5月に飲むラミンーある少女の挑戦―   作:飛龍瑞鶴

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注意:この話で語られる考えはメイ個人の主観であり。
   キャラクターの思考と趣味を否定するものではありません。


「3番めに良い技術を持ってきてくれ。2番目に良い技術は間に合いそうもない。1番良い技術はいつまでも使い物にならない」
 連合軍のレーダーの開発に貢献したロバート・ワトソン・ワットが言ったとされる言葉



今回から会話表記に変更を行いました。
違和感や読みにくさを感じた場合は、感想にお書きください。


Dishonored 4

 「ここが、私たちの戦車格納庫です」

 

 ミホさんがそう言って格納庫の扉を開いた。中にいたのは(主人格)が飽きるほど調べ、戦闘時の映像を見て、個別の挙動の癖まで脳裏に叩き込んだ。鋼鉄の野獣たちであった。

 

 「映像で何度も見たけど。これは…」

 

 「末期の武装SS戦闘団?」

 

 私が口に出すのを躊躇する言葉をあっさりとアヤメが口に出す。

 

 「それも、義勇○○人大隊とか、義勇○○警察大隊とかで編成された末期の中の末期の戦闘団ですよね」

 

 マイヤがさらに追い撃つような発言をする。私の背中を嫌な汗が流れてくる。そう思うのは同感だが、当人を前に言う事ではない。自分たちが必死にかき集めた戦力を、その様に表現されたらどう思うかくらい理解しているだろうに……。

 

 「それよりも相応しい例えがありますよ」

 

 サナエが口を開く、お願いだから穏便な表現をお願い。

 

 「ベルリン市街地戦の終わりに、生き残った戦車を集めて、なりふり構わず集めた移動手段に市民を乗れるだけ乗せ、連合軍占領地まで脱出するまでの時間を作り出すために覚悟を決めた名も無き勇者たち。尊敬すべき戦車乗りの集団」

 

 「て、照れますね」

 

 サナエの例えに照れるミス・アキヤマ。

 確かに照れる事だろう。

 軍人の存在意義、護民と言う義務に殉じて、おそらく義務を満了して死んだ者たちに例えられるのは。例えその戦士たちが仕える国家が史上最悪の愚王と亡者共の楽園であったとしても。義務に殉じ勇者のごとく倒れた者たちは称えられるべきだ。

 

 車両を俯瞰で観る為に二、三歩下がる。その瞬間に、サナエ達の表情を窺うと、大洗のメンバーに見えない様に器用にVサインをして見せる。今までの会話の流れは意図的だった様だ。

 

              ―まったく、誰に似たのやら―

 

 「マタイ10:34」

 

 私は大洗戦車道チームの一部の車両を見ながら、無意識に口走る。

 

 「『わたしが来たのは地に平和をもたらすためだと思ってはなりません。わたしは、平和をもたらすために来たのではなく、剣をもたらすために来たのです』 マタイによる福音書 第10章34節がどうしました?」

 

 サナエが全文を引用した後に訊ねてくる。意外に大きな声で無意識に呟いていたらしく、他の面々も気にした様に此方をみている。

 結構物騒な独り言を無意識に呟いたのは、自己分析では現実と想定の乖離をなんとかして埋めようとしている為にだと思う。

 決して褒められる事では無いが、少しマウンティング行為に手を染めよう。でないと、ミホさんを美辞麗句で飾った言葉で褒めたてながら、全力で侮辱と揶揄、そして罵倒してしまいそうになっている。

 悲しむべきことにラミン(主人格)の脳みその性能の限界点は意外に低い、想定と現実の差が開き過ぎている事に理解力が追い付かない。なので、少し此方が優位に立てそうな事で脳みそを冷やさせてもらおう。仄暗い愉悦は(メイ)が一番好きなモノである。

 

 「あの子が居たらそう言いそうだなぁって思ったのよ。彼女、Ⅵ号重戦車以降のドイツ戦車大嫌いだから。あとそれが好きな人も、もっと正確に言えばその戦車たちが優れていると誇らしげに語る人種が」

 

 「何となくわかる気がしますが。何故Ⅵ号でありますか?ドイツの花形戦車ですよ」

 

