ZOIDS ~Inside Story~   作:砂鴉

36 / 175
第一章、第二章、どちらもデスザウラーがラスボスという展開。
さらに、アニメ『ZOIDS』の展開を主とするため、もう一度ラスボス化が決まってる訳でして。

うーん、デスザウラーだらけだな。


戯言でしたね。それでは、本編どうぞ。


第33話:帝都炎上 前編

 右足を打ち抜かれ、爆発に押されてヤークトジェノは崩れ落ちた。闘争心に溢れていたその顔には、どこか満足げな表情が浮かんでいる。少なくとも、ローレンジにはそう思えた。ヤークトジェノは完全に死んだわけじゃない。片足を打ち抜かれ、バランスを崩して倒れているだけだ。だが、二足歩行のゾイドにとって片足を失うことは移動を封じられたことを意味する。

 ヤークトジェノの無力化には成功した。その事実が染み入って、ローレンジは安堵の息を吐き出した。

 

『終わったか。とにかく、全員無事で何よりだ』

『Congratulate. これは、アタシたちみんなで掴みとった勝利よ』

 

 上空を旋回するストームソーダ-からロッソとヴィオーラの賞賛の声が届く。

 

『Catch you later. 後でね』

 

 ヴィオーラが一言付け加え、二人の機体は一気に加速して帝都ガイガロスに向かった。そうだ、戦いはまだ終わっていないのだ。犠牲を出しながらも沈黙させることに成功したこの対ジェノリッター戦は、ただの前哨戦に過ぎないのである。

 

「アンナ! 大丈夫か!?」

 

 そんなことを考えていたローレンジの思考に怒号が割り込む。ボロボロのアイアンコングから降りたヴォルフが、同じように崩れるようにしてコングの肩から跳び下りたニュートの元に駆け付けた。むろん、その背に乗るアンナの元に。

 

「アンナ、アンナっ!?」

「おい、ヴォルフ。あんま揺すると、戻る意識が戻らねぇぞ」

 

 苦笑しながらローレンジが宥める。だが、ヴォルフが落ち着く様子はない。やがて、アンナはゆっくり意識を戻した。

 

「ヴォ、ル……フ…………?」

「アンナ!」

 

 意識が戻ったのを確信し、ヴォルフはアンナを抱き寄せた。

 

「ヴォルフ……あたしは、あなたに敵対、したの……よ? なのに、……どう、して……?」

「そんなことはどうでもいい! 私は、ただ君に生きていてほしいだけだ! 君を、失いたくなかった!」

 

 以前、ズィグナーに聞いた。ヴォルフはギュンター・プロイツェンの息子として彼から様々な教育を受け、物心ついたころから大人に囲まれて過ごしてきたと。だから、心を開ける本当の友達と呼べる人間がいなかったと。ただ一人、アンナ・ターレスという幼なじみを除いて――アンナとローレンジを除いて。

 ヴォルフはもう絶対に離さないという想いを籠めてアンナを抱きしめる。最初は躊躇していたが、アンナもやがてそれを受け入れた。二人は共に抱きしめ合い、離れていた時間を清算するように、すれ違った時間を洗い流すように、暖かな滴を溢した。

 

 

 

 ローレンジはそんな二人から目を逸らし、疲れ果てて地面で大の字に寝転がる少女の傍らに立ち、屈みこんだ。暖かな日差しを受ける森のような緑の髪をくしゃくしゃと撫でる。緑の髪の下からこちらを覗き込む翡翠の瞳が、得意げに細められた。そして、疲れ果てた腕を何とか持ち上げ、人差し指と中指を立ててVサインを作り、得意げに少女は笑った。満面の笑みで。

 

「お疲れさん。フェイト」

「うん、やったよ。ロージ」

 

 疲れて動けないフェイトを抱え上げる。両手に伝わるその重みに、ローレンジはおどけた様に笑って見せる。

 

「やっぱ重いな、お前」

「む、成長してるって言ってよね」

 

 フェイトはもぞもぞとローレンジの腕の中でもがく。持ち方が悪かったかとローレンジは一旦降ろす。すると、フェイトは無理やり身体を動かして屈みこんだローレンジの背中に回った。

