ヒーロー世界の原典候補者   作:黒猫一匹

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2撃目

 

 

『――ご覧下さい、このA市の惨状を! 瓦礫の山と成り果てた建物の数々、隕石でも落ちたのではないかという程の巨大なクレーターが出来上がっております! 近隣住民の方々に話を伺った所、何か巨大な衝撃と振動がA市全体を襲ったとの事ですが、まだ詳しい事は何も分かっておりません。ヒーロー協会はこの惨状を怪人の仕業だと――』

 

 どこか興奮した口調で現場に赴いたレポーターが身振り手振りだどを加えながら現場の状況を分かりやすく説明する為に声を張り上げている。

 

 そしてそんな被害を生み出した張本人であるコータローは現在、運よく被害を逃れたA市にある十五階建てマンションの最上階にある自室で、のんびりとした雰囲気でコーヒーを口に含めながらそのニュースを眺めていた。

 比較的落ち着いた様子を見せているコータローだが、その内心では自分がやらかした被害に大量の冷や汗が流れていたりもする。

 

「……ふぅ、被害はそれなり(・・・・)に出ちまったみたいだが、死傷者及び重傷者がいないというのが唯一の救いだな。今回は運が良かったけど、一歩間違えれば自分の家ごと破壊してた可能性があった訳だし、今度からは少し加減して戦うか……」

 

 自分で選んだ特典とはいえ、これは少し失敗したかな、とコータローは静かに呟き、コーヒーを飲む。

 因みに街の方の修繕はヒーロー協会の重鎮達がどうにかするだろうと当たりを付けている為、余り気にはしていない。

 

 コータローは、そこで気分を変える為にテレビのチャンネルを変えると、緊急生放送というテロップが写し出され、頭にヘルメットを被った男性レポーターが悲鳴に近い声を張り上げながら現場をレポートしているニュース番組を見つける。

 

『――突如D市に巨大生物が出現し、その生物が暴れ回りD市が消滅したとの事です!! ヒーロー協会はこの生物の災害レベルを“鬼”と判断し、現在は近隣住民への避難勧告が出され、もう現場はパニックに陥っています!!!』

 

 カメラの周囲ではレポーターの言う通りにあちらこちらへと逃げ惑う人々が映し出され、人々の怒声混じりの悲鳴や、ウウウゥゥゥというけたたましいサイレン音が鳴り、緊急避難警報の勧告が響き渡っていた。

 そんな悲鳴やサイレン音に負けず劣らずな大声でレポーターは現状、把握できている事を報告していく。

 

『そして現在その巨大生物はなんと此処! B市を目標に定めた様で、今も刻一刻とB市に向かい大接近中との事です!! 私もそろそろ避難しないとヤバそうな雰囲気になってきましたので、この報道は逃げながら続けさせてもらいます!!』

 

 そう言って、レポーターとカメラマン達も避難の為にその場を離れていく。

 

 そこまでニュースを見ていたコータローは、コーヒーの入ったカップをその場に置き、テーブルの上に置いてあるヘッドホンを手に持つ。

 そして髪が乱れない様にヘアバンドの代わりにヘッドホンをそのまま装着する。

 

「災害レベル鬼か。こりゃあA級でも退治は難しい所だな……仕方ない、行くか」

 

 コータローはそう呟くと、腰を上げて玄関へと移動する。

 今度は周囲に被害を(もたら)さない様に一応注意しておくかと、内心でその様な事を考えていた時にふと、思い出す。

 

「あ、そういえば、B市に接近してるその怪人って確か原作に出て来た奴だよな……?」

 

 生前、それほど真剣に原作を読んでいなかったせいか、もう既に大部分の所がうろ覚え状態で、ほとんどの細かい内容を忘れてしまったが、この怪人の事は微妙に憶えがある。

 

(確か進撃の巨人に出て来そうな超大型巨人だっけ? そしてサイタマにワンパンでやられ……ブッ飛ばされた先がB市で、そのままB市が消滅だったか……)

 

 コータローは内心でそこまで思考すると、ふぅ、と軽く息を吐く。

 

「……これは少し急いだ方がいいかもな」

 

 靴に履き替え、そう呟いたコータローは急いで玄関を出ると、そのまま第三宇宙速度という馬鹿げた速度ででB市に向かい、文字通り跳び去って行った。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 B市

 

 

『――緊急避難警報です。市民の皆さんは速やかに避難してください。――災害レベルは“鬼”です。近隣住民は、至急避難を開始してください――』

 

 B市全体に広がる程のサイレン音と、それに負けず劣らずな声量で促される警告。

 突然のサイレン音と避難警告にB市に住む人々は大パニックになっていた。

 

「うわぁぁ!!? 逃げろぉぉぉっ!!?」

「災害レベル鬼!? 嘘だろ!?」

「やべぇぇ!! 早く逃げないとっ!?」

「邪魔だ! 退け!!」

「ちょっと押さないでよ!?」

 

 先程まではショッピングを楽しんでいる家族やカップルの姿で賑わっていた繁華街は最早見る影もない程の混乱に陥っていた。

 

 そんな中、あちらこちらに駆け回る彼らの元にドッドッドッという凄まじい振動が響き渡る。まるで地震でも起きたかの様な揺れが彼らを襲った。

 その衝撃に幾人かの人々はその場に転び倒れる。そして音源の方に視線を向けてみると、そこには例の巨人型の怪人が、消滅したD市の地面に向かい拳を連打している光景が目に入った。

