今年もラミンの物語をよろしくねがいします。
大洗女子学園に向かう途中。私はミホと呼んで良いと言われた。ミホさんとその友人たちにトウカ達を交えながら談笑しつつ向かっていた。
「失礼だったらごめんなさい。ミホさん。結構印象が違って驚いたわ」
「どんな印象だったんですか?」
「私も気になる」
「自分もであります」
彼女の友人たちも興味津々のようだ。
―やはり、外部からどう見られているかを知りたがるのは、誰でも同じか―
「アールネ・エドヴァルド・ユーティライネン大尉の女性化?」
「あそまで、私はエキセントリックじゃないです」
「つか、誰それ」
ミホさんは困惑気味に苦笑。ミス・タケベはそもそも知らない様だ。
「冬戦争中のコッラーにおける丘陵地の戦闘で4000人のソ連軍をフィンランド側が32名の守備隊が撃退した戦いで、フィンランド側を指揮した。フィンランドの国民的英雄ですよ」
出来るだけとぼけた様に答える私が解説する前に、ミス・アキヤマが詳細な解説を入れ出した。
「まぁ、砲撃の最中にロッキングチェアでくつろいでいたり、散歩に行くと言って戦車を撃破してくる人ですけど」
「なんで、そんなことが出来るの?」
まぁ、その指摘は正しい。
「妖精だからよ。〇―ミン谷の」
これはトウカ
「神の加護でしょう」
これはサナエ
「ソ連の練度が低かったっただけでは?大粛清の直後ですし」
マイヤの発言が恐らく正しいのだろう……。それでも砲撃下でロッキングチェアでくつろぐのはマトモナ神経ではできない。
士気高揚の為の演技だとしても凄い事だ。
私はミホさんが、決勝戦で見せた行動や、それまでの指揮姿勢から肝の据わった指揮官だと推測したのだが……見込み違いか?
話してみての感覚から実感できたのは、資料通り個性で集団をけん引していく人物には見えない事だ。もしかしたら、戦車に乗ると性格が判るタイプなのかも?あるいは、『この隊長の為なら』と覚悟を決めさせるタイプか?混乱してきた。
取り敢えず。ミホさんの性格からの判断は保留して、大洗女子の戦車道チームの組織論から推測しよう。
―大洗女子の戦車道チームには、憎まれ役の鬼軍曹タイプの人間が副官の立ち位置に居るのではないか?―
思いつくのは、副隊長の片眼鏡で怜悧な表情をした人物。確か名前はカワシマと言ったか?彼女が規律面での統率を担当していた可能性が高いのかもしれない。
その事を確かめるべくさり気無く話を振ってみた所。どうも、生徒会そのものが、強い牽引力を持っていた様だ。では、来年はどうなるのだろう?
いや、現状ではミホさん主導権が確立しているからその心配は薄いと考えるべきかもしれない。
―現状では指揮系統の捩じれにつけ込むのは事は可能か―
私はそう確信する。
彼女らにラミンの印象を間違って伝えることにして、その心に罠を仕掛けておこう。
―
「やっぱり、さつ…トウカ?今あの子なんて呼ぶんだっけ?」
私は後ろに振り向きトウカに尋ねる。
私の視線に籠められた意味を察したらしく、彼女は呆れた表情を作り。私の質問に答える。
「ラミンですよ。『連れてくればよかった』っていう話は無理ですよ」
「インフルエンザだしねぇ。流石にこの時期に大洗に連れてくるのは、練習試合前のバイオテロよね」
私は誰が見ても残念そうに肩を落として見せる。
「あのぉ。ラミンさんと言うのは?」
ミホさんが何かに気がついたようにおずおずと尋ねてきた。
「私の年の近い従妹。呼び名で分かると思うけど、聖グロリアーナ女学院の一年生で、戦車道チームの一年。私に貴方たちを教えてくれたのは彼女よ。優秀な従妹かしら?一年で紅茶名を貰ってるのは6人と聞くけど?トウカ達一団は彼女の戦車の乗員。トウカ?あなたから見てラミンはどう見える?」
トウカは呆れた様な声を出した。
「なんで私に?貴女が言わないですか?」
