ZOIDS ~Inside Story~   作:砂鴉

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第13話:海底の戦闘

 ローレンジ達が乗船して程なく、ドラグーンネストは再び海底に潜り帝国領に向けて出発した。

 ドラグーンネストは海底を進む輸送ゾイドだ。そのため、舟と違って揺れることは少ない。少ない……のだが……。

 

「で、ローレンジ……またか……」

「わ、わりぃ……海戦ゾイドの空気ってか……海中の感覚っつか……無理……」

 

 顔を真っ青にし、今にも倒れそうなフラフラの足取りで会議室に向かうローレンジ。だが、すでに限界が近かった。

 

「うっ……」

「ズィグナー!」

「はっ、お任せを」

 

 ヴォルフの命に応じ、ズィグナーは懐から素早く黒い袋を取り出しローレンジの口元に持って行く。そして、間髪入れずに――

 

 

 

 ――描写できません――

 

 

 

「あー、まだ気持ちわりぃ」

「帝国領まであと四日。大丈夫か? いつものことだが」

「い、いつもの……こと、だから……」

「トイレに籠るのでしょうな。いつものように。ヴォルフ様、一つ貸切設定にしておきますか」

「そうだな、いつものように」

 

 そこはかとなくバカにされた気分になりながらも、ローレンジは会議室に通される。円形の机にモニター。それ以外は何もない。シンプルなスペースだ。ヴォルフはその最奥――上座に着く。傍にズィグナーが控え、向かい合う位置にローレンジが着く。俯き加減で。

 

「実は、お前に頼みたいことが出来た」

「……へぇ……だけど、俺……今、別の……仕事を……」

「ほぅ、どんなだ」

「帝国、基地に忍び……込んで……アイアンコング、一機……奪う、手伝い」

「アイアンコングを? 随分な依頼を受けたものだ。だが、私からの仕事を優先してもらう」

 

 アイアンコングはガイロス帝国が現在保有するゾイドの中で最も強力なゾイドだ。強固な装甲に格闘戦から遠距離の砲撃戦にも対応できる。その上活動可能範囲も広い。ゾイド自体もおとなしく扱いやすい。現存するゾイドの中でも最高傑作と名高い。帝国が保有するゾイドの中では最強クラスのゾイドだ。

 ちなみに鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)のリーダーであるヴォルフの乗機もアイアンコングだ。武装を強化したmk-2仕様の強力な機体。

 それゆえ、アイアンコングの配備数も多くない。それを奪おうというのだから、かなり難しい依頼だ。だが、ローレンジは何食わぬ顔で達成するだろう。少なくとも、このドラグーンネストに居る者は皆がそう信じていた。ローレンジの実力は、それだけ信頼されているのだ。

 

 それを理解してなお、ヴォルフは自分の依頼を優先しろと言っている。つまり、それだけ急を要するということか。

 ローレンジもその意図を理解し表情を引き締め直し――直後にまた吐いた。

 

「……いいか?」

「わりぃ……」

 

 一拍、奇妙な沈黙が流れヴォルフは話を再開する。

 

「依頼というのは他でもない。――からの依頼だ」

「……へぇ」

 

 その名が告げられた瞬間、部屋の空気が一変する。穏やかで平穏そうだった空気が、一気に剣呑さに満ち溢れた。ローレンジも、自身の体調を押し隠して真剣な表情をつくる。

 そして、その場の者が醸し出す空気が一変したのち、ヴォルフが大画面に通信を繋げる。通信は、秘匿回線を使ってある男とドラグーンネストを繋げた。

 

「――父上」

 

 モニターに映し出された男に向かってヴォルフが敬礼する。ズィグナーも。最期に、嫌に緩慢な動作で――さもめんどくさそうに――ローレンジが敬礼する。そして、これまた嫌そうに口を開いた。

 

「お久しぶりです、閣下。前に会ったのは、ザルカの暗殺の件でしたか?」

『うむ、久しぶりだな。ローレンジ・コーヴ君』

 

 男はゆったりとした口調で、だが威厳を見せつけるかのように朗々とローレンジの名を呼ぶ。それが、ローレンジには少し腹立たしかった。

 

『先の戦闘のことは聞いているだろう。ツェッペリン皇帝陛下が亡くなられた。おかげで、我々は撤退を余儀なくされたのだ』

「存じております、父上」

『このままではルドルフが実権を握り、反乱軍との平和協定などというものが成立してしまう。それではいかんのだ。この星に、国は二つもいらない! へリックも、ガイロスもだ。奴らを潰えさせ、我々ゼネバスがこの星を支配すべきなのだ!』

