ZOIDS ~Inside Story~   作:砂鴉

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今回は少し時間を戻って鉄竜騎兵団の話です。
あるゾイドゲームから彼らが登場。


第16話:襲撃

 ローレンジとフェイトが退艦した後のドラグーンネストは引っ越しの準備に移っていた。

 今後は陸域での活動が主となる。そのために、海底の拠点であったドラグーンネストから一時撤退するのだ。一部の乗組員を残し主要な幹部たち、そしてゾイドのほとんどを嘗ての陸上の拠点に移す。かなり大規模な引っ越しだった。

 

 

 

 そして、その途上に、突如それは起きた。

 

 

 

 爆音が耳を劈き、ヴォルフは思わず振り返った。鋭い視線が飛んだ先には、爆炎に包まれるドラグーンネストがある。

 

「何事だ!」

 

 傍らの整備兵に呼びかけ――身を捩じってヴォルフはそれを避けた。ナイフだ。鋭い刃がヴォルフの首筋目がけて繰り出されていた。

 

「くっ……何をする!?」

「申し訳ありませんヴォルフ様。本意ではないのです。ですが、閣下の邪魔をするならば!」

 

 ――閣下だと!?

 

 再びナイフが繰り出され、ヴォルフは屈みこんでそれを躱し、逆にカウンターのアッパーを打ちこむ。彼の手から零れ落ちたナイフを弾き飛ばし、ヴォルフは油断なく周囲を見渡した。ドラグーンネストの周囲で小競り合いが起きていた。しかも、ついさっきまで仲間同士だった者で。

 

 ――何故だ……何故だッ!? 何故こんなことに……。

 

「殿下っ!」

 

 聞きなれた声にヴォルフは瞬時に反応する。ズィグナーだ。ヴォルフの傍に仕える彼の側近。

 

「ズィグナー、これは?」

「申し訳ありませんが、私にも分かりませぬ……ですがすぐにご退去ください。共和国軍が迫っております!」

「共和国が!?」

 

 ここは国境線にほど近いがそれでもガイロス帝国の領土だ。へリック共和国が現れる理由は一切ない。

 内部での反乱に続いて共和国軍の接近。すでに混乱の極みであった現場は、さらなる高みへと押し上げられる。

 

「私が呼んだのですよ。殿下」

 

 その声は、ズィグナーではない。目の前に現れた男だった。

 

「キサマは……バカな……」

 

 ヴォルフは思わず言葉を失う。それはズィグナーも同様だった。

 それもそのはずである。目の前に現れたアイアンコングのコックピットの男は、髪の色こそ燃えるような朱だが、言動や立ち振る舞い、そしてその声音は……ヴォルフの父その人だった。

 

「初めまして、ヴォルフ様。私は、バイパーと申します」

「バイ……パー……?」

「プロイツェン様の影武者として、我が私兵部隊――テラガイストを率いる者です」

「テラガイストだと!? そんな部隊が……」

 

 ズィグナーが狼狽する。

 当然だ。プロイツェンの私兵部隊は二つある。

 一つはプロイツェンナイツ。これはプロイツェンの親衛隊的な役割が大きく、また秘密警察のような役割も担っている。

 そしてもう一つ、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)。こちらはプロイツェンの密命を受け、密かに戦争の中で暗躍してきた実績がある。

 

 そのどちらでもない第三の存在、テラガイスト。その存在は、ヴォルフが幼いころから彼に仕えてきたズィグナーですら知らない部隊だった。

 

「我々のことは知らずとも結構。あなたたちの役割は今後、我々が引き継ぎます。安心して、死んでいくといい」

 

 儀礼に満ちた言葉、それと共にバイパーはコックピットに収まりハッチが閉じる。バイパーの乗機はただのアイアンコングではない。特殊改造が施されたプロイツェンナイツ専用の機体――アイアンコングPK。

 

「さようなら。ヴォルフ様」

 

 アイアンコングの肩のビームランチャーが輝き――だが、その巨体は大きく揺らいだ。横合いからのクラッシャーホーン。それを成したのはガトリング砲を備えた真紅の機体――レッドホーンBGだ。

 

「ヴォルフ様、無事か! さっさとコイツらを蹴散らして避難するぜ!」

「すまん、助かったぞウィンザー!」

「なーに、ヴォルフ様を失うのは俺様たちにとって形容しがたい事態だからな。壁役は俺様に任せろっ!」

 

 ウィンザーのレッドホーンは踵を返して駆けていくヴォルフとズィグナーを見送り、機体を反転させてアイアンコングと向かい合う。

 

