贖罪のゼロ   作:KEROTA

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第21話 REACH WITH YOU あなたと共に

「俺の友人に手を出すな、ゴキブリ野郎ッ!」

 

 『―・―』のテラフォーマーを殴り飛ばした姿勢のまま、ドナテロ・K・デイヴスが咆哮する。その声は管制室の空気を震わせ、この場にいる者全員に、バグズ2号における最高戦力が戦線に復帰したことを伝えた。

 

「じょう」

 

「じ、じ――」

 

 その一方で、一連の事態を受けてテラフォーマー達の動きはあからさまに鈍った。彼らは今までの様な機敏さで襲い掛かるでもなく、さりとて撤退するでもなく――復活したドナテロのことを、ただ棒立ちで見つめていた。

 

(動きが止まった? これって……)

 

 テラフォーマー達の動きが止まったことに内心で驚きながらも、イヴは目の前に立ったドナテロの名を呼ぶべく、口を開いた。

 

「ドナテロさ――ゲホ、コホッ!」

 

 だが腹部に受けたダメージが抜けきっておらず、彼の口から飛び出したのは激しい咳だった。口の中に鉄臭い味が広がり、肺が酸素を求めて喘いだ。そんな彼の様子を見たドナテロはイヴに背を向け、彼を庇うように立つと口を開いた。

 

「無理に喋ろうとするな、イヴ。傷に障る」

 

 ドナテロは背後のイヴに気遣うような口調で語り掛けながら、管制室内の様子を一望した。

 

 口端から血を流し、ぐったりと床に倒れ伏すティン。

 

 折り重なるようにして何かに群がる、無数のテラフォーマー。

 

 そして、この場に姿の見えない他の乗組員たち。

 

 ドナテロの顔が険しく強張り、固く食いしばった彼の歯がギリッと音を立てた。

 

「――イヴ、今まで良く戦ってくれた」

 

 警杖を杖代わりに立ち上がろうとするイヴを手で制すると、ドナテロは腕の収納ケースから変態薬を取り出す。

 

 その双眸に燃えるのは、乗組員たちを守り切れなかった後悔と悲しみ、そして彼らを傷つけたテラフォーマーに対する憤怒であった。

 

「あとは、俺に任せてくれ」

 

 その言葉に強い怒りと覚悟を滲ませ、ドナテロは首筋に注射器を突き立てた。変態薬が彼の全身を駆け巡り、彼の体へ急速にベース昆虫の特性を反映させていく。やがて変態を終えたドナテロの肉体は二回りほど大きく膨れ上がり、その全身はテラフォーマー以上に硬く頑丈な、赤黒い甲皮に包まれていた。

 

「フウゥゥー……」

 

 深く息を吐きながら、ドナテロはテラフォーマー達を睨みつけた。個々が強いうえにいくらでも替えが効く彼らに対し、味方はほぼ全員が戦闘不能。唯一健在である小吉も、『・|・』のテラフォーマーの相手で手が離せない。

 

「じぎ、じょうじぎ、ぎぎ」

 

 既に『\・/』のテラフォーマーの指揮で、テラフォーマー達は完全に統率を取り戻している。戦況は、どうあがいても圧倒的に不利。

 

「――それがどうした」

 

 遠くから、小吉が何かを叫ぶ。声の様子からして、警告だろうか? 無理もないだろう。今からドナテロがしようとしていることは、無謀以外の何者でもないのだから。だがそんな絶望の真っただ中にあっても、ドナテロの心は決して折れることはなく――ただ、煌々と燃え盛っていた。

 

 その戦意には、微塵の陰りもなく。彼はただ、激情の迸るままに咆哮した。

 

 

 

「人間を、嘗めるなッ!!」

 

 

 

 そして、まるでその言葉を待っていたかのように。

 

 黒い悪魔たちは指揮官の号令一下、一斉にドナテロへと躍りかかった。

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 ビキッ、と。

 

 何かが折れる嫌な音が響いたその直後、小吉は自らの腕に走った激痛に顔を歪めた。

 

「……ッ!!」

 

 歯を食いしばって苦悶の声をかみ殺し、小吉は眼前の敵を睨んだ。その両腕からはオオスズメバチの象徴とも言える毒針が消え失せており、露出した血管から鮮血が溢れていた。

 

「じぎぎ」

 

 対する『・|・』のテラフォーマーは一声そう鳴くと、()()()()()()()()()()()()()()()を、小吉の顔面へと刺すように突き出した。

 小吉はその攻撃を辛うじて受け流すと、テラフォーマーの顎を目掛けて拳を振り抜く。すかさず『・|・』のテラフォーマーは上半身を大きく仰け反らせてそれを躱し、逆に小吉へとサマーソルトキックを浴びせた。

 

「がっ……!」

 

