ZOIDS ~Inside Story~   作:砂鴉

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タイトルの通り、いよいよVSジェノリッター開幕です。
ですが、原作での展開も佳境に入っている訳でして……。


第31話:再戦 ジェノリッター

 ガイロス帝国の宰相、ホマレフの屋敷前は戦火に包まれていた。

 

「撃て撃て撃てぇ! 撃ちまくれぇえ!!!!」

 

 気合を入れ直し、愛機の咆哮に合わせてアーバインは吠えた。残弾を気にする余裕すらなく、ひたすら引き金を引く。本来はゴジュラス用に作られたロングレンジライフルは、すでにアーバインのコマンドウルフになくてはならない武装となっている。その重量からなる運動性の低下などどこ吹く風と言わんばかりに大火力の砲撃が、迫るプロイツェンナイツ部隊のゾイドを撃ち抜いた。

 

 ガイロス帝国宰相、ホマレフの屋敷前で戦闘は続いていた。夜明けとともになだれ込んだプロイツェンナイツに対し、ホマレフの部隊は少数ながらどうにか持ちこたえている。そこにアーバインのコマンドウルフ、ムンベイのグスタフも加わってどうにか戦線を支えていた。

 だが、それも長くは保ちそうにない。

 そもそも戦力差が圧倒的なのだ。プロイツェンナイツは小型ゾイドを中心に屋敷前の橋から迫りくる。その背後には主力であろうアイアンコングPKやダークホーンが控えていた。

 その戦略は数と力に任せたずさんなものだが、元々戦力差が違いすぎる以上打開策がないのもその通りだった。

 

「ねぇホマレフさん! こういう時のための秘密の抜け道ってないわけ?」

「生憎そのようなものはありません。ガイガロスに向かうには、正面の橋を渡るしか方法がないのです!」

 

 ムンベイの期待を籠めた言葉ををホマレフが一刀両断する。

 

「だったら、一つ突破口があるぜ」

 

 アーバインが一つの策を打ち出す。それは、正面から攻撃してくる敵に対し、こちらも突撃することだった。

 

「ちょっと、そんなことしたらあたしたちが保たないわよ!」

「まぁ聞けムンベイ。少数の敵を倒すには、包囲して退路を断ち、一気に殲滅するのが定石だ。だが、こいつらは馬鹿の一つ覚えみたいに正面からしかこねぇ」

「確かに。ってことは……」

「こいつらは是が非でも俺達を戴冠式に行かせたくないってワケだ。なら、一か八かやってみるしかねぇだろ?」

 

 事実、プロイツェンナイツ部隊は正面からしか来なかった。アーバインの策は、今なら功を奏しそうだ。それしかないとムンベイも悟る。だが、それは失敗した場合は玉砕しかない結末でもあった。

 

「危険すぎます! そんな無謀な策にルドルフ殿下を巻き込むなど……」

「だが他に手はねぇぜ。回り道しようものならプロイツェンの戴冠式に間に合わず時間切れだ。腹くくって行くしかねぇぞ!」

「アーバインのコマンドウルフの火力は保障するわ。それにあたしのグスタフだって多少の攻撃なら弾ける。試してみる価値はあるわよ」

「ぬぅぅ……し、しかし」

「ホマレフ、もうやるしかないよ! ここでじっと防戦をするよりもずっといい! 行こう!!」

「お、殿下もやる気じゃねぇか! いいねぇその根性!」

 

 通信に見知らぬ声が割り込み、さらに正面の橋を制圧していた部隊が蹴散らされる。それを成したのはビームガトリング装備のレッドホーンだ。

 

「なっ、何者か!?」

「俺様は鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)のカール・ウィンザーだ。ヴォルフ様の指示で、ルドルフ殿下を援護しに来たぜ!」

鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)だと!? そんな部隊聞いたことも――それにヴォルフとは、まさかヴォルフ・プロイツェンのことか!」

「プロイツェンのヤロウの息子だから信用できないか? ま、そっちがどう思おうが関係ねぇ。俺様はプロイツェンナイツを蹴散らしに来たんだからな!」

 

