ZOIDS ~Inside Story~   作:砂鴉

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第19話:強襲、暴君竜

「クッソォ!! なんなんだあいつは!?」

 

 愚痴を吐きながらAZ2連装ロングレンジキャノンが唸りを上げる。だが、対峙した敵機は軽々とそれを躱した。至近距離だったはずなのに恐ろしい機動力だと毒吐くのは、へリック共和国陸軍高速戦闘隊所属、トミー・パリス中尉だ。

 搭乗しているの機体は青いコマンドウルフ。背中の装備がAZ2連装ロングレンジキャノンに換装され、その分増加した重量は後ろ脚に装備されたブースターで補強されている。強化型コマンドウルフ、コマンドウルフACだ。パリスの長年の愛機を強化した機体。

 

 敵機の背中に装備された大剣が振り下ろされ、間一髪のところでそれを躱す。躱した一撃は大地を大きく裂いた。間一髪の生還にパリスの身体からどっと冷汗が湧き出る。

 

「おいコラァ!! いきなり攻撃とか、なんだってんだ!?」

『帝国領内で行動中の不信な共和国ゾイド部隊。攻撃しない方がおかしいと思わないかしら?』

「両国間で和平が成立しただろうが!? それを無視してこんなこと……」

 

 パリスは極秘の任務でここに来ていた。

 ガイロス帝国の領土に忍び込み、開発中の新型飛行ゾイドの設計図を奪取。それがパリスに与えられた任務であった。だが、任務の途中で帝国との休戦が成立。

 これについてパリスは「共和国の一大事に参戦できず、おまけに任務の途中で休戦だぁ? ふざけんじゃねぇ……ったくよぉ!!」と愚痴っていた。それを同僚に宥められながらの行動。そのさなか、突如として謎の帝国ゾイドに襲撃を受けたのだ。

 見たこともないゾイドだった。体形は最近配備された帝国の小型ゾイド――レブラプターに近い。だが、対峙するそれは大型ゾイド。それも、その大型ゾイドの身の丈ほどもある巨大な大剣を二本背中に装備、さらに頭部には禍々しい仮面と真紅の剣のような角を装備している。

 

「ちょうどよかったわ。まともな実戦はまだ試してなかったの」

 

 そう一方的に告げ、襲いかかってきたゾイド。その力は圧倒的だ

 パリスたちも並のゾイドではない。

 パリスの同僚のゾイドは、山岳仕様に改装されたクライマーウルフ。さらに双頭のケルベロス。どちらも共和国で開発された強化型コマンドウルフだ。それに加え重歩兵のクマ型ゾイド、ベアファイターがいる。

 新型ゾイドを含む、十分な戦力だった。

 

 それがかすり傷も負わせることが出来ない。パリスの頭は、この強敵からどう退くか、それで一杯だった。

 

「……案外大したことないのね。さて、こっちの実戦テストをしましょうか」

 

 謎のゾイドのパイロットがそう呟くと、それは尻尾から口の先まで槍を通したように真っ直ぐになる。口内の砲塔が伸び、そこにエネルギーが注ぎこまれていく。

 

「ん? なにしてんだ?」

「ゾイドが、砲塔になった?」

 

 ケルベロスとクライマーウルフのパイロットがその動作を訝し気に見る。そして、動かないのを見て、ここが好機だと見定め、コマンドウルフのエレクトロンバイトファングを閃かせ飛び掛かる。

 

「――!? あれは……ダメだ!! お前ら逃げろ!!」

 

 そのパリスの注意は一瞬遅い。

 牙が謎のゾイドに到達する刹那。それが放たれた。

 凄まじい熱の光が二機の強化型コマンドウルフを嬲り、その機体は一瞬にして光の彼方へ消え去った。

 

「そんな……ばかな……」

 

 ベアファイターのパイロットが信じられない光景だと言わんばかりに絶句した。ゾイドが光に消え去って行く光景など見たこともなく、それを想像もしなかっただろう。当たり前だ。

 

「バカッ!! 止まってんじゃねぇ!!」

 

