やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。短編集 作:うみがめ。
「ひゃっはろー!」
ある日の放課後。
俺は1人奉仕部の部室で本を読んでいた。そしたら、いつものごとく魔王の雪ノ下陽乃が突然現われた。
なんなの、この人は。
よく学校に来るけど暇なの?友達いないの?うわ、俺じゃん。
「いや、私は比企谷くんと違って友達いるからね?」
と冷たい目をして、威圧的に言う。
ここの姉妹はやっぱり雪の女王なんだな。
目が怖いよ。よくそんなに人を冷たい目で見れるよね。
「は、はい。それでなんか用ですか?」
「ちょっと比企谷くんに頼みたいことがあるんだよねー」
と言いキョロキョロ奉仕部の中を見渡す。
「雪乃ちゃんとガハマちゃんは?」
「図書室で雪ノ下がアホの子に勉強を教えてます」
「そっか、そっかー。ちょうどよかった」
「はぁ?」
「比企谷くんさー、私の弟になってくれない?」
…………?
は?
何を言っているのこの人は、雪ノ下に相手にされなくなったからショックでダメになったのか。
あー、まぁ妹に相手にされなくなったらダメになるのは分かる。
俺も小町に相手にされなくなったらショックでダメになると思う。
「何を言っているんですか?」
「え、だから比企谷くん私の弟になってよ」
「いやですよ」
「そっかーなら私が妹で比企谷くんが兄になる?」
「ご遠慮します」
「えー、私の兄になるか弟になるかどっちか選んでよー」
「雪ノ下さんはなに企んでるんです?」
「別に何も企んでないよー、ただ雪乃ちゃんはつれないから、比企谷くんを弟にして可愛がりたいなーって思ってるんだよ?」
陽乃さんは悪戯っ子ぽく言う。
結局雪ノ下に相手にされないからか。
「ね?今なら私に甘えていい特典付きだぞっ」
「いや、いいです」
陽乃さんがさらに悪戯っぽく笑って俺の顔にグイッと近づいて言うので、思わずどきりとしてしまう。
「流石比企谷くん、攻略難しいねー」
「まっ、でも比企谷くんには拒否権ないんだよねー」
そう言い、陽乃さんは俺に近づいてきた。
そのまま俺の後ろに回る。
「よーしよし」
わしゃわしゃーと俺の頭を犬や猫を撫でる時のように撫でる。
…………?
何がしたいのこの人は。
あと、近い。陽乃さんの匂いが……。甘い匂いがします。
「何がしたいんですか?」
「あーこれはダメだったか」
陽乃さんはそう言って、わしゃわしゃーってやるのを止めて今度は頭をポンポンし始めた。
本当にこの人は何がしたいの?
つうか、あれだよ、ポンポンするのは一般的には男子が女子にだろ。
あとあれだね、頭に手を置かれるから分かるけど陽乃さん意外と手小さいね。魔王も可愛いところがあるんだね。
「本当に何がしたいんですか?」
「んー、比企谷くんを可愛がってる?」
「いや、鬱陶しいのでやめてください」
「えー何言ってるの?ここは喜ぶところだよ?」
なにがしたいんだよ。
つうか、本当に今日はこの人どうしたの?
「陽乃さん何かあったんですか?」
俺の後ろにいる陽乃さんの表情を見ようと振り返りつつ聞くと。
陽乃さんの表情が一瞬だけ落ち込んだような表情をみせたがすぐにいつもの仮面をつけ、
「およ、比企谷くん、お姉さんのこと心配してくれるのー?」
嬉しいよーと言いつつまた頭をわしゃわしゃーと撫で繰りまわす。
「でも比企谷くんには言うね、本当に悩みがあるの」
「……はぁ?」
そう、哀愁を漂わせて陽乃さんは、
「実は……、雪乃ちゃんが全くかまってくれないの…………」
…………は?
何を言っているの?
