ZOIDS ~Inside Story~   作:砂鴉

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ゾイドのラスボスってデスザウラーがピッタリ過ぎて他が霞むんですよね。
ギル・ベイダーもありますが、やっぱデスザウラーに知名度の面で、さらにその他を考慮しても軍配が上がるのかなぁ。

戯言二回目でした。



デスザウラー戦の後編です。どうぞ。


第34話:帝都炎上 後編

 帝都に火の手が上がるのを、ローレンジはしかと見た。同時に大都市ガイガロスの街並みを破壊し尽くす魔獣――忘れもしないゾイド、破滅の魔獣(デスザウラー)が帝都を闊歩する姿も。

 

「デスザウラーだ。遂に姿を見せたか」

「デスザウラー……」

 

 ヴォルフがその姿に呻き、アンナが驚愕に包まれる。そんな二人の驚きと違い、ローレンジとパリスは至って平静だった。理由は簡単。未完成とはいえ、二人はデスザウラーと死闘を繰り広げているのだ。

 だがらといって、全く威圧されなかった訳ではない。

 

「あれが本物のデスザウラー……すっげぇ迫力だな」

「なんだ? 怖気づいたのかよ、パリス」

「はっ、なワケねぇだろ。例え別物だろうと、あれはハルフォード中佐の仇のゾイドだ。ぜってぇ倒して見せる」

「仇か……なら俺もだ。プロイツェンは、俺の村(フォレストコロニー)の仇でもある。いい加減、奴との因縁にはケリをつけないとな」

 

 グレートサーベルとコマンドウルフRGCが足を速めた。目前に迫った帝都と、仇の姿に士気が高まる。

 ただ、前を行く二機のゾイドを目にし、ヴォルフはふっと息を吐く。

 

「仇……か」

「ヴォルフ?」

「アンナ。君は、プロイツェンをどう見る?」

「どう……って、……あたしとヴォルフを引き離した元凶。そうとしか、思えないわ」

 

 悩みながらも、アンナは自分の想いを素直に言った。ヴォルフはそれを横耳に聞き、軽く目を閉じる。

 

「そうか……私は、まだ迷っているんだ。奴の前では断言したが、どこかに迷いを感じているんだ」

「迷い……」

「これでいいのか? とな。奴は許されざることをやった。罰せられて当然だ。私は、それを成す義務がある。……だが、例え何処まで悪に染まろうと、心のどこかで奴をまだ父と見ようとしているのだ」

「ヴォルフ……」

「この手で奴を討てば、迷いも晴れるだろうか……」

 

 遠く、帝都を闊歩するデスザウラーを見つめながらヴォルフは呟いた。そんなヴォルフの横顔を眺め――ふと、アンナは視界の端を過った蒼いなにかに気づく。そして、それはローレンジの後ろに乗るフェイトもだ。

 

「……あ、ロージ、あれってブレードライガーだよね。バンじゃない?」

「だな。あいつ、帝都入りしてなかったのか? おい、バン! 返事しろ」

 

 ローレンジが通信回線を開き、声をかける、程なくしてブレードライガーはこちらに気づき、方向を変えてこちらに近づいてきた。

 

『その声――ローレンジか? それにそのアイアンコングはヴォルフさん?』

「バン君か、無事で何よりだ。その様子だと、レイヴンとジェノザウラーは――」

『――ああ、バッチリ倒してやったぜ! ジークとフィーネのおかげさ!』

 

 握り拳を突きだし、バンはそう答えた。その答えにヴォルフは満足げに頷くが、隣のアンナは驚愕した。アンナはジェノザウラーの同系機のジェノリッターに乗っていた。その性能は十分に理解しており、並のゾイドが一対一で勝てる相手ではない。ジェノリッターも多くの犠牲と数体のゾイドの連携の末に倒されたのだ。

 

