やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。短編集 作:うみがめ。
「えー、雪ノ下さんダメなのー?」
「ゴメンねー」
「陽乃も行こうよー」
「ゴメンゴメン、また今度誘ってよ」
「そっかー、陽乃ちゃんが行かないから俺もいいかなー」
『陽乃ちゃん』と呼ばれ陽乃さんの顔が一瞬、ほんの一瞬だけ変化した。
うわっ怖っ。すぐ笑顔に戻ってるけど今の一瞬の嫌っていう顔怖っ。
嫌ならはっきり言えばいいのに、あんな仮面なんて付けなくても。
そんな事を思いながら俺は陽乃さんの話が終わるのを待つ。
ーーーーーー
終業のベルが鳴り終わり授業が終わる。
今日は、由比ヶ浜と雪ノ下が予定があるという事で奉仕部はない。なので、俺はそそくさと帰る支度をする。
すると、ポケットに入れておいたスマホが『ブブッ』と振動をする。
メールか?最近は由比ヶ浜とある人の一方的なことによって機能しつつある俺の携帯の役割だが、今は由比ヶ浜からこないだろうから残る人からきたと思うと凄く嫌な予感しかしないなぁ。
そんなことを思いつつも恐る恐る携帯のロックを解除してメールを確認する。
差出人:雪ノ下陽乃
件名:
今日は奉仕部ないよね?
一緒に帰ろ〜。教室に迎えに来てねっ。
はぁ……。
やっぱり嫌な予感は的中するんだな。ガチャの次は欲しいものが出るかもって予感は外れるのになんでこんな感じの嫌な予感だけは当たるんだよ。本当に、本当に復刻楓さんと限定美優さんが当たる気がしたんだよ、なのに、なのにSSRすら当たんなかったわ。
……はぁ…………。どうしよ、教室に迎えに来いってどういう事だよ。『一緒に帰ろ』ってだけでもきてるのにさらに迎えに来いって……。
陽乃さんは俺の所属している奉仕部の部長、雪ノ下雪乃の姉である。陽乃さんは雪ノ下の姉という事でたまーに、いやほぼ毎日のように奉仕部に顔を出しては俺たちのことをかき乱す自由な人。そんな事で俺は陽乃さんと出会った。そして、陽乃さんは俺の1つ上の三年で先輩にあたる人。
陽乃さんは雪ノ下とは顔は似ているが印象はだいぶ違く、普段からころころと色々な笑顔を周囲に振りまき、気さくなコミュニケーションお化けという強化外骨格を纏った人である。そして、女性の部分も絶壁な妹さんとは対照的なたわわに実っている。つまりもう男子の理想的な人なのである。そんな人が『一緒に帰ろ。迎えにきて』ときたもんだから、もう嫌の嫌だよね。
かといって気づいてなかった事にしても明日が怖いしなぁ。
……ふぅ。覚悟決めますか。
俺は重い腰を上げ、三年の教室を目指して教室を出る。
そして俺は陽乃さんのクラスの教室に着く。
そっとドアから中を伺うと、始めの会話が聞こえてくるのである。
また完璧な仮面を付けて変装してるのか。
どうしようか。今、中に入って陽乃さんを呼んだらなんか大変なことになりそうだな。
なので俺はドア付近で出てくるのを待つことにする。
「てかさー陽乃最近なかなか遊びに行かないよね?」
「わたしだって色々と忙しいのー」
「昔はもっと付き合い良かったのに」
うん、忙しいよね。主に奉仕部にきて雪ノ下を挑発したり、ダラダラ過ごしたりしてとっても忙しいんだよね。
「もしかして陽乃ちゃん彼氏できた?」
「えっ?いないよー」
「なら俺なんてどうよー?まだ俺陽乃ちゃんのこと諦めてないよ」
「あんたは黙ってて。それか陽乃好きな人でもできた?」
「えっ?なんで?」
「なーんか陽乃最近変わった気がするんだよね、恋する乙女になってる」
「えっ?」
「あっ!もしかして前言ってた後輩くん?えーっと比企、比企谷くんだっけ?」
「えっ比企、えっあ、ちゃ、違、違うよ」
陽乃さんは顔を真っ赤にし、手をパタパタして否定しようとしている。
