ZOIDS ~Inside Story~   作:砂鴉

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 本編、一年三ヶ月もお待たせし申し訳ございませんでした


魔獣覚醒編
第87話:獅子襲来


 エリュシオンより南西、マンスター高地と呼ばれる高山地帯に、それはあった。

 山の斜面に沿って鬱蒼と茂った森。頂上部分は削られ台地形と化しているが、そこも様々な陰樹が乱立する森の一風景だった――だったのだ。

 

 今より少し前、この地を開拓する者たちがいた。必要最小限の木々を切り払い、高地の脇の斜面に隠れるようにして集落が出来上がった。質素で、簡素で、ガイガロスやニューへリックシティなどと比べるべくもない、地方の小さなコロニーにすら劣る、ほんの小さな集落だ。

 集落はとある者たちが集まっていた。

 周辺の高地の一部を切り払い、多少満足のいくゾイドの演習場として形作った。集落の中には住人用の小さな家が数件、そして集合住宅となる平屋が二つ。簡素で穏やかな、森と高地に囲まれた隠れ里が出来上がっていた。

 

 その隠れ里の名前は『獣の里(アルビレッジ)』。

 とある青年がここ一年と少しの期間で立ち上げた賞金稼ぎ集団――傭兵団、『歪獣黒賊(ブラックキマイラ)』の本拠地である。

 

 

 

***

 

 

 

 夜も更けた頃、獣の里(アルビレッジ)のちょうど中心に立つ小屋の中で、一人の女性が書類と格闘していた。

 肩口で切りそろえられた明るいオレンジ色の髪。動きやすいからとどこかの団服のようなきっちりした服装。その服に着られているような子どもとは、言い難いが大人とも言い辛い身長。顔立ちも悪くなく、小柄な美人といったところだろうか。

 

「……帝国と共和国の国境線基地が襲撃される。青いオーガノイドを連れた人物、蒼い悪魔の出現。……少し、情勢が怪しくなってきてる」

 

 目頭を押さえ、書類に落としていた視線を持ち上げる。メガネを外し、オレンジの髪の女性は――タリス・オファーランドは、小さな小屋の天井を仰いだ。

 寄せられていた報告は、歪獣黒賊(ブラックキマイラ)に所属する諜報員からのものだ。彼等は普段から獣の里(アルビレッジ)に在住せず、帝国と共和国に関する情報を収集している。

 まるで彼らと敵対しているようだが、そうせざるを得ない理由があるのだ。歪獣黒賊(ブラックキマイラ)を雇っている――という名目の実質的な上司――鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)にとって、ガイロス帝国とヘリック共和国はもはや純粋に亡国再誕の後押しをしてくれる存在ではない。表面上は後押ししつつ、しかし警戒を強められている。

 二国の一挙手一投足が、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の今後を左右すると言っても過言ではない。

 そして、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)のサポートとして立ち上がった歪獣黒賊(ブラックキマイラ)にとって、両国の事件を把握することは重要な任務である。

 

 一年半ほど前のことだ。ガイロス帝国とヘリック共和国の間で一つの特殊部隊が立ちあげられた。その名はGF(ガーディアンフォース)。両国の軍人の中でも選りすぐりの凄腕がこぞって配備される、エリート中のエリート集団だ。その目的は、長きにわたる戦乱の果てに生み出された平和を末永く維持していくこと。……抽象的過ぎて、はっきりしない目的だ。

 

 無論、この建前に違和感はない。平和になったとはいえ、長年の戦乱の歴史はそれを納得させない者たちを数多生んでいる。彼らの成敗――もとい、鎮圧はGF(ガーディアンフォース)の重要任務だ。

 だが、それだけではないだろう。GF(ガーディアンフォース)が結成された真意は、それを両国の首脳に決定づけさせた戦いで見せつけられた、『彼ら』の秘めたる力だ。

 

 ――疑ってるならはっきり言えばいい。回りくどい真似をして……それがどれほどお二人の心労を強めているか……ふぅ。

 

 眠気の所為だろうか。性格が悪くなっている。

 少し目を覚まそう。

 タリスは立ち上がると部屋の隅に置かれたコーヒーメイカーを稼働させた。普段なら、この部屋の主が挽いたコーヒー豆で作ったコーヒーを飲める。だが、その主は今ここに居ない。

 

