ヒーロー世界の原典候補者   作:黒猫一匹

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vsサイタマ。
過度な期待は禁物。


4撃目

 

 

 

「あ…あ、ああああ……」

 

 G市のとある高級住宅街。

 その中でもより一層大きな建物の中で、一人の老婆が水晶の玉を見ながら、その身体を震わせていた。

 

 その老婆の名前はシババワ。ヒーロー協会に直々に身辺警護をされる程の大預言者だ。

 だがそれもその筈、彼女の預言は今まで100%の確率で見事的中しており、ヒーロー協会に高く貢献しているからだ。

 そんな彼女は今までも自分で地球の未来を占い、地震や怪人の出現タイミングなどをドンピシャで当ててはその迫る未来の脅威に人知れず震えていたが、今回は今までとは比べ物にならない程の恐怖を感じていた。

 

「シババワ様? いかがなされました?」

 

 水晶を見て震えるシババワを見て、彼女の身辺警護を任されているヒーロー協会のSPの一人がシババワの近くへと寄りそう訊ねる。

 しかしシババワはそんなSPの男の疑問の声には答えず、震える口を開きながら独り言の様に言葉を紡ぐ。

 

「く、来る……今までとは規模の違う大災害が……っ!?」

 

「シババワ様、それはまさか預言の……!?」

 

「がああああああああああ来る!!? 怒涛の大災害が押し寄せて……っ!!? あああああああっ!!? 終末がああああああ!!? この世の終わりじゃあああああっっ!!?」

 

「シババワ様!! お気を確かに!!!」

 

 頭を抱えて発狂したかのように叫び声を上げ続けるシババワにSPの男がシババワを支え、声を掛けるもシババワの震えは止まらない。

 そんなシババワとSPの男の叫び声が聞こえたのか何事かと続々に部屋へと入ってくるヒーロー協会のSP達。

 シババワはハァッ、ハァッと息を荒げながら呟く。

 

 

 

 

 

「――地球が、マジで(・・・)ヤバい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大預言者シババワが預言をする少し前。

 

 コータローとサイタマは街外れの荒野へと来ていた。そこは原作でサイタマとジェノスが手合せをする場所でもある。

 互いに肩を回したり、軽いストレッチをしたりして身体を解していると、コータロー達と共に着いてきたフブキがコータローの側に寄り口を開く。

 

「ねぇ、本当に戦うの?」

 

「当然だ、その為にわざわざ早起きしてまで来たんだからな」

 

「……わざわざ早起きしてまで戦う意味が分からないわ。あの変人じゃあマツゲや山猿は勿論、C級のタンクトップタイガー相手にも普通に負けるんじゃないの?」

 

 フブキはストレッチをしているサイタマを見てその様な感想を述べる。

 確かに見た目じゃあサイタマの強さは分からないよな。原作でも大多数のヒーロー達がサイタマの強さを見抜けなかったし。知識で知っていたとはいえ、どういう訳かコータローはサイタマの異常な強さを感じ取る事は出来るけど。

 

「……フブキ。意外にも人は見た目じゃあ判断が付かないモンだぞ。少なくともアイツは強さだけなら俺と同等。いやもしかしたら俺より強いかもな」

 

 ケラケラと楽しそうに笑うコータロー。そんな彼を見てフブキは「冗談でしょ?」とでも言いたげな顔をする。

 コータローは一歩前に出ると、フブキに向かって言う。

 

「まぁアイツが本当に強いかどうかはこれから分かる事だ。それよりそろそろ始めるからお前は下がってな。俺とアイツの戦いに巻き込まれたら間違いなく死ぬぞ」

 

 その言葉にフブキはまた何か言いたそうな表情になるも、コータローの楽しそうな顔を見て口を閉じる。そして仕方なしとばかりにフブキはコータローから離れ、対峙する二人を眺める。

 フブキが離れた事を確認したコータローはサイタマに向かい口を開く。

 

「俺から誘ったのに待たせて悪いな」

 

