やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。短編集   作:うみがめ。

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比企谷くんはわたしのペット。

本能としてなのか俺は立っている陽乃さんの足に体を擦りつける。

「はいはーい、ちょっと待ってね」

 

そう言い陽乃さんは俺を足から離して、お皿に猫用の餌を入れる。

おお、流石陽乃さん。高いやつだ。これはカマクラにたまにあげるけど、あいつこれあげる時はすごい勢いで食べるんだよな。美味いんだろうな。……って美味っ。え?猫用の餌ってこんなに美味いの?

そんな感動をしつつ、俺は陽乃さんの用意した餌をむさぶるように食べる。

「んー、よく食べるなー」

 

陽乃さんは感心したようにつぶやきながら、毛並みに沿って優しく身体を撫でてくれる。

あ、そこそこ。そこがちょうどかゆい。

そのまま陽乃さんは楽しそうに、「うりゃうりゃー」と言いながら身体をまさぐる。

そんなことをされつつも俺は身体のかゆいところも掻いてもらい気持ちよくなったところで眠気が襲ってきて、んーっと身体を伸ばしてからウトウトと眠りについた。

 

ーーーーーーー

 

「ニャー」

 

カマクラは一鳴きし、足に顔を押し寄せて餌を催促する。

 

「はいはい、待っててな」

 

猫まっしぐらを取り出して、カマクラの皿にいつもの分量を入れてやる。

餌を入れるとカマクラは、「よくやった」とでも言ったように一回「ニャー」と鳴き、餌に貪りつく。

……はぁ。いいよなぁ、猫は。腹が減ったら飼い主に餌を催促をして、それで飼い主はすぐに餌をあげる。そして昼間は暖かい場所で日向ぼっこをしている。いい生活をしてるよなぁ。

それに、この先のことを何も考えずに生きていけるんだしな。人間だけだろ。明日生きるために今日を生きているのは。今日を生きればいいだろ、明日は明日考えようよ。

猫みたいな生活をしたいよ。もうやだ学校行くの面倒くさい。人間関係めんどくさいよ。

 

「1日でもいいから猫になってみてえなぁ」

 

そう呟くと、俺の言葉に返事をしてくれたのか、カマクラが。

 

「ニャー」

 

と一鳴きしてくれる。

はは、なんかこいつしてやるよって言ってるみたいだな。

そして疲れもあってなのか眠くなり、部屋に行き深い眠りについてしまった。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

朝。

俺はいつものようにmy angel sisterの声によって目を覚ます。

んっ、ふぁあ。眠いなぁ。……よし!今日も1日頑張るぞい!と青葉ちゃんのように気合いを入れ立ち上がろうとすると。

「おっと」

 

上手く立ち上がることができない。

その後も何度も立ち上がろうとするがうまくバランスよく立ち上がる事ができない。

んん?なんだ。足がなんか変な気がする。

そう思った俺は違和感のする足を見ると。

…………。

…………んん?

俺の足は人の足ではなくなっていた。

足が猫の足になっていた。

もう一度言う。足が猫になっていた。

…………は?

何度みても足は人の足ではなく毛で覆われ、柔らかい肉球が付いている猫の足だった。

……うん、夢か。そろそろ、目を覚まさないとな。そう思い、顔を叩くと、引っ掻いたように痛い。

……は?

恐る恐る手を見ると手も猫の手になっていた。

……うん。

えっ?ちょっ。はっ!?どういうこと?なに俺、猫になったの?いやいや、そんな訳ないよな。

そんな風に手と足が猫になっていてパニック状態になっている俺にさらに追い討ちをかけるように、ガラスに映った俺は猫だった。

ねこ、猫。ニャーって鳴く。雪ノ下が好きな猫になっていた。

……は?

え?

わそんな現実を受け入れられずに頭を抱えていると小町が、

 

「お兄ちゃん早く起きて、遅刻しちゃうよ。小町が」

 

と言いながら部屋に入り俺を起こしにきた。

あ、小町!ちょっ、これどういうことだ!?

 

「あれ?お兄ちゃんいないじゃん。もう学校行ったのかなぁ?」

 

ちょっ!小町、小町!俺いるから!ここだよ!

 

「ん?」

 

小町は俺の声に気付いたのかキョロキョロ辺りを見渡す。

小町ー!小町ーここだー!

すると俺の心の声が通じたのか小町は「あっ」と言い俺と目が合う。

さすが兄妹!やっぱり俺と小町は通じ合っていたんだ!