 「行くぜ!!」と、雄たけびを上げながらレッドホーンはプロイツェンナイツ部隊に突撃を始める。そして、レッドホーンBGの突撃で空いた橋から一機のゾイドが渡ってきた。長い鼻と牙をもつ中型ゾイド、ツインホーンだ。

 

「ホマレフ宰相。信用できないのは重々承知です。ですが、今は迷っている場合ではありません」

「ぬ、ズィグナー殿……」

「ルドルフ殿下も覚悟を決められている御様子。なれば、我らにできることは、全力で殿下をお助けすることです」

 

 ホマレフは時計を確認する。戴冠式まであと一時間。ここから全力で走り、ギリギリ間に合うかという時間だ。時間は刻一刻と迫っている。

 

「分かりました。では、殿下はロイヤルセイバーにお乗りください」

「ロイヤルセイバー!?」

 

 ムンベイが思わず驚きの声を上げた。

 ロイヤルセイバーとはガイロス帝国の皇帝親衛隊用に製造された特殊なセイバータイガーだ。ゾイドコアから厳選されて製造された、通常のセイバータイガーよりも出力が増している機体だ。ホマレフの屋敷にも配備されていたことはルドルフたちにしても嬉しい誤算だ。だが、

 

「んないいもんがあるならもっと早く出せ」

 

 苛立ち交じりのアーバインの言葉は、その場の全員の意志を代表したものだった。

 

 

 

***

 

 

 

 ホマレフ宰相の屋敷が攻撃を受けたちょうどその頃、バンとヴォルフは川沿いの道を下っていた。ムンベイからの通信もあり、ルドルフの身に迫っている危機は承知の上だった。だからこそ、全力で戻っている最中だ。

 

「急げライガー、もっと速く!」

 

 バンの言葉にブレードライガーは軽く喉を鳴らして応えた。それに少し遅れ、ヴォルフはズィグナーと連絡を取り終える。

 

「……ああ、分かった。バン君、今私の部下たちがホマレフ宰相の屋敷に向かっている。だが、戦力はこちらの二十倍らしい。鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)のメンバーを加えても差が大きい」

「二十倍!? くっそぉ!」

 

 仲間たちが対峙しているプロイツェンナイツの圧倒的物量差を聞かされ、バンは思わず毒づいた。同乗するフィーネがそれに口を開き――視界の端を通った黒い影に目を丸くする。

 

「バン、あれ!」

 

 フィーネが驚きと共に指差す先には、翼を広げた黒いオーガノイドがいた。バンはもちろん、ヴォルフも数回ほど見たことがあった。

 

「シャドー!?」

 

 黒いオーガノイド、シャドー。それがここにいるということは、間違いない。

 ブレードライガーが脚を止め、アイアンコングmk-2もそれに倣う。そして、シャドーが舞い降りた先には、黒い恐竜型ゾイド――ジェノザウラーの姿があった。

 

『待っていたよ、バン。それがブレードライガーか、なかなかいいゾイドじゃないか』

「レイヴン……」

 

 ジェノザウラーは道の真ん中を陣取り、バンたちの前に立ち塞がった。逃がさない。そんなレイヴンの意志が如実に表れている。

 

「そうだ、フィーネ。記憶、戻ったんだな」

「バン、聞いてたの?」

「ああ、古代ゾイド人のこととか、全部な」

 

 バンとフィーネの会話を聞きつつ、ヴォルフは慎重に間合いをはかった。

 できれば避けたい戦いだった。レイヴンの実力は、ガイロス帝国軍の中でも一歩突出している。

 

『余計な奴が居るね。悪いけど、観客(ギャラリー)はいらないんだ。さっさと退場してくれるかい』

「私の事か。なかなかに辛辣じゃないか、レイヴン」

『御託はいいよ。さっさとこの場から去れ。邪魔だ』

 