 タリスが心中で呟いた『お二人』の片割れ。歪獣黒賊(ブラックキマイラ)の頭領である彼は、半ば強引にタリスが追い払った。帝国と共和国の静かな圧力。それを易々と跳ね除けられるほど彼は組織の長としての経験がなく、このままでは爆発しかねないと感じたからだ。

 理由としては、加えてもう一つある。彼の傍にいつもいる少女。彼女とタリスの関係が良好ではないのだ。目立って意識されている訳ではないが、ひっそりと、タリスは邪魔に思われている。タリスが彼の隣にいると、少女は決まっていい顔をしない。だから、兄妹水入らずで里帰りさせたのだが……。

 

 カップに注がれた液体は黒い。それは、月すら顔を見せない漆黒の真夜中の様で、しかし混じりない黒ともいえない――まるで迷いの混ざった歪な黒だ。

 ふと、今宵は何かが起こるような予感に駆られた。

 されど、所詮予感は予感だ。そんな勘に頼るほど、タリスは感情的な人間ではない。窓を開け放ち、外を眺める。二つの月が両方とも見えない深い夜は、まるで、この先の混沌を予言しているかのようだ。

 

 タリスはカップの中身を一気に飲み干し、再び書類の内容をまとめる作業に戻る。

 

 

 

 その瞬間、漆黒の闇夜が紅に染まった。

 

「なに!?」

 

 突如の出来事にカップを落す。床とガラスがぶつかり、渇いた破砕音を響かせるも、タリスはそれに耳を貸さなかった。いや、同時に響き渡った雄叫びがそれを掻き消したのだ。

 響き渡る咆哮。雄々しく、勇ましい雄叫びは、タリスが信頼する歪獣黒賊(ブラックキマイラ)の頭領の愛機に少し似ていた。だが、それ以上に秘められた『野生』が、雄叫びの主の存在を表す。

 

「今のは――まさか!?」

 

 聞き覚えがあった。ほんの一年と半年前。タリスが所属していたある部隊にやってきた少年。彼の乗機は、野生と狂気に満ちていた。泥をかぶった白い装甲は、荒涼とした大地を生き抜くZOIDSの名に相応しい。

 小屋を飛び出し、タリスは格納庫に走った。格納庫に収められているゾイドの内一体。以前から変わらず彼女の愛機で居てくれる小さなゴリラ型ゾイド――ハンマーロックの腕を駆け上がり、滑り込むようにコックピットに入った。

 力強い作動音を響かせ、ハンマーロックは太い腕と短い足を駆使して格納庫を飛びだす。

 

「すぐに避難を! 慌てず、手筈通りに!」

「副長! しかし、このままでは……」

「襲撃者は我々で対処できる相手ではありません! 命を最優先に! 建物は立て直せばいい!」

 

 叫びつつ、部下の複雑な感情はタリスにも伝わった。ここに常駐している部下は、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)から望んで異動してきた者だ。最初期からタリスと頭領と共におり、歪獣黒賊(ブラックキマイラ)の立ち上げに尽力してきた。

 頭領が協力を求める手紙を出し、頭数をそろえるのに半年。それから一年。獣の国(アルビレッジ)の発展を共に見守ってきたのだ。それが、その苦労が立った一夜にして泡沫と消え去る。歯がゆい想いを抱えていることだろう。

 

「急ぎなさい! 相手は、白銀の獅子です! 私たちでは話になりません!」

「くっ……了解しました」

「私は足止めに出ます」

「お一人で!? 無茶です!」

「全てを奪われるよりはマシですよ!」

 

 感情的になっている己を自覚しつつ、タリスは操縦桿を倒した。ハンマーロックは主の感情に己を高ぶらせ、駆け出した。

 炎が上がる建物。そこでも、部下たちが必死に避難誘導を行っていた。場所は、よりにもよって子どもたちの宿舎だ。頭領が拾った身寄りのない少年少女たち。そして、その宿舎には彼の友も居るのだ。

 

 ――失くさせない!