 衝撃が脳を揺らし、意識が眩みそうになる。気力でそれを押さえつけ、小吉は自らに喝を入れるかのように震脚して、再び迎撃の構えをとる。皮肉なことに、一度持ちこたえさえすれば、腕の痛みが彼の意識を強引に縫い止めてくれた。

 

「じょうじ」

 

 『・|・』のテラフォーマーはそのままバック転で距離を置くと、手にしていた小吉の毒針を投げ捨てた。針の根元に残る肉片から、血が数滴飛び散る。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

 ――オオスズメバチの最大の武器である毒針が破壊された。

 

 それは即ち、眼前のテラフォーマーを一撃で仕留める手段を失くしたことを意味する。いかにオオスズメバチの筋力を持つ小吉と言えども、素手でテラフォーマーの硬い甲皮を貫いてダメージを与えることは困難。

 

「じぎ、じぎぎぎぎぎ!」

 

 『・|・』のテラフォーマーが、満身創痍の小吉を嘲るように嗤う。ゆっくりと、しかし着実に、小吉は追い込まれていた。

 

「畜生……!」

 

 絞り出すように彼が呟いた、その時だった。周囲のテラフォーマー達が、一斉にある方向へと駆けだしたのは。

 

「ッ! 不味い! イヴ、艦長(キャプテン)ッ!」

 

 その方向にいたのは、意識が戻ったばかりのドナテロと手負いのイヴ。彼らに襲い掛かるテラフォーマーの数は、身動きが未だにとれないイヴは言うに及ばず、病み上がりであるドナテロにとっても脅威たりうるだけのもの。

 

「逃げ――」

 

 小吉が叫ぼうとした、次の瞬間。

 

「人間を、嘗めるなッ!!」

 

 まるで小吉の言葉を遮るかのように、ドナテロの咆哮が管制室を揺るがした。同時に、飛び掛かった数匹のテラフォーマーが、逞しい彼の黒腕に薙ぎ払われる。彼らは勢いもそのままに壁や床に仲間を巻き込んでその体を打ち付けると、それきり動かなくなった。

 

 無論、その程度でテラフォーマー達の攻勢は怯まない。仲間の屍を踏み越えて、すぐさま第二陣、第三陣のテラフォーマーが襲い掛かる。そんな、テラフォーマー達の絶え間ない攻め手は、しかしドナテロただ一人に食い止められ、次々と屠られていく。

 

 その様は、さながら修羅が如く。

 

 ドナテロの周囲には、次々と黒い悪魔の骸が積み重なっていった。

 

「――ハハ、何やってんだろうな、俺」

 

 小吉はどこか呆然と、しかし目が覚めたように呟く。彼はそのままクルリと体を反転させると、自らの背後に迫りつつあった『・|・』のテラフォーマーの股間へと蹴りを打ち込んだ。

 

「ギっ……!」

 

 ――『下段蹴り(金的蹴り)』

 

 人間ならば悶絶必至なこの技だが、テラフォーマーに痛覚は存在しない。だが、小吉の蹴りの威力は凄まじく、攻撃のために不安定な姿勢になっていた『・|・』のテラフォーマーの体は、僅かに宙に浮いた。

 その隙を狙い、小吉が流れるように技を打ち込んでいった。

 

「せいッ!」

 

 ――『猿臂』

 

 ――『背刀受け』

 

 ――『裏拳打ち』

 

 ――『前蹴り』

 

 繰り出される小吉の攻撃が『・|・』のテラフォーマーを穿ち、その体を後方へと吹き飛ばす。

 

「じ、ぎっ――!」

 

 床を数度転がった『・|・』のテラフォーマーは、勢いを利用してそのまま跳ね起きる。片膝をついた『・|・』のテラフォーマーの全身にはひびが刻まれており、その顔からは笑みが消えていた。

 

「……ったく、情けない話だぜ」

 

 小吉はそう言って、自らの手に視線を落とした。

 

「こんな簡単なことまで忘れてたのか、俺は」

 

 その脳裏に浮かぶのは、かつて空手を人殺しのために使ってしまったことを悔いる小吉に、奈々緒がかけてくれた言葉。

 

 

 

『小吉、空手はやめちゃ駄目だよ。もっと、強くなって』

 

 

 

『その力はいつか、誰かのために使うときが来るから』

 

 

 

「――今が、その時だ」

 

 例え、オオスズメバチの最大の武器が破壊されようとも。小町小吉の『強さ』は、何一つ失われてはいない。

 

 毒針が折れたのなら、十回でも、百回でも、拳を振るい続けるまで。

 

 君の言葉があれば――俺はまだ、戦える。

 

「フンッ!」

 

 そんな単純なことすらも見落としていた自分に喝を入れるように、小吉は両掌で自らの頬をとはたく。それから彼は拳を握りしめると、眼前の敵を見据えた。

 

 

「来い、テラフォーマー! お前らには、何一つ奪わせやしねえ!」

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 ――蜂球をご存じだろうか?