 パリスが鋭く注意を呼びかけ、同時にロングレンジキャノンを撃つ。発射直後の硬直を狙い、しかも発射口である口内に狙いを絞った射撃。しかし、いち早く反応したそれは背中の大剣を機体の前でクロスさせ砲弾を弾く。

 そして、驚きで硬直したベアファイターに一瞬で肉薄する。ベアファイターのパイロットも経験を積んだゾイド乗りだ。一瞬で目の前に現れた敵機に対し、どうにか意識を戻す。ベアファイターが二本足で立ち上がり、前足の爪で立ち向かった。

 ベアファイターは四足歩行から二足歩行に素早く移行し格闘戦と射撃戦を切り替えられる万能なゾイドだ。これで倒せなくとも一矢報いることはできる。決死の覚悟で確信した。だが甘い。対峙したそれは、これまでのゾイドとは格が違う暴君竜なのだ。

 

 一瞬だ。パリスの目には、閃きが走ったようにしか見えなかった。その一瞬の閃きの後、ベアファイターは四つに分断され、崩れ落ちた。そして、ベアファイターだった鉄屑を踏みにじってそれが進み出た。

 

『残るはあなた一人。ああ、後ろのグスタフは換算してないわよ。あんなの、倒す価値もない。でも、積み荷は潰させてもらおうかしら』

 

 一歩一歩、踏み出すたびにパリスの心臓が高鳴った。先ほどの閃光――荷電粒子砲は見たことがあったからこそ躱し、反撃できた。だが、反撃できることと倒せることはまた別だ。

 そしてパリスは悟った。このゾイドには、反撃は出来ても一矢報いることは不可能なのだと。じりじりと距離が詰められる。遂には目前まで到達した。

 

『もう、やる気がないのかしら。でも安心して、あなたたちのことは、このジェノリッターの最初の獲物としてあたしが覚えといてあげるから』

「くそ……こんなとこで終われるかよッ!!」

 

 一矢報いるのが不可能だろうとやってみなければわからない!!

 それが、パリスの信念だ。

 

 

 

『あら? なにかしら?』

 

 大剣が振り下ろされる瞬間、意識の外からの射撃が連続し、ジェノリッターの動きが止まった。ジェノリッターからすれば何の痛痒もない。風に乗った木の葉が当たった程度の感覚でしかない。だが、意識外から来たそれによって、パリスから意識が逸れる。

 パリスはそれを逃さず、全力でジェノリッターから距離をとった。そこに、ジェノリッターの意識を散らした元凶が現れる。

 

「よぉパリス中尉。こんなとこで会うなんて奇遇だな」

「てっ、テメェはローレンジ!? どうしてここに!?」

「話は後。相手は、あれか?」

 

 そのゾイドはローレンジにとっても見たことの無いゾイドだった。その姿が視界に入った瞬間、フェイトが身を縮こませた。

 

「なに……あれ。見たことないけど……なんだか怖い」

「ジェノリッターっつうらしい」

「ジェノリッター? 知らねぇ名前だな」

 

 森の中からローレンジのヘルキャットが現れ、パリスのコマンドウルフACの横に立つ。

 

「あいつ……じゃない。あれはレイヴンのじゃないね。色も装備も違うわ」

「ああ、同系機だろうな。あんなのが二機もいるとは」

 

 次いで現れた片翼のレドラーに乗るロッソとヴィオーラが唸った。

 

『レイヴン? ジェノザウラーの方に会ったことがあるのね』

「ジェノ、ザウラー……」

 

 フェイトが呟く。その声には、これまでにない恐怖が含まれていた。フェイト自身は気づいていないが、身体が震えている。背後からのその恐怖心は、ローレンジにも嫌というほど伝わってくる。

 

 ――こいつは……デスザウラー系列か? それにこれ……やっぱ、――しかないか。くっそ! フェイトを連れて来るんじゃなかった!