 

 視界に捉えた獅子は、今まさに片腕を振り上げていた。タリスは一瞬躊躇し、しかしこれしかないと操縦桿を握りしめる。トリガーが引き絞られ、ハンマーロックの右肩に装備された連装ビーム砲が光を放つ。闇夜を切り裂く光の線は、こちらに気づいた獅子の爪で弾かれた。

 

『おや? えっと、キミは……どこかで会ったことあったかな?』

 

 向こうはタリスを覚えていない。だが、タリスは良く知っていた。PKの無謀な戦いの中、ただ一人異質だった少年。その目的は、未だはっきりしていない。だが、敵であることだけは確かだった。

 

「コブラス・ヴァーグ、でしたね」

『うん。ところでさぁ、ローレンジはいないのかい?』

「ええ」

『だよね。あいつが居たら、真っ先に僕に飛び掛かって来るさ』

 

 ビーム砲を弾いた爪を降ろし、白銀の獅子――ライガーゼロは、グルグルと喉を唸らせた。

 タリスは操縦席からハンマーロックの眼下に視線をやる。宿舎に居た子供たちは、少しずつだが避難を始めている。その中心に居るのは、後髪を束ねたゴーグルが良く似合う少年だ。子どもたちの中でも最年長の彼が、必死に誘導を行っている。

 なれば、タリスの役目は少しでも襲撃者(コブラス)を遠ざけることだ。

 

 ハンマーロックの腕が前に出た。大地を殴りつけ、短い脚に力を籠め、挑みかかる。

 ライガーゼロはシールドライガーなどと同じく、大型に分類されるゾイドだ。安定感のあるゴリラ型のハンマーロックといえど、所詮は小型。体格差は圧倒的だ。その上、運動性能に雲泥の差があった。

 殴りかかるハンマーロックを、ライガーゼロは僅かに身を引いて拳を躱す。のみならず、下がったと同時に後ろ足に力を籠め、ばねのように伸びあがってハンマーロックに襲いかかった。

 左肩のバルカン砲バックを使いかけ、タリスはその判断を斬り捨てる。バルカン砲に積んだ弾丸は実弾だ。ライガーゼロの装甲を傷つけられるかという問題ではなく、弾かれた弾丸が向かう先を考慮した。下にはまだ逃げ切れていない子どもたちがいる。ここで実弾を使うことは、彼らに流れ弾が向かう可能性を示していた。

 甘んじてライガーゼロの一撃を受け止める。ライガーゼロは頭部の装甲をそのまま鈍器とし頭突きを加える。

 ハンマーロックは小型ゾイドの中でも安定感が自慢だ。太い脚と腕で大地を踏みしめ、同サイズのゾイドの格闘戦は受けきることが可能な装甲も備えている。だが、相手は二回り以上も大きな大型ゾイド。それも、格闘戦に特化した性能のライガーゼロ。パワーは並の大型ゾイドを上回る。

 

「――がっ……くぅ」

 

 衝撃が機体の全身を駆け抜け、コックピットが一気に押し出されそうになる。

 頭突きを胸に喰らい、背中から倒れそうになるのをどうにか抑え込んだ。ハンマーロックは両腕を掲げ、ライガーゼロの頭部を押し込んだ。しかし、やはり質量(サイズ)の差は圧倒的だ。ハンマーロックでなくアイアンコングだったら、そんな希望的観測は、実戦では無意味である。

 

『なぁんだ。キミ、つまらないよ。やり方はもっとあったでしょ? 僕を倒そうとは思わないの?』

「あなたを倒せると思いあがるほど馬鹿ではないですよ。私では、あなたに敵いませんので」

『所詮ローレンジの付き人で、()()()()だからね』

「私は彼の補佐官ですから。あなたを倒すのは、私の役目ではありません」

 

 ギリギリと押し合う二体のゾイド。押されているのは、ハンマーロックだ。両腕にかかる重量が、見る見るうちにハンマーロックの足に軌跡を残させる。

 

「訊いておくことが。あなたの目的はなんです?」

『目的? そうだねぇ、今日はレイヴンと()()()を迎えに来たんだ。ヒルツに頼まれてさ』

「ヒルツ? それが、あなたの協力者と?」

『協力者か。少し違うなぁ。ヒルツはヒルツでやりたいことがあるんだ。僕にとっては、ヒルツのやりたいことが僕のやりたいことの過程にあるから、協力してる。それだけ』

「では、あなたの本当の目的は」

『知りたい?』

 

 コブラスは心底から笑う。最後のタリスの問いに対し、待ってましたと言わんばかりの声音だ。

 

『僕はね、この惑星Ziを壊したいんだ。古代ゾイド人の叡智とか、帝国と共和国の下で育ってきた異星人の文化とか、この星の根源のゾイドイヴとか。それを全部! 跡形もないくらいにね!』