「倒したって……ジェノザウラーを!? レイヴンが負けたって言うの!?」

『? ああ、俺が倒した。ヴォルフさん。そいつは?』

「私の友だ。ジェノリッターのパイロットだった」

『大丈夫なのか? そいつ』

『バン。ヴォルフさんは嘘を言っていないと思うわ。彼女は、大丈夫』

 

 バンが警戒するのも無理ないことだ。フィーネが咄嗟に弁護してくれ、さらにヴォルフ自身の言葉もあり、バンもそれを認める。

 

「バン。話は後だ。お前はあそこに向かうつもりだろ」

 

 ローレンジがバンにそう問いかけると、バンは「もちろん、当然だ」と返す。ジェノザウラーとの死闘があっただろうに、まだまだやる気十分だ。

 

「だったら急ごうぜ。トップスピードならお前のが上だし、先に行け。俺とパリスもすぐに追いつく。ヴォルフは合流したら後方支援を頼む。これでいいだろ?」

「まぁ、仕方あるまい」

『分かった。そんじゃあ行くぜ!』

 

 話を切り上げ、バンのブレードライガーがブースターを吹かし駆けて行く。その後ろを三機のゾイドが追いかける。帝都からは、激戦の音が鳴りやむことはない。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 帝都に到着した時、真っ先に見たのはゾイドというより怪獣の様相といえる巨体のデスザウラーとそれに苛烈な砲撃を加えるへリック、ガイロスの両軍だった。

 一足先にたどり着いたバンがデスザウラーに肉薄すべく、ブレードライガーが飛び掛かるがデスザウラーの尻尾からエネルギー波が発生し、ブレードライガーはそれに叩かれ弾き飛ばされる。

 

「くそっ、なんて野郎だ! これじゃ近づくこともできねぇ」

 

 バンが悔しげに吐き捨てる。ローレンジも改めてデスザウラーを見つめ、その判断が間違ってないと見た。

 一見、黒光りする装甲には無駄な装備が一切存在しない、比較的スマートなゾイドだと見える。だが、頭部にはレーザー機銃、背中にもビームガンやレーザーガン、さらに腰には装甲に隠されているミサイルランチャーが装備され、腹部にもレーザー機銃が装備されている。どれもデスザウラーの巨体から見れば小さな、小手先の装備だ。だがデスザウラーほどの巨体から放たれるそれらは、威力も規模も桁違いだ。

 

 ――デスザウラー。もう二度と、お目にかかりたくなかったんだけどな。

 

 心の中で呟く。ローレンジは二年前、未完成のデスザウラーと死闘を繰り広げた一人だ。デスザウラーの圧倒的な力は、嫌なくらい心に刻んでいる。同時に、あの時の気持ちが蘇る。圧倒的力に、心が折れてしまいそうな気持ち。あの時は必死に奮い立たせたが、もう一度同じことをしろと言われたら、はっきり無理だと言いたくなる。

 

「ふっ、バン・フライハイト。貴様の戦い方は父親そっくりだな」

「なっ、なんでお前が父ちゃんのことを!?」

「冥途の土産だ。貴様の父親を殺したのは、この私だ」

「な……なんだとぉ!!」

 

 プロイツェンは得意げに語った。

 嘗て、黒いオーガノイドの情報を手にしたプロイツェンはそれを手にしようと、先んじてオーガノイドのカプセルを手にしたバンの父親――ダン・フライハイトの部隊を強襲したことを。その際に、ダン・フライハイトが壮絶な戦士を遂げた事を。

 

 ――バン、お前もあいつと因縁があったのか。

 

 ローレンジの家族もプロイツェンによって死んだ。そして、規模は違えどバンも同様だった。抱く気持ちは、同じだ。

 

「ロージ……行かないの?」

 

 フェイトが優しく語りかけた。それだけで、僅かばかり気持ちが落ち着く。力に圧倒された精神が、少しずつ奮い立たされる。

 見れば、なおもあきらめないバンの元に彼の仲間たちが集まっていた。

 

