5月に飲むラミンーある少女の挑戦―   作:飛龍瑞鶴

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≪注意≫

今回は西住みほに対しての考察が行われますが。
それは、メイ・ハイランドと言う人格が行った考察にすぎません。
その点に注意してお読みください。


Dishonored 2

 

「ミホ・ニシズミさんですか?」

「は、はい!」

 私の少し下手な日本語で声をかけられたミス・ニシズミは、酷く驚いたらしく飛び上がる様な反応を示し、裏返った声でそうであると答えた。

 本人の確認が取れると、私は一気に歩み寄って。彼女の両手を握った。

 「本当に会えるとは思いませんでした。主よ、感謝いたします……あ、事後紹介が遅れました。私は、ハイランド。メイ・ハイランドです。英国からきました」

 それから、私には彼女に親戚から日本の高校戦車道が面白いことになっている。との情報を貰い、衛星放送で試合の流れを追っていたら、すっかり彼女のファンになってしまった事を告げた。

 

 彼女はそれを聞くと意外そうに驚き、それと同時に途轍もなく申し訳なさそうな表情になった。

 「い、いえ。私は会いに来るほどの人じゃないです」

 「NO!サクセスストリーの主人公じゃない。変化が無くてつまらなかった日本の高校戦車道に、大きな風穴を開けたじゃない。これからの日本戦車道に強い興味を持たせてくれたわ。伝統で雁字搦めのヨーロッパの戦車道や、ショウビズに特化している旧植民地―失礼、アメリカの戦車道より健全な戦いが見れる事を期待しているわ」

 「外国の戦車道ってどうなんですか?」

 ニシズミさんが食い付いてきた。

 しかし、自分の話題を避けている感じがする。

 判断するにはまだ早い、もう少し彼女と話さなければ。

 

 「ヨーロッパは大会毎に優勝校が決まっているの。そう、持ち回りで平等に優勝校になる事が決まっているのよ。欧州が統合されてからは特にそう。アメリカは大衆向けのショウ・ビジネス。試合ごとに脚本が出来ていて、何処でどの戦車がどう動いて撃破されるまで決まっている。と、言う話しよ。だから、エキサイティングな試合展開が毎試合続く。どっちがお好み?付け加えるなら、両方とも極論すればお金で優勝は買える。資本主義万歳と言ったところね」

 私は高校戦車道ではなく、プロリーグの話をした。日本では戦車道のプロリーグは数年後にはできる。その戦場に戦車道を続ければ、彼女は立つことになるのは確定的推論である。

 故に世界大会を誘致が実現すれば、彼女が大学かプロリーグに居る時だろうから相手になる人々の傾向を教えて、その反応を見たかった。

 それに、去年の事が心の傷であるなら。彼女の反応は予測ができる。違ったら、それはそれで、判断材料が増える事になる。

 「両方とも、大変そうですね」

 差し障りのないテンプレートな回答。

 これは、私が立てた嫌な方の仮説が当たりそうな気配を感じた。

 

 ミホ・ニシズミは自我が希薄である。そういう仮説を構築した。

 

 彼女は名門の次女として生まれた。

 長女が既に居るから。家を、ニシズミ流を継ぐ必要は無いが、もしもの時のスペアとして必要とされる。或いは、政略結婚の道具として。

 

 故に彼女は出来るだけ自我が希薄な状態で育てられたのではないか?

 

 自我が必要とされる時になったら植えつければ良い。

 旧家で家を割るリスクを減らすならそれくらいするだろう。旧家の人間とは家を存続させることを最優先とする傾向があると言う話しも聞く。

 

 つまり、彼女はニシズミ流に必要な能力だけを叩き込まれた傀儡ではないかと言う疑惑から、この仮説を立てた。傀儡なら他人を頼らない、自己を顧みない、機械的で相手が求める反応を返す。そして自分が評価される事を嫌う、何故なら傀儡には傀儡回しが必ず要るからだ。評価されるべきは傀儡回しと考える。

 

 私は、彼女が感情の無い傀儡であるとは思っていない。喜怒哀楽を表現している事からも明らかだ。だが、私の疑り深く作られた人格は、その反応を「この場合はこの反応」と言うフローチャートに沿った反応ではないかと疑ってしまう。

