ヒーロー世界の原典候補者   作:黒猫一匹

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1撃目

 

 この世界には「怪人」と呼ばれる人外が存在している。

 

 地底人や海底人、古代人に宇宙人と他にも多種多様な種族が生息し、中には強い思念などから自然発生する怪人や研究者達により人為的に誕生する怪人もいる。

 さらには生活習慣や負の感情などで正気を失い、人間から怪人へと突然変異してしまう者さえもいる。

 そんな怪人達の数多くが、人間に害を(もたら)す存在であり、常人では到底太刀打ち出来ない程の理不尽な力を行使してくる。

 だが、そんな怪人達の魔の手から、か弱い一般市民を守る者達もこの世界には存在する。

 それは世間一般で「ヒーロー」と持て(はや)される者達だ。

 

 

 

 

 

 A市

 

 

 

 

 

「ガハハハハ!! 愚かな人間共め!! おとなしく我ら悪魔族にこの地上を明け渡せ!! さすれば命だけは助けて――」

 

「――てい(・・)!」

 

「グアアアアァやられたああああああぁぁっっ!!」

 

 悲鳴を上げて十階建てのマンションの壁に頭から突き刺さる悪魔族の怪人。頭から胴体の中ほどまで綺麗に突き刺さっており、ギャグ漫画にしか出ない様な光景が出来上がっていた。

 そんな光景を見ていた周囲の野次馬達は次々に歓声を上げる。

 

「スゴイ! さすがは最強のS級ヒーローだ!!」

「今日も怪人が一発KOだ!!」

「かっこいい!!」

「キャアー、コータロー様!!」

 

 野次馬達の視線の先には一人の青年がいた。

 肩に掛かる程度に伸びた黒髪にヘッドホンをした色白のその青年は野次馬達の歓声や黄色い悲鳴にも反応せず歩を進める。

 

 だがそこで、

 

「――ほう、グリン丸を倒すとは人間にしては中々やるじゃないか」

 

 新手が現れた。

 青年は声の方に視線を向けると、そこには牛の様な角が生えた怪人が三体いた。三体共、二メートルを超える巨体で同じ顔立ちをしている。先程、青年が殴り飛ばしたグリン丸という怪人と同じ姿形だが、体に纏っている筋肉はグリン丸とは違い、分厚いを通り越して過剰なものだった。そのせいか、その三体からは妙な威圧感の様なものを感じる。

 

「だが、グリン丸を倒したからと言って調子に乗るなよ、人間」

「奴は我ら悪魔族四天王の中では最弱」

「我らが貴様に本当の悪魔族の怖さを思い知らせて――」

 

「――てい(・・)!」

 

「「「グアアアアアアァァやられたああああああぁぁっっ!!!」」」

 

 怪人がまだ何か言っていたが、特に気にする事もなく、悪魔族三体を同時に殴ると、先程のグリン丸と同様の悲鳴を上げ、彼らは第三宇宙速度で空へと飛んでいき、星になった。

 

 すると、一部始終を見守っていた野次馬達がまたしても歓声を上げる。興奮冷めやらぬ野次馬達に青年は苦笑を零していると、

 

 ppppp……、という携帯の着信が鳴り響く。青年は相手の名前を確認すると、面倒臭そうな表情を浮かべる。着信が鳴り響く中、ため息を吐くとヘッドホンを外して携帯を耳に当て通話ボタンを押す。

 

「もしも――」

『遅い!! 一体何時まで待たせる気よ!! 私が電話を掛けたらワンコール目で出なさい

このノロマ!!』

 

 携帯を耳に当てると、すぐさま少女の怒鳴り声が響き、青年の鼓膜に的確にダメージを与える。その事に青年は一瞬眉を潜めるも、すぐにその顔に笑みを浮かべ口を開く。

 

「おお、これはこれは最近S級3位に降格した戦慄のタツマキちゃんじゃないですか。随分と荒れてるな。それで? 最近S級2位に昇格した俺に一体何の御用で?」

『……アンタそれ嫌味のつもり?』

「さてどうだろうな? それで俺への用件はやっぱり順位の変動についてか?」

 

 青年は背後の野次馬達の興奮した歓声をしり目に自宅に向けて歩を進める中、電話相手であるタツマキの顔を思い浮かべながら、そう尋ねる。

 すると、タツマキは予想通りに声を再び荒げて肯定を示す。

 

『ええ、そうよ!! 一体どういう事よ! 何で私が降格でアンタが昇格な訳!? 一体どんな汚い手を使ってあいつらを買収したのよ!』

「失礼な奴だな。実力だよ実力。ヒーロー協会の連中にとっては俺の方がお前より貢献度が高かったと判断されただけの話だろ」

『納得出来ないわ。絶対に私の方がアンタよりレベルの高い怪人をたくさん倒してる筈よ。上の連中に直訴してやるわ』

「直訴して変わる様なものでもねぇと思うけどな。まぁするんなら勝手にすればいいさ、順位なんて特に興味ねぇし」

『……その余裕の態度が何だかムカつくわね』

 