「……して、父上。私たちに御用とは?」

『まだ分からんか、ヴォルフよ。再び戦争を起こすには、邪魔な存在がいるだろう? それを亡き者にするための刺客を放った。だが、正直なところ、あれが無事に達成できるとは思っておらん。不測の事態に対処できるようにせねばな』

「共和国のコマンドウルフはすでにそちらに届いているのでしょう? 戦争再開の火種としては十分では」

『確かにな。だが、奴の死という確実な種が無ければ、私は安心できんのだよ』

「なるほど。分かりました。つまり――」

「――つまり、あんたが放った刺客が失敗したら、俺たちがルドルフ殿下を殺せって言いたいんだろ? なぁ……ギュンター・プロイツェン元帥」

 

 ヴォルフの言葉を遮り、ローレンジが続けた。憎々しげに、苛立たしげに。

 ギュンター・プロイツェン。ガイロス帝国軍部の元帥を務める男で――ヴォルフの父だ。

 

『分かっているならそれでいい。期待しているぞ、お前の腕にはな。何せお前は、この私に恐怖を抱かせただけでなく、ルドルフ殿下のお父上すらも手にかけているのだからな』

「――うるせぇ。次、妙な口叩いたら恐怖すら抱けねぇようにしてやる。俺を顎で使うなら、それぐらい覚悟しろ」

 

 殺気の籠った容赦ないローレンジの瞳がモニター越しに男を睨みつける。プロイツェンは不快気にそれを見下し、次いで視線を部屋の奥に動かした。

 

『不要な挑発はやめておくことだな。君も、その子を失いたくはあるまい』

 

 それを最後に、通信は途切れた。

 

 ――その子?

 

 ローレンジの脳裏に一瞬疑問が過り、はっとなって振り返るとそこにフェイトが居た。

 

「バカ! お前なんでここに!?」

 

 思わず声を荒げたローレンジだが、それは艦内の警告アラームによって掻き消された。

 すぐにズィグナーがブリッジとの連絡を取りに走る。

 

「何事だ!?」

『共和国のスリーパーに捕捉されました。数は10、バリゲーターです!』

「スリーパーのバリゲーターか。迎撃するしかないと……ちょうどいい、博士が完成させたあのゾイドの演習になる。すぐに出撃させろ、迎え撃つ!」

『はっ!』

 

 途端に艦内は騒がしくなる。だが、二人の間はさっきと変わっていない。

 

「ロージ。また、始めるの……?」

「フェイト! さっきのは……」

「後にしろ」

 

 ヴォルフが素早く注意を促す。

 

「悪いヴォルフ。あ……フェイトは先に格納庫の方に行け、俺は……うぷっ」

「やれやれ……すまんな。フェイトはそうしてくれるか。先ほどの件は、また今度、詳しく」

 

 ヴォルフは無理やり柔らかい表情を作ってフェイトに呼びかける。フェイトも、今は同意するしかないと考え、

 

「……分かった」

 

 不満げに俯きながら、言った。

 

 

 

***

 

 

 

「フェイトちゃん!? どこ行ってたんですか!? 心配しましたよ!」

「ごめんなさい!」

 

 保管庫に戻ると、すでに騒然となっていた。ゾイドの元に向かう扉は閉ざされ、その奥には先ほどのヴォルフが言っていたゾイドが二機、出撃の時を待っていた。

 

 ――初めて見るゾイドだ。

 

 そのゾイドは完全な海戦仕様のゾイドだ。海中を泳ぎまわるための鰭が四機装備され、代わりに陸上や空中で活動できる装備はない。丸っこい頭がアクセントとなって可愛いとフェイトは思う。

 

「あれは?」

「ウォディックだ。ワタシの研究成果の一端だよ」

 

 そこに、新たに老人が現れた。老人と言っても、その背はぴんと伸び若々しい生気に満ち溢れた、およそ老人に見えない人物。真っ赤な丸いサングラスがその怪しさを醸し出す。

 

「ザルカさん?」

「フハハハハハ!! 久しぶりだなぁ……フェイト」

 

 そう、二年前にローレンジと戦った狂気の科学者――ザルカである。彼はあの戦いの後、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の専属科学者として腕を振っていた。

 鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)では思う存分自分のやりたいことが出来る。デスザウラーについても、二年前の一件で興味が尽きたので、ここでの研究に没頭していたのだ。

 興味が尽きた理由は「あの時点でデスザウラーはまだ未完成。だが後は体の再生だけでほとんどの機能は十全に発揮されていた。デスザウラー復活と言っていいあの状態で倒されたことで、デスザウラーは安らかな眠りに就けただろう。だから満足だ」なのだそう。

 

「あれも、嘗てゼネバス帝国で活用されたゾイドよ。技術問題と野生体の絶滅危惧から、ガイロス帝国では実戦配備を見送っていたらしいがな、ワタシの技術にかかれば出来んことなどない!」

 

 彼らが見守る中、二機のウォディックが出撃する。パイロットはカール・ウィンザーと、アクア・エリウスだ。

 

 

 

 

 

 

「まったく、海戦ゾイドはワシの趣向には合わんのだが」

「まぁそう言うなよエリウス。俺様たちで華麗にバリゲーターを蹴散らし、女の子たちにキャーキャー言われようぜ! うむ、俄然やる気が湧いてきたぞ!!」

「そんな浮ついた心でゾイド戦に臨むんじゃない! いつも言っているだろうがッ!!」

「へいへい……あ、来るぞ!」

「ふん、この程度ッ!!」

 

 機体上部に取り付けられたジェットを起動させ、尾鰭と四つの胸鰭を動かしてウォディックは海中を自由に泳ぎ回る。それぞれに5機ずつ、バリゲーターが張り付いて追撃を開始した。

 

「オラオラどうした? おっせぇぜ!」

「所詮はスリーパーか。つまらん」

 

 あっという間にバリゲーターを引きはがすウォディック。十分に引きはがしたところで反転し、逆に攻撃に転じる。

 

「まずは俺様が!」

 

 ウォディックの背中から対艦ミサイルランチャーが発射され、真っ直ぐ追撃してきたバリゲーターを二機まとめて撃沈する。

 

「墜ちろ!」

 

 次いでエリウスのウォディックが口から何かを発射する。海中を一気に突き進んだ形無きそれは二機のバリゲーターに触れた瞬間、動きが鈍る。編隊が乱れたのを狙ったミサイルランチャーが撃ち出され、まとめて撃沈した。

 

「ひゅー、やりますねエリウス。俺様だって負けては――ってうわっ!?」

 

 ミサイルを避けた三機のバリゲーターがウォディックに肉薄する。大顎を開き、三機がまとめてウォディックの身体に噛みついた。

 

「うっわ、やべぇ!」

「ちっ……ウィンザー、動くんじゃねぇぞ!」

 

 エリウスのウォディックが一直線にウィンザーのウォディックに向かう。背中の中口径ビーム砲を構えて。

 

「ちょ、エリウス!? 無茶はやめ! 俺様が死ぬ……!」

 

 構うものかとエリウスのウォディックのビーム砲が火を噴く。それは、ウィンザーのウォディックを掠めるように張り付いたバリゲーターを打ち抜いた。

 正確にコアを打ち抜く射撃はバリゲーターの身体を必要以上に傷つけない。バリゲーターが離れた僅かな時間でウォディックは素早く距離を取り、バリゲーターの機体が爆発するのを回避する。

 

「そぉら後二匹!」

 

 瞬く間に残りのバリゲーターも撃ち抜かれ、戦闘は終了した。

 

 

 

 

 

 

 ほっとフェイトは息を吐く。バリゲーターに組み付かれた時は心臓が止まるほど心配だったが、エリウスの巧みな操縦で危機は脱したようだった。また、ウォディックの強靱な装甲はバリゲーター最大の攻撃であるバイトファングを受けても耐えている。

 

「よかったぁ……そういえば、ウォディックの口からでたのって何?」

「フハハ、それは――」

「ソニックブラスター。メタンと酸素を混合した気体を爆発させ、生じた音波を共鳴・増幅させて攻撃する手段。……だったか?」

 

 ザルカのセリフを遮って、新たに現れた人物が解説する。

 

「コラ! ワタシのセリフを盗るんじゃない!」

「あ、ロージ」

「大丈夫ですかローレンジさん。今にも倒れそうですけど」

「あ? 大丈夫な訳、ないだろ? 気になって……無理して見に来たけど……限界」

 

 バタッ!