 

 見ただけで分かった。圧倒的力差をローレンジは肌で感じ取る。

 迷ったのは一瞬だった。即断即決。ローレンジはすぐさま取るべき行動を定める。

 

「……パリス中尉、そこのグスタフは?」

「帝国の新型飛行ゾイドの設計図とその他諸々を乗っけてる。レッドリバーで調整して使うって話だ」

「レッドリバー……共和国の前線基地か……なら、少しは安心かな」

 

 納得し、背後を見やる。そして、やはり変わらなかった決断を告げる。

 

「パリス中尉。それにロッソとヴィオーラも。あれは俺が引きつける。だから、さっさと離脱しろ」

「なっ、バカ言ってんじゃねぇ!! 死ぬ気か!?」

「なわけねーだろ。だけど、それが一番確実だ」

「ざけんなッ!! それは俺達軍人の、大人の仕事だ。逃げるならお前が――」

「――なら、フェイトを頼むってことでいいか?」

 

 間髪入れずにローレンジは告げた。それに、その場の全員が言葉を失くす。

 

「……え? 何言ってるの? ロージ?」

「あんなのと渡り合って、無事で済むわけがない。俺はもちろん、一緒のフェイトもな。それに、このことが共和国に知れたら、確実に軍を動かせる。こんな危険なゾイドを量産してるとなれば無視は出来ない。それには、共和国軍のパリスが生きて帰る必要がある」

「いや、オレの伝令ってことにすりゃあ……」

「じゃあ決定的なことを言おうか? パリス、あんたにあれの足止めが出来るのか?」

 

 瞬時に反論しようとして、パリスは言葉に詰まった。

 ついさっき、ジェノリッターに威圧され、なすすべもなく死のうとしていたのだ。それが事実だった。さらに、パリスは以前ゾイド戦でローレンジに負けている。それから成長したとして、同じようにローレンジも成長しているのだ。おそらく、実力差はまだ塞がっていない。

 そして、ロッソとヴィオーラも同じだ。片翼のレドラーでは足止めどころか道端に転がる石ころ程度にしかみなされない。対峙したところで、一瞬で切り裂かれるのは目に見えている。

 

「あんたと共同戦線張っても勝てる気がしない。足手まといだ。ま、俺も生きて帰る自身がないんでね。せめて、フェイトだけは生かしてやってくれ」

「……………………分かった」

「ねぇ、ちょっと……」

「ってわけだ。ニュート、フェイトをグスタフに押し込んだら戻ってこい。頼むぜ」

「待ってよ……ねぇ……!!」

 

 ニュートは合体を解くと開かれたコックピットに入り、フェイトの軽い身体を咥えると軽やかに飛び去る。その瞬間。

 

「長いようで短い二年だったな。妹が出来たみたいで楽しかったよ」

「ロージ……待って!!」

 

 ニュートは素早くグスタフのコックピットにフェイトを投げ込み、そしてヘルキャットに戻る。

 

「――行くぞ、戦線を離脱する!!」

 

 グスタフが慌ただしく動きだし、その後ろにレドラーが、そして背後を警戒しつつコマンドウルフACが付き添った。

 

 

 

 

 

 

「わざわざ待ってくれるなんてな。狙いは俺か?」

『そのためにあなたが逃げれない環境を整えるのを待ってたんだから。当然でしょ』

「……鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)と連絡がつかなくなった時から嫌な予感はしてたんだ。俺たちのことはとっくにプロイツェンにバレて、あいつらも潰された。次は別行動だった俺達ってわけだ」

『ええ、その通りよ。でも安心して。さすがにあんな幼い子を手にかける冷血じゃないのよ、あたしは。だからあの子は見逃す。でも、あなたはここで倒す』

 

 ジェノリッターが大剣を構える。その姿に、ローレンジは不敵に笑ってみせた。長らく忘れていた獲物に向かう狩人の血。殺し屋の本分。本気で相手を叩き潰しに――殺しにかかるゾイド戦。

 

「そうかい。でも、俺も簡単にやられたら昔のあだ名に泥を塗っちまう。精々暴れさせてもらうぜ? 暴風(ストーム)の名に恥じないように、な」

 

 僅かにヘルキャットが震えたような気がした。怖がっているのだ。目の前の暴君竜に対して。そして、コアに融合するニュートは恐れながらも興奮している。根っこにある闘争心が刺激されたのか、恐怖と闘争心がせめぎ合うのが分かった。

 不思議な感覚だった。ゾイドの、相棒の心象が伝わってくる。こんなこと、6歳のころからゾイドに乗り続けてきて初めての事だった。長年ゾイドに乗って来たが、ようやくゾイド乗りの一つの境地、ゾイドとの意思の繋がりを明確に感じられた。

 

 ――悪いな。でも、最後まで付き合ってくれよ、相棒ッ!!