 どうしたものか。

 ヴォルフは間合いを測りつつ黙考する。バンと協力してレイヴンを倒すか、それともこの場は逃げの一手か。すでに戴冠式までのタイムリミットが迫っている以上、余計な時間は食いたくなかった。

 

「ヴォルフさんは先に行ってくれ」

「バン君?」

「奴の狙いは俺だ。あんただけなら、この場から逃げられる。ルドルフたちを助けてやってくれ」

「…………分かった」

 

 アイアンコングを崖の上に向かわせ、その場を去る。バンの言葉通り、レイヴンが追撃してくることはなかった。ヴォルフはそのまま帝都に向かい――だがすぐに進路を変えた。帝都に向かう道から僅かに逸れ、だがヴォルフはまっすぐそこを目指す。

 

 ――すまないなバン君。どうやら、君の願いの前に私もやることがある。どうか、生き残ってくれ。

 

 ヴォルフはアイアンコングをガイガロスに――その途上で始まった戦場に向かわせ、走り出した。

 

 

 

『さぁ来いよ。決着をつけよう、バン!』

「ああ、分かった。――ジーーーーーーーク!!!!」

『シャドーーーーーーーーー!!!!』

 

 二機のゾイドにそれぞれのオーガノイドが合体し、戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 同時刻

 

『やっと見つけたわ。ローレンジ・コーヴ』

 

 ジェノリッターから憎しみに満ちた声が轟く。アンナのものだが、以前の時とは大違いだった。以前は余裕を持っていたが、今は感情が高ぶり、すぐにでも襲いかかりたいのを我慢しているような気がする。

 ジェノリッターは前足で掴んでいた金と銀の虎の頭を無造作に投げ出した。ガランと音を立てて転がる頭部は、無念さが如実に表れている。

 

「おっさんたち、大丈夫か……?」

『どうにか……。すまぬな。このゾイド、なかなかの手練れだ』

 

 三銃士のワグナーからの答えに、ローレンジは安堵を覚えつつ緊張を緩めない。相手は、ジェノリッターは血に飢えた魔竜の様相で吐息を漏らす。

 

「スティンガー。三銃士のみんなを回収したら、逃げてくれ」

「なによぅ。アタシは足手まといって言いたいのかしら?」

「そういうことだ。悪いが、あんたらを気に掛ける余裕はない」

 

 一度だけ渡り合ったジェノリッターを思い出す。ロクな手傷も追わせられず完敗した苦い記憶。皆を逃がすしかできなかったあの時のことを思い返し、ローレンジは苦々しく吐いた。

 

「死にたくなかったら去れ。ゾイド乗りの腕でどうこうできる相手じゃないんだ、ジェノリッターは」

「……アンタがそこまで言うほどの敵、なるほどね。分かったわ。命あっての物種。アタシは退場させてもらうわ」

 

 スティンガーのセイバータイガーが金銀の頭を咥えてその場を立ち去る。残ったのは、漆黒の雷獣グレートサーベルと藍色の暴君竜ジェノリッター。その様は、向かい合う竜虎そのものだ。

 

「追撃はしないんだな。そこだけは変わらず……ってか?」

『あたしの標的はあんたただ一人。今度は逃がさない、塵一つ残さず消し去ってやる!』

 

 噛みつくような勢いのアンナにローレンジは疑問を確信した。以前のそれと、まるで意志が違う。緩慢さもあったアンナが、今日は全身全霊を込めてローレンジを倒しに来ている。

 

「フェイト、お前は――」

「――やだよ。ロージと一緒に居る」

 

 「逃げてろ」

 その言葉を口にする前にフェイトが遮った。

 

「もう、あの時みたいな思いはしたくないもん。それにバンと約束したんでしょ、絶対倒すって。ロージなら勝てるよ。だから、わたしはそれを信じて一緒に居るの」

「聞いてたのかよ。……はぁ、やるっきゃないな」

 

 こちらの意志を汲み、グレートサーベルが低く身構える。それが、戦線の火ぶたを切る合図だ。

 

『殺す!』

 

