5月に飲むラミンーある少女の挑戦―   作:飛龍瑞鶴

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聖グロリアーナ女学院戦車道部隊の戦術会議。

大洗を相手に戦う事になる練習試合様に考えられえた。
ラミンとドアーズの案とは?


会議で踊る。

 私がドアーズと『モダン・タイム』において、密談と言うと聞こえがいいが。

 実際の所、これから、『紅茶の園』で開催される。大洗女子との練習試合に向けた参加車両の車長と、戦車道部の首脳が参加する戦術会議に向けた根回しの様なものであった。

 今回の戦術会議は大いに荒れそうだった。我が、聖グロリアーナ女学院に一度、練習試合で敗北したとはいえ、その後は常勝不敗。

 『優勝しなければ廃校』と言う状況であったが、戦車道経験者が西住流の家元の娘とは言え。それ以外は初めて経験する素人集団を黒森峰、サンダース、プラウダと強豪校相手に戦えるまでになった集団相手に、歴戦の先輩の小隊以外は一年生によって編成された新規部隊。

 他校相手の実戦経験は無く、部隊としての紅白戦も数える程度。みな少なからず不安を抱いているのは確かだろう。

 

 ―そんな中で、「アレ」を提案する辺り。私もドアーズも大概だな―

 

 私は自分と共犯を評価しながら、その共犯者に視線を向ける。

 ドアーズはそれに気がつき、不敵に笑みを浮かべた。私も自身の表情筋が笑顔に表情を作っている事を自覚した。

 

 ラミンとドアーズが笑っている。それは、他の車長達を驚かせた。

 クロムウェル小隊練成時から『策士』と呼ばれていたドアーズと、コメット巡航戦車の名前よろしく、彗星のように現れ、瞬く間に自分とその戦車の立場を聖グロリアーナ女学院戦車道部隊の中で決定づけたラミン。それを行うまでに要した時間の少なさや、選別方法の容赦のなさから『ダージリンのスターリング』なるあだ名が陰で呼ばれつつある。その二名が、会議開始前に示し合わせた様に笑っているのを他の参加者は背筋に冷たい物が流れるのを感じていた。

 

 ―この二人。何を企んでいるの?―

 

 参加者の多くはそう感じ、早く首脳陣が来ることを祈りながら。表向きは穏やかなお茶会を演じていた。

 

 「皆さま、お揃いですね。それでは、大洗との練習試合に向けた戦術会議を始めます」

 ダージリン様を先頭にノーブルシスターズが入室、着席と同時に会議は開始された。

 最初に大洗側の最新情報が、GI6こと情報処理学部第6課からもたらされた情報を元に首脳部が分析を加えた予想戦力が。各車長、個人個人に配布されたタブレットに表示された。

 現状、大洗に新型車両無し。しかし、乗員の練度は上昇しているものであると判断し、現状までに収集分析を行った各戦車のデータを上方修正する。

 また、決勝戦終了後から現在までの練成によって『西住みほ流(仮)』が大洗戦車道部隊に理解、ドクトリン化されたものと考えられる。

 「つまり、以前より確実に強くなっており、それはチームとしても、各戦車の練度もと言う事です」

 データ主義であり、参謀役のアッサム先輩の言葉で大洗の戦力分析は終わった。

 

 「さて、この現状で我々がとる戦術について本日は討議する訳ですが。ドアーズとラミンは何か策がある様ね。披露していただけるかしら」

 こちら側の戦術会議に移行した途端に、ダージリン様が言う。見抜かれていたか。

 いや、二人そろって悪戯をする子供の様に笑っていれば、誰にでも解るか。

 私は視線でドアーズを促す。私は今回の企みでは脇役であるからだ。

 「我々、クロムウェル小隊は当初の計画では本部小隊と行動を共にする予定でしたが」

 ドアーズがそこまで言うと、戦場を想定したタブレット上のマップを操作し、新しい戦況を作り出す。それは即時送信され、全員が観る事になる。

 「ラミンのコメットと同時に移動を開始。コメットが敵主力を発見次第、その前方へ出ます」

 タブレット上のマップでは、大洗の主力の前に隊伍を組んだクロムウェル小隊が展開する。

 「我々は隊列を維持しつつ、後退戦闘を行い。本部小隊と合流を急ぎます。コメットはこの時点でビッグゲームを開始」

 「その後は本部小隊と連携しての包囲殲滅。つまり、あなた方は、カンネー、或いはタンネンベルクの再現を狙っているのね」

 ドアーズが最後まで言わせずにダージリン様が後を引き継いだ。見事に意図を読まれていた。

 「それは、魔性の戦術です。リスクが高すぎます」

 アッサム先輩が反対意見を述べる。

 確かに歴史上、カンネーの再現を狙って破滅した軍人は、それこそ星の数ほど居る。しかし、私とドアーズは対大洗戦ではある程度まで成功する可能性を見出していた。

 「大洗の指揮統制の欠点を突けば、成功する可能性は高いかと思われます」

 私はダージリン様を正面から見据えて言う。

 大洗の西住みほ、そして彼女が率いる戦車道部隊を最もよく見てきた彼女相手に、映像データでしか大洗を知らない私がどこまで迫れるのか。それを試したくなった。

 「大洗の戦車道部隊は、プラウダ、黒森峰戦を等から解る様に各車長の自由裁量が非常に大きいと言えます。また、指揮官たる西住みほ女史は強権で指揮統制を行う人物でないと、私は考えます。また、大洗戦車道部人員の多くは、我々との以前の練習試合の件がありますから。勝機を感じれば食い付いてくると思われます」

 無論、大洗もプラウダ戦から学習しているだろうから、食い付いてこない可能性がある。

 しかし、彼女らは全国大会優勝と言う栄光を手に入れ、廃校を回避した。そろそろ、緊張の糸が切れてボロを出す可能性は高い。

 それに、自信は容易に慢心に変化する。

 「コメットが相手の耳と牙を傷つけ、その中で遭遇したクロムウェル巡航戦車の小隊が徐々に後退速度を速めながら後退戦闘に入れば、相手としては罠だとしても食い付くと思われます。今回のルールは殲滅戦ですので、どちらにしても積極的な攻撃をする必要があります」

 私の後をドアーズが継いだ。

 付き合った時間は短いが、なかなか息が合う相手だと思う。

 友人にするにはもう少し話す必要がある。私達はまだ戦車道の立場でしか会話をしていない。

 「ラミン、ドアーズ」

 「「はい」」

 私達二人は、ダージリン様が命令をする時の声で名を呼ばれて、同時に声を上げる。

 やはり、大洗の隊長の指揮傾向まで踏み込んだのは間違いだったか。

 「次回の戦術会議までに、あなた方のプランをもう少し洗練させなさい。それと、プランが失敗した時の計画も同時に立案する事。今回の練習試合は貴女方の作戦立案能力を試す機会でもあります。励みなさい」

 「「了解いたしました」」

 声を合わせて答える。

 ダージリン様のテストはより難しくなっていく様だ。

 それだけ、私達に期待を持ってくださっていると言う事に嬉しさを感じると共に、それに答えなければと言う義務感や様々な感情が内心に浮かんでくるのを私は感じていた。

 




来年以降すら見据えている。
ダージリン様の後輩への指導。
それに答えようとする後輩たちの努力。

それが報われるかは、本人の努力と時の運。
しかし、運を引き寄せるには努力が必要である。

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