 

 

 

 その時だ。タリスのコックピットに通信が割って入った。通信相手は、先ほどまで下で避難誘導を行っていた少年だ。

 タリスはわざとハンマーロックを下がらせ、連装ビーム砲のトリガーを引いた。光線は瞬くような速度でライガーゼロに突き刺さる。

 

『タリスさん! 僕もすぐにレブラプターで――』

「ここを放棄します。すぐに脱出しなさい!」

 

 通信先から届く援軍の言葉を、タリスは怒号で断ち切った。

 

『どうして!』

「私たちでは勝ち目がないからよ! 彼はローレンジ――頭領と同等の実力者。数を叩きつけたところで犠牲が増えるだけ!」

『でも、僕だって……師匠と特訓してきたんだ。それに、こいつ……』

「自惚れるな! さっさと逃げろ!」

 

 荒げられたタリスの口調に、少年は食い下がるのをやめる。きっと悔しさに苛まれ、唇を噛みしめているのだろう。申し訳ないと思いつつ、タリスにそれを気にする余裕はほとんどない。

 飛び離れたライガーゼロは、両前足の爪を黄金に輝かせて飛び掛かってきた。避けられない間合い。通信に意識を割いていたことも災いした。黄金の両爪は、小柄なハンマーロックの眼前まで迫り、その腹部を一気に切り裂いた。

 

「がっ……ハンマー、ロック」

 

 愛機の名を呼ぶが、反応はない。腹部を切り裂かれると同時に、ゾイドコアをズタズタに引き裂かれたのだ。よほど生命力の強いゾイドでない限り、ゾイドコアを失った状態で生き延びるなど不可能だ。生き延びたとしても、もう長くない。

 

『さっきのビーム。いいタイミングだったよ。まぁ、僕を倒すには全然足りないけどね』

「くぅ……」

 

 右足の爪が振り上げられ、黄金の輝きを宿す。

 

『君を殺すつもりはなかった。ホントだよ? 今日はそれのために来たわけじゃないし、無駄な殺生は僕も嫌いさ。でもね、邪魔されれば殺るんだ。それが、僕らの師匠の教えだからね』

「……なるほど、頭領と一緒じゃないですか……」

『ウン。だって、僕ら同門だからね。――バイバイ』

 

 黄金の爪の輝きに、赤い閃光が混じる。

 

 

 

 襲い来る衝撃は、来なかった。

 

「……? 何が……!?」

 

 タリスの視界に踊ったのは、二足歩行の恐竜型ゾイドのシルエットだ。

 先ほど逃がした少年のレブラプターかと思ったが、違った。足には赤い光刃(ブレード)。頭部の周りには特徴的な襟巻が。そして、背中から生える刃のような翼。そして、従者のように付き添う漆黒のオーガノイド。

 

『ワーオ、そっちから来るとは思わなかったよ。レイヴン?』

「…………」

 

 現れたゾイド、ディロフォースはライガーゼロの眼前に降り立った。増設された翼を一振りし、その羽ばたきで巻き起こった風が、戦場となった村を砂埃で包む。

 

『ねぇレイヴン。僕らと一緒に来ないかい?』

「…………」

 

 囁く声音でコブラスが問う。その答えは、沈黙と荷電粒子砲だった。闇夜を切り裂く禍々しい光線がライガーゼロを掠めた。外したわけではない。躱されたのだ。

 

『なんだよ。受け答えも出来ないのか。リーゼの奴、ここまで壊さなくたっていいだろうに。これじゃ駒として使えるかどうかも――分かりゃしない!』

 

 ディロフォースが大地を蹴る。飛び出し、すれ違い様にレーザーソードで切りつけた。しかし、ライガーゼロはその程度では沈められない。手傷を負わせることすらできなかった。

 ライガーゼロもすぐに反撃に転じた。腹部の2連装ショックカノンからの空気弾がディロフォースの周囲を駆け抜け、鈍ったところに必殺のストライクレーザークローを叩き込む。

 対するディロフォースも、それだけで崩されはしなかった。ストライクレーザークローを紙一重で回避し、逆に足の爪でライガーゼロを殴りつける。

 宿舎を踏み越え、小屋を蹴散らす。避難が終わっているとはいえ、辺りはつい先ほどまで村だったと思えないほどに荒れ果てている。

 体格差など関係ないと言わんばかりに超近接戦を繰り広げる二体のゾイド。その上空に、蒼い影が舞った。

 