 アンナの気合いにジェノリッターの歓喜の咆哮、それらを合わせて荷電粒子砲が放たれる。ほんの一瞬のチャージ。小型ゾイドのビームにも劣る程度の集束で放たれたそれは、躱すまでもない一撃だった。だが、それに乗せられた彼女の気迫が、ローレンジに回避行動を促す。

 身を屈め、僅かに身体をよじってそれを回避した。掠める位置を過ぎ去るか細い粒子砲。一瞬の隙が生まれ、それを逃すジェノリッターではない。

 風を撒いて接近する。鋭い爪、ハイパーキラークローを振りかざすジェノリッターをローレンジとグレートサーベルは跳躍して躱す。

 

『バカめ!』

 

 ジェノリッターの背中の大剣が大上段に振われた。一閃する軌跡。鋭く重い大剣の一撃は――だが、グレートサーベルはバランサーとスタビライザーを駆使して空中で身を制御し、華麗に躱した。

 

「質問がある。お前はなんで俺達と戦う!!」

 

 アンナはヴォルフの幼なじみだ。それを知ってから、倒すべきだと決めつつ、どこか躊躇いがあった。決意した今でも、心のどこかで迷いがあった。ヴォルフの幼なじみを殺してしまっていいのか、と。

 

『知れたこと! あたしはプロイツェン様のため、ヴォルフのために戦う! それだけだ!!』

 

 グレートサーベルの着地点目がけてジェノリッターが突っ込み、回転力と体重を上乗せした尻尾の一撃を見舞う。グレートサーベルは四肢を踏ん張り、襲い来る尻尾に牙を突き立てて耐え凌いだ。

 

「プロイツェンのためだぁ? 俺達とあいつが敵対してんのは分かってんだろうが! ヴォルフは俺たちの側だ! お前はいったいどっちの味方なんだよ!」

『あたしはプロイツェン様が築く世界に、それをヴォルフが成就させると信じていた、なのに……』

 

 プロイツェンの築く世界を、ヴォルフが統治する。それは、ローレンジ達の思惑と大幅に話が違う。ギュンター・プロイツェンとヴォルフ・プロイツェンはとっくに袂を別っている。二人が手を組むような話が、ローレンジの思考に混乱を呼んだ。

 

『お前たちがヴォルフを誑かし、あげくヴォルフを見殺しにしたッ!!!! 絶対に許さない!!!!』

「ヴォルフを!? お前、何言って――ッ!!」

 

 ジェノリッターの力が増し、振り抜かれた尻尾に打ち据えられたグレートサーベルが大きく弾き飛ばされる。荒野の大地に機体を叩きつけられ、その衝撃が二人にもダメージを与える。

 

「ぐっ……くそっタレ!」

「どういうこと!? ヴォルフさんは生きてるよ! それに、プロイツェンとは一緒に行くつもりもない、ヴォルフさんは自分の意志でわたしたちと一緒に――」

『――嘘を吐くな!!!!』

 

 再び振り抜かれた大剣が、グレートサーベルの右前脚を叩き斬る。グレートサーベルが激痛に悲鳴を上げ、だが己を奮い立たせるように一声吠え上げる。

 

「耐えろ、サーベラ……。まだ、だ」

 

 切り裂かれた右足を咥え、それをジェノリッターに投げつける。ジェノリッターは続く二刀目の斬撃でそれを切り払うが、その隙にグレートサーベルは距離をとることに成功した。

 

「ロージ、サーベラのダメージが深刻だよ。片足がないから普段のスピードも出せない」

「だな。だけど……なんだ? あいつ、さっきから直線的にしか来ない」

 

 再びの突撃。頭頂部の刃を突きだし迫るジェノリッターに、僅かに身を捻ってそれを躱す。反撃に体当たりを加えるが、片足を失ったグレートサーベルの突進力は足らず、逆に尻尾で打ち払われた。

 

「あーくそ、距離を取れたらうまくいくんだが……」

「距離をとれば?」

「ああ、あいつは射撃用の兵装が荷電粒子砲しかない。射撃戦ならこっちに分がある。だけどッ!」

 