 

 私自身がラミンと今呼ばれている少女が無意識に思っている『善き人でありたい』と言う思いが、無意・意識的に表に出さないようにしていた人格面を核にして構築された人格である。それはラミンが背負った十代の少女には重すぎるトラウマから逃げる為だった。

 今は、それを拒絶せずに受け入れつつあるから、遠からず私は、ラミンが自分の意志で演じる性質になるだろう。現に、今回はラミンの意志が強く私になる事を求めた。

 

 その様な経緯から、ミホ・ニシズミも逃避の為の自我が元から希薄だった主人格を上書きしているのではないかと予測を立てた。

 彼女が本当に自我が薄いならば、代理でも、疑似でも人格を構築しないとならない環境に陥ったからだ。

 周囲の環境が激変したならそれに合わせたペルソナが必要になる。

 

 または、それまでは、ニシズミ流と言う枠に入らなくて抑圧していた本来の自我が目覚めたのかもしれない。

 

 私の主人格はそうあってほしいと、願っているようだ。

 

 「そう、大変よ。でも、欧州でソ連軍の機甲戦力と睨み合っていた頃よりはマシよ。あの頃、戦車道履修者は強制的に軍に入隊。そのまま戦車兵の時代だったのよ」

 10万両近い機甲及び機械化戦力を動員して、最初から核をバカスカ使う連中相手に戦う事が無くて本当に良かったと思っている。私は資料でしか知らないけど。

 

 「みぽり~ん!アレ?」

 「西住殿ぉ~!そちらの方は?」

 丁度、良い所で彼女の友人が来たようだ。あのままでは、軽い尋問をしてしまいそうだったから、丁度良いタイミングだった。

 

 運は私に見方をしている。

 

 そう考えた私は、後手でサインをトウカに送る。

 

 「私は、ハイランド。メイ・ハイランドです。英国からきました。貴女方は、ニシズミさんの戦車の乗員でしたよね」

 私は一人、一人と全員を相手に握手しながら彼女たちを把握する。ミホ・ニシズミの乗り込むⅣ号戦車の乗員は精鋭揃いで素晴らしいと、煽てるのを忘れない。

 「えへぇ。照れますね」

 「私たちワールドワイドだよ。海外の男性ファンに告白されたらどうしよう」

 「ミス・タケベ。年長者から老婆心の一言よろしいですか?」

 私は思わず口に出していた。この面子相手には少し調子が狂う。

 

 なんとかして、調整しないと

 

 「え?いいですけど」

 「恋に恋しているのか、添い遂げたい相手を探しているのか。それを自分の中でしっかり決めていないと」

 「いないと?」

 「ダメな男に引っかかるか。屑な男に騙されるわ」

 冷たい中に後悔を混ぜた視線でミス・タケベを見つめる。

 彼女は困惑と決意を感じさせる声で私に答える。

 「肝に銘じます」

 

 「メイ。そろそろ」

 いつの間にかトウカ達が集まっていた。そろそろ移動しないといけない時間である事を示した。私は至極残念そうな顔を作って、ニシズミさん達に向き直った。

 「ごめんなさい。そろそろ移動の時間なの……楽しい時間は一瞬ね。最後に一緒に写真を撮ってくださらない?」

 「それなら、こんな所より学校の四号の前で撮ろうよ。直ぐに行けるから」

 「名案です。武部殿」

 話が勝手に進んでいった。

 予定を変更することを後手のハンドサインでトウカ達に告げる。

 「メイ。この人達に私達を紹介してくれない?」

 「OKいいわよ」

 私の計画は想定外の方法で実現されようとしていた。

 




お待たせしました。

今回の作品ではラミンの人格ではなく。
メイ・ハイランドの視点からの話になりました。
作中に書いた、世界のプロリーグの話は私の独自設定ですので、原作とは大いに違うと思われます。

劇場版をご覧になった方はお分かりと思いますが。メイの考察は大外れです。
その誤算がどう影響するか?

次回も頑張って書きますので、宜しくお願い致します。
また、感想を切にお待ちしております。

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