『フェニス! こうなったらレイヴンを直接だ!』

 

 蒼い影、オーガノイドのフェニスは翼を一振りし一気に急降下を開始する。狙いは、ディロフォースの背中に増設されたコックピット、その中のレイヴンだ。

 闇夜に同化した蒼い機体が直進し、しかしそれは横合いから突っ込んだ漆黒の小竜により防がれた。

 

【キュァアア!?】

【グルォオオ!】

 

 二体のオーガノイドの咆哮が響く。フェニスの妨害に入ったのは、レイヴンのオーガノイドのシャドーだ。漆黒の機体色を保護色にフェニスに体当たりをかましてそのまま大地へと押し込んだのだ。

 フェニスは遮二無二暴れるも、シャドーが抑え込み脱出を許さない。

 フェニスは猛禽類の姿をしたオーガノイドだ。空中での機動力は他オーガノイドの追随を許さない。しかし、一転して地上に落とされると、その優位性(アドバンテージ)は全て奪われる。

 対してシャドーは翼を持ち、加えて二足歩行の小竜の体形から地上戦もこなせる。オーガノイド同士の戦いは、シャドーが圧倒的に有利だった。

 

 フェニスの首元にシャドーが噛みつく。フェニスは悲鳴を上げ、全力でシャドーを振り払いにかかった。今度は脱出が叶ったものの、フェニスにはかなりのダメージを与えたらしい。

 

『あっちゃぁ、シャドーが居るの忘れてた。これは分が悪いかなぁ。でも!』

 

 ディロフォースの口内に光が宿り、荷電粒子砲が唸りを上げる。ライガーゼロは避けるでもなくそこに飛び込んだ。右の装甲版が砕け、融け落ちる。しかし、勢いは止めずそのままディロフォースに体当たりを加えた。

 跳ね飛ばされるディロフォース。互角だった戦いは、体勢を崩された方が一気に不利になる。コブラスもそれが分かっているのだろう。すぐさま追撃をかけた。

 タリスのハンマーロックはすでに機能停止だ。団員の全員を逃がした今、レイヴンの助けに入れるものはいない。

 

「そうはいかない!」

 

 だが、戦場に割って入るもう一人がいた。レブラプターだ。そして、それに乗る人物は、先ほどまで避難誘導に徹していた少年である。

 

「リュウジ君! 何をやっているの!」

『何って、僕と彼でこいつを追い払うんですよ!』

 

 ハイパークローを振り抜き、低い姿勢から威嚇するレブラプター。追撃のタイミングを損ねたライガーゼロが憎々しげに唸りを上げる中、二体のラプトル系ゾイドが向かい合う。

 

 

 

 否

 

『えっ!?』

 

 バランスを崩し、レブラプターが倒れた。見ると片足の先を切り裂かれていた。小型ゾイドの足先という小さな箇所を斬り捨てられるゾイドは、この場に一機しかいない。

 

「……レイヴン?」

 

 レイヴンのディロフォースが、崩れ落ちたレブラプターを見下ろす。邪魔をするなと言わんばかりにその背中を踏みつけ、踏み台にして跳躍した。さらに翼を広げ、滑空体制のまま獣の里(アルビレッジ)から離れていく。追従するシャドーを引き連れて。

 

『逃げるのかい? そうはいかないよ!』

 

 コブラスとライガーゼロも踵を返し、走り去る。後に残ったのは、静寂だけだった。

 

 

 

 

 

 

 ハンマーロックのコックピットを降り、タリスは獣の里(アルビレッジ)を見回した。建物だったものから火の手が上がり、あちこちに獅子と鳥竜の戦いの痕が残されていた。

 人員は、無事だ。失ったものは、然して多くない。だが、多くないが、失ったものはあった。この場所が、苦労の末に作り上げた、故郷になるはずの場所が、一夜にして廃墟と化した。

 

 ――なんでしょうか。この感覚は……。

 

 廃墟と化した獣の里(アルビレッジ)を見渡し、タリスの脳裏には一つの予感が宿る。コブラスという少年によるものか。彼の背後に控えている何者かによるものか。はたまた、平和を許さない戦争という行いの始まりなのか。

 

 この惨状は、惑星Ziの未来の姿なのではないか。そんな風に、予感してしまったのだ。

 


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