 超高速で接近するジェノリッターに逃げるので手いっぱいだった。片足を失った影響は大きく、ローレンジは回避に専念するしかなかった。それも超至近距離で戦闘だ。ジェノリッターの機動力の高さから、距離を取るのも辛い。かと言って距離を取ったところで、再び詰められては応戦のしようがない。

 

 ――格闘戦がもう少しうまけりゃ……ワグナーの言ってたことが重いな。

 

 ローレンジは格闘戦が得意ではない。それは自身も自覚していたことだ。高速戦闘での射撃は得意だが、至近距離での格闘となればサーベラとニュートを頼りにせざるを得ない。この距離では、ひたすら回避に意識を集中するしかなかった。

 

「距離をとれば……でも、ロージは避けることに集中しないと……え? それなら……でも……」

 

 フェイトも何かを考え、時折誰かと会話しているようだが、ローレンジはそちらに意識を避ける余裕はない。

 

『これで終わりだ!』

 

 無理な回避運動を続けたせいか、グレートサーベルの動きが僅かに鈍る。そこを狙ったジェノリッターの牙が迫った。

 躱せない。ローレンジの心臓が一瞬活動をやめ――直後の出来事に驚きを隠せなかった。

 

 砲撃がジェノリッターの背後から降り注ぐ。否、背後だけでなく足元からもだ。背後と地中からの連撃。

 

「アタシたちを忘れないでほしいわねぇ。まだ報酬を貰ってないのよ。それに、なかなかいいゾイドじゃない、アタシが使うのにふさわしいわ!」

「そういうこった。勝手に死んだ扱いしやがって!」

「行くぜ兄貴。俺ら賞金稼ぎの底力だ! ついでに、あのゾイドは俺たちが貰う!」

 

 スティンガーのセイバータイガーATにクロスボウ兄弟のヘルディガンナー。虚を突いた攻撃はあのジェノリッターを揺るがした。が、それだけだ。

 

『逃げてればいいものを……あたしのジェノリッターに牙向いて、ただで済むと思うな!』

 

 砂埃を巻き上げてジェノリッターが駆けた。一瞬のうちにセイバータイガーATの目の前に到達し。大剣を交互に振う。

 

『次はお前たちだ』

 

 崩れ落ちたセイバータイガーATを尻目に、ジェノリッターはいら立ちを籠めて両の爪を打ち出す。だがヘルディガンナーは砂に潜ってそれをやり過ごした。

 

「おいローレンジ! 距離をとればあいつに有効打を加えられんだろ?」

「俺と兄貴でアイツを引き付ける。その間に射撃距離をとれ!」

 

 砂が鳴動し、ヘルディガンナーがうごめいていることを知らせる。ジェノリッターはそれを砂上から叩き潰そうとするが、素早い動きになかなか捉えられない。

 

「アルバート、ロス……分かった。だが、回避しきれるかどうか……」

「ロージは避けることに集中して。それから、射撃管制を後ろに」

「……何する気だ?」

「攻撃はわたしがする。ロージは避けるのに集中」

 

 呆気にとられ言葉を失う。だが、すぐに意識を戻して怒鳴りつけるように叫んだ。

 

「バカ!! お前に正確な射撃なんかできるか!!」

「いっつもロージの操縦を見て来たもん!! それに、シュトルヒで練習もした。わたしだって、少しくらいできる!!」

「だからって、分かってんのか!? 闇雲に撃ってもジェノリッターには効かない。正確に装甲が薄い箇所を狙い撃つんだぞ! それも高速戦闘の中で!! どんだけ高等な技術か、お前は――」

「ゾイドを信頼して、ゾイドと一体になった気持ちで操れ。それが、ロージの言ってたゾイド乗りの在り方でしょ。わたしがゾイドと繋がりやすいなら、出来ないこともない!」

「あのなぁ……いいか、狙いどころが悪ければアンナを……」

 

 そこまで言って、ローレンジは言葉が続かなくなった。自分の言葉に疑問を覚えたのだ。フェイトに射撃を任せて、もしもアンナの居るコックピットを誤射したらという不安からだ。ヴォルフの幼なじみであるアンナを殺してしまうのか。その役を、殺す引き金になるかもしれない役を……自分がその道から遠ざけようとしてきたフェイトにさせていいのか……?