「一人カッコつけてんじゃねぇぞ」

「あたしたちがいるのも、忘れないでよね」

「おいミラクルボーイ。もう一度、俺たちの前で奇跡を起こして見せろ」

「バン、あいつに本当のゾイドの乗り方を見せてやりましょう」

 

 アーバイン、ムンベイ、ハーマン、ルドルフ。ローレンジの知らないところで、バンが出会い、そして成長してきた者たちだった。彼らの言葉を聞き、バンも再び立ち上がる。

 

「バンはすごいな。彼らはバンの下で、バンと共に戦うことで一致団結出来るんだ。私も、そういう存在になりたいものだ」

「まったく、ロブの兄貴が押してくる小僧がどんな奴かと思ったが、ありゃ認めるしかねぇな」

 

 ヴォルフとパリスが寄り添い、素直な感想を述べた。

 

 そうだな。

 

 ローレンジも同意する。たった会ったのはほんの数回なのに、ローレンジも心を動かされるようだった。

 

 ――ひょっとしたら、あいつは俺のもう一つの姿なのかね。薄汚れることの無かった、俺の……俺も、バンみたいな奴になれたら。だが

 

「おい、バン」

「あ、ローレンジ?」

「お前だけがあいつと因縁持ってんじゃねぇぞ。半分は俺に噛ませろ」

 

 グレートサーベルとブレードライガーが並び立つ。並び立った獅子と虎。

 

「プロイツェンのヤロウは一緒に倒す。あの時、約束しただろ?」

「……ああ、もちろんだぜ!」

 

 ブレードライガーが一声吠えた。デスザウラーを見据え、気合と士気を高める。

 

「行くぞみんな! 絶対デスザウラーを倒すんだ!」

 

 バンの言葉にみんなが唱和し、デスザウラーとの戦いは佳境を迎える。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「ええい! 煩わしいムシケラどもめ!」

 

 度重なる砲撃に業を煮やしたのか、デスザウラーの背部ミサイルハッチが開かれ、16連ミサイルランチャーが発射される。中空で弾けたそれは多弾頭拡散ミサイル弾を降り注がせる。

 

「いかん、散れ!」

 

 ハーマンの指示に集まっていた面々は一気に距離をとった。だがデスザウラーの攻撃は止むことがない。休むことなく回転する荷電粒子吸入ファンがエネルギーを取り込み、荷電粒子砲が放たれる。咄嗟にシールドライガー部隊がEシールドを展開するが、荷電粒子が過ぎ去った後に残されたのはシールドライガーだったものの融けた鉄屑だ。

 

「Eシールドが全く役に立たないなんて……」

「オイオイ、いくらなんでも強すぎんだろ!」

「あのデスザウラーを倒すには、あと十個師団は必要だな」

 

 ムンベイ達から余りの強さに呆気にとられた感想が漏れる。

 

「ヴォルフ様!」

「ズィグナー!? 無事だったか」

「は、しかし、あのデスザウラーの戦力は圧倒的です。このままでは……」

「分かっている。ローレンジ、前はどうやってアレを倒したんだ?」

「前は未完成でコアがむき出しだった。それに大きさもあんなバケモンサイズじゃない。精々ゴジュラスよりちょっとでかい程度だ。今回のが例外過ぎんだよ」

 

 以前の戦いを思い返しながらローレンジは言う。現状を打破する策がないのはローレンジも同じだ。

 

「くそっ、プロイツェンの奴、一体どんな操縦をしてやがるんだ!」

 

 バンが持った疑問がもっともだ。プロイツェンはデスザウラーの肩に乗り、デスザウラーに指示を出しているように見える。だが、デスザウラーがそう素直に従うだろうか。古代ゾイド人の文明を滅ぼしたデスザウラーが、人の身で操れる存在なのだろうか。

 その答えは、バンと一緒に居るフィーネが答えた。

 

「操縦なんかしていないわ。プロイツェンは、デスザウラーの邪悪な意識に取り込まれているのよ!」

「デスザウラーの声が聞こえるよ。ハカイ、メツボウ……デスザウラーは、全てを滅ぼすことしか考えてない」

 

