やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。短編集 作:うみがめ。
ある日の放課後。
「うぅ……お兄ちゃん」
「先輩ーもう無理ですー」
「無理ってあと少しだから終わらせちゃおうぜ」
「あと少しってまだ山のように書類があるんですけど」
「…………まぁ頑張ろう」
そう言いながらお兄ちゃんはいろは先輩の頭を手でポンポンと撫でる。
「ちょっ、頭撫でられたくらいで私はやる気出ませんよ!」
そう言いつつもいろは先輩だらしないくらいに嬉しそうにニヤける。そして、生徒会の仕事を進めはじめる。
目の前でいろは先輩とお兄ちゃん……いやごみいちゃんが仲よさそうにしている。
2人は一見カップルのように見えるかもしれないけどよくよく見ると、いろは先輩が年下というのもあるかもしれないけど2人はカップルというよりは兄妹に見えてくる。
「てか、これ本当に今日中に終わるんですかねー?」
「俺に言うなよ、こんなに溜めといたお前が悪いんだろ」
「だって先輩が全然ここに来てくれなかったんじゃないですかー」
「なんで俺のせいなんだよ」
「先輩!言っときますけどね私は先輩がいないと何もできませんよ!」
「いや、俺がいなくてもできるようになれよ」
「先輩のラブパワーが少ないからできないんですよ」
「そんなパワーねぇよ」
今、小町達は総武高校の生徒会室にいる。小町も無事に総武高校に合格できたので4月から通っている。そして、入学から1カ月も経ったのでそろそろ何かしらしようかと思って中学でもしていた生徒会に入ろうと見学しにきた。そしたらお兄ちゃんといろは先輩がいたのである。
ごみいちゃん……小町はごみいちゃんが彼女ができるようには色々とアシストしてきたけどなんで彼女じゃなくて妹を作ってるの!?小町のそんざいは!?
このままじゃ小町の妹ポジションがなくなっちゃうよ。このままでは危険だよ!
「お、お兄ちゃん。小町も何か手伝うことある?」
「あー、じゃあこれを頼めるか」
「うん!わかった」
お兄ちゃんに書類を渡される。
よし、ここはしっかりと終わらせてお兄ちゃんに褒めてもらおう!
書類が意外と面倒くさくて苦闘している。するといろは先輩はまた終わらせることができたらしく。
「先輩、終わりましたよ!」
「お、あーっと。ちゃんとできてるな、よしよし」
「えへへへー」
仕事を終わらせたいろは先輩をすかざすお兄ちゃんが褒める。
……いいなぁ。
そんな様子を見ながらも小町は全力で取り組む。
よし、終わった!
「お兄ちゃん、終わったよ!」
「お、ありがとう」
「…………ん?」
ん?あれ?小町にはなんのねぎらいの言葉も無し?
あれれー?おかしいぞー。はっ、ショックのあまり思わず小学生探偵のようになっちゃったよ。
って!お兄ちゃん、なんで小町にはなんもないの?小町頑張ったよ!だから、頭に手をプリーズ!
むぅー。なんかいろは先輩と小町の扱いが逆になってない?お兄ちゃんの後輩であるいろは先輩より妹である小町にもう少しかまうべきだよ!
「先輩!こっちも終わりました!」
「よしよし、じゃあ次はこっちを頼む」
「はい!」
「…………」
いろは先輩が仕事を終わらすとお兄ちゃんはすかさず褒める。そして、お兄ちゃんのお兄ちゃんスキルである頭撫でもサッといろは先輩に躊躇なくする。
それを見て小町は思わずムッとしてしまう。むぅー何なのお兄ちゃんは本当にごみいちゃんになったの?
……お兄ちゃん…………。
……あれ?そもそもなんで小町こんなにもやもやしてるんだろ。小町ってこんなになるぐらいブラコンだったの?……お兄ちゃんのことこんなに好きだったの?
……いつもお兄ちゃんにシスコンとか小町離れしてって言ってるけど本当は小町がブラコンでお兄ちゃん離れができてなかったんだ……。
お兄ちゃんはもう小町に構ってくれなくなっちゃうのかな……。小町から離れていっちゃうのかな……。
お兄ちゃんを誰かに貰ってもらおうとしてきたのは小町なのになんで、こんな気分になっちゃうんだろ……。
そんな事を考えていたら気分はドンドン落ち込んでしまい悲しくなり、視界がにじんできてしまった。
「こ、小町!?」
「えっ、小町ちゃんどうしたの!?」
「えっ」
2人が小町を見て驚いたので、小町は自分が涙ぐんでいるだけじゃなくて、ポロポロと涙が出ていることに気づいた。そしてとっさに。
「お、お兄ちゃん。いろは先輩ごめんなさい、さ、先帰ります」
小町は2人に今の姿を見られたくなかったので鞄を持って急いで生徒会室から飛び出した。
ーーーーーー
そして、小町はいつもお兄ちゃんと2人で帰っている道を1人で歩いている。
高校に入ってからは毎日お兄ちゃんの自転車の後ろに乗せてもらって帰ってたけどもう無理なのかなぁ。
今日から小町1人で帰るのかなぁ。
……あ。また泣きたくなってきた。
そんなことを思いながら歩いている。
そしたら。
「こ、小町!待てって」
お兄ちゃんが汗だくになりながら自転車に乗って追いかけてきた。
えっ。なんで来るの。今お兄ちゃんを見たらまたさっきの思い出して悲しくなっちゃうじゃん。
お兄ちゃんは自転車から降り押しながら小町の隣を歩く。
「いきなり泣いてどうしたんだよ?」
「……なんでもない」
「いや、なんでもないわけないだろ」
「なんでもない」
「言ってくれないと分からないからな。一色も突然の出来事に驚いてだぞ」
また、いろは先輩の事。
言ってくれないと分からないって言うけど言っても分かってもらえないでしょ。お兄ちゃんがいろは先輩に取られると思ったから泣いたって言ったら笑われるでしょ。
「な、小町言ってくれないと分からないからさ」
「……じゃあ、言うけどさ、笑わないでよね」
「あぁ」
「――――と思った」
「……は?」
「お兄ちゃんがいろは先輩に取られと思ったの!」
「は?」
小町が正直に白状するとお兄ちゃんは何言ってるんだというような表情で見てくる。
……なんで分かってくれないのかな。
「だって、お兄ちゃんといろは先輩が見てて兄妹みたいでなんか小町のポジションがなくなっちゃったような気がしたの!そしたら悲しくなって……」
小町は思っていた事を正直に口に出した。
そうするとお兄ちゃんは、
「何言ってんだよ、一色が俺の妹な訳ないだろ。俺の妹は小町1人で十分だっつうの」
と、言いながら優しく頭を撫でてくれた。
「俺の妹は小町1人だけだし、他にいらないよ。だから今度からは小町がそんな気分になったりしたら真っ先に俺のとこにきて甘えていいからな」
「……そっか。そう言ってくれると……小町的にもポイント高いっ!」
お兄ちゃんがそんな事を言ってくれので、ついつい小町もさっきまでの事は忘れて笑顔になることができた。
そして、お兄ちゃんと小町はどことなく必然的のように手を繋ぎ家へと帰って行った。
そのお兄ちゃんの手がいつもより、優しく、大きいと感じながら。
それから小町はどこにいても、誰がいようとお兄ちゃんに甘えるようになった。