 

「うわぁああっ!!」

「兄貴!?」

 

 大地に叩きつけられた大剣が地中のヘルディガンナーを叩き斬る。アルバートが悲鳴と共に倒れ、それに気を盗られた隙にジェノリッターの接近を許したロスも敗れ去った。

 

『邪魔者は消えた。後はお前だ、ローレンジ!!』

 

 脚部のスラスターを噴かし、ジェノリッターが迫る。もう議論する時間はない。

 

「ロージ!!!!」

「あぁ――くそっ!」

 

 突き出されたジェノリッターの大剣を、掠めるようにして回避したグレートサーベルはそのままジェノリッターの横を駆け抜けた。一定の距離をとって左前脚を軸に機体を反転。勢いのままに8連ミサイルポッドから一斉にミサイルが放たれる。

 

『この程度ッ!』

 

 異なる軌道を描いて飛んでくるミサイルを、ジェノリッターは二本の大剣をがむしゃらに振り回して全て叩き斬った。爆炎が視界を奪うがそれすら無視し、爆炎を突っ切って躍り掛かる。

 だが、グレートサーベルは爆炎の中から現れたジェノリッターを踏み台に跳んだ。再び背後をとり、今度はソリッドライフルが大剣の付け根を狙い撃つ。

 

 怒りに燃えるジェノリッター。感情のままに反転し、唸りを上げて荷電粒子を急速吸入、一気にチャージを済ませ、外敵に撃ち放った。

 凄まじいエネルギーを帯びた光の本流が荒野を貫く。射線上にあった岩山が一瞬で消し飛び、後には何も残っていない。

 

『これで――なにっ!?』

 

 撃ち放った余韻で動けないジェノリッターの口内に射撃が撃ち込まれた。正確な一撃は荷電粒子発射口を粉砕する。さらに同時に放たれたミサイルがジェノリッターの左腕を爆発四散させる。

 

「バカ! 口の中は撃つんじゃない! 砲塔が暴走して大爆発するかもしれねぇだろ! 脚の関節を潰して動きを封じるんだ!」

「う、うん。――でも!」

 

 ソリッドライフルの射撃が背後から襲い、ジェノリッターの大剣の内一本が根元から千切れ墜ちた。

 

『そんな……なぜ!? あたしは、ヴォルフのために……』

「違う!」

 

 三度目のミサイルが――煙幕弾に切り替えたそれがアンナの視界を覆い、横合いから跳躍し落下の力も加えたグレートサーベルが襲いかかる。残った左足を叩きつけてジェノリッターを横倒しにする。左足で身体を踏みつけ、雄々しく吠えた。

 

「あなたは、自分の目でヴォルフさんを見ていない。あなたはプロイツェンの言葉でしか判断してないの! それだけヴォルフさんのことを想うなら、自分の目で、耳で、ヴォルフさんの意志を確かめて!!!!」

「あ~……言うこと盗られたがな、もっと視野を広げろってことだ。お前の視点がどんだけ小さいか、良く分かる。それに、さっきフェイトが言ったことを確かめたいなら、ほら」

 

 グレートサーベルが顎で示す。その先には、燃えるような朱の機体色のアイアンコングがブースターを噴かしてこちらに向かっていた。

 

「ローレンジ! 無事だったか?」

「この状況見て、無事と言えんのかよ」

 

 八つ裂きにされたセイバータイガーATに叩き斬られたヘルディガンナー。頭部しか残っていない金と銀のセイバータイガーに、右前脚が斬り捨てられたグレートサーベル。ジェノリッター一機を抑え込むのに被った被害は甚大だった。だが、それだけの犠牲を払ったおかげで、ジェノリッターは動きを止めている。。