 フィーネに続き、フェイトも断言する。デスザウラーはプロイツェンに操られているのではない。逆だ。デスザウラーが、自らの意志で破壊をばらまいているのだ。

 

「だとしたら、今のデスザウラーに死角はない。奴の装甲は、おそらくグスタフよりも頑丈じゃ」

 

 ムンベイのグスタフに乗り込んだ共和国の科学者――ドクター・ディがそう評価を下す。

 

「じゃが、一つだけ手があるぞ。伝説のゾイドと言えどゾイドであることには変わりない。奴の動力源は、様々なゾイドのコアを吸収・圧縮したゾイドコアじゃ。デスザウラーの腹部、ここの装甲は必要以上に厚い。おそらく、ここにゾイドコアがある」

「間違いないだろうな。前に戦ったデスザウラーの紛い物も、コアの位置はそこだった。コアの場所を変えるなんて設計を大幅に崩すようなことはない筈だ」

 

 ドクター・ディの意見にローレンジも捕捉を加えた。

 

「小僧。どこの誰かは知らんが、確かじゃろうな」

「信憑性が足りないんなら、そこの緑のコマンドウルフに乗ってる共和国軍人も証言できる。そいつも、一緒に戦ったからな」

「ええ、間違いないっスよドクター。このオレもしかと覚えてまス」

「よろしい。後はそのコアを貫けば、デスザウラーのコアは内部爆発を起こし、木端微塵じゃ。そして、それができるのは分厚い装甲を切り裂き、かつ迅速に動けるゾイドでなければならん」

 

 事前に誰がその役目に相応しいかは決まっているような言い方だった。そして、一拍の間を空けてドクター・ディは断言する。

 

「今ここにあるゾイドでそれが出来るのは、ブレードライガーしかない!」

「今の話、本当なんだろうな爺さん!」

「……やってくれるか? バン」

 

 実行役に指名されたバンに対し、ドクター・ディは再度問いかけた。当然だ。もしも失敗すれば、貫くことが出来なければブレードライガーがデスザウラーの装甲に阻まれて砕け散ってしまう。

 

「ああ」

 

 それを押し切って、バンはやると決めた。覚悟の籠ったその一言。ムンベイとドクター・ディは不安要素をいくつか挙げるが、バンは全て切って捨てた。何が何でもこの一打に賭けるつもりだ。特攻は覚悟の上。その決意が、バンという少年の言葉には含まれている。

 

「本気だな。バン」

 

 危険な作戦に、ローレンジもバンに決意の本気さを問いかける。

 

「あったりまえだ! これしかないってんなら、やってやるぜ!」

「だが、さっきのシールドライガーを見ただろ。ブレードライガーのEシールドだろうと、デスザウラーの荷電粒子砲は耐え切れないはずだ。おまけに連射可能、向きも自由自在。止めるのは至難だ」

「でも、やるしかないんだ」

「荷電粒子砲を撃たせない方法ならあるわ」

 

 そこで意見を割り込ませたのはフィーネだ。フィーネの考えた策とは、デスザウラーの荷電粒子供給ファンを止めることだった。エネルギーの供給減をストップさせてしまえば、荷電粒子砲は撃てない。

 

「ならばその役目、我々が引き受けよう」

 

 炎上する帝都の空に舞う嵐の刃――ストームソーダ-だ。

 

「あの扇風機を止めればいいんでしょう。Take it easy よ」

「しかし、ほんの五秒間だけ奴の動きを止めて欲しい」

「五秒か。へっ楽勝だ。俺に任せな!」

「待てアーバイン。コマンドウルフでは5秒も持ち堪えられん。ゴジュラスを使え、たった今到着したところだ」

 

 力強い足取りで二機のゴジュラスが帝都に踏み入る。白と黒のカラーのゴジュラスは、どちらもやる気たっぷりに吠え立てた。

 