と喜ぶのも束の間小町は、

 

「わー、可愛い猫だなー。って違うでしょ。なんでこの猫お兄ちゃんの部屋にいるの?あっ、雨戸が開いてるからそこから入ってきたのかな?」

と、言いながらひょいと首根っこを掴まれる。

そしてそのまま俺を玄関から外に出す。

 

「もう勝手に入ってきちゃダメだよー」

 

そして小町は家の中に入って行く。

……。

……俺実の妹に文字通り外に追い出された?

えっ?ちょっ?は?

いやいやー、ないない。これは夢だろ、そうだこれは夢。あのCSに一度も挑戦できていないって言われてた横浜がCS進出を決めたんだぞ?それも夢だろ。いや、それは夢であったら困る、俺が泣く。ってことはこれは現実?いやいやー。

と、戸惑いながら現実から目を逸らすこと数十分。

……まぁ、あれだな。猫になるなんて現実的に考えてありえないしこれは夢だな。

そう思った俺は今のこの状況を楽しむために外を歩いてみることにした。

普段通るような道も毎日見る建物も猫の視線から見るとそれはそれはまた違ったもので、とても楽しい。なので俺はチョロチョロと色々な場所に行ってみることにした。

しかし、猫は単独生活すると思っていたが意外にも集団生活している猫が多く俺は猫になってもぼっちだった。

なので野良猫の縄張りからは追い出されたり、餌の取り方も分からないので飲まず食わずでいたので随分と身体が疲れた。

そこで俺は休む場所を探していると、ちょうど良さそうな四角い箱を見つけた。

試しに入ってみるとそこはフィット感があり居心地もよく、程よい日差しも差し込んで気持ちよくなりウトウトと俺は無意識の世界へと沈んでいった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

「――捨――コ?」

 

夢の中でどこか聞いたことのあるような声がした。

そして、その声は段々と俺の意識の中へ近づいてくる。

すると、今度は身体を優しく撫でられる。

眠い目を開けると、そこには長いスカートを着ている女の人がいる。

 

「ありゃ、比企――く――のような目」

そして、身体が浮くような感覚に見舞われた。

しかし寝ぼけていた俺はされるがままだった。

 

 

ーーーーーー

 

 

目を覚ますとそこは見知らぬ場所だった。

んぁ?あ、やべ寝てた。

つかここはどこだ?

本当にどこだここ?なんだか可愛らしい小物が沢山置いてあるなぁ。

そんなことを思いながらも狭い場所から出て俺は辺りを見渡す。

って、この狭くて居心地がよかったこれってダンボールだったのかよ。

しかもよくよく見るとこの段ボールには『オス猫です。心優しい方拾ってあげでください』と書かれている。

俺なんつーところに入ってたんだよ。もしかして俺誰かに拾われたのか?まさか捨て猫として拾われるとはなぁ。

そんな感傷に浸っていると、ドアが開いて誰かが入ってくる。

 

「お、起きた」

 

声の方を向くと、そこには陽乃さんがいた。

げっ。なんで?陽乃さん?

 

「おはよー。お前すてられてだんだぞー。そのダンボールに入っていたのをわたし拾ってきてあげたんだからなー。今日からはわたしが飼ってやるからなー。わたしが主人だからなー」

 

そう言い陽乃さんは乱暴に俺の頭をうりゃうりゃーと撫でる。

しかし、乱暴に撫でられても陽乃さんの小さな手は優しい手で柔らかく撫でられるのが気持ちいいのであった。

お、おお。猫になってわかった。撫でられるのって結構いいきもちなもんだなぁ。人に戻ったらカマクラのこともっと撫でてやろ……人に戻れたら。ほんとうに戻れるのかしら……。

 

「ん〜?どうしたー?シュンとして」

 

陽乃さんは心配そうに撫でながら聞いてくる。

おぉ、なんかこんな風にあの陽乃さんに心配されるなんて新鮮。いつもは俺たちのことをかき乱してるだけの人なんだけどこんな風に優しくされると身構えるなぁ。俺だとは気づいてないと思うけど。

つうか、このままここにいる訳にもいかねえよな。

「ん〜、名前どうしよっかなー。目が死んでるしアホ毛がぴょんって生えてるから比企谷君みたいなんだよなー。比企谷八幡、八幡。よっし、君はハチだ!」

 

と陽乃さんはビシッと俺を指さす。

あれれー?なんか名前まで決められちゃいましたが。このまま俺飼われるの?マジで?