 

 これは大量のミツバチが外敵であるスズメバチにまとわりつくことで攻撃する方法である。有名なのはニホンミツバチによる『内部の熱を上昇させることで対象を熱殺する』蜂球だが、実はこれ以外にもセイヨウミツバチによる『対象を強く圧迫することで窒息死させる』蜂球が存在する。

 

 その内容から、これは『窒息スクラム』と呼ばれているのだが――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぐッ……!」

 

 奈々緒の顔が苦悶に歪み、その額に脂汗が滲む。今にも力尽きそうな彼女を、無数のテラフォーマー達が見つめていた。

 

 ――あの時、ウッドと一郎を守るために張り巡らせた、糸の結界。

 

 それはさながら濁流のごとく押し寄せたテラフォーマーの大群を、奇跡的に押しとどめることに成功していた。これにより彼らは、途方もない重量による圧死を奇跡的に免れていた。

 

 だが彼女にとって、本当の地獄はここからだった。防衛にために編み上げたこの結界こそが、今この時、奈々緒を心身ともに消耗させていたのである。

 

 奈々緒が張り巡らした糸の結界の支柱は、言うまでもなく彼女自身。それが意味しているのは、糸の結界に阻まれた何十体ものテラフォーマーの重さを、奈々緒がたった一人で受け止めるざるを得ないということ。

 

 バグズ手術を受けてるとはいえ、奈々緒自身は特筆するほどの筋力があるわけでもない。まして、手術ベースとなっているのは昆虫の中でも肉体面においては特に虚弱なクモイトカイコガ。その肉体への負担が莫大なものになるのは、言うまでもないだろう。

 

 それに加え――。

 

 

 

 

 

「じょう」

 

「じょう、じ」

 

「じじょう、じょう」

 

「じじじじ、じょうじじ」

 

 

 

 

 

「じじょうジョじょう「じじょ」うじじょうじじょう「ジョうじょう」じょウジじじじじょうじょうじ「じょうじジョウ」じょうじジョウジじじょじじじ「じじょーう」じょうじじょじょじ「じょうじょうじ」じょうじじじじょうージョじょう「じじょ」うじじょうじじょう「ジョうじょう」じょウジじじじじょうーじょうじ「じょうじジョウ」じょうじジョウジじじょじじじ「じじょーう」じょうじじょじょじ「じょうじょうじ」じょうじじじじょうジョじょう「じじょ」うじじょうじじょう「ジョうじょう」じょウジじじじじょうじょうじ「じょうじジョウ」じょうじジョウジじーじょじじじ「じじょう」じょうじじょじょじ「じょうじょうじ」じょうじじじじょうジョじょう「じーじょ」うじじょうじじょう「ジョうじょう」じょウジじじジョウじょうじ「ジョウ」じょうじジョウジじじょじじじ「じじょーう」じょうじじょじょじ「じょうじ」じょうじじじじょジョウうジョじょう「じじょ」うじじょうじじょう「ジョうじょう」じょウジじじジジョウじょうじ「じょうじジョウ」じょうじジョウジじじょじじじ「じじょーう」じょうじじょじょじ「じょうジじょうじ」じょうじじじじょ」

 

 糸の結界に閉じ込められた彼女たちは、息がかかるほどの至近距離から、絶えずテラフォーマーの鳴き声をひたすら聞かされ続けていた。四方から覗きこむ無数の無機質な眼球は、その全てが奈々緒たちを絶え間なく、舐めるように見つめている。

 この状況が奈々緒を生理的に追い詰め、その心から少しずつ希望を削り取っていた。

 

「っ……!」

 

 数十のテラフォーマーの重みで糸が食い込み、奈々緒の指から鮮血が滴る。ギチギチと自らの鼓膜をひっかいたその音は、果たして糸が軋んだ音なのか、それとも自らの心が折れた音なのか。

 

(眠い……それに、疲れた、な……)

 

 意識が闇に侵食され、全身から力抜けていくのが手に取るように分かる。だが、今の彼女にはそれに抗うだけの気力は残されていなかった。

 

(これ、以上は……もう……)

 

 重くのしかかる疲労感と眠気に誘われるまま。奈々緒が意識を手放そうとした瞬間だった。

 

 その声が、彼女の鼓膜を叩いたのは。

 

「来い、テラフォーマー!」

 

(小、吉……?)

