

 そして、そんなルドルフたちを通信回線越しに見て、相手の青年も思わず体勢を崩した。

 

『なっ、ル、ルドルフ陛下!?』

 

 

 

 モニター画面には、派手なアロハシャツを着用し、黒いサングラスをかけた金髪の青年――本来ならそんな格好の筈がない青年――ヴォルフ・プロイツェンが唖然とした顔を晒していた。

 


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