 

「こっちの方がいいの♪」

「……なーるほど。あ、やっぱ重いわ」

「トレーニング不足。最近ゾイドに乗ってばっかりだから、筋力落ちたんじゃない?」

「うるせぇ……さて、休みたいけど、もう一仕事行きますか」

 

 フェイトを背負い直し、愛機サーベラに向かって歩き出す。そこに、パリスのコマンドウルフも近づいてきた。キャノピーを押し開け、涼しい顔のパリスが顔を出す。

 

「おい、ローレンジ。行くんだろ?」

「当たり前だ。第一、こっからが本番って言っても過言じゃない」

 

 しゃがみ込んだグレートサーベルに登り、後部座席にフェイトを降ろすと通信回線を開く。

 

「ロカイ、そっちはどうだ?」

『三銃士の皆さん、それにスティンガーとクロスボウ兄弟も無事だ。ただ、怪我が酷い上にゾイドも大破している。戦線離脱は避けられない』

「だろうな。そっちは任せていいんだろ?」

『ああ、俺はこれでも元帝国兵だ。それに応急処置はけっこう得意な方でな。任せてくれ』

 

 ロカイの乗っているモルガは帝国の主力量産機で戦線に立つことも多いが、小型ゾイドの中でも厚い装甲から輸送任務に就くこともある。ロカイが奪ったモルガも、ちょうどその役を負っていたらしく、救急用の物資が機体の格納スペースに残されていた。治療は、任せても問題ないとローレンジは判断する。

 

「じゃ、行くか」

 

 グレートサーベルの損害はかなりのものだ。だが、もう一度ニュートが合体すればそれは解消され、問題なく動ける。プロイツェンとの最終決戦に赴かない理由は、ない。

 

 ふと、視界を持ち上げるとヴォルフのアイアンコングが再起動していた。片腕がもがれたアイアンコングmk-2の損害は相当なもので、本来ならヴォルフもここで待っていた方がいい。だが、

 

 ――聞くだけ野暮だな。

 

 ヴォルフの境遇を考えたら、這ってでも戦場に向かうのは明確だった。そして、そんなヴォルフを知っているアンナも無理を押して同乗しているようだ。

 言葉はなく、無言で歩みを進めるグレートサーベルとコマンドウルフRGCに、アイアンコングmk-2も続く。目指すは、帝都ガイガロス。ちょうど、戴冠式が始まりを告げる時間だった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 同時刻、タイムアップを告げる鐘が鳴り響く。帝都を目前にルドルフたちはプロイツェンナイツに足止めされていた。鐘の音が、戦場だったそこを、少しずつ静まり返った町へと変貌させる。

 終わったのだ。ルドルフとホマレフがそれを悟るのに、時間はいらない。

 

「時間切れ、か」

「結構いいとこまで行ったんだけどねぇ……」

「みなさん、本当にありがとうございました。やるだけやったんです。もう、悔いはありません」

 

 アーバインとムンベイが落胆の表情で鳴り響く鐘の音を聞き、ルドルフは満足げに語った。

 

 

 

 その時だった。

 

『Neveeeeeeeeeeeeer give up!』

 

 高らかに、女性の声が響き渡る。それに続くように、あのヒーローの口上が戦場を俯瞰する。

 

『天定まって、(また)()く人に克つ! 我らプロイツェンの野望を打ち砕く、翼の男爵アーラバローネ!』

『誇り高き嵐の刃、ストームソーダ-を恐れぬならば、かかってくるがいい!』

 

 アーラバローネのストームソーダ-がその場を高速で飛び去り、空中で旋回しルドルフの元に降り立った。

 

『さぁルドルフ殿下。いざ、戴冠式へ!』

 

 

 

 

 

 

 ルドルフはストームソーダ-に乗り換え、帝都へと飛び去った。そして、

 

「ねぇ! あたしたちはどうやって脱出するの?」

「ルドルフ殿下が無事ならそれでいい。我々の命など、安いものだ」

「え!? ちょっと、そりゃないでしょ!」

「あんたが納得できても、俺達が納得できねぇんだよ!」

 