 おそらく駆けつけたヒーローと戦闘をしている光景なのだろうが、人々はそこに希望を持てなかった。一方的に攻撃している巨人の姿を見て、その駆けつけたヒーローが見るも無残な肉塊へと変わり果てている姿を想像し、絶望する。

 

「もう、終わりだ」

 

 ふと、誰かがその様な事を呟いた。

 見れば、先程までパニックに陥っていた人々は振動に耐える為にその場に蹲って拳の連打が終わるのを待っているも、皆、先程の声の主の言葉に内心で同意する。

 

 ――自分たちはもう助からない、あの怪人に殺される、と。

 

 そんな悲観的な感情を人々が抱いていた時、巨人の拳の応酬が収まり、衝撃が止む。

 人々が恐る恐る顔を巨人の怪人の方へと向けると、怪人は視線を真下に向けた後、すぐさまB市の方角へと視線を向けた。

 そんな巨人の様子に人々の体がゾクリと震える。誰もが息を呑み、緊張と恐怖が混同した矢先に、

 

 

 ボォン、という一発の鈍い打撃音が響いた。

 

 

 すると、巨人の身体が傾く。まるで誰かに殴り飛ばされた(・・・・・・・)かの様に。

 そのまま巨人は口から血を吐き、何の抵抗もなくB市に向かって吹き飛んできた。

 

「え……?」

 

 その光景を見ていた人々は一瞬何が起こったのか理解できずに困惑するも、次第に迫る巨人の影を見てはその顔を青くする。

 巨人の図体のデカさから逃げるにしても最早完全に手遅れだった。人々は現実から目を背ける為に、その瞼を強く閉じて、ただ祈りを捧げる事しかできなかった。

 

 しかし、そんな人々の祈りが通じたのか、巨人がB市に激突する事はなかった。

 

 何故なら、突如として音速を超えた速度で跳んできた一つの影が、

 

 

「こっちに倒れてくんなあああぁぁぁぁッ!!」

 

 

 という叫び声を上げ、現れたからだ。

 その影、コータローはそのままの勢いで白目を剥いて倒れる巨人の右頬を殴りつけ、誰も人がいない山奥へと殴り飛ばした。

 巨人はそのまま山奥にまで吹き飛び、ドシンッという大きな衝撃を立てて、倒れる。

 そしてコータローはB市の繁華街へと降り立つ。

 

「ふぅ、何とかギリギリ間に合ったな」

 

 静寂が場を支配する中、コータローの声が場に響き渡る。そして自分達が助かったと理解した人々は大気が震える程の大きな歓声を上げた。

 

 

 

 

 

 人々の大歓声が鳴り止まぬ中、コータローはD市があった方角を見つめながら、その背に冷や汗が流れるのを自覚する。

 

(さっき巨人をぶん殴った時に一瞬だが、視線が合ったな。という事はあれがサイタマか……。強いとは知っていたけど、流石に化け物過ぎだろ、あれ)

 

 遠目でサイタマと思われる人物、それも一瞬の出来事だったが、コータローは彼のその異常な(・・・)強さを感じ取り、自分の事を思いっきり棚に上げてその様な事を内心で呟いていた。

 

(だけど、なんだろうなこの気持ち……。今まで感じた事ないくらい気分が高揚しているのが自分でもわかる)

 

 コータローは自分の中に、ある思いが宿るのを感じ取った。

 

 それは、原作最強の存在であるサイタマを相手にこの自分のデタラメな力が一体どこまで通用するのか、という好奇心。

 今まで怪人をワンパンで倒してきた為、張合いのない戦いに僅かにだが、心にストレスを感じていたのかもしれない。

 そんな戦闘狂の様な自分の一面に苦笑するも、サイタマがいる方角を見ては、その顔を好戦的な笑みへと変え、思う。

 

 

 

 ――サイタマと本気で戦ってみたい、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 D市

 

 

 

 ――圧倒的な力ってのは、つまらないもんだ。

 

 

 マントを羽織ったハゲ頭の青年はそう呟き、超大型怪人・マルゴリをたった一撃で戦闘続行不能へと追いやり殴り飛ばした。

 その際に殴り飛ばす方向と力加減を間違えたせいか、マルゴリはそのままB市に向かって倒れていく。

 そしてその事に気づいたサイタマは、

 

「あ、」

 

 と、呟くも時すでに遅し。

 そのままB市が消滅すると、確信していたサイタマだったが、彼の予想とは裏腹に巨人はさらに別の方角、人のいない山奥へと吹き飛ばされた。

 

「!!」

 

 その事にサイタマは僅かにその目を見開く。

 そしてサイタマの常人離れした視力が、彼と同じく空中に跳び上がっている一人の青年をその視界に捉えた。

 

 

 そして、サイタマと青年、コータローの視線が一瞬だけ交差する。

 

 

 その瞬間、サイタマもコータローの強さを感じ取り、そのデタラメな(・・・・・)強さに驚くも、すぐにその顔に好戦的な笑みを浮かべる。

 サイタマは地面に着地すると、B市の方角を眺めては、ドクンと心臓が高鳴った。

 

「ははっ、なんだこれ? こんな気分初めてだ」

 

 高鳴る鼓動を感じながら、彼もまた笑う。

 自分と同等に戦えるかもしれない規格外(バケモノ)を見て。

 

 


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