「いいのか、俺が乗って……?」

「構わん、残りは援護だ。これでいいな」

 

 ハーマンが締め、それぞれ反撃に向けて動き出す。そんな中、ローレンジ達もデスザウラーに砲撃を加えながらその様子を見届ける。

 

「いいのかよヴォルフ。俺達、このままだと援護だけでケリつきそうだぞ」

「まだ決まったわけじゃない。それに、我々がトドメを刺す必要もないだろう」

「なこと言って、できることなら俺たちでトドメを刺したいだろ?」

「そうだな……ローレンジ。一つ、私から提案がある。下手をうてば、お前も死にかねない。だが、必ず生きて帰ってこい。その上で、やってくれるな?」

「無茶苦茶だな。でも、それでプロイツェンに一発入れられるなら、何だってやってやるよ。話せ」

 

 ヴォルフがここまでの話を聞いて考えた策、それを伝えられたローレンジは、我知らず笑みをこぼした。見つかることなく密かに接近し仕留める。自分に相応しい。

 

「……分かった。だったら今回も俺は操縦に集中する。フェイト、トドメの一押しはお前がやれ、できるな?」

 

 本当ならやらせるべきでないと思った。だが、どうせならフェイトと、兄妹での協力プレイでトドメを決めたい。それは、フェイトも同様だ。

 

「うん。やるよ!」

「決まりだ。じゃ、俺はちょいと失礼」

 

 グレートサーベルを戦線から下げ、様子を窺う。そして、デスザウラーへの反撃が開始された。

 

 

 

「総員デスザウラーに集中砲火! 全弾使い切っても構わん、荷電粒子砲を撃つ暇を与えるな!」

「全軍攻撃開始、共和国軍に後れを取るな!」

「我々も行くぞ! 鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)各機、攻撃開始せよ!」

 

 共和国軍の司令官ハーマンの代理、オコーネル。帝国軍第一装甲師団師団長カール・リヒテン・シュバルツ。鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)副官ズィグナー・フォイアー。三人の指示の元、一斉に砲撃が再開された。

 砲撃はデスザウラーの頭部に集中。頭部の装甲を砕きながらも、なおも攻撃の隙を与えないよう弾幕を張る。

 この場の全てのゾイドの砲撃を喰らい、しかしデスザウラーは止まらない。腹部のビーム砲と尻尾の衝撃波が数機のゾイドを鉄屑に変える。

 近づきすぎれば一瞬でスクラップにされる。そんなデスザウラーに向かって赤く染まった帝都の大地を踏みしめる二体の大型ゾイド。

 

「アーバイン、お前は右足を狙え!」

「分かった!」

 

 砲撃の支援を受け、ゴジュラスがデスザウラーに迫る。だが、共和国最強のゴジュラスと言えど、圧倒的な巨体を誇るデスザウラーからすれば猫も同然だ。

 

「ゴジュラスか。たった二機で、なにが出来るというのだ?」

 

 デスザウラーの腹部からはレーザーガンが撃ち込まれ、ゴジュラスの巨体を揺るがす。しかしハーマンとアーバインの気迫がゴジュラスを突き動かし、背中のキャノン砲から重火力をぶつけながら進撃をとどめない。

 そのゴジュラスの後ろには、ルドルフのロイヤルセイバーがぴったり張り付いき援護射撃を加えている。

 

「バカ、ルドルフ! 前に出過ぎだ! お前は後方で援護してろ!」

「やです。僕だって、バンのために役に立ちたいんです」

「……たくっ、やんちゃな皇帝陛下だ」

「アーバイン! ゴジュラスの動きが鈍いぞ、もっとまじめにやれ!」

「うるせぇ、テメェにだけは言われたくねぇ!」

 

 バンの援護をすべくデスザウラーに立ち向かうアーバインとハーマン、それにルドルフは口々に悪態を付き合いながらもまっすぐデスザウラーに向かって行った。

 