 すでに殉職を覚悟したホマレフにアーバインとムンベイが食ってかかる。当然のことだ。彼らは帝国に命をささげた軍人ではなく、ただの賞金稼ぎと運び屋でしかないのだから。

 そして、納得していないのはもう一人。

 

「そうだ! 俺様たちの炎はまだ燃え尽きていない! 最後まで戦い抜き、俺様の生きざまを示す!」

 

 熱く燃えたぎるはカール・ウィンザー。愛機レッドホーンのごとく紅蓮に染まったウィンザーの心はそう簡単には燃え尽きない。

 

「それも、結果的には死ぬってことじゃない!」

「まったく違うな。諦めて投降するのではなく、最後まで己の意志を見せて散る! そこに降り注ぐは、最後まで戦い抜いた漢の散り様に心奪われる美女たちの感動の涙! 素晴らしい! 最ッッッッ高じゃないか!」

「どこまでもめでたいヤロウだなてめぇは! 俺はそんな散り様なんざ求めてねぇ!」

 

 アーバインのツッコミなど聞く耳持たず、ウィンザーは猛る心のままに愛機を進ませ、今や40倍の戦力差を持つプロイツェンナイツに特攻をかける――

 

『ウィンザーさん。乙女は散りゆく男より、どんな苦難があろうと必ず帰って来る、そして守ってくれる男性に惚れる生き物ですよ』

「ふむ、ここは潔く負けを認めようじゃないか。だが、俺様は死なん! 必ず帰る!」

「コイツは……」

「まぁ、その気持ちの切り替えは潔いわね」

 

 上空から舞い降りた赤いレドラーに乗るサファイアの言葉に、コロリと態度を変えるウィンザーだった。

 

『それに、私たちも助かりそうです』

「む……あれは、ルイーズ大統領に頼んだ援軍か!」

 

 遠くに見える砂煙、その間に見え隠れするのは、共和国の大部隊だった。シールドライガーにコマンドウルフ、ゴルドスとカノントータス。共和国が誇る精鋭ゾイドたちの砲塔が、一斉に火を噴く。

 形勢は一瞬で逆転された。数で上回っていたプロイツェンナイツは、さらなる数で押し寄せた共和国に太刀打ちできない。

 

「よし、ここは共和国軍に加勢しつつ帝都を目指す。鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)各機、共和国に合流する」

 

 ズィグナーの指示で鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の少ないメンバーが動き始める。サファイアもブラックレドラーを発進させるが、そんな中ただ一機、レッドホーンだけがプロイツェンナイツに向かい始める。

 

「ウィンザーさん!?」

「何をやっているウィンザー! こっちに――」

「済まないなサファイア、ズィグナーさん。俺様は一つやることがある。心配するなサファイア、俺様は必ず君の元に帰る!」

「はぁ……必ずですよ。帰ってきたら、デートくらいは考えます」

「!!! ホ、ホ、本当ですかぁ!? ごほん、分かった、このカール・ウィンザー、必ず君の元に凱旋して見せよう!」

 

 敢然と突撃し、目の前のレブラプターを蹴散らしていく。その先にはプロイツェンナイツの主力、ダークホーンとアイアンコングPKがいた。

 

『ハーディン准将、共和国軍の戦力は圧倒的です。ここは一時帝都に退却を!』

『退却だと!? ふざけるな馬鹿者!! ここを死守するんだ!!!!』

 

 アイアンコングPKに乗る女性士官――ハーディン准将は部下の提案を切って捨てる。なんとしてもここを守り抜く。それこそが、プロイツェンへの忠義を示す際たる形。それしかないと断言するかのようにハーディンは叫んだ。

 

「……醜いな」

 

 そんなハーディン准将の姿に、ウィンザーは毒づいた。あえて聞こえるように通信を繋げて言ったのだ、当然、激昂するハーディンがそれに反応しない訳がない。

 