 ミス・アキヤマが微妙そうな顔をして訊ねてきた。どうも彼女も似たような経験をしたのだろう、

 ミリタリーを趣味にすると確実に出会う、個人的にもっとも忌み嫌う人種に。

 

 「本末転倒だからよ。創る必要すら無かった。もちろんⅤ号F以降は……」

 

 「それは、聞き捨てならんな」

 

 新たな声が私の声を遮る。声の主は足音高くこちらに近づいてくる。名前とパーソナリティは覚えている。

 Ⅲ突を運用するチームの一人、エルヴィンと言うソウルネームを名乗っているらしい。

 

 伝統で紅茶名を名乗る聖グロリアーナ女学院の生徒で、自らも紅茶名を名乗ってるラミン(主人格)はデータを見た時に、「笑えないなぁ」と苦笑を漏らしていた。

 

 しかし、制服の上からナチス時代のドイツ国防軍の軍服、制帽にゴーグル。見事なまでにロンメルリスペクト、聖グロリアーナ女学院では許されないぐらい自由度がある校風だ。最も、軍人でもないのに日常生活で軍服を羽織る神経性は私には理解できない。ポケットが無数にあるので、利便性は良いことは認めよう。統一ドイツでそんな格好していれば、確か逮捕される筈だと記憶している。いや、逮捕されるのはSS(親衛隊)の服装だったか?

 

 まぁ、良い。問題は、彼女が些か以上に腹を立てている事だろう。怒りの理由を推測するのは容易だ。日常生活でも旧国防軍リスペクトをしている彼女だ、自身を侮辱されたに等しい怒りを感じているのだろう。

 

 「貴女は?色々言いたいですがお名前は?」

 

 「メイ!」

 

 「メ、メイさん?」

 

 英国淑女(ペルソナ)を維持したまま尋ねるが、その声はガラスの様に冷たい。話を大声で遮る輩に、私はそれ相応の対応しかできない。

 声から私の内心を察したトウカとミホさんが慌てて声を荒げるが、エルヴィンと名乗っている少女は気にせずに私の前に立って宣言する。

 

 「私は大洗女子戦車道チームの一員だ。エルヴィンと名乗っている」

 

 「ハイランド、メイ・ハイランド。英国陸軍予備役士官候補生、現在はオックスフォード大学院で国際関係学の博士号の取得を目指している。此処にはミシズミさんのご厚意で居るわ」

 

 私は、兄が詳細に設定し、破綻しない様に必要な知識を脳に覚えさせた設定を演じ続ける。久々に否定から向かってきた相手であり、しかも善良な臆病者(ラミン)では無い時である。邪悪な狂犬(メイ)として、それなりの対応をしよう。

 

 「なぜ、Ⅵ号重戦車を創る必要が無いと断言するのかその理由が聴きたい」

 

 「先ず。前提条件の確認をさせて頂戴、エルヴィンさん。尋ねますがナチス・ドイツ時代のドイツ国防軍のドクトリンを端的に言うと何になる?」

 

 「無論。電撃戦だ。かのグ……」

 

 何を聞いているのだと言う表情を浮かべた彼女は簡潔に答え、それから薀蓄を続けようと口を開こうとするが。私は次の質問を飛ばしてそれを遮る。

 

 「では、電撃戦とは何か?」

 

 「機甲戦力を集中して運用し、戦線を突破する戦術を主軸とした機動戦ドクトリンだ」

 

 「では、何故?機甲戦力を集中させて、戦線を突破する?」

 

 「敵陣深くに突進して司令部を叩き、指揮命令系統を混乱させるためだ」

 

 「なぜ?それを行う」

 

 「その混乱に乗じ、後方の歩兵部隊が戦線の穴を拡大して、こちらの戦線を押し上げる為でありますね」

 

 「そして、歩兵で敵国中枢を占拠して、相手にこちらの政治的目的を飲ませる事ですね。だから、電撃戦ドクトリンは相手の心臓を挿す槍にたとえられる事が多いです。穂先が鋭い方が良いですが。柄の部分が折れてしまえば、穂先は機能しなくなる」

 