え?本当に雪ノ下がかまってくれないのかよ。いや、そんなの知らないよ。
雪ノ下がかまってくれないのはいつものことだろ。
「いつものことじゃないんですか?」
「いや、最近は雪乃ちゃんの家に行ってもガハマちゃんと仲良くしていて私の入る隙間がなかったりで」
「はぁ……」
「前の雪乃ちゃんは私の真似事ばかりしていたのに」
「だから、そういうわけだから比企谷くんは雪乃ちゃんの代わりとして私の弟として可愛がってあげる」
「いや、そんな理由なら俺はちょっと……」
「そういうところがいいんだよー」
そう言って陽乃さんは後ろから俺に手を回しつつ、ふわっと身を任せてきた。
つまり、陽乃さんは俺に後ろから抱きついてきたのだ。
お、おふ。背中に陽乃さんの膨らんでいる部分が強調されて押し付けられる。
「は、陽乃さん当たってます」
「んー?なんのこと?お姉さんちょっと分からないなー」
そして、そのままの格好で陽乃さんが『カシャ』と写メを撮る。
「えっ?何を?」
「ん?ツーショット?」
陽乃さんは悪戯っ子のようにニコッと笑う。
そして、俺の椅子の隣に椅子を並べ座り。
「今の写メを雪乃ちゃんとガハマちゃんに送られたくなかったら、お姉さんのことをちょっーと甘やかして」
「脅しじゃねえか」
「そんなこと言うんだー送っちゃおうかなー」
「……何をすればいいんですか」
「んー、さっき私がしたように頭を撫でて」
陽乃さんはそのままコテッと頭を俺の肩に乗せる。
「はーやーくー、送るよー」
……しょうがない。
俺はそのまま陽乃さんの頭が寄りかかってない逆の手でそっと頭を撫でる。
「んっ、おぉーなんか比企、いや八幡慣れてるね」
「まぁ、小町がたまに甘えてきますからね」
「そっか、そっかーいいよー八幡」
なんで突然の名前呼び?
「あの、もういいですか?」
「えぇーもうちょっと」
そう言われ俺は戸惑いつつも撫で続ける。
「よし、次は八幡立って」
そう、促され俺は立ち陽乃さんの正面に立たされる。
そして、陽乃さんは手を広げ。
「お姉さんに抱きついて」
とさっき以上の笑顔で楽しげに言う。
「いや、それはちょっと」
「んー?そんなこと言っていいのかなー?この写メを送っちゃうよー」
陽乃さんは楽しげに携帯を操作して相手が雪ノ下のメール送信画面にして、携帯をひらつかせる。
……いやいや。
これはどっちもやばいだろ。さっきの陽乃さんに抱きつかれる写メを雪ノ下たちに見られてもまずいしこのまま陽乃さんの言う通りにしてもまずいと思う。
うん、逃げ道ないね。
「ほれほれー、5、4、3、2」
と陽乃さんはカウントダウンを始める。
……まぁ、雪ノ下たちにさっきの見られるよりはマシか。
そう俺は覚悟をきめ陽乃さんを正面から抱きしめる。
すると。
「キャッ…………本当に抱きしめてくれるんだ」
いつもの陽乃さんじゃ考えられないような可愛いく驚く。
え、いや抱きしめろって脅してきたのはあんたでしょ。
「嬉しいけど簡単にホイホイ抱きつくなんてお姉さん関心しないなー」
「じゃあ、もういいですね」
「えっ、いや、もうちょっと」
と離れようとすると、寂しそうな声を出して陽乃さんがしっかりと俺の腰に手を回して強く抱きしめてくる。
「やっぱり、雪乃ちゃんには比企谷くんはもったいないなぁ。このまま貰っちゃいたい」
陽乃さんはそのままボソッとそんなことを口にした。
……え?は、陽乃さん?
「は、陽乃さん?」
俺が戸惑い、陽乃さんから目をそらしてドアの方を見るとそこには呆然とした雪ノ下と由比ヶ浜がいて。
「…………ヒッキー……」
「……姉さん、随分と楽しそうね?」