「まとめて片づけてくれる!」

 

 デスザウラーの背部ミサイル発射子が開く。だが、デスザウラーの背後に位置していた帝国部隊が砲撃をミサイル発射口に集中したことでそれが牙を剥くことはなく、ついにゴジュラスがデスザウラーの目前に到着した。

 

 デスザウラーの頭部のレーザー機銃がマシンガンの様に火を噴いた。雨のようなレーザーがゴジュラスの背中のバスターキャノンを吹き飛ばすが、それを油としやる気に火を点けたゴジュラスは一気に肉薄する。一機ずつが片足を担当し、がっちり押さえこんで動きを止める。

 

 しかしデスザウラーもその程度で止められる訳ではない。強靭なパワーで無理やり脚を動かし、ゴジュラスの拘束を強引に突っ切ろうとする。

 

「このままでは……!? 帝国軍のシュバルツ少佐! 協力してくれ、私たちでアレを止める!」

「お前は確かヴォルフ・プロイツェン……いや、分かった。行くぞ!」

 

 ヴォルフとシュバルツのアイアンコングがデスザウラーに肉薄し互いに腕を振り上げ、デスザウラーの関節部分にねじ込んだ。

 

「「うぉぉおおおおおおおおッッッ!!!!」」

 

 腹の底から気合を込め、それは互いの愛機アイアンコングへと伝わり、二機のコングはねじ込んだ腕を無理やり千切り離す。デスザウラーの脚関節にコングの腕がねじ込まれ、デスザウラーは脚を動かせない。

 

「やったか――くっ、まずい!? アーバイン、ハーマン、逃げろ!?」

 

 安堵もつかの間、直ぐに危険を察知したヴォルフが呼びかけるが僅かに遅く、デスザウラーの腹部から放たれたレーザーガンが一閃し、ゴジュラスの首を切り裂いた。

 

「くぅ……動きが止まった、今だアーラバローネ!」

「「了解(ラジャー)!」」

 

 落ちたゴジュラスの頭部のなかでハーマンが叫ぶ。そのハーマンと同じくゴジュラスに乗っていたアーバインは機体の頭部ごと回収され後方に下がった。シュバルツのコングも帝国部隊の場所まで下がり、ヴォルフのコングはツインホーンに支えられながら下がり、支援砲撃に加わった。

 

 すぐさまアーラバローネの二人が応え、ヴィオーラのストームソーダ-が頭部と翼に装備されたトップソードを発射する。狙いはもちろん荷電粒子吸入ファンだ。

 

「ほう、考えたな」

 

 プロイツェンがそう言うと、デスザウラーの尻尾が振るわれる。尻尾に纏わりつくエネルギー波が振い出され、ヴィオーラのストームソーダ-が撃墜された。それだけにとどまらず、背部のビームガンが火を噴き控えていたロッソのストームソーダ-にも迫った。

 しかし、ビームガンの射線に赤いレドラーが割り込んでそれを代わりに受けた。

 

「させません!」

 

 赤いレドラー――サファイアの援護を受け、ロッソのストームソーダーがトップソードを撃ち込み、荷電粒子吸入ファンの回転がピタリと止まった。同時に、荷電粒子砲を放とうとしたデスザウラーの口内のエネルギーも途切れる。

 

「荷電粒子供給ファンの停止を確認。離脱する。……おい、大丈夫かヴィオーラ」

「あたしは平気よ。成功ね、ロッソ。あなたもありがとう。えっと――」

「――サファイアです。後は、みんなに託しましょう」

 

 

 

 デスザウラーの動きが止まり、荷電粒子砲が撃てないことが明らかとなった。ドクター・ディが合図を出す。

 

「よし、今だバン!」

「待ってました! 行くぜジーク、フィーネ!」

「うん」

『グオオゥ!』

 

 ブレードライガーが走り出す。背中のブースターを展開し、レーザーブレードを展開し機体と平行になるよう向きを変える。ブレードの切っ先を前方に向け、シールドと一体化させて突撃する体勢だ。