『なんだと!! キサマ、確か鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の』

「カール・ウィンザーだ。いいかハーディン。俺様はな、女性は常に花だと考えているんだ。フェイトちゃんは向日葵(ヒマワリ)。元気すぎる、太陽みたいな子だ。サファイアは(スミレ)。誠実で、謙虚で、常に凛とした佇まいには魅力しか存在しない。ぶっちゃけ俺様のタイプだ。ああ、タイプじゃなくても俺様が気に掛けない訳がないんだがな。さて、もう一人挙げるなら共和国のルイーズ大統領、あの人はアネモネだな。民を想う真心に溢れたあの方には、アネモネが相応しい。いや、タンポポもありだ」

『何が言いたい!』

 

 共和国軍からの砲撃は苛烈で、ハーディンは少し下がりつつも応戦する。共和国軍とプロイツェンナイツ双方の砲撃を掻い潜り、ウィンザーのレッドホーンは突撃を止めない。

 

「町で穏やかに暮らす女も、戦場で勇敢に戦う女も、皆等しく美しい花さ。どれもこれも、他にない魅力を持っている。そして常に損なわれる余地がないほど美しい。咲き乱れ、散り逝くまで美以外を持たない。だがな、一つだけ、その美しさが損なわれる時があるんだよ」

『……?』

「わからないか? ……自らの歪んだ心に支配された時さ。ただそこにあるだけで美しいのに、誰かの手にかかり、染められた花は醜くなる。女も同じさ。歪んだ愛に支配された時、美しさは永遠に損なわれる。そういう女は、元がどんなに美しかろうと、醜い枯れ果てた姿をさらす。見てられないんだ。だから、そういう女には……」

 

 レッドホーンが頭を低く下げる。すでにアイアンコングPKの目前にまで迫っており、ハーディンは確信を持ってコングの左腕のパルスレーザー砲を撃ち込んだ。だが、レッドホーンは止まらない。ウィンザーの覚悟の炎を身に宿したレッドホーンは、燃え盛りながらもアイアンコングPKに肉薄する。そして――

 

 

 

『……バカ、な…………』

 

 レッドホーンのクラッシャーホーンが、アイアンコングPKの胸部装甲を貫く。装甲を破り、ゾイドコアを貫かれたアイアンコングPKは急速にパワーダウンしていく。アイアンコングPKを頭で支えつつ、レッドホーンの主砲――ビームガトリング砲と付近に装備されたビーム砲、リニアキャノンが全てアイアンコングPKのコックピットに向けられる。

 

「そういう女には、俺様が引導を渡してやるんだ。枯れた花をいつまでもそのままにしとくなんてもったいない。肥やしとなり、俺様が新しい花を見つけ、育てるための堆肥になれ。……さらばだ、ハーディン准将。あんたは……葡萄(ブドウ)、陶酔するほどの愛に身を滅ぼした、哀れな女だ」

『……プ、プロイツェン閣下ぁああああああああああっっっ!!!!』

 

 爆発と閃光の中で、ギュンター・プロイツェンに仕え続けた士官、ハーディンは散った。

 

 

 

「うぅむ……ダメージが大きいな。いや、このくらい根性でどうとでもなるだろう? 相棒。プロイツェンのヤロウをぶっとばしに行くぜ!」

 

 機体のあちこちから炎を上げながら、レッドホーンはしっかりとした足取りで共和国部隊に合流すべく歩みを進めた。

 

 

 

 その後、機体の損傷具合からウィンザーが後方に追いやられたのは言うまでもない。ウィンザー自身は「戦場に出るのだ!」と大暴れしたが、降りて来たサファイアに腹を強く殴られて戦線より離脱した。

 

 

 

***

 

 

 

「諸君。策略を巡らす共和国によって、我らが愛するルドルフ・ゲアハルト・ツェッペリン三世殿下お隠れ遊ばされた。……されど諸君! 我らは今、殿下の死を悲しみ、喪に服している時であろうか!?」

 

 帝都ガイガロス。約3000万人の市民が暮らすガイロス帝国最大の都市だ。

 その官邸前で戴冠式は行われていた。本来その場に立つはずだったルドルフはすでにおらず、代わりに摂政のギュンター・プロイツェンの演説が帝国市民の前で響き渡った。

 