「いや、大丈夫だ。それよりもう準備はいいのか?」

 

「ああ、問題ない」

 

「そうか。じゃあやろうぜ」

 

 サイタマは拳を握り、そう呟く。その言葉にコータローも頷く。

 

「そうだな。それじゃあまずは先手必勝!」

 

 そう呟くと同時にドンッ!! という爆音が轟く。

 コータローはその超人的な身体能力でサイタマに向かい第三宇宙速度というデタラメな速度で突進する。そんな常人では視認不可能な速さで迫るコータローは固く拳を握り棒立ちのサイタマに向けて放つ。

 その拳は海を割り、山を砕き、残像を置き去りにし、サイタマに迫るも、

 

「おっと」

 

 サイタマはその拳を回避。そしてカウンターの要領で己の拳をコータローへと放つ。

 しかしその一撃を、コータローは身体を無理やり回転させる事により直撃を避ける。

 そしてその勢いをそのままにコータローはサイタマに向かって蹴り抜く。

 対するサイタマは迫る蹴りに対して腕を使いガードするも、

 

「っ!!」

 

 その余りに重い一撃に、サイタマは眼を見開き後方へと僅かに吹き飛ばされる。

 足に力を入れ、ズザァァァと地面を引きずりながらコータローとの距離が開く。

 そしてサイタマは少し驚いた様に呟く。

 

「コータローお前すげぇな、まさか反撃を喰らうなんて思わなかったよ。それに今の一撃のせいでまだ少し腕が痺れてるし」

 

 腕を軽めに振りながら素で感心した様な表情でその様な事を呟くサイタマにコータローは不敵な笑みを浮かべる。

 

「何言ってやがる、今のはそれなりの力で蹴り抜いたつもりだったのに腕が少し痺れる程度で終わるアンタの方がすげぇよサイタマ。とはいえ、これで分かっただろ? 今までの様にセーブして戦わなくても俺はアンタと戦えるって事が。だから、そろそろ手加減なしでやろうぜ」

 

 コータローのその言葉にサイタマは一瞬キョトンとするも、すぐに好戦的な笑みを浮かべる。

 

「ああ、そうだな。やっぱり戦いっていうのはこうじゃなくっちゃな」

 

 サイタマがそう呟くと、コータローは目を細めて意識を集中させる。サイタマから発せられる雰囲気が威圧感のあるモノに変わったからだ。

 コータローは瞬き一つする事もなくサイタマの挙動に全ての意識を傾けていたが、気が付いた時にはコータローのすぐ目の前まで迫っており、その拳を放っていた。

 

(何……ッ!?)

 

 その事実にコータローはその双眸を見開く。

 意識は完全にサイタマに向けていたにも関わらず、いつ移動したのかが見切れなかった。

 加速する思考の中でコータローは内心で舌打ちし、瞬時に足に力を入れ回避に移るも、サイタマの拳はそんなコータローの動きについて来る。

 

(マジかよ……)

 

 回避は無理だと悟ったコータローは瞬時に思考を巡らせ、そのまま迎撃する事を選択する。足に力を入れたままコータローは足元の大地を蹴り砕いた。

 

「お、」

 

 突如足元の地面が砕かれた事により、サイタマのバランスが崩れ、拳は空を切り一瞬だけサイタマの動きが硬直した。

 そしてコータローはそんなサイタマの隙を見逃さずにそのままカウンターの一撃を放つ。しかし、その一撃はサイタマに片腕一本で受け止められてしまう。

 

「……なっ、」

 

「ッ!」

 

 その事にコータローは思わず声が漏れた。まさか山河を砕き、地殻変動すら引き起こす拳を真正面からそれも片腕で止められるとは思いもしなかった。とはいえ、サイタマの方もその予想以上の威力に僅かに眉を顰める。

 そしてバランスを崩しながらもコータローの拳を握り締めながら笑うサイタマ。

 その圧力に、かつてない程の危機感を抱くコータロー。

 

「行くぜ、連続普通のパンチッ!」

 

 コータローの拳を握り締めた腕を手前に引き、拳の連打がコータローを襲う。

 その破壊力はとても普通とは思えない程の威力が込められており、コータローの臓腑に未だかつてない程の衝撃を走らせる。

 

(グッ……!!)