 

 分厚く覆いかぶさる悪魔たちの向こうから聞こえた、小吉の声。それが、奈々緒の意識を繋ぎとめる。思わず顔を上げた奈々緒の耳は、なおも彼の声を聞き取った。

 

「お前らには、何一つ奪わせやしねえ!」

 

「……ッ!」

 

 はっとしたように、奈々緒が息を呑む。意識が明瞭に冴えわたっていくのを感じた。

 

「そうだ。そうだよね、小吉……!」

 

 もはや苦痛と疲労以外の一切を感じぬ中、奈々緒は自らの脳裏に最愛の人の姿を思い浮かべた。

 

 ――幸せになるために、自分はバグズ計画に参加することを決めたんじゃないか。

 

 ――まだ私は、その一歩目すら踏み出せていない。

 

 奪わせるわけにはいかない、私の、私たちの未来を。きっと、遠くない未来にあるはずの、幸福を。

 

「諦めない、諦めてなんてやるもんか、絶対に……!」

 

 例えどれだけ肉体が痛みに悲鳴を上げようと、どれだけ心が絶望に侵されようと。

 

「アタシが諦めて、小吉(アイツ)が悲しむなんて……そんなのはもうこりごりだ……!」

 

 ――魂だけは、渡さない。

 

「一分でも、一秒でも、耐えてやる……!」

 

 自らを鼓舞し、奈々緒は痛みすらも感じなくなり始めた両腕に力を入れ直す。ピンと糸が張り、解けかけていた結界は再びその力を取り戻した。

 

「絶対に皆で帰るんだ! 地球へ、私たちの星へ……!」

 

 例え腕が引きちぎれようとも、力尽きるその刹那まで彼女は糸を手放すつもりはなかった。

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 ――思えば、つまらない人生だった。

 

 ヴィクトリア・ウッドは悪魔に閉ざされた空間の中、ぼんやりと思考する。

 

 自らの脳に刻まれた大半の記憶は、何の面白みもないものばかりだ。父が死んだときの記憶、FGMを受けた苦痛の記憶、盗みをして生計を立てた記憶。

 

 不幸ぶるつもりなど、毛頭ない。ただ、これがヴィクトリア・ウッドと言う人間のすべてなのだとしたら――どうしようもないほどに味気ない。

 

 まるで自分が空っぽの人間なのだと突き付けられたようで、不愉快だった。だから彼女は、自らを満たす幸せを求め、同時にそれを許さない世界を憎んだ。

 全てを支配し、ありとあらゆる幸福で以て自身の空虚を満たすのだと意気込み――テラフォーマーの卵鞘を地球へ持って帰るという依頼を受けた。

 

 だが、その結果がこれだ。

 

 世界を支配するどころかイヴと言う少年一人さえ御し切れず、自身の首筋には死神の鎌が付きつけられている。あまりにも、滑稽な末路だ。

 

 そうして怒りも、憎悪も、野望も、全てを奪われた彼女には、虚しさだけが残された。

 

 もはや彼女に生きる意味はなく、悲嘆の感情も湧き出ない。彼女はただ床にへたり込み、最期の時を待っていた。

 

「諦めない、諦めてなんてやるもんか、絶対に……!」

 

 その時だった、そんな声が聞こえたのは。

 

 顔を上げたウッドの目に、変態した奈々緒の姿が映る。うっ血して青く変色し始めている両手には、クモイトカイコガの糸の束がきつく握られている。

 

(なんで、まだ頑張れるんだ?)

 

 ぼんやりと、ウッドの脳裏をそんな考えがよぎる。丁度その時、奇しくも奈々緒が言葉を漏らした。

 

「アタシが諦めて、小吉(アイツ)が悲しむなんて……そんなのはもうこりごりだ……!」

 

 彼女の言葉にウッドは両目を大きく見開く。

 

(――呆れた。この状況でまだ、小吉君のこと考えてる)

 

 そうまでして誰かのために生きようとするなど、本当に馬鹿馬鹿しい。自分の命は、自分のために使うべきものだ。それを他人のため、誰かのために使うのは無駄遣いでしかないではないか。

 

(馬鹿みたいだ。そもそもこんなことになったのも、裏切り者のあたし達を助けたからじゃん)

 

 動けないウッドたちへとテラフォーマーが押し寄せてきたあの時。

 奈々緒はその気になれば、彼女たちを見捨てて逃げることもできた。追撃をかわしきれるかはともかくとして、あの時の奈々緒には、逃げるという選択肢も確かに存在していたのだ。

 

 しかし、彼女はそうしなかった。

 

 自分達を殺そうとした裏切り者を守るために、奈々緒はその身を挺してウッドたちの盾となった。

 

(奈々緒ちゃんだけじゃない。皆、お人よしが過ぎる。誰かのために、なんて――そんなの、何の利益にもならないのに)

 

 本質的に自己中心的な思考回路を持つウッドにその行動原理は理解できず、また理解しようとも思えなかった。

 

 

 

 ――けれど、なぜだろうか。

 

 

 

「一分でも、一秒でも、耐えてやる……! 絶対に皆で帰るんだ! 地球へ、私たちの星へ……!」

 

 

 

 ウッドはそんな彼らのあり方を、美しいと思った。

 

 

 

 今までウッドが出会ってきた人間達は、誰も彼もが自分のためだけに生きていた。

 

 金銭目当てに自らに取引を持ちかけた者も、身体を目当てに自らに近づいてきた者も、あるいは、毎日を生きるためだけに犯罪に手を染め続けた自分自身さえも。

 