「さて……我らがヴォルフ様を殺そうとしてくれたんだ。俺様の怒りの色は! このレッドホーンよりも赤い!」

「おろかな、レッドホーン一機で何が出来る?」

 

 アイアンコングPKの背後から、アイアンコングをデフォルメしたような小型のゴリラ型ゾイドが数体現れた。

 

「ハンマーロックねぇ……いいぜ。敵が多いほど、俺様のハートは燃え上がるッ!」

 

 

 

***

 

 

 

 ヴォルフが愛機、アイアンコングmk-2限定型を起動させたとき、ついにバイパーが呼んだという共和国の部隊が出現した。目の前に立つ巨体は、ヴォルフを威圧するに十分な迫力を有している。

 

「ゴジュラス……だと?」

「帝国からの応援要請は受け取った。これより、謎の武装集団を殲滅する。いくぞ!」

 

 目の前に居たのは共和国最強の機獣――ゴジュラス。それも、長距離キャノン砲を標準装備したガナー仕様だ。

 ゴジュラスの護衛であるゴドス部隊がヴォルフのアイアンコングに群がった。だが、その眼前に一体のゾイドが立ち塞がる。鼻先の火炎放射機を噴射し、ゴドス達を寄せ付けない。

 

「ツインホーン――ズィグナーか!」

「殿下! こやつらは私にお任せを、殿下はゴジュラスを頼みます。そのアイアンコングなら、ゴジュラスが相手でも渡り合えるはず」

「分かった! 死ぬなよ」

 

 ゴドス達を左手の甲に装備されたパルスレーザーガンで蹴散らし、ヴォルフのアイアンコングmk-2がゴジュラスガナーに迫る。

 

「いけぇっ!」

 

 コングの拳が唸りを上げ、ゴジュラスが長大な尻尾を振ってそれを迎撃する。僅かに装甲をひしゃげさせたが、その衝撃を全て伝えきる前にゴジュラスに打ち払われ、アイアンコングは尻餅をつく。

 追撃の格闘戦に持ち込むゴジュラス。だが、ヴォルフもコングの左肩のロケット弾を放って寄せ付けない。

 

「くっ……キサマらいったい……?」

「自己紹介がまだでしたな。我はへリック共和国のレザール・シャル少佐だ。まぁ、共和国には身を潜めているにすぎんがな。我も当然ながら、テラガイストの人間だ」

「テラガイスト……共和国にまで潜入しているのか」

 

 言いつつ、ヴォルフは己の予想が最悪の形で実現しつつあるのを自覚した。そして、その予想はバイパーの言葉を思い出す形で確信へと至る。

 

 

 

鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)全団員に伝える』

 

 拡声器を用い、敵に聞かれるのも構わずヴォルフは叫ぶ。

 

『我ら鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)は今日この時をもって一時解散とする。団員諸君、私から最後の命を伝える。――生きろ! 再会の時を信じて、生き延びるのだ!』

「ヴォルフ様! ですが……」

 

 ズィグナーの言葉を、半ば無視して、ヴォルフはそう決意するに至った経緯を話す。

 

『父上は――プロイツェンは我らを見限った! 奴にとって我々、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)はすでに逆賊の徒でしかない! 我らが密かに敵対し続けた奴は、ついに牙を剥いた! もはや隠す必要もない!』

 

 ヴォルフの言葉は、当然テラガイストのメンバーにも届く。バイパーは、密かにほくそえんだ。

 

「……ふっ、ようやく、化けの皮を剥ぐ気になったか。それでいい。プロイツェン様の息子は、私だけだ」

 

 バイパーの乗るアイアンコングPKが拳を振り上げ、接敵するレッドホーンBGに叩きつける。ガトリング砲が砕け、レッドホーンBGの悲痛な叫びが轟く。

 

「くっそぉ……システムフリーズか!」

「ふん。手こずらせおって……」

 

 アイアンコングPKのビームランチャーがレッドホーンBGのコックピットに照準を合わせる。アイアンコングPKの武装のなかで最も強力なそれを喰らえば、いかに動く要塞と呼ばれるレッドホーンであろうと大破は必死。

 

「私の邪魔をするな。愚かなムシケラが――なにぃ!?」

 

 その刹那、再びアイアンコングの巨体が揺れた。それを成したのは黒いセイバータイガー。ミサイルとバランサー、スタビライザーで機動力と火力を強化した機体だ。それが鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)にあることはウィンザーも知っていたが、そのセイバータイガーはこれまでどのゾイド乗りも受け付けず、その真価を発揮することは今日まで一度もなかった機体だ。

 

「あれは!? 誰も乗りこなせなかったはずじゃ……?」

「フハハハハ、誰がそのようなことを言ったのかね?」

 