 ローレンジがグレートサーベルの足元のそれを示し、ヴォルフのアイアンコングが急いで駆け寄った。アイアンコングの通信をジェノリッターに繋げ、映し出された顔を見て驚愕に目を見張る。

 

「アンナ? アンナか!?」

『ヴォルフ……生きてた、の?』

 

 グレートサーベルが脚を退けて下がった。ジェノリッターが立ち上がり、だが先ほどまでのように攻勢に出ることはない。

 

「アンナ……まさか本当にそちら側だったとは……なぜだ? なぜお前が父――プロイツェンの元に!?」

『ヴォルフ。昔、プロイツェン様が言っておられたことを覚えているでしょう。ゼネバス帝国の復興を。あたしは、あなたがその後を継いでこの星を守っていくものと思っていた。なのに、あなたはプロイツェン様と敵対して……』

「それは……」

 

 二人の会話を聞きながら、ローレンジも一つ思い返す。

 鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)はゼネバス帝国の遺児が集まった部隊だ。その根本部隊員の大半は、元ゼネバス帝国の遺児である。

 例外はある。ウィンザーは生粋のガイロス帝国の国民だ。だが、それが例外で、ほとんどは元ゼネバス帝国の人間だ。そしてプロイツェンの野望。今のプロイツェンは私利私欲のための者と化しているが、ヴォルフは以前「今の(・・)父上にはついていけない」と言っていた。今の、ということは以前のプロイツェンなら共に歩むことを考えたのか? 同じ目的――ゼネバス帝国復興という大きな目的に。

 それこそが鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)結成の真実。

 

「――アンナ、聞いてくれ。私は、父と共に行くつもりはない。奴の身勝手な野望を打ち砕き、奴が復活させた破滅の魔獣はこの手で打ち倒す。そして、そののちに、私たちの望むゼネバス帝国を復興して見せる! 私たちの手で!」

 

 ゼネバス帝国の復興。それを今一度考え、ふと、なぜヴォルフが指揮官に立っていたかに気づくことが出来た。なぜローレンジとさして変わらない年齢の若すぎる男がこの部隊を指揮しているのか、みなが従うのか。

 すっかり気づいていなかった自分はそうとうな間抜けだと笑いたくなる。

 

 ――ムーロア、か。面倒な血筋だな、ヴォルフ。

 

『ヴォルフ……』

「だから、そのために協力してくれないか? また昔みたいに、一緒に」

『……ええ、そうね。……もう、あなたが生きていただけで十分。これからは、あたしも――』

 

 

 

 アンナが答え、アイアンコングとジェノリッターの、ヴォルフとアンナの距離が近づいたその時、

 

 

 

 ジェノリッターの頭部装甲が、爆発した。

 

『ガァァァァアアアアアッッッ!!!!』

 

 暴君竜の、真の誕生の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その戦場を見渡せる位置に、一人の男がいた。薄い金の髪に、バイザーを身に着けた長身の青年。名を、ガルド・クーガル。鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)と激突したテラガイストの幹部である男だ。

 

「ガルド様。ジェノリッター――いえ、ヤークトジェノの封印を解きました。ここも巻き込まれるでしょう。撤退を」

 

 傍らに立つ屈強な男、レザール・シャルの言葉にガルドは小さく頷いた。その横にはオレンジの髪の女性――リバイアス・カノーネが不安を表に出しながら下を向いていた。

 

「ガルド様。私たちはこれから……」

「しばらくは身を隠す。行くぞ」

 

 ガルドの言葉を皮切りに、それ以上言葉が交わされることもなく三人はその場を去る。その背後、戦場ではそれまでよりも強い輝きが満ちていた。荷電粒子砲の、絶望を覚えさせる煌めきが。

 




はい、後半に続きます。
真の暴君竜が牙を剥く。

それと、ここで一つ。バンVSレイヴンの戦いですが、この小説では描きません。詳しい理由は本章の後書きに載せますのでご容赦ください。

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