その光景を会話をしていた陽乃さんの友達は陽乃さんを見て、「えっ?マジで」といった驚いた表情をしている。
そんな陽乃さんの顔はいつもの鉄壁の仮面は外れ普通の恋バナをしている女子高生になっている。
……え?…………はい?比企谷くんって言った?ウソウソ、聞き間違いだろ。
「……え?マジで?」
「……陽乃って案外分かりやすいんだね。ん?あれ?」
いきなり自分の名前が出てして驚いていると、陽乃さんと会話をしていた女の人と目が合う。
すると、何かが分かったかのような表情をしてから陽乃さんに、
「……ねぇ、陽乃。その陽乃が大好きな比企谷くんってどんな子?」
と陽乃さんには目もくれず俺の方をジーっと見ながら質問をする。
陽乃さんはまだ頰を染めながら、
「え?えっと、目が死んだ魚のような感じで、アホ毛がピョンと生えてるの。根は優しいくて本当にいい子だよ」
と、陽乃さんは嬉々として語る。
えっ、ちょっ?マジで?本当に俺のことが……。
「陽乃ちゃん、大好きってところ否定しないんだ……」
男の方はショックを受けたようでさっきまでの元気がなくなりシュンとしながらなんとか相槌をうつ。
「へー」
女の人は陽乃さんに相槌を打ちながらも俺の方を品定めするように見てくる。
あの人俺がその本人ってことに気が付いてこの話をしているのか?つうか、この話なに?マジなやつなんですか?ドッキリじゃないの?
「因みに陽乃はその子に告白したりしないの?」
「……雪乃ちゃんがいるし、それに比企谷くんも多分雪乃ちゃんのことが好きなんだと思う。だからお姉ちゃんとして身を引くよ」
「ふーん」
「今日も一緒に帰ろってメールしたけど返事もなんもないしね」
あ、これ本当に俺の事を話してるのね。……雪ノ下のことをそういった風に見ていないんだけども……。むしろ陽乃さんのことが…………。
「まぁ、陽乃は興味がないものにはちょっかい出したりしないよね。本当に興味がないものには……何もしないし。好きなものをかまいすぎて殺すからね。だからかまいすぎないようにすればきっと上手くいくよ」
「えっ?」
陽乃さんがそんなことを言われ驚いている。そんな助言をしたら女の人はそそくさとカバンをしょい男の人を引きずるように教室を出ようとする。
「あとは本人同士で。じゃ、陽乃またねー」
と言い、俺にあとはなんとかしろと言いたげな雰囲気で去って行った。
「え?」
「……えっと、一緒に帰るんですよね?」
戸惑っている陽乃さんに勇気を出して声かけてみる。
「……えっ、比企谷くん?…………いつからいたの?」
「えーっと、陽乃さんがあの人たちに遊びに誘われているあたりからです」
「……そっか、とりあえず帰ろっか」
そう言い、陽乃さんは教室を出る。
二人無言の気まずい雰囲気のまま学校を出て、陽乃さんと帰るときは通る道を帰宅する。
ポツリポツリとそんなに続かない会話をしていたらいつの間にか別れるところに来ていた。
「じゃあ、わたしはこっちだから」
「……はぁ、じゃあ」
普段ならそれで別れるが二人とも動かない。
俺はさっきの陽乃さんたちが話していた会話のことで頭がいっぱいだった。
すると、陽乃さんの方から、
「こんな風に、帰ったりできるのは……今日で最後かな?」
「えっ?」
「だって、比企谷くん、わたしの気持ち知っちゃったんだよね?そんな人が近くにいたら迷惑だよ……ね?」
普段の余裕があるお姉さんといった陽乃さんとはかけ離れた弱々しい声で聞いてくる。
確かに俺は陽乃さんの気持ちを知った。だけどもその気持ちが知れて良かったと思う。
だって俺だって——。
「迷惑じゃないですよ、俺だって陽乃さんのことす、好きですから」
そう告げると陽乃さんの顔は血が沸騰するのでは?と心配する具合に真っ赤になっていた。
確認したわけではないがそのあと陽乃さんに言われた言葉によって俺も陽乃さんに負けるとも劣らない色になっていたと思う。
おしまい