「私が言うと、とても辛辣な評価になるもの。昔は素直で良い子だったのに、最後にあった時には、臆病が悪化して恐怖心で人間不信で人間嫌いになって。ありとあらゆる事を疑ってかかり、機会主義と保身が処世術になり。他人を信用せずに、他人は自分の為に最大限に利用すべきであり。蹴落として成果を奪える要素ぐらいにしか見ていない従妹の為に、わざわざ転校までして駆けつけた情が深い親友のトウカはどう思ってるのかなぁ~?と思っただけよ」
「大体言ってるじゃないですか。ソレ」
トウカが声を荒げるのを私は曖昧な笑みで韜晦する。
親友の少し前の自己評価を本人の口から聞くのは気分が悪いだろうが。以前の私は、そのように世界を見ていたのは事実である。
―だから、世界観を激変させてくれた貴女達には本当に感謝している―
口には出さないがこれは偽らざる
「なんでそこまで人格が歪んだんだ?」
ミス・レイゼンが尋ねてくる。資料にもあったが、空気は一切読まない様だ。
「簡単よ。信頼している大人と友人、部活と言う小さい閉鎖系の全員が彼女を『売った』のよ。それに騙されて彼女をありとあらゆる罵詈贈号で罵り。真実が判ると、何も無かったと自分たちの所業を忘れ掌を返した。クラスメイトや、教師を含む周囲の大人と言う環境を中学時代に味わえればそうなるわよ」
私は
「それは、酷い」
ミス・レイゼンが言う。感情は在るのだろうが、声が常に平坦で判断に困る。
「ラミンは乗り越えようとしていますよ。恐怖を押し殺すのを止めて、恐怖を希望で塗りつぶそうとしていますよ」
トウカは全く良いことを言う。
―
「でも、悪辣さは増した気がしますね」
こ、コイツ。
「それはあるね。『貴方が関係する必要は無いけど、貴女の信念的にはどうなの?』って退路を断って志願されるよね」
あ、アヤメまで。
「人を値踏みする様な冷たい視線をする事もありますね」
マイヤ、貴女もか。
「怠惰を許さない。と言う強い意志がありますね。また、出来る事をやらない人間を間引くのは上手ですね」
サナエまで。み、味方は居ないの?
私は表情を維持しながらそれを黙って聞き。かるく「そう」と、半信半疑に聞こえるような声で答える。
「まぁ。3週間で大洗と闘えるチームを作らされていたからね。それには成功したけど、インフルエンザで寝込むまで、誰よりも頑張っていたからしょうがない面もあるわね」
「ダージリン様のむちゃぶりに応えられる能力はありますよ」
「なんだかんだで、私達を信頼して頼っているし。周囲を気軽に協力者にするくらいには、マトモになってると思いますよ」
フォローはありがとう。
私は彼女らに視線で謝辞を伝えると、調略の為の布石を打つ。
その対象であるミホさんの様子を窺うと、明らかな困惑を浮かべていた。ミス・タケベ、ミス・アキヤマも困惑しているようだ。
「お会いしても居ないのに、変な印象を持つのは失礼でしょう」
「そ、そうだね」
ミス・イスズの一言により彼女たちは一応の鎮静化を見せた。芯の強い女性と史料にあったが、予想以上だ。だがしかし、彼女の一言を待っていた。
人は、先入観を持たないように意識すればするほど、先入観に引きずられる。
先入観を排除しようとすると嫌でも先入観を強く意識してしまう。
ミス・イスズの冷静な一言が、期せずして私の罠の一つを完成させてくれた。
調略と言うのは気がつかれる事の無く。
対象の心を蝕み現実の行動に影響を及ぼすことが最上なのだ。
軽く、ラミンの過去がまた露出。
調略に関しては私の私見です。
ある意味で、このDishonored編は、ラミン自体が抱える歪みが如実に出て居る回です。
彼女は、戦車道を『ルールで縛られた戦争』捉えて、全力で勝ちに向かっています。
彼女の過去と現状が彼女の精神を蝕んているのかもしれません。それに触れるのは、もう少し後になりそうです。
今年もベストを尽くして書いていこうと思いますので何卒宜しくお願い致します。