 

 凄まじい嘔吐感と激痛を噛み殺し、襲ってくる衝撃に耐え、コータローは身体を捻ってサイタマを全力で蹴り抜く。

 

「うおっ!?」

 

 互いに後方へと激しく吹き飛ぶも、サイタマはすぐさま体勢を整え、先程の様に地面をズザァァと滑りながら勢いを止めるのに対してコータローは転がりながら立ち上がる。

 

(……痛ぇ、今のはモロに入ったな。とはいえこの程度のダメージなら戦闘に支障はねぇが、「痛い」と感じるのは転生して初めてかも……。それにサイタマの様子から俺の今の蹴りも対して効いた様には見えないし…さて、どうしたものか)

 

 その様な事を考えながらもコータローはその顔に笑みを深める。身体の血液の流れが速い。鼓動がドクン、ドクンと高鳴る音が聞こえる。

 

「ハハ、流石は原作最強(サイタマ)! そうでなくちゃ面白くねぇ!!」

 

 コータローは徐々に熱を帯び始め、勝利を掴む為に思考が高速回転していく。

 今度は遠距離から仕掛けて見るかと考え、コータローは地面に両腕を突き刺す。すると地面の至る所に亀裂が発せし、そのまま大地を持ち上げた。

 そしてそのまま持ち上がった大地をサイタマの元に第三宇宙速度で放り投げる。

 

「まだまだ!!」

 

 コータローはさらに足元の地面を蹴り飛ばし、殴り飛ばす。捲り上がった地面がサイタマの元に一斉に襲いかかる。

 迫る凶弾を前にサイタマは、両腕の拳を握り迎撃する。

 

「両手版・連続普通のパンチッ!!」

 

 放たれる拳の応酬により第三宇宙速度で迫る凶弾を次々と砕いていく。

 目の前に迫る最後の凶弾を砕くと同時にサイタマはコータローの元へと駆け出す。

 しかし、サイタマがその場を駆け出した瞬間、目の前にコータローの拳が写る。どうやらコータローも投げ終わると同時にサイタマの元へ駆け出していた様だ。

 

「うおっと!」

 

 サイタマは驚いた様にその拳を躱すもコータローの連撃は止まらない。

 互いに超スピードで拳や蹴り、手刀をなどを放ち、それぞれの攻撃を回避しながら周囲を駆け回る。その際、周囲の事など関係ないとばかりにコータローは己に掛かっているリミッターを外していき、より速く、重い一撃を繰り出していく。

 そんなコータローに触発される様にサイタマもさらに動きが加速していく。互いの攻撃の余波が衝撃波となり周囲一帯を吹き飛ばし、大気が震えた。

 

 

 

 

そして間一髪上空へと退避に成功したフブキは二人の争いを緊張した面持ちで眺めていた。

 

(……悔しい事に、もう何が起こっているのか目で追えないわね。それにしてもあのハゲ頭の変人、サイタマと言ったかしら…。コータロー相手にここまで戦えるなんて……)

 

 フブキはサイタマのその異常な強さに驚いていた。コータローは自分と同等以上の強さだと言っていたが、フブキはその言葉を全く信じていなかった。コータローの強さはフブキ自身が一番よく知っているのだから。ならばサイタマと接触したのは何か別の狙いがあるのだろうとばかり思っていた彼女にとって、この事実には目を見張るしかない。

 一瞬、コータローが手加減でもしているのだろうかと考えもしたが、彼の表情を見る限りそれはないだろう。信じられない事にサイタマはコータローと渡り合っているのだ。

 

(お姉ちゃんよりも強い人間なんてコータローぐらいだと思っていたけど、探せばいるモノね)

 

 フブキはその様な事を考えながら、彼等の戦いを集中して最後まで見届けようと思った。

 