 皆、自分の欲望を満たすことに必死で、誰も他人を顧みることなどしなかった。ウッドはそれを悪いことだとは思わなかったし、むしろそれが当然だと思っていた。

 

 だがバグズ2号の乗組員になってから、彼女のその認識は変わった。

 

 バグズ2号計画に参加するのは、『金がない者』。自分が裏切ることになるのは一体どんな奴らなのかと蓋を開けてみれば、そこにいたのはただのお人よしの集団だった。

 自分の故郷なら一日と経たずに身ぐるみをはがされてしまうのではないかと、柄にもなく心配したのは記憶に新しい。

 

(そう言えば。あたしが心から笑うようになったのも、こいつらと会ってからだっけ)

 

 彼らと過ごしてきた日常は、ウッドにとっては生ぬるいなれ合い以外の何者でもなく。しかしだからこそ、心地よかった。

 

 例えそれが、いずれ自分自身の手によって壊されるものだったとしても。ウッドは彼らと過ごす日常を、心の底から楽しんでいた。

 

「……何だ、あるじゃん。楽しい記憶」

 

 ウッドの口が無意識に、そんな言葉を紡いだ。

 その気付きは同時に、それまでぽっかりと穴が空いたようだったウッドの胸中で、生への執着と反抗心に鎌首をもたげさせた。

 

「ハハ……よくよく考えたら、こいつらに黙って殺されるのも癪だな」

 

 そうだ、自分はまだ満たされていない。まだ自分は空っぽのままだ。ならば――

 

「こんなとこで、死ぬわけにはいかない」

 

 一度靄が晴れてしまえば、彼女の脳は自分でも驚くほどに良く回った。生き汚く、意地汚く、回り出した彼女の思考は『生への方程式』を瞬時に描き上げる。

 

 すぐさまウッドはそれを実行すべく、手錠の嵌められた両腕を奈々緒の腰へと伸ばした。

 

「ッ! ウッド、何を……!?」

 

 驚く奈々緒を無視してウッドが取り出したのは、奈々緒が持つ変態薬だった。ウッドは取り出した三本のうちの一本を、すかさず自らの体に突き刺した。

 

 途端、ウッドの全身にはエメラルド色の紋が浮き上がり、人差し指が蜂の毒針へと変化する。

 

 ――このままやられっぱなしなんて、性に合わない。

 

 変態を終えたウッドは心の中でそう言うと、肩越しに自らを見つめる奈々緒へと視線を向けた。

 

「ゴメン奈々緒ちゃん、詳しい説明をしてる暇はないんだ。けど、あたしを信じてくれ」

 

 信じてくれ、などとどの口で言っているのか。自分で言っておきながら、ウッドは失笑を禁じえなかった。

 

「……」

 

 だが、そんな彼女を奈々緒は笑わなかった。彼女はただゆっくりと頷くと、再びその顔を前へと向けた。ウッドの目の前に、無防備な背中がさらされる。

 

 ――そんなんだから、あたしみたいなのに足元を掬われるんだよ。

 

 ウッドが小さく呟く。呆れ混じりのその声はしかし、どこか嬉しげにも聞こえた。

 

「信じてくれて、ありがと。それじゃ奈々緒ちゃん、あと数秒でいい……『もう少しだけ耐えてくれ』」

 

 そう言うとウッドは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ――彼女の行いを人道的ととるか外道ととるかは、人によるだろう。

 

 

 奈々緒の体へと流し込まれた毒針は瞬く間に彼女の脳へと運ばれ、その意識を刈り取る。これにより奈々緒は自由意思を奪われたが、同時に精神の消耗も食い止められた。

 

 脳に作用した毒は、限界などとうに超えた奈々緒の肉体をなお強引に動かす。これにより奈々緒の体が更なる悲鳴を上げるが、同時に結界が崩壊する瞬間を大幅に遅らせた。

 

 それは実に合理的な延命措置。エメラルドゴキブリバチは、自らの首筋につきつけられた死神の鎌を押し返して見せたのだ。

 

「あたしは今まで、『自分のためだけ』に生きてきたし、これからもそれを変えるつもりはない。けどさ……たまには、血迷ってみるのも悪くないよな」

 

 そう言ってウッドは体の向きを変えると、静かな口調で『彼』に語り掛けた。

 

「起きなよ、一郎君。『家族のために』……生きて帰るんだろ?」

 

 そして彼女はその腕を振り上げ――残る二本の注射器を、床に倒れる一郎の体へと突き刺した。

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 気が付くと一郎は、小さな部屋の中にいた。

 

 壁紙が剥げた壁、ガムテープで強引に止められた割れたガラス窓、薄汚れた天井。そこは、彼の自宅だった。

 

『兄貴、ご飯できたよ!』

 