 

『クゥォオオオッ!!』

『ギィアアアアッ!!』

 

 己と相棒たちの気力を振り絞るように、ヘルキャットとニュートは咆哮をあげる。

 

「いくぜぇえええええ!!!!」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 大剣が頭上を薙ぐ。躱しきれず、背部のビーム砲が斬りとばされた。だが、大剣が大きく薙がれた瞬間こそがチャンスだ。一撃が終わった後の硬直を狙い、ローレンジはヘルキャットの腹部のレーザー機銃のトリガーに指をかけた。

 

「ここだっ!!」

 

 機銃が火を噴き、レーザーがジェノリッターの小さな腕に何度も撃ち込まれる。だが、ジェノリッターは何の痛痒も受けた様子もない。逆に鋭い爪――ハイパーキラークローでヘルキャットの身体に掴みかかる。間一髪で後ろに跳ぶことでそれを躱し、前方に倒れかかったジェノリッターに再度砲撃を加える。しかし、その前に翳された大剣がレーザー弾をすべて弾いた。

 ジェノリッターは体勢を立て直し、荷電粒子砲の発射体勢に移る。全力でヘルキャットを射線上から逃れさせ、一拍おいて荷電粒子砲の衝撃波が機体を嬲り、吹き飛ばした。

 

 空中で何とか姿勢を制御し、発射後の硬直を狙ってレーザー機銃を叩きこむ。だがダメだった。防がれたわけでもないが、ジェノリッターの装甲には傷一つ与えられない。ジェノリッターからすれば、蚊がとまった程度の感覚だろう。

 それでジェノリッターを苛立たせることは出来る。だが、苛立たせることと倒せるかは当然ながら全く別の話だ。

 

「……ダメか。ちっとも倒せる気がしねぇ」

『でも、諦める気はないみたいね』

「当たり前だろ」

『ふふふ、そうこなくっちゃ。あたしとジェノリッターを、もっと楽しませてちょうだい』

 

 ――くっそ、余裕綽々かよ。楽しむとか俺のセリフだろうがッ!!

 

 心の中で毒吐きつつ、ローレンジはヘルキャットをジェノリッターから遠ざける。ジェノリッターは接近戦主体のゾイドだ。主要な火器は荷電粒子砲一つで、その他の装備は牙であったり爪であったり、全て格闘戦用の装備だった。

 射撃戦となれば、ジェノリッターは隙の大きい荷電粒子砲しかない。対してヘルキャットは背中のビーム砲を切断されたものの、まだ腹部のレーザー機銃を残している。

 ローレンジのヘルキャットは各部位に独自の改良を施し、さらにゾイドに関しては天才的な科学者、ザルカの調整も入っていた。各武装の威力は、小型ゾイドでありながら中型ゾイド並みの力を得るまでに至った。

 

 だが、今回は相手が悪すぎたと言えよう。

 ロッソたちの証言で、同系機だろうジェノザウラーがアイアンコングを圧倒する力を有することが証明されている。アイアンコングと言えばガイロス帝国の主力ゾイドだ。共和国最強と名高いゴジュラスに対抗し造られたゾイド。

 ジェノザウラーはそれを易々と撃破する力を持っている。同系機のジェノリッターも同様だろう。

 

 すでにヘルキャットのレーザー機銃は何度も撃ち込まれている。狙いも絞り、装甲が薄いだろう箇所を狙っている。だが、それでもジェノリッターはびくともしなかった。ローレンジの脳裏に、“敗北”の二文字が過る。

 

 ――まぁ、あいつらは十分に逃げれただろうし、目的は完遂。……逃げれる保証、なさそうだな。

 

『……そろそろいいかしら。飽きてきちゃったわ』

 