 解説もそこそこに、ローレンジは倒れてしまった。

 

「あ! ロージ大丈夫!?」

「あらら。フェイトちゃん、この人を一緒に医務室まで連れて行きましょう。おそらく、帝国領に着くまでこのままです」

 

 三人が慌ただしく去ったのを見届け、ザルカはほくほくと表情を崩す。ちょうど、ウォディックが帰還したところだった。

 

「うむ、流石はワタシが愛情をこめて作ったゾイドだ。見事な戦いぶりよ」

 

 深海の水圧に加えバリゲーターのバイトファングにも耐える装甲。ザルカにとって期待以上の成果だった。その上、ソニックブラスターの実用性も確かめることが出来たのだ。開発者として、満足しない理由がなかった。

 

「ザルカ博士」

「む? おお、ズィグナーか」

 

 その場に現れた人物に、ザルカはほくほくの笑顔のまま振りかえる。

 

「ウォディックは完成ですか」

「もちろんだ、先ほどソニックブラスターの実用性も確かめられた」

 

 ソニックブラスター。その言葉に、ズィグナーは僅かに顔をしかめる。

 

「彼女は、気付いていたでしょうか」

「気づいておらんかったよ。船酔いの馬鹿に感謝するのだな」

 

 ソニックブラスターはパイロットの精神にダメージを与える兵器だ。つまり、あのバリゲーターの内二機は、パイロットが居たのである。

 おそらくスリーパーの一次的な回収が目的でやって来たのだろう。そこで帝国軍らしき影を見つけ、戦争の火種と踏んで襲撃してきた。ズィグナーはそう予測する。バリゲータのパイロットには申し訳ないが、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)は影の部隊だ。存在が気づかれてはならない。

 

「……あの子も、もうすぐ戦乱に巻き込まれていくでしょう。あの方が動き出し、我々と共に居る以上……多くの死を目にする。まだ幼い子供だというのに、これでいいのでしょうか。私たち年長者が――」

「知らんな。ワタシは愛するゾイドの研究が出来ればそれでいい。お前が言いたい年長者の役目とやらは、ワタシではなくお前とエリウスが背負うのだな。それに彼女を連れ込んだのはローレンジだ。奴に任せておけ。

 さて、ワタシはもう行くぞ。ウォディックの調整もあるが、奴に聴かねばならんことが出来た」

 

 ザルカはそう言い切り、もう用はないと言わんばかりにさっさと部屋を後にする。ズィグナーはまだ何か言いたげに、だが、結局何も言わずにその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

***

 

 

 

 ドラグーンネスト内にある部屋の一つ。ドア越しでさえ臭いが伝わってくる――気がする――その部屋をザルカは問答無用で開け放った。とたん、酢臭さがザルカの鼻孔を刺激するが、ザルカは全く意に介さなかった。わざとらしくドアを閉め、足音を響かせてベッドに横たわるローレンジの元に向かう。傍らのバケツを一瞥するが、それだけだった。

 

「……なんか、用……?」

「そうだ。お前に聞くことが出来てな。フェイトは……いないか」

「少し、前に……サファイアが、連れてった。……鼻を押さえて。あいつにも……用か?」

「いや、いないなら好都合だ」

 

 ザルカはベッドの脇にあった椅子に座る。その横の机にはほとんど手つかずの夕食が残されていた。無論、ローレンジが食べられず放置したものだ。ザルカは許可も取らずに肉片をつまみ、勝手に食べる。

 

「……おい」

「気にするな。どうせお前は食えんのだろう? さっきまでウォディックの調整とヘルキャットの修理をしていたのだ。腹が減って仕方ない」

 

 だったら自分のメシを食え。つか、よく食えるよなお前は。

 ローレンジはそう言いたかったが、こみ上げたのは怒りと呆れではなく吐き気である。

 

「うっ……」

「吐くなら勝手にしろ。ワタシはこっちを貰うからな」

 

 人が嘔吐する横で良く食えるものだ。が、ザルカという男は他人のことなどほとんど無関心だ。ローレンジとしても、この男は精神構造からいろいろおかしいと思う。おそらく、隣に腐敗した死体が放置されていても平気で自分の食事と思考に没頭できるのだろう。

 ザルカはひとしきり、貪るように余り物を食し、一息ついたのか満足げな表情で向き直った。

 

「さて、そろそろ聞くとしようか」

「……さっさと、しろ」

「それでは――ローレンジ、フェイトの本名を、お前は知ってるか」

 

 ――本名?

 いきなりこの男は何を言い出すのか。それが何か関係しているのか?