 

「ぐぬぬ……どうしたデスザウラー! キサマはそれでも、地上最強と謳われたゾイドか!」

 

 プロイツェンの言葉に怒りを覚えたのか、デスザウラーは無理やりファンを回転させ、突き立っているトップソードを圧し折る。ファンが再び回転し、デスザウラーの体内に荷電粒子が注ぎこまれた。

 

 このまま突撃したらブレードライガーは荷電粒子砲に飲み込まれる。それは誰の目にも明らかだった。無謀な突撃となりかねないバンを止めようと皆が声を上げる。だが、バンは止まらなかった。

 

「ジーク、ブレードアタックだ!」

 

 シールドとブレードを一点に向けて展開し、ブースターの推進力を活かして地を蹴り、宙を突き進む。そして次の瞬間、バンの気合いの咆哮と、プロイツェンの激昂の叫びが交差する。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおッッッ!!!!」

「死ねぇぇえええええええええッッッ!!!!」

 

 

 

 甲高いデスザウラーの咆哮と荷電粒子砲が、ブレードライガーを飲み込む――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一筋の光が、荷電粒子砲の中で煌めいた。

 

 

 

 光の正体はブレードライガーだ。シールドとブレードが荷電粒子砲を弾きとばし、荷電粒子砲の力と拮抗する。

 

「バ、バカな……なぜ荷電粒子の中で平気なんだ……?」

 

 プロイツェンが狼狽えるのも無理の無いことだった。シールドライガーの発展系の姿をしたブレードライガーのEシールドはシールドライガーのそれよりも出力が高い。だが、それでもデスザウラーの荷電粒子砲を受けきるなど不可能なはずだった。

 ドクター・ディがその光景から得心がいったように頷いた。

 

「そうか! ブレードライガーのブレードには電子レベルの微小な振動が起きている。それが荷電粒子を拡散させているんじゃ!」

 

 その様は、ブレードライガーという一つの刃が荷電粒子を引き裂いているようだった。

 

 圧倒的なデスザウラーの荷電粒子砲は止むことがなく、多量のエネルギーを受けてブレードライガーに浴びせられている。だが、触れた荷電粒子は全て拡散され、ブレードライガーを倒すには至らない。

 ここに来て、両者は完全に拮抗していた。もはや荷電粒子砲が持つ力が役に立たないデスザウラーにとって、ブレードライガーを倒すには粒子砲を放射する圧力で押し切るしかない。その圧力を破れば、ブレードライガーの勝ちだ。

 

「頑張ってくれぇ、ライガー!」

「ジーク、もう少し頑張って、そうすればきっと!」

 

 だが、元の出力で言えばデスザウラーに分があるのは明らかだった。それを理解し、プロイツェンの顔にも余裕が戻り始める。

 

 

 

 

 

 

 あくまで、このまま拮抗すればの話だが。

 

 

 

 

 

 

 デスザウラーの機体に爪を食いこませ、漆黒の機体がデスザウラーの身体を駆け上る。デスザウラーの脚の付け根を足場に跳躍したそれは、燃え盛る帝都の空に走る黒いイナズマ(・・・・・・)

 

「なっ……」

「おいおい、忘れてもらっちゃあ困るな、プロイツェン。テメェに対して、俺が後方支援だけで満足するとでも?」

 

 宙を舞うグレートサーベル。空中での機体制御は困難だが、ローレンジだけでなくニュートのアシストがあり、さらにグレートサーベル――サーベラ自身がバランサーを調整し体勢を整えていた。そのおかげで、フェイトが睨みつける照準にはきれいにデスザウラーの弱点――荷電粒子供給ファンがロックオンされている。

 

「サーベラの持ちうる火力、その全てをぶち込んでやれば、あとは分かるだろ? プロイツェン。――フェイト!」

「これで――終わりっ!」

 