 穴が空いたままの襖をあけて、弟の二郎がひょこりと顔を出す。一郎は「今行く」と答えると、誹謗中傷の落書きが書き込まれた教科書を閉じ、勉強机代わりに使っている段ボール箱の前から立ち上がった。

 

 ――いつの時代も、人間は自分達と異なる者、理解のできない者を爪弾きにしたがるものだ。増して『異端者』が自分達よりも優秀となればなおさらのこと。恐怖と嫌悪、そして嫉妬にかられた群衆は、中世の魔女狩りさながらに、『異端者』を排撃する。

 

 際立って醜い容姿と優秀な頭脳を持つ蛭間一郎は、彼の同級生たちにとってまさしく『異端者』であった。中性ならざる現代日本の『学校』と言う社会において、彼らの排撃はいじめという形で執行された。

 

 繰り返される罵詈雑言、暴力、嫌がらせの数々。学友は誰もが一郎を敵視し、教師すらも彼を貶めた。

 

 ただ一人の味方すらいない、地獄のような毎日。その中にあってしかし、一郎の心は決して折れず、歪むことはなかった。

 

 なぜならば。

 

『一郎、勉強おつかれさま』

 

『お疲れ、お兄ちゃん! ご飯、大盛りでいいよね?』

 

『よし、このちくわもーらい!』

 

『あっ、バカ、七星! それは兄ちゃんのだって!』

 

『いちろーにーちゃん!』

 

 

 ――彼には、自らを愛してくれる家族がいたから。

 

 

 彼にとって家族の存在が、どれだけありがたかったことか。

 吐き気を催すような闇の中、気が狂いそうになったことは数えきれない。だがそんなときには母や妹、あるいは弟たちが必ず光明となり、彼を支え導いてくれた。

 

 だからこそ一郎は、心に固く誓ったのだ。今度は自分が、家族を助けるのだと。幼い弟や妹を養い、病床に伏せる母を少しでも支えるのだと。そのためならば、どんな汚れ役でも勤め上げて見せる。

 

 そう決意して、彼は火星への任務へと赴いた。

 

「起きなよ、一郎君」

 

 ――生死の境界、深きまどろみの中で。

 

 家族の幻影を見つめていた一郎の耳は、そんな声を聴いた。

 

 それは、自らの共犯者のもの。珍しく冗談めかした様子のないその声は、一郎の耳に心地よく響いた。

 

「『家族のために』……生きて帰るんだろ?」

 

「――そうだな」

 

 一郎はその言葉を、静かに肯定する。そんな彼を、家族たちが不思議そうに見つめた。

 

『兄ちゃん、どこか出かけるの?』

 

「……ああ、ちょっと火星まで行ってくるよ」

 

『火星? そんなところに、何しに行くの?』

 

 弟の七星の言葉に、一郎は一瞬だけ返答に詰まる。しかしやがて、彼は意を決したように、ゆっくりと口を開いた。

 

「仲間を、助けてくる」

 

『……そっか!』

 

 そう言うと、七星はニッコリと笑った。

 

『いってらっしゃい、兄ちゃん!』

 

「――ああ」

 

 一郎は優しい表情で頷くと、自らを見送る家族たちへと背を向ける。

 

「行ってきます!」

 

 力強くそう言い、一郎は一歩前へと踏み出した。必ずこの風景の中に戻ってくると、心に誓いながら。

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 ドン! という凄まじい衝撃がつきぬけ、奈々緒たちに覆いかぶさっていたテラフォーマーの山が一気に崩壊したのを、イヴは見た。

 

 束の間、全ての戦局で動きが止まり、管制室にいる者全ての視線がその一画へと向けられる。

 そこには、数十のゴキブリを吹き飛ばした姿勢のまま立つ一郎と、数匹のテラフォーマーを従えるウッド、そして彼女の腕に抱かれている奈々緒の姿があった。

 

「アキ!」

 

「落ち着きな、小吉君。大分無理させちゃったから今は寝てるけど、大丈夫。ちゃんと生きてるよ」

 

 今にも駆け寄りそうな小吉を安心させるため、ウッドがそんな言葉を掛ける。その傍らで、一郎が絞り出すように言った。

 

「ハァ、舐めやがって……! ハァ……絶対に、生きて帰ってやる……!」

 

 一郎は俯いていた顔を上げると、悠々と自らを見つめる『\・/』のテラフォーマーを睨みつけた。

 

 

 

「こんなところで死ねるか!!」

 

 

 

 そう言って一郎は、猛然と『\・/』のテラフォーマーへと突っ込んでいく。ガン、と肉と肉が衝突する音がして、一郎とテラフォーマーが組みあう。それが合図とだったかのように、戦況は再び動き出した。

 

「ッ、ドナテロさん、危ない!」

 

 イヴはそう叫ぶと、咄嗟にドナテロの背後へと警杖を突き出した。その先端がバチバチという音と共に青い火花を吹き上げる。

 