 戦場のはるか上空、そこにサイカーチスが居た。乗っているのは鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の科学者――ザルカだ。横には、その護衛についたサファイアのレドラーが飛行している。

 

「ワタシの科学に不可能はない! 奴には悪いが、少し弄って自動操縦に改造させてもらったのだよ。動かないまま失わせては、それこそ奴に会わせる顔がないからな」

 

 にやりと狂気の笑みを浮かべるザルカ。自身の研究成果ともいえるそれを満足げに見下ろす。

 そのザルカの乗るサイカーチスを狙ってテラガイストの黒いレドラーが迫るが、護衛であるレドラーに阻まれる。

 

「黒いレドラー……改造機ですか」

「ほぅ。わたしの進路を妨害できるとは……いいぞ、もっとやろう」

 

 黒いレドラーのパイロットは薄く笑み、巧みに黒いレドラーを操縦して見せた。サファイアも負けじと愛機のレドラーを操り防戦を繰り広げる。

 

「わたしは、テラガイストのリバイアス・カノーネだ。お前なかなか強いな。気にいったぞ。名は?」

「私は鉄竜騎兵団のサファイア・トリップです。ザルカ博士の護衛は、最後まで完遂して見せます!」

 

 赤と黒、二機のレドラーが華麗な空中戦を繰り広げる。

 

 

 

 

 

 

 バイパーのアイアンコングPKは、なかなか戦果を上げられなかった。

 眼前に立つのは一機のセイバータイガー、それも自動操縦だ。簡単に仕留められる。さっきのは、不意を突かれただけだ。バイパーはそう思っていた。

 

「くそぅ、どういうことだ」

 

 黒いセイバータイガーの動きは、まさに暴風と呼ぶべきものだった。

 たった一機ながら、機動力を活かしてハンマーロックを翻弄。大型ゾイドのパワーを最大限に発揮し、一撃でハンマーロックを叩き潰す。ハンマーロックは小型ゾイドの中では装甲が厚いゾイドだ。それを、吹き荒れる風が木々をなぎ倒すかのように、黒いセイバータイガーはハンマーロックを撃破している。

 バイパーのアイアンコングPKも肉薄している。アイアンコングPKは武装だけでなく動力機関も強化・改善され、通常のコングの三倍の戦闘力を有するほどだ。そのアイアンコングPKが全く反応できない。末恐ろしい機動力だった。とても、自動操縦の機体とは思えない。

 

 それは、相対するバイパーだけでなく、味方のウィンザーにとっても同様だった。

 その黒いセイバータイガーは、ある意味特殊な機体だった。以前の主に固執しているのか、いかなるゾイド乗りも受け入れない孤高の虎だ。以前の主の息子(・・・・・・・)でさえ受け入れようとしない。

 だから、これまで黒いセイバータイガーが戦っている姿を見た者はいなかった。ただの一人も。それが、テラガイストの部隊を相手に無双しているのである。

 繰り返すが、パイロットもなしに。

 

「すげぇ……なんなんだ、こいつぁ……」

 

 ウィンザーは思わず唸る。普段は軽口を言うだけの口が、ただただ賞賛のために動いた。嘗て同様の機体を操ったことのあるウィンザーには分かった。あんな動き、到底できる訳がない。凄腕のパイロットがいたとしても、出来る訳がないと。

 

「すげぇ……すげぇぜ! こいつがザルカ博士の言ってた――」

 

 

 

「――野生の本能。まさかこれほどとはな」

 

 上空のザルカも唸った。心が躍っていた。

 

「自動操縦にする変わり、ゾイドの本能を引き出す。完璧にコンピュータ制御された帝国ゾイドの発想とは逆の構造。だが、それに近い共和国のゾイド制御システムでもここまでの成果は発揮できないだろう。……素晴らしい。野生ゾイドの本能とは、ここまで圧倒的なモノなのか? いや、これは単衣にあのゾイドが歴戦の猛者だからか」

 

 そんなザルカの視線は新たに戦場に現れたゾイドに向く。新たな、セイバータイガーの演習対象に。

 

 

 

「バイパー様。私にお任せを」

 

 アイアンコングPKの影から一機のゾイドが雷の様に閃いた。一瞬で戦場を駆け抜け、暴風と化していたセイバータイガーに肉薄する。

 

「ライジャー――ガルドか。よかろう、お前に任せる。じきにあれが来よう。時間を稼げ」

 

 アイアンコングPKはゆっくり後退し、代わりにライジャーと呼ばれたライオン型ゾイドが前に出る。

 

「これほどの力、歴戦のゾイドか。だが、パイロットが無ければ、所詮は野良。勝てない道理はない!」

 