 ローレンジは注意深くザルカを観察する。だが、ザルカは全く表情を変えない。赤いサングラスが、照明を反射してギラリと輝く。

 

「さっさと答えんか。大事なことだ」

「……フェイト・ユピート。だったと……思うけど」

「ユピート……か」

 

 ザルカはその姓名を反芻し、考え事に入ってしまう。ぶつぶつと零れる言葉には、「見間違いか?」だの「だがやはり……」だのと言う言葉が断片的に聞き取れる。なにか重要なことだと思うのだが、あいにくローレンジの思考はすこぶる調子が悪かった。ろくに頭が働かない。さらに、嘔吐物の臭いが邪魔をする。

 

「参考になった。ではな」

「おい! なんの話だ! もっと詳しく……うぷっ――」

「今は養生するのだな。それに、確証がない以上口には出来ん。フェイトに直接聞く訳のも難しいな。あいつは勘がいい」

 

 そう言い残し、ザルカは部屋を後にした。

 

 

 

 再び部屋が開き、ザルカが顔を出す。

 

「それ、処理してやろうか?」

「………………頼む」

 

 たっぷり一分悩み、ローレンジはそれの処理を頼んだ。

 

 

 

 

 

 

「さて、ユピートか」

 

 バケツの中身の処理を終えたザルカはもう一度その名を口にした。聞き覚えはない。初耳の姓名だった。ならば気にする必要はない。ただの自分の見間違いなのだ。

 結論は早々に出たが、納得できない自分がいることもザルカは自覚する。

 

 ――フェイトの容姿、やはり似ているな。なれば、姓名は父親の方が継がれたということ。つまり彼女はあれの娘。だがあり得るのか? 人工生命体(・・・・・)が子を産むなど。あれに生殖機能は残っていたか? ……いかんな、研究資料をすべて破棄してしまったのは失策だ。もしフェイトがワタシの予想した通りの存在だったら……あやつが見逃すはずがない。だが、

 

 扉の向こうに視線を向ける。今は役立たずの有様だが、彼の実力は良く理解している。彼は、不完全ながらデスザウラーを倒しているのだ。

 

 ――今は、ローレンジに委ねるとしよう。ワタシは、愛するゾイドたちの研究ができればそれでいい。

 

 海底を進むドラグーンネストの薄暗い通路で、ザルカは一人笑みを浮かべて自室に向かった。

 

 

 

***

 

 

 

 四日後。帝国領の海岸。

 

「悪かったな。結局、何も出来てねぇ」

「気にするな。お前とフェイトが戻ってくるだけで、にぎやかになるのだからな」

 

 ローレンジとヴォルフの視線がフェイト達の方を向く。

 

「フェイトちゃん、いつでも戻って来ていいぞ! それまで俺様は、サファイアとお茶して待ってるからな!」

「「お断りします」」

「あ~そんなそっけない二人も素敵だ!」

「いい加減にしろ、こんのバカタレが!」

 

 未だ戦火の消えぬ世界だが、こうしてその一片では平和な姿がある。そこが、今のローレンジにとって帰る場所だ。

 

「そろそろ行くか。フェイト!」

「はーい!」

 

 そして、二人はまた旅立つ。

 

「さ~てと、とりあえずはヴィオーラたちに合流するか。今日中には着けるだろ」

「ねぇ、ロージ……結局聞けてないんだけど。ヴォルフさんの話」

「……今度な。今は……ほら、笑顔で見送ってくれてんだから、それに応えないと」

「うん」

 

 務めていつもの表情でフェイトは答える。それに「これは、仕方ないか」と覚悟を覚えつつ、ローレンジは愛機の歩みを進めた。

 

「キィ?」

 

 そんな二人の主に、ニュートは首を傾げながら追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 賞金稼ぎローレンジ・コーヴ

 現在の依頼は、盗賊団を手伝い帝国基地からアイアンコングを強奪すること。

 そして――

 

 

 

 ――ガイロス帝国次期皇帝、ルドルフ・ゲアハルト・ツェッペリン三世の……暗殺――。

 




えー、作中に出たプロイツェンの発言によるローレンジの過去の罪。ルドルフってアニメではおじい様はいるけどお父様いないよな? という解釈から設定を作らせていただきました。そう設定した私が言うのもなんだけど……ローレンジ、お前ホントなんなんだ。

そしてソニックブラスター。調べて書いたけど、分かった気になってるだけな気がします。

それでは次回もよろしくお願いします。

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