 

 

 

 コータローとサイタマは共に神経を極限まで研ぎ澄ませていた。

 もう何度目の攻防になるのか分からない。拳を振り上げるサイタマにコータローは手の甲を滑らせるようにしていなして流す。流した先でサイタマの拳の拳圧により、大岩が消し飛ぶ。その光景を視界の端に捉えながら、コータローは拳を放つ。

 だが、その拳はサイタマに手首を掴まれ止められる。

 

「ッ!!」

 

「やっと捕まえた」

 

 コータローはすぐさま振り解こうとするもサイタマは逃がすつもりは無いようで手首に掛かる圧力が強くなる。

 

 

 

「必殺〝マジシリーズ″マジ殴り!」

 

 

「チッ、しゃらくせぇ!!」

 

 

 

 サイタマの必殺の一撃に、コータローは回避は無理だと瞬時に判断し、空いている拳を握り大陸を砕く程の一撃で対抗する。

 そして互いの拳がぶつかり合う。

 

 瞬間、周囲一帯が爆ぜたと錯覚する程の轟音と衝撃がコータローとサイタマの二人を襲う。

 彼等は互いに後方へと激しく吹き飛び、地面を転がる。

 だが、それでも決定打にはならなかったのか、二人ともすぐさま起き上がる。

 そんな互いのボロボロの姿を見ては、どちらとも呆れた様な表情になる。

 

「おいおい、いくら何でも丈夫すぎじゃねぇか?」

 

 口から血を流しながらその様な事を呟くコータロー。その際にペッと口内の血を吐き捨てて口元を拭う。

 

「いや、お前も大概だからな」

 

 額から血を流しながら、サイタマがそう呟く。

 そこでコータローは周囲を見回すと、そこは見事なまでに巨大な大穴やクレーターが出来た更地へとなっていた。

 そして視線を上空へと向けると、フブキがこちらを見下ろしているのが視認出来た。怪我らしい怪我もしていない事から、どうやらコータロー達の戦いの余波に巻き込まれずにうまく逃げ切れた様だ。その事に少しホッと息を吐く。

 そしてすぐに視線をサイタマの方に向けて言葉を発する。

 

「さてと、このままやっても互いに決定打は与えられそうにねぇな。こんな経験初めてだ」

 

「ああ、それは俺も同じだ。やっぱりコータローお前強いな。マジシリーズでも倒せなかった相手は初めてだ。俺が出会った中で間違いなく一番強ぇよ」

 

「それこそお互い様だ。とはいえ、このままじゃあいつまでも決着が着きそうにないし、次の一撃で終わりにするか?」

 

「ん? まぁ俺も十分楽しめたし、それでいいぞ」

 

サイタマがコータローの言葉に了承すると、コータローは右こぶしを力強く握り締める。

強く、強く今までで一番強く握り締め、星を砕く(・・・・)ほどの力をその右こぶしに籠める。

 

 対するサイタマも必殺の構えを取り、右こぶしを今まで以上に握り締め、鋭い瞳でコータローを射抜く。

 コータローはそんなサイタマの視線を受けながら、戦いの決着をつける為に第三宇宙速度を超えた速度で真っ直ぐに突進する。

 

「行くぜぇぇぇぇぇッッッ!!!!」

 

 ドンッという凄まじい轟音が再び場に響き渡る。

 今まで以上の速度で突っ込んでくるコータローにサイタマは決着の拳を放つ。

 

 

 

 

 

「――必殺〝マジシリーズ″()マジ殴り!!」

 

 

 

「――ならこっちも、必殺 星砕き!!」

 

 

 

 

 

 互いの必殺の拳が炸裂し、周囲一帯が爆ぜた。

 

 

 





『必殺〝マジシリーズ″超マジ殴り』
サイタマが放つ全力のパンチ。その威力はマジ殴りの数十倍。


『必殺 星砕き』
星を砕くほどの一撃を籠めたパンチ。サイタマが必殺技名を叫んだ為、なんとなく発してしまった言葉。

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