 ライジャーが一気に加速しセイバータイガーに襲いかかる。

 だが、セイバータイガーはライジャーの牙を紙一重で躱し、逆に至近距離から右肩に装備されたライフルを撃ち込む。ライジャーは、恵まれた運動性能でそれを躱す。しかし、躱しきれずにライフルが機体を掠めた。

 

「……まさか、この機体の動きについてこれるとはな」

 

 驚きを隠せないライジャーのパイロット。

 ライジャーは現存するゾイドにも引けを取らない高機動ゾイドだ。時速三○○キロを超える。共和国の最速ゾイド、シールドライガーよりも最高速度は上なのだ。それを一瞬で捉える。

 

「ふっ、素晴らしい機体だな」

 

 セイバータイガーの装備はガイロス帝国でも最近採用されたATカスタム。8連ミサイルポッドで火力を強化し、高機動スタビライザーの追加で速度と安定性を確保した強化機体だ。しかし、目の前の黒いセイバータイガーはまさに別物。

 セイバータイガーの皮を被ったナニカのような気しかしない。

 

「黒い機体色。それに旧式の装備……まさかグレートサーベルか? 既に使用されなくなった旧型の機体だとばかり思っていたが……」

 

 ライジャーのパイロット、ガルドは低く唸りを上げるセイバータイガーを見定め、不敵な笑みを浮かべた。

 そして、ライジャーを再びセイバータイガーに向かわせる。猛々しい咆哮と共に、二体の機獣が激突する。

 

 

 

 

 

 

 アイアンコングmk-2の拳がゴジュラスの腹に突き刺さる。だが、ゴジュラスは意にも介さず、むしろ自ら拳を受け、肉薄しその肩に牙を突き立てる。アイアンコングの方には10連ロケット弾が装備されているが、それすら無視してロケット弾ごと肩を食い千切った。

 

「くっ……」

「どうしたヴォルフ。キサマの腕はこの程度か? プロイツェン元帥の息子が、聞いて呆れる」

「黙れッ! あの男のことを口にするなっ!」

「実の父を蔑むか? 哀れな男よ」

「奴は……父などではない! この星に混沌を呼び込む独裁者に過ぎん!」

「本当にそうか? 我は以前、幼いころのお前に会ったことがある。あの時は、純粋に父を尊敬する少年だったが――」

「――黙れぇッ!!!!」

 

 一歩下がり、アイアンコングmk-2のビームランチャーが火を噴く。ゴジュラス――レザールはそれを読み切り、至近距離からキャノン砲を放つ。ビームと実弾がぶつかり、大爆発を起こした。衝撃が、二機の巨大ゾイドを吹き飛ばす。

 

「くぅ……ここで終わるわけには……」

「それは、お互い様だ。だが、どうやら時間切れのようだな」

「時間切れ?」

 

 ヴォルフがその言葉の意味を思考するより早く、物資輸送のために逃げていた鉄竜騎兵団メンバーとの悲鳴が響いた。そして、そのうちの一つが悲痛な叫びと共に告げる。

 

『……ヴォルフ様……お逃げくださいッ!!』

「どうした!? いったい、何があった!?」

 

 通信機に怒鳴りつけるが、相手からの返事はない。代わりに、彼らの護衛についたエリウスの声が届く。

 

『すぐに離脱しろっ! 全員だ! バケモンが来る』

「エリウス、エリウスッ!!」

 

 ヴォルフの再度の呼びかけに応じる者はいない。

 

「ヴォルフ様。敵が退いて行きます」

「なに?」

 

 ズィグナーの言葉に通信機から顔を上げ、周囲を見渡す。鉄竜騎兵団を襲っていたテラガイストの部隊は、一気に退いていた。

 いったいなぜ? ここまで優勢だったはずの者たちが、どうして戦果を目前に引き上げる?

 ヴォルフの思考に疑問符が浮かび、その答えはすぐに明かされた。

 テラガイストが退いて行く中、一機のゾイドが接近していた。圧倒的な巨体、先ほどまでヴォルフが相手取っていたゴジュラスよりも一回り大きい。前傾姿勢で、太く強靭な三本の爪が陽光を反射し閃く。全身は血にまみれたかのように真っ赤に染まり、両肩にはダークホーンのビームガトリング砲が装備されている。その顔は、今まで見たこともない。だが、これから起こす殺戮に歓喜しているかのようだった。

 

「おいおい、なんなんだありゃあ……」

「分かりません。あんなゾイド、今まで見たこともない」

 