 

「じゃあ名前も決まったしご飯にしよっか」

 

そう言って陽乃さんは立ち上がり餌を取りに行こうとする。

お、陽乃さんが離れた。よし、今のうちに脱出しよう。このままここにいても気が持たない。家に帰ろう。

俺はこの部屋から出ようとする。

すると、カチッと缶の蓋を開ける音がして鼻腔をくすぐるいい匂いがする。

匂いをかいでしまい思わず腹が鳴る。

あー、そういや今日1日何も食べてなかったなぁ。……よし、まずは腹ごしらえだな。それから家に帰ろう。

そして、陽乃さんがお皿に猫の缶詰の中身を入れて持ってくる。

 

「ハチー、ご飯だぞー」

 

俺は思わず陽乃さんの元によって身体を摺り寄せてしまう。

はっ!思わず猫みたいな行動をしてしまった。カマクラが餌を媚びるときによくやるけど俺もする時が来るとは。人生何があるかわからんなぁ。

「はいはーい、ちょっと待ってね」

 

そう言い陽乃さんは俺を足から離して、お皿を床にコトリと置く。置いたと思ったらガーッと食いつく。

う、うまっ。なにこれ、猫缶ってうまっ。

俺ががっつくのをみて、

 

「そーかー、美味しいかー。じゃあお姉さんもご飯にしよっかな」

 

と幸せそうに撫でて自分のご飯を用意し始める。幸せそうにしている陽乃さんを見てしまい思わず。

……このまま猫のままで陽乃さんに甘やかされながら暮らすのも悪くないかもな。もしかしてこれは専業主夫よりいい暮らしができるんじゃないだろうか。でもこのままじゃ飼ってもらうってことだよなぁ。陽乃さんに飼ってもらう。って字面にするとヤバいことにしか感じない。

台所では陽乃さんが鼻歌を歌いながら夕飯の後片付けをしている。なんだかその光景を見て思わずニヤけてしまう。

ヤバい、これはいいかも。

と、テンションが上がるのを我慢しつつ俺は静かに丸まっているのであった。

それから数十分ほどして陽乃さんは家事が終わったのか俺のところへとやってきて身体を抱き上げる。

 

「それじゃあ汚れてるだろうし身体を洗おっか」

 

俺は陽乃さんに抱きかかえられて風呂場に連れて行かれる。

陽乃さんはまず俺を風呂場に入れる。

シャワーを出したところで何かを思い出したのか、

「んー、ハチを洗って水がかかるのも嫌だし、私も入っちゃおう」

 

え?

そう言い陽乃さんは俺を風呂場に置いてドアを閉めて脱衣所に行く。

は?え?ちょっ。

風呂場から脱衣所の方を向くと影になって陽乃さんが服を脱いでいくのが見れる。

え、ま、マジすか?

俺が狼狽えていると陽乃さんはドアを開け、一糸纏わぬ産まれたままの状態で入ってくる。

思わずゴクリと唾を飲んでしまう。

陽乃さんは妹さんとは違いふくよかに膨らんだお胸、しかし、しっかりと引き締まったお腹といった素晴らしいプロポーションを一切隠す事なく晒している。

……俺は悪くない悪くない。俺は悪くない。

そう罪悪感にかられつつも思わず目がいってしまう。

そんな何も隠していない陽乃さんはシャワーの温度を確認して、俺にサーっとかける。そしてしゃがんで俺の事をワシャワシャと泡をたてて俺の全身くまなく洗う。全身くまなく。しかもしゃがむ事だからさらに近い場所に陽乃さんのバストアップがある。

 

「どこか痒いところはない?」

 

そんな事を聞かれても大人しくジッとしている。

でも俺はただ陽乃さんのあまりの行動に思考が停止してしまっただけだった。

そして、湯おけにお湯をされるがままに俺は入れられる。

それからはボケーっと陽乃さんが身体を洗っているのを眺めて気づいたらいつの間にか風呂から出ていた。

はっ!いきなりの展開で今まで固まってしまっていた……。

今は体が乾いた状態でベットの上に寝転んでいる。猫の俺が寝転んでいる。

なんとか親父ギャグを言うぐらいの思考は復活していた。

……陽乃さんの裸凄かったなぁ。いやいや、さっきのは忘れよう。……無理だ、あんなの忘れるわけないわ。

悶々としているとガチャとドアが開いてモコモコのパジャマに身を包んだ陽乃さんが入ってきた。

うっ。モコモコって普段とのギャップが……。つうか、なんかもうダメだ。今日一日、いま半日陽乃さんに飼われて分かった。陽乃さん可愛いわ。幸せそうに眺められるわ、食器を洗うとき鼻歌を歌うわ、風呂での出来事やあとは俺の事を拾ってくれるわってもう天使に見えてきた。普段は強化外骨格みたいな外面をした恐ろしい人だと思ってたけど全然違う。可愛い人だわ。俺もう陽乃さんちの子になる。猫最高だわ。