 ミス・アキヤマとミホさんが先読みして言う。私は沸騰仕掛けた脳みそが急速に冷えていくのを感じていた。

 

 「補給が切れた機甲部隊は直ぐに作戦能力を失う。だから、歩兵師団に突撃砲やⅣ号戦車、アハト・アハトを対戦車砲にして潤沢に配備を行い軍全体の戦闘力を上げて、モスクワを占領するなり、戦線を整備して時間を稼ぐなりして。Ⅴ号中戦車の設計を詰めて、できればF、だめならGの配備を目指すべきだった。Ⅵ号重戦車のラインを新たに作り、専門の野戦整備部隊を整備するよりは、経済面でも負担が少ない。単価の高いⅥ号は消耗の激しい陣地突破には使えず、戦略機動性も低い。その戦車を独立重戦車大隊として戦線に投入した瞬間から、旧国防軍は電撃戦ドクトリンを放棄してしまった。でしょ?」

 

 聞き飽きたとばかりにトウカが、私の言いたいことを全て言う。

 

 「ありがとう。ミス・エルヴィンごめんなさい。先祖がWWⅡのアフリカ戦線で、日本風に言うのであれば醜の御楯になっているのよ。それに士官候補生研修で会ったドイツ連邦軍の士官がロンメル信奉者の嫌な奴で、どうも冷静を失っていたわ。二度目になるけど、ごめんなさい」

 

 私はそう言うと、深々と頭を下げた。先ほどまでの行為は、どう見ても此方に非がある。意図的に行った事ではあるが、やり過ぎであった。

 

 「い、いや。こちらも突然怒鳴り込んで申し訳なかった」

 

 向こうも非は理解していたらしい。まぁ、若さゆえの過ちと言う事にしておこう。

 今の恰好も大学生時代には黒歴史になっているかもしれない。

 

 「まぁ、ナチス・ドイツの兵器行政は合理的ではありませんでしたから」

 

 「伍長閣下のおかげでね」

 

 「それは、何処の国も同じよ。旧しょ……失礼、アメリカではAGFと言う思想派閥が、M4への90ミリ砲装備を潰したりしたし、M26パーシングの配備をおくらせたりしていたわ。我が国では老害がクロムウェルの開発をなにかと妨害したし」

 

 アメリカ陸軍は、AGF(Army Ground Forces)と言う概念で、保有するすべての車輌を機能別に「空挺、機甲、対空、対戦車(駆逐)」の四つに分化させて、各々の機能に最適化させつつ標準化、効率化という概念に囚われて、機甲戦力が苦労することになった。

 

 我が英国ではクロムウェル巡航戦車の開発を、様々な人間が妨害していた。

 

 そして、ナチス・ドイツでは重厚長大な兵器が大好きな独裁者と、そのお気に入りの狂科学者(マッドサイエンティスト)の執念と、元から抱える技術的な問題から常識の外にある様々な兵器群を生産する事になるのだが。

 

 思考が一時迷子になった。私は改めて、ミホさんに向き直り、微笑んで言葉を発する。

 

 「ミホさん。そろそろ時間が押してきましたので、写真を撮りましょう。横道に逸れて申し訳ありませんでした」

 

 「そうだよ。すっかり忘れてた。皆、Ⅳ号の前に集まって!ほら、みぽりんは、真ん中」

 

 「おや、集合写真か?それじゃぁ私が撮ろう」

 

 「メイは、西住さんの隣ね」

 

 「準備はいいかい?はい、チーズ!」

 

 この時、Ⅳ号戦車の前であんこうチームと、私たちが一緒に写った写真は、今も机の写真盾の一つに入っている。

 

 

 その後、ミホさんたちと別れ、戦車カツを堪能した後に宿に戻り。メイからラミンに戻った私は土産物で手荷物を増やして大洗を後にした。

 次に来るときは大洗との練習試合の時である。

 




大洗編はこれにて終了。

作中の国防軍批判はあくまで、メイ&ラミンが思っている事であります。
特定の人物、思想を誹謗中傷する意図はありません。

さて、大洗編も終わって、いよいよ練習試合もまじかに迫ってきました。
これからも、最善を尽くして書いていきますので、今度ともよろしくお願いいたします。

また、感想は常時募集しています。

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