「今、共和国軍は愚かにも、我が領土への侵略を開始した。我々はそれに屈していいのか!? 諸君、私は戦う! 共和国を倒すその日まで、私は戦い続ける! それが、ツェッペリン皇帝陛下のご意志であり、悲願だったのだッ!!!!」

 

 プロイツェンはそこまで言い切ると背を向け、壇上から去る。否、演説の終了と同時にせり上がってきた一機のゾイドの肩に乗り、共に帝国市民の前に姿をさらした。

 

 その姿は異様そのものだった。黒と赤を基調とした恐竜型ゾイド。並のゾイドをはるかに上回る巨体を持ち、現行ゾイドの全てを上回る力を持ちうると錯覚させる。

 

「さぁデスザウラーよ、その力を見せつけてやれぇ!!」

『グゥゥガァアアオオォン!!!!』

 

 デスザウラーは背中の荷電粒子供給ファンを猛烈な勢いで回転させ、一気に荷電粒子を吸収、集束させ、解き放つ。

 デスザウラーの口内から荷電粒子の閃光が煌めき、帝都の建物群の頭上を通り過ぎてその先の大地を焼き払った。偶然にも、そこには共和国軍のシールドライガー一個中隊が先遣隊として向かっていたのだが、突如として放たれた閃光により一瞬で蒸発した。閃光が過ぎ去った後には、シールドライガーだったものが溶解してマグマの体を成している。

 

「見たか諸君! これが、我が帝国の科学の粋を結集して復活した、デスザウラーの力だ! 我々は地上最強の力を手にしたのだ!」

 

 圧倒的な力を見せつけるように言うプロイツェン。帝国の市民は、その圧倒的過ぎる力に恐れすら抱いているのだが、彼自身にはその恐れが届いていないのかもしれない。

 

 その時だ。一体の飛行ゾイドが舞い降りた。白い機体色に鋭角的なボディ、翼と頭部に配されたソードが印象的なゾイド――ストームソーダ-。

 そして、そこから降りて来た少年はプロイツェンも、帝国市民も忘れることの無い少年だ。真にガイロス帝国を統治すべき血筋。ルドルフ・ゲアハルト・ツェッペリン三世殿下その人。

 

「やめろプロイツェン!」

「遅かったなルドルフ。ガイロスの指輪はここにある。私が、この国の支配者なのだ!」

 

 右手にガイロス帝国の紋章が刻まれた指輪を持ち、突き出して主張する。ガイロスの指輪は所持者が皇帝であるという象徴なのだ。だからこそ、その指輪だけが戻ってきたとき、ガイロス帝国の高官たちはルドルフの死を信じた。プロイツェンが指輪を持っているからこそ、彼が皇帝の座に就くことを認めた。その指輪一つが、プロイツェンの野望を決定づけたのだ。

 だが、ルドルフにとってそれはもはや用なしだ。

 

「それでも構わないさ。でもみんなは、そんな力を望んではいない! これ以上、国民を無益な争いに巻き込まないでくれっ!」

「だまれぇっ!! この国は私のものだ! 私がどうしようと勝手だ!」

 

 デスザウラーが再び歩き出す。蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うガイガロスの市民に目もくれず、巨大な足を前に踏み出す。

 その背後に、ガトリング装備のアイアンコングとダークホーンが現れた。各機体に付けられた紋章はガイロス帝国起動陸軍第一装甲師団のもの。帝国でも指折りの優秀な部隊の証拠だ。その指揮官は、ガイロス帝国きっての名門シュバルツ家の長男。名をカール・リヒテン・シュバルツという。

 

「本性を現したなプロイツェン。貴様のやっていることは帝国の発展のためではない。単なる破壊と殺戮だ!」

 

 ガイロス帝国の軍人でありながら、シュバルツは予てよりプロイツェンに疑いを持っていた。だが一将校である彼には抵抗らしい抵抗も出来ず、さらに同僚の多くがプロイツェン支持派だったため、これまで表立った反抗を取れなかった。