 それを見た『―・―』のテラフォーマーは、背後からドナテロを奇襲すべく伸ばしていた手を引っ込める。彼はイヴへと一瞥を繰れると、すぐさま警戒するようにバックステップで距離をとった。

 

「ドナテロさん、大丈夫?」

 

「あ、ああ……問題ない。助かった」

 

 イヴの問いに答えながら、ドナテロは駆け寄ってきたテラフォーマーの頭を叩き潰す。それから彼は、どこか物憂げな顔でイヴを見つめた。

 

「……イヴ」

 

「戦うな、っていうのは無しだよ、ドナテロさん」

 

 ドナテロの言わんとしていることを察して、イヴが先に口を開いた。その言葉に、ドナテロは思わず口を閉ざす。

 

 ここで強く言ったところで、イヴはおそらく聞く耳を持たないだろう。何よりイヴの戦力としての有用性、とりわけ機転の優秀さをドナテロはよく理解していた。子供ながらに大人顔負けのその能力は、この戦況においてこれ以上ない武器だ。

 

 本音を言えば、ドナテロはイヴをこれ以上戦わせたくなかった。それは自分が、イヴのことを人造人間――すなわち、戦略兵器として認めてしまったことになるから。

 

「ねえ、ドナテロさん――バグズ2号が出発してから、七日目のこと覚えてる?」

 

 イヴは襲い掛かってきたテラフォーマーを警杖で打ち据えると、重く黙り込んでしまったドナテロに言った。

 

「ドナテロさんは、皆の前でボクに言ってくれたよね。ボクは『バグズ2号の乗組員として』この作戦に同行させるって」

 

 イヴの言葉に、ドナテロは自らがミーティングで告げた言葉を思い出した。その様子を見て、イヴはその顔に笑顔を浮かべた。

 

「ボクね、あの時は本当に嬉しかったんだ。本当は、皆を火星なんかに行かせたくなかった。けどドナテロさんが、皆がボクを仲間として認めてくれて――ボクは初めて、自分が『人間』だと思えた」

 

 そう言って、イヴはドナテロを見上げた。

 

「だから、ボクも戦うよ。バグズ2号の乗組員としてドナテロさんを、皆を守るために……ボクは、この力を使いたいんだ」

 

 自らを見つめる水色の瞳に、ドナテロは吸い込まれるような錯覚を覚えた。そしてその視線から、彼は改めてイヴの決意の強さを改めて知る。

 

「そうだな……すまない、イヴ」

 

 一呼吸分の時間を置いて、ドナテロが言った。

 

「俺の友人として、バグズ2号の仲間として――一緒に、戦ってくれ」

 

「任せて!」

 

 威勢よくそう言うと、イヴは警杖を構え直す。腹部に受けた蹴りのダメージは抜けきっていない。だが、ドナテロが隣に立っている。その事実だけで、イヴは万全以上のパフォーマンスを発揮できそうだった。

 

「ドナテロさん、このテラフォーマーたち、指揮系統をスキンヘッドのテラフォーマーに任せっきりみたい」

 

「どういうことだ?」

 

 聞き返してきたドナテロに、イヴが簡潔に説明した。

 

「ドナテロさんがスキンヘッドのテラフォーマーを殴った時、あいつらの動きが一瞬だけ止まったんだ。その後すぐ、一郎さんと戦ってるテラフォーマーの号令で動き始めちゃったけど――」

 

「……成程」

 

 イヴの言いたいことを理解し、ドナテロは顔を引き締めた。

 

「あの三匹を叩くのが、得策か」

 

 ――指揮官であるあの三匹が死ねば、自然にテラフォーマーたちは瓦解する。それが、イヴとドナテロがたどり着いた答えだった。

 

「一匹は小吉が、一匹は一郎が相手をしている……問題は、奴か」

 

 ドナテロが睨むのは、自分達を取り囲む無数のテラフォーマー。そしてその向こう側から悠々と自分達を観察する、『―・―』のテラフォーマーだった。

 

「あそこまで行くのは、中々に骨が折れそうだ」

 

 決して悲観的ではなく、淡々とドナテロが現状を口にすると、イヴが頷いた。先程のイヴの反撃に警戒心を強めたのだろう、『―・―』のテラフォーマーは彼らを近づけまいとばかりに、同胞を用いて露骨な壁を用意していた。

 

「仕方ない……少し強引な方法になるが、俺が道を拓こう。イヴ、その間にお前は――」

 

 ドナテロが言おうとした、その時だった。

 

「いえ、それには及びません、艦長(キャプテン)

 

 そんな言葉と共に、ドナテロとイヴ。2人の間を、黒い旋風が吹き抜けたのは。

 

 

 

 

 

 

 

【あなたが わたしの民を 行かせることを 拒むなら】

 

 

 

【見よ わたしはあす 蝗をあなたの領土へ送る】

 

 

 

 

 

 

 

「 シ ュ ッ ! !」

 

 

 一閃。

 