 フェイトの小さな指がトリガーを引き、グレートサーベルの8連ミサイルポッドとソリッドライフルが一点目がけて撃ち込まれた。集中砲火を浴びて火を噴く荷電粒子供給ファン。それによって生まれた隙を、バンとフィーネが逃すはずがない。

 

「バン、デスザウラーがパワーダウンしていくわ。ここで一気に勝負よっ!!!!」

「いいいっけぇぇぇええええええええッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 デスザウラーの腹部が貫かれ、コアは砕け散る。

 

 その様子を、その瞬間をスローモーションで眺めながら、ローレンジは最後のミスを痛感した。デスザウラーを倒すには仕方がなかったかもしれない。だが、グレートサーベルが飛び込んだそこは、ちょうどデスザウラーを貫いたブレードライガーが駆け抜ける位置。

 

「……悪い。位置取りミスったわ」

「ロージは、ここ一番でやらかすね」

「ははは……ほっとけ」

 

 ゆっくりと目の前に迫る刃の獅子(ブレードライガー)。それを最後まで視界に収め、一瞬でその視界はブレた。

 

 

 

 

 ローレンジが気づいた時、グレートサーベルの機体は燃え盛る帝都の空を飛翔していた。グレートサーベルに空を舞う力はない。異変に気づき、機体に起こったソレを確認すると、グレートサーベルは薄い緑色のゾイドの爪に背中を捉えられ飛翔していた。

 見たこともない機体だった。黒煙盛る空に映える輝くような緑色の機体。それは、共和国に残されていた希少な飛行ゾイド、レイノスだった。そして、それに搭乗しているのは――

 

『まったく、若いモンが無茶しやがって。ワシがいなきゃ、どこまでも無謀に突っ込みやがる!』

「その声……エリウスさんか!?」

「エリウスさん!?」

 

 窮地に飛び込んだ馬鹿を叱りつける声音。それは、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)のベテランゾイド乗り、アクア・エリウスだった。テラガイストによる襲撃以来、姿をくらましていた男が、この窮地で現れたのだ。

 

『ローレンジ。お前の度胸と男気は買うが、まだ幼い女の子を巻き込むのは感心しねぇな。後で説教だ』

「うぇ……勘弁してくれ」

「でもよかった。エリウスさんも生きてたんだね」

 

 レイノスはゆっくり高度を下げ、帝都の大地に降り立つ。そして、降り立った三人の視線の先では、デスザウラーがいよいよ崩れ去ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

「……なぜだ、なぜこの私が……」

 

 デスザウラーの肩に乗るプロイツェンは、呆然とした表情で呟く。なぜこの結果となったのか、なぜ倒されるのか、その全てが分からないと言った風な顔だ。

 

「……やぶれねば、ならんのだ…………」

 

 この言葉がプロイツェンの最期か。そう考えると、哀れなものだとヴォルフは思う。元は崇高な野望を秘めていたというに、デスザウラーに頼った所為で、その誇りも、信念も、全てを失い、ただの独裁者をもくろむ結果となった男の最期。

 

 これで終わりなのか? 我が父の最期は、これほど無様なものなのか?

 

 すでに父と見たくもない男だが、その輝いていた時を知るヴォルフにとっては、見ていられないものだった。

 視線をプロイツェンから背ける。そんなヴォルフの肩をやさしく叩くアンナの心遣いが、素直にありがたかった。

 

 

 

 ――さらばだ、ギュンター・プロイツェン。野望と欲望に翻弄されたその生に終焉を、今こそ安らかな最期を迎えるといい。………………さようなら、父上。

 

「ぬぁぜだああああああああああああああああっっっ!!!!」

 

 

 

 プロイツェンの絶叫、魂の底から吐き出されたそれすらも飲み込むデスザウラーの内部爆発が、帝都に最後の爆炎をもたらした。

 




できるだけ原作の展開に手を加えるつもりはないのですが、この『帝都炎上』には新規キャラの出番を与えるために変更点を加えました。

次回は第二章のエピローグ回になります。

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