 ジェノリッターのパイロットがそう口にした瞬間。ジェノリッターが一瞬で消えた。ローレンジは目を疑う。その時には、目の前に巨体があった。

 ジェノリッターが回転する。回転の勢いを乗せた尻尾が横合いからヘルキャットの機体を打ち据え、叩きとばす。さらにジェノリッターは右手首を発射。ロケットアンカーで本体と繋がれた手は岩山に叩きつけられたヘルキャットの身体を掴み、爪を喰い込ませて引き戻した。

 二度三度と機体をあちこちにぶつけられ、コックピットが大きく揺さぶられる。

 意識が飛びかけたローレンジは操縦桿に齧りつくように意識を保ち、次の瞬間、凄まじいショックが全身を襲った。

 

「――ッッッ!! うわあああああああああ!!!!!!!!」

 

 ジェノリッターの身体から電撃が走り、それが爪を伝ってヘルキャットの全身を嬲る。コックピット内のローレンジもそれを受け、喉の奥から絶叫が迸る。

 

 

 

 電撃が収まった時、コックピットの中でローレンジはピクリとも動かない。意識はあったが、身体が言うことを聞かなかった。

 

『ギ……キィ……キゥァア……』

 

 ヘルキャットに合体していたニュートが受けたダメージも尋常ではない。苦しげな悲鳴を漏らし、だが、這って逃げることすらできない。

 

『…………終わり、かしら』

 

 ジェノリッターの大剣が振り下ろされる。もはや避けることもできないヘルキャットを両断する。ゾイドコアは無事だが、それはジェノリッターのパイロットがあえてそうしたのだろう。

 

『なかなか粘ってくれたわね。でも、もうおしまい』

 

 ジェノリッターが尻尾を伸ばし、口内からは砲塔が突きだしエネルギーが注ぎこまれる。

 荷電粒子砲の発射体勢だ。今度は、絶対に逃げられない。

 

『あなたのこと、覚えておいてあげる。……そう言えば、自己紹介を忘れていたわ。アンナ・ターレス。それが、あなたを倒す者の名前。覚えておきなさい、ローレンジ・コーヴ』

 

 ――アンナ……ターレス? ……どっかで、聞いたような名だけど……。

 

『…………さよなら』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……エネルギーが限界か。ふふ、もう、絶対に追撃は出来ないわね。ホント、良くここまでやってくれたわ」

 

 アンナは静かに嘆息する。いや、感心していた。

 途中までジェノリッターは本気を出していなかった。アンナの意志でなく、ジェノリッター自身が「相手にするまでもない」と考えていたからだ。だが、粘り強い抵抗に業を煮やし、決め手の一撃で本気を出していたのだ。

 結果的にローレンジとヘルキャットは負けたのだが、裏を返せば性能差が違いすぎるゾイドを相手に本気を出させるまで健闘したのだ。一ゾイド乗りとして、負けた気がしないでもない。

 

 ローレンジの目的はジェノリッターに仲間を追撃させないことだった。

 ジェノリッターは攻撃、防御、スピードが高い水準にある機体だが、その分消費するエネルギーは膨大だ。それをエネルギー切れ寸前まで追い込んだ。目的を果たした、立派な戦いぶりと言えよう。

 戦場だった場所を見て、アンナは歯を噛みしめる。強く。

 

「あなたがいけないのよ。あなたが……あなたたち鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)がヴォルフを誑かした。ヴォルフは、プロイツェン様の描くゼネバス帝国を継ぐはずだったのに……あなたたちの所為で……!!」

 

 戦闘中は押し隠していた想い。それがアンナの口から漏れ出す。

 

『グァア……』

「そうね、ジェノリッター。もう、後戻りはしない。プロイツェン様のために、行かなくちゃね」

 

 ジェノリッターが大地を踏みしめる。そこには、ついさっきまでヘルキャットが居たのだが、もう、その姿は、どこにもなかった。

 

 

 

 荷電粒子の光と共に、ヘルキャットは――ローレンジは消え去った。

 




パリス中尉には申し訳ない。彼の役回りはこんなのばっかりだ。

ともかくこの先もご覧いただければ幸いです。

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