 そんな表現が相応しいだろう。ただの一撃で、黒い悪魔たちの体は真一文字に切り裂かれた。

 テラフォーマーたちを屠った風は軽やかに床へと降り立つと、口を開いた。

 

「すまない、イヴ。少し遅れた」

 

「てぃ、ティンさん……!」

 

 目の前に立ったティンに、イヴが目を見開く。彼が驚いたのは、倒れていた彼が助けに来たからではない。その姿が、先程までの物から大きく変化していたからだ。

 

 先程まで緑色だった表皮は今、漆の様な黒へと変色してティンの体を包んでいた。背中からは、通常よりも長大化したバッタの翅が伸びている。

 

 それは、『群生相』と呼ばれる形態。

 

 食料が少ない状態に置かれたときにのみサバクトビバッタが見せる、獰猛さと貪食の顕現。

 

「普通の変態じゃ、群生相にはならない……! そんな、まさか――」

 

「イヴ」

 

 青ざめるイヴを諭すように、ティンは穏やかな口調で告げた。

 

「お前に譲れないものがあるように、俺にも譲れないものがある。これくらいの無茶はさせてくれ」

 

 その言葉は静かなものだったが、有無を言わせない何かがあった。何かを悟ったように口をつぐんだイヴに肩越しに笑いかけると、再び前へと顔を向けた。

 

「露払いは俺が! 艦長とイヴは、後ろにいる『奴』を!」

 

 背後の二人にそう言うや否や、彼は再び跳躍した。そして彼は、聖書に刻まれた災厄の描写そのままに、テラフォーマーの群れへと襲い掛かった。

 

 

 

 

【それには雄獅子の牙がある】

 

 

 

 ビュン、ビュン、と彼の足が唸りを上げて吹き荒れる。その度にテラフォーマーたちの命を刈り取った。

 

 

 

【それはわたしのぶどうの木を荒れすたれさせ わたしのいちじくの木を引き裂き】

 

 

 

 テラフォーマーたちはそのあまりの速さ、あまりの強さを押しとどめることすらできない。天災を前に、人々が祈ることしかできないように――彼らはただ、自分達が蹂躙されるのを見ているしかなかった。

 

 

 

【これをまるで裸に引きむいて投げ倒し その枝々を白くした】

 

 

 

 肉飛沫が舞い、分厚いテラフォーマーの壁は瞬く間に削られていく。

 

 

 

【彼らの前では火が焼き尽くし 彼らのうしろでは炎がなめ尽す】

 

 

 

「オオオオオオォォオォオオォ!」

 

 

 

【この国はエデンの園のようではあるが――】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「  シ  ュ  ッ  ! !」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【彼らの去ったあとでは 荒れ果てた荒野となる】

 

 

 

 

                         ――『出エジプト記』より、抜粋

 

 

 

 

「行けッ!」

 

 ティンが鋭く叫ぶと同時に、イヴとドナテロは同時に駆け出した。もはや、彼らの前に黒くそびえる壁はない。ただ、死体の荒野が広がっているだけだった。

 

「……さて。ここからは俺がお前たちにとっての壁だ」

 

 2人が無事に包囲網から離脱したのを確認すると、ティンはクルリと体の向きを反転させた。

 

「悪いが、一匹たりとも後ろへ通すつもりはない」

 

 彼の前に立つ無数のテラフォーマー。それを前にして一歩も引くことなく、ティンはただ静かに、眼前のテラフォーマーたちに告げた。

 

「――覚悟しろ」

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 目の前にドナテロとイヴの姿が現れたのを見て、『―・―』のテラフォーマーはゆっくりと腕組を解いた。

 

 弄した策は突破された。ならば、自分がこの人間達を駆除するまで。

 

 そう言わんばかりに、『―・―』のテラフォーマーは深く腰を落とし、迎撃の構えをとった。

 

「――イヴ。準備はいいか?」

 

「いつでも、大丈夫」

 

 2人は短く言葉を交わすと己の拳を、あるいは武器を構える。もはや、彼らの間に多くの言葉は不要だった。

 

 

 

 ――一呼吸分ほどの空白。

 

 

 

 そして、その後に。

 

 

 

 彼らの命運を決める最後の戦いの火蓋は静かに、しかし苛烈に切られたのだった。

 

 

 




オマケ

イヴ「祝! 贖罪のゼロ連載一周年突」

小吉「やべえ、今回ネタにできるシーンがねえ!?」

イヴ「祝! 贖罪のゼロ連載一周ね」

トシオ「シリアスで手を付けにくい場面しかない、だと……?」

イヴ「……贖罪のゼ」

ルドン「それじゃ、普通にU-NASA予備ファイルとかでお茶濁しとくか……」

イヴ「……(泣きそうな顔で『祝! 贖罪のゼロ連載一周年突破!』のボードを持って立ってる)」

ドナテロ「小吉、トシオ、ルドン……一列に並べ!」ビキビキ

三人「!?」




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