俺は今日一日を振り返ってそんな馬鹿なことを考えるようになっていた。

ふぁ。

一日の疲れで俺は大きな欠伸をする。

それを見て陽乃さんは、

「それじゃあ寝よっか」

 

と言い電気を消して俺を抱きかかえながら毛布にくるまった。

そんな風に陽乃さんの腕に抱きかかえられた気持ちよさにまた深い眠りに落ちていった。

もうこのままでいいやと思いながら――。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

翌朝。

俺は陽乃さんに抱きついた格好で目が覚めた。

俺の目の前では目をまん丸に開き、驚いた顔をしている陽乃さんの顔があった。

一瞬なんで陽乃さんが!?と思ったが寝ぼけた頭を冷まして昨日から陽乃さんに飼われていることを思い出す。

……なんでこんなに驚いた顔してんだ?

すると口をパクパクさせながら、

 

「えっ、え、え、ひ、比企谷くん?」

 

あれ?俺はハチじゃなかったっけ?

そんなことを思いつつ眠気覚ましに目をかくと。

……ありゃ、手が。

なんと手が毛で覆われている手ではなく人の手になっていた。

……。

恐る恐る身体を見るそこにはもう猫の姿は一切なく正真正銘の一糸纏わぬ人の比企谷八幡となっていた。

つまるところは俺は裸の状態で陽乃さんに抱きついていた。

そして陽乃さんの方を向くとちょうど息を吸うところで、次の瞬間。

 

「キャァァア!」

 

と普段からは想像できないような可愛らしい悲鳴をあげた。

悲鳴をあげたあとは「なんでなんでハチじゃなくて比企谷くんが!?」と慌ていたが、なんとか落ち着きを取り戻した陽乃さんはまず俺にジャージを渡してくれる。

それに着替えてからは俺がすることは。

土下座。DO•GE•ZA。

それはもう深々と頭を下げた。

そしてこうなった訳を説明する。

 

「じゃあ、比企谷くんも猫になったわけはよくわかってないの?」

「は、はい」

「朝起きたら猫になっていて、家を追い出されそこをわたしが拾ったと」

「はい」

「そっかぁ……」

「し、信じてもらえるんですか?」

「うーん、信じろって言うのはさすがに無理があるんじゃない?でも言われてみればハチは比企谷くんになんとなく似てたし、そのハチがいないから信じるよ。それに裸で比企谷くんがわたしの家に侵入して襲ったってのも考えづらいし」

なんとか陽乃さんは俺の話を信じてくれた。

よかったぁ、なんとか犯罪者にならずに済んだ。

でも本当に昨日のは現実のことなのか?なんで俺が猫になったんだ?

しかし、考えても考えても理由は分からない。

すると陽乃さんが、

 

「比企谷くん、それじゃあ昨日のハチは比企谷くんだからもういないってことだよね?」

「はい」

「そっかー……」

 

と陽乃さんはシュンとしてしまう。

でも次の瞬間陽乃さんは何かを思いついたのか顔を真っ赤にする。

 

「え、えっと比企谷くん昨日わたしとお風呂に入ったのってもしかして比企谷くんだったりする?」

「……は、はい」

 

恐る恐るうなづく。

 

「もうお嫁にいけない」

 

陽乃さん顔を火が出るほど真っ赤にしてはか弱い声でボソッと囁く。

それを聞き俺は再度深々と頭を下げる。

「あ、いや顔を上げて」

「本当にごめんなさい」

「いやいや、昨日のことはもう忘れよう。わたしも忘れるから比企谷くんもなかったことに!わたしが飼うって言ったこともなかった……こと……」

そこまで言いかけて陽乃さん少し考え込む。そして顔を上げるといつものようににっこりと微笑み俺をみて。

 

「やっぱり無しじゃなくて比企谷くんは、わたしが飼うって言ったらからわたしのペットだからね。ちなみにさっきの寝起き裸の比企谷くんは写真で収めてあるから」

「は、はい?」

「だから今日からは比企谷くんはわたしのペット」

 

と言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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