 タツマキとその様な会話をして帰路へと着いていた時だった。

 

 突然と青年の前方からポッと明かりが灯ったかと思ったら、その光を中心に大爆発が起きる。その爆発は広範囲にまで渡り、周囲の建物を倒壊させ、隕石でも落下したかの様な巨大なクレーターが出来上がった。

 すると、そのクレーターの中から頭部に二本の触覚の様なものを生やした怪人が飛び出してくる。

 

「ム!」

 

 その怪人と青年の視線が交差する。

 怪人は空へと飛び上がっていたその体を青年の元に向かい急降下。そして青年の目の前に着地して青年を睨み付ける。

 対する青年の方も突如出現した怪人を注視している。

その際、電話口でタツマキの声が聞こえる。

 

『ちょっと何よ今の爆発音!?』

「……悪いけど、仕事が出来ちまったみたいだから、一端切るぞ」

『は? いや、ちょっと待――』

 

 タツマキがまだ何か言っていたが、ブツッと問答無用で電話を切る。

 

 すると、そこで怪人が青年のつま先から頭の天辺までを鋭い瞳で射抜くと、その顔をさらに険しいものへと変える。

 

「……あれほどの爆発の余波を喰らっておきながら、大した外傷はなし。何者だ、お前は?」

 

「俺はコータロー。プロのヒーローをしている者で、お前の敵だ」

 

 青年、コータローの言葉を聞いた瞬間、怪人はその顔を不快なものへと変える。

 

「ふん、たかが人間の身でありながら私と戦うというのか……どこまでも不快な種族だ。私はワクチンマン。貴様ら人間共が環境汚染を繰り返す事により生まれた。地球は一個の生命体である。貴様ら人間は地球の命を蝕み続ける病原菌に他ならない! 私はそんな人間共とそれが生み出した害悪文明を抹消する為に地球の意思によって生み出された。故に貴様ら人間は一匹残らず根絶やしにする!」

 

 すると、ワクチンマンの身体が変化する。

 メキメキメキメキィィと身体中に血管が浮かび上がったかと思えば、黒々と隆起していた筋肉がさらに膨らみ身体が二回りほど巨大化した。

 怪物へと変化を果たしたワクチンマンはその身から信じられない程の威圧感と覇気が溢れ出し、並みのヒーローでは到底太刀打ち出来ない存在へと進化を果たした。

 

「死ねェェェッ! 人間ンンンッ!!」

 

 ワクチンマンは肉食獣の様な大きな牙が並んだ口を開けると、口内から凄まじいエネルギーが収縮し始める。そして街の一つは簡単に消し飛ばせる様な強大なエネルギー弾がコータローの元へ発射された。

 迫る理不尽なエネルギーの閃光を前にコータローは、

 

「――しゃらくせぇ!!」

 

 それ以上の理不尽な一撃を持ってして光弾を殴りつけた(・・・・・)

 瞬間、ワクチンマンの巨大な光弾はコータローのたった一振りの拳でいとも容易く砕かれてしまう。

 

「馬鹿なッ!!」

 

 驚愕するワクチンマンの声。

 全霊の一撃をこれほど簡単に防がれるとは思ってもいなかった。その信じられない現実にワクチンマンは放心してしまう。その隙をコータローは見逃さなかった。

 大地を踏み砕く様な爆音が炸裂する。その音にワクチンマンも漸く正気に戻るも、それは余りにも遅すぎた。

 既にコータローはワクチンマンの胸元に飛び込んでおり、その大きな身体に己の拳を叩きつけた。

 

 山河を砕き、地殻変動すら引き起こす拳がワクチンマンの胴体に炸裂し、ワクチンマンが出現した際に出来たクレーターまで第三宇宙速度というデタラメな速度で吹き飛ばされた。

 

 ワクチンマンは悲鳴を上げる間もなく、クレーターに叩きつけられて、身体が爆散し絶命した。

 

 身体が叩きつけられた際に、地球が揺れたと錯覚する程の衝撃と振動が木霊する。

 

 その衝撃の余波でA市の至る所でビルが倒壊したり、家が吹き飛んだり、地割れが発生したり、とワクチンマンが出現した時以上のクレーターと瓦礫の山が出来上がってしまった。

 

「あ、」

 

 その様子を遠目で確認したコータローはすぐさま、周囲に視線を走らせる。そして彼の常人離れした五感を駆使し、周囲には自分以外誰もいない事を確認したコータローは、

 

「よし、これらの被害は全てあの怪人のせいにしよう」

 

 静かにそう決意した。

 

「しかし、ワクチンマンってどこかで聞いた事ある名だと思ったけど、今思い出した。……確か原作一巻に出てくる最初の怪人だよな。という事は今日が原作開始の日だったのか」

 

 まぁ別に今更原作とかどうでもいいか、と結論を出し、コータローは帰路へと着いた。

 

 

 これが、ヒーロー協会最強戦力、『一撃無双(ワンターンキル)』のコータローこと、転生者・坂井幸太郎の今の日常だった。

 

 


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