 だが、今は違う。プロイツェンが明確に敵意を剥きだしたのだ。今までの様に上司と部下の関係で居る必要もなくなった。

 

「ふっ、その通りだ」

 

 デスザウラーの背中の装甲が開き、中空に向けてミサイルが放たれる。それは一定の高度で爆散し、鋭い槍を多数降り注がせる。多弾頭拡散ミサイルだ。鋭い槍が第一装甲師団のゾイドたちに突き刺さり、中にはそのたった一撃だけでシステムフリーズを起こす機体まで現れた。圧倒的なまでの破壊力。

 

「この世は力が全て、圧倒的な力を手にしたものこそ、この世を支配する権利を持っているのだ! お前たちにはそれが分からんのかぁ? これほどの力を前にしてもまだ、この私に従わんのか」

「バケモノめ、もうなにを言っても無駄か」

 

 デスザウラーが一歩、また一歩と帝都を闊歩し、歩きながら蓄えた荷電粒子を発射する。帝都の大地が、街が焼き尽くされ、融けた大地が帝都をこの世の終焉を思わせる様相へと変えていく。

 

 上空から二機のストームソーダ-がミサイルを撃ち込む。首筋目がけて放たれたそれは、狙い違わずデスザウラーに直撃し爆発する。だが効かない。傷一つついた様子もなく、逆に背部のビーム砲の一撃がストームソーダ-を撃墜する。

 

「はっはっは、燃えろ燃えろ、全て焼き尽くしてしまえ!」

 

 デスザウラーの肩でプロイツェンは高らかに嗤った。

 

 

 

 共和国軍が帝都に到着した時、帝都はその華々しい様相を一変させていた。あちこちで火の手が上がり、その中を悠然と闊歩するデスザウラーが威圧感を放出している。さしずめ魔王と言っても過言ではない圧倒さだ。

 だが、共和国の指揮官、ロブ・ハーマン大尉は臆することなく指示を飛ばす。

 

「我々はこれより、デスザウラーを攻撃する! 包囲陣形のまま集中砲火! 後方支援を怠るな!」

 

 ゴルドスにカノントータス。共和国重砲隊による激しい砲撃がデスザウラーの頭部に集中した。ゾイドは生物だ。そして、生物にとって頭部を潰されることは大きな痛手となる。視覚、聴覚、脳へのダメージも大きい。金属生命体であるゾイドにとってもそれは変わりなく、惑星Ziの歴史に謳われる破滅の魔獣デスザウラーだろうとそこは変わらないだろうという考えだ。

 無数の砲弾がデスザウラーの頭部に吸い込まれ、爆発する。

 

「やった!?」

「いや、まだだ!」

 

 並のゾイドなら大破は免れない弾幕密度にムンベイが歓声を上げる。だが、それをアーバインの鋭い声が制止する。

 弾幕が晴れ、煙が消えた先にデスザウラーがいた。頭部装甲が一部はじけ飛んだが、その禍々しさを一層際立たせ、眼光が鋭く光る。同時に、頭部のレーザー機銃が火を噴いた。マシンガンのように降り注ぐレーザーが大地に穴を穿ちながらムンベイのグスタフに降り注ぐ。

 

「ひぃっ――」

 

 だが、弾丸がグスタフのコックピットを穿つことはない。直前に背後から飛び出した蒼いライオン型ゾイドがEシールドでそれを防いだ。

 

「バン!?」

「バッカヤロウ! おせぇんだよ!」

「悪い、道草食っちまって遅くなった!」

 

 バンは軽い口調で謝り、目の前のデスザウラーに意識を向ける。

 

「遅れちまった分、きっちり取り戻すぜ!」

 

 バンのブレードライガーがデスザウラーに向けて走り出す。

 

 

 

 ガイガロスでの決戦は、まだ火ぶたを切ったばかりなのだ。

 




ハーディン准将の最期を少し改変しました。プロイツェンの側近が増援の共和国にあっさり負けていく。その展開に不満はありませんが、ウィンザーの見せ場にいただきました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。