 ウィンザーが、サファイアが、ヴォルフの元に近寄り、ともに現れたゾイドを見上げる。二人とも見たことがないのだろう。そのゾイドの正体を看破しかねていた。

 

「なんと……」

 

 誰もが言葉を失う中、ただ一人、驚愕と狼狽を隠せずにいた者がいる。ザルカだ。普段から自信過剰で何よりゾイドへの偏愛に溢れた老人。そのいつもの姿が欠片も感じられないほど、ザルカは狼狽えていた。

 

「ザルカ博士? あれはいったい……」

「あれは……いや、そんな訳がない。姿はそっくりだが……まさか、あれのコアを手にしたというのか? あれはクローニングの産物か? だとしたら……」

「ザルカ博士! なんなんだあれは!?」

 

 ヴォルフの呼びかけで我に返ったザルカは焦っていた。サイカーチスのコックピットは露出する形だからカメラ越しでその表情が分かった。肌身離さず装着している真っ赤なサングラスがずり落ちるのも構っていない。

 

「ヴォルフ! すぐに逃げるのだ! あれは……デスザウラーの系列機に違いない」

「デ、デスザウラー……?」

「嘗て研究していたワタシが言うのだ! 間違いない! すぐに……」

 

 その時、そのゾイドが甲高い声を上げ、口内にエネルギーを溜め始める。背中に装備された三つのファンが唸りを上げて回転し、空気中の荷電粒子を機体に送り込む。三つものファンからエネルギーを注がれたそれは、あっという間に口内に集中し――

 

「くっ、間に合わんか。お前たち! すぐに――」

 

 ザルカの叫びも虚しく、それが放たれた。

 

 

 

 一瞬の閃光。そして形容しがたい衝撃。それは、あっという間にその場の全てを飲み込んでいった。

 

「……血濡れの悪魔(ブラッディデーモン)…………」

 

 呆然としたヴォルフの呟きは、閃光に飲まれていった。

 

 

 

***

 

 

 

 後退しルドルフが誘拐された。その事実をプロイツェンが知った日の夜のことだ。

 

 帝都ガイガロスから川をさかのぼった上流には研究所があった。一部の研究員と特殊部隊――PK部隊以外は立ち入ることすらできない研究所。そこから、一機のゾイドが発進した。

 太い尻尾と強靭な後ろ足でバランスを取り、大地に立つ二足歩行の恐竜型ゾイド。先日ローレンジが見た帝国の新型小型量産ゾイド――レブラプターにシルエットは似ているが、その大きさも、見る者に与える印象も大違いだ。凶悪で、残虐な印象を与える黒と紫のボディ。

 ある研究の副産物として生まれた全く新しいゾイド――ジェノザウラー。

 

 それを見送るのはガイロス帝国摂政ギュンター・プロイツェン。そして、その傍らに立つまだ幼さの残る女性だ。

 

「レイヴンはルドルフ殿下の始末に向かったのですか?」

「そうだ。君も頼むぞ。我々に刃向かう愚かな者に、鉄槌を下すために」

 

 彼女は小さく頷くと格納庫に戻る。格納庫には先ほど発進したジェノザウラーと同系統の機体があった。

 機体色は紺色。頭部からは角の様にそそり立つ真っ赤な刃が突きだし、背中には巨大な大剣――ドラグーン・シュタールが装備されている。ジェノザウラーは背部にパルスレーザーライフルを装備しており、それと比べると格闘戦に主観を置いた兵装だった。頭部は不気味なマスクで覆われている。

 ジェノザウラーと同時に生まれ、しかしジェノザウラーとは段違いの狂暴性を持っている。頭部のマスクにより制御性を高め、ようやく実戦配備が可能となったゾイド――ジェノリッター。

 

 胸部のコックピットに彼女が乗り込み、ジェノリッターは力強い咆哮を上げた。

 

「ではよろしく頼むよ。暴風を斬り捨てるのだ。アンナ・ターレス少尉」

「おまかせを」

 

 アンナ・ターレスとジェノリッターは薄暗い大地を駆け抜けていった。

 




『ゾイドバーサスシリーズ』より、テラガイスト参戦です。
悪役として使いやすいんですよ。あ、ちなみに作者はゾイドバーサスをやったことがありません。ディスクもキューブもないんです。

それともう一つ、テラガイストは登場しますが、ブルーユニコン隊とロットティガー隊の登場予定はありません。彼らのキャラがつかめてないんです。なので描く自信がないです。すみません。

そして、鉄竜騎兵団に彼女(アンナ)がいないと思った方、彼女はプロイツェン側です。なぜ彼女がヴォルフと共に歩んでいないのか、それが明かされるのは……この章の終わりです。たっぷり引き伸ばします。

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