『言霊使いと幻想郷』   作:零戦

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第七十九話

 

 

 

 

「へぇ、誠が外の世界にいた時の知り合いかい?」

「えぇそうです」

 

 居間で萃香がことはと話をしていた。てかなに適応しているんだよことは……。

 

「酒飲むかい?」

「今飲んだら暴れそうなのでやめときます」

 

 暴れるのかよ……って飲むなよ。

 

「どうすんだい誠?」

「どうするったって……」

 

 魅魔にそう言われるがどうしようもない。

 

「どうもこうもない。とりあえずは……」

「とりあえず?」

「……先送りかな?」

「誠の最期は背中から刺されないかい?」

 

 うるせぇよ魅魔。

 

「兎に角、メシ作ってくる」

「今日はなんだい?」

「今日はすいとんにほうれん草だ」

 

 魅魔の問いに俺はそう答えた。俺と魅魔が台所で調理を始めると、霊夢が襖を閉めてことはと二人きりなった。

 

「……様子を見た方が良いか?」

「駄目だね。あそこは今、女の戦場だよ。男が迂闊に入っていい場所じゃないね」

「……そうか」

 

 

 

 

「さて、あんたと誠兄の関係は?」

「わ、私は……」

 

 腋巫女に言われて私は誠兄との関係を話し出した。

 

「じゃあさ、あんたと誠兄の関係はそこで途切れているじゃない。そこまでして誠兄を追う必要なんてあるの?」

「あ、あるに決まっているじゃない!! 元はと言えば私のせいで……」

「本当に貴女のせいかしら? 堕ちたのが原因じゃないのかしら?」

「――!?」

 

 腋巫女の言葉に私は唖然とした。それは心の中の隅にあった言葉だ。

 

「……まぁ結果として誠兄は桜新町とやらには帰れないわね。陰と陽である限り」

「……私が半妖で誠兄が半神半妖になりつつあるから?」

「そういう事ね。鬼とか数が多い妖怪とかならまだ望みはあったわ。でも『妖怪の力』の言霊と『霊力』の言霊だと無理ね」

「………」

 

 腋巫女の言葉が私にナイフのように深く突き刺さる。それは今までの努力が水の泡のように思えた。

 

「……ま、紫が言うようにたまには会えるのだから良しとしなさいよ」

「……非常に悔しいけど、それしかないのよね」

「そうしないと幻想卿は元よりあんたの世界も崩壊しかねないんだから」

「……判った。今のところはそれで妥協するわ。桜新町の用が済めば……」

 

 それ以上は言わなかった。全てが終わってからよ。

 

「……そう。じゃあご飯にしましょ、持ってきていいわよ誠兄」

 

 そう言って誠兄が部屋に入ってきた。そこからは私の自己紹介も兼ねての宴会になった。

 私より身体が小さいけど、年齢は遥かに上の翠香さんからたらふく酒を飲まされた。

 

「う~ん……これは酔ったわね。千鳥足だわ」

「とりあえず布団でも用意するよ」

 

 誠兄はそう言ってお開きにして腋巫女――霊夢の部屋に布団を持って行った。

 

「……来なさいことは」

「どうしたのよ霊夢?」

「良いから来る」

 

 有無を言わさずに霊夢が私を引っ張って霊夢の部屋に入った。

 

「霊夢?」

「寝るわよ誠兄」

「は?」

 

 そう言って霊夢が私と誠兄を布団に潜り込ませて真ん中を誠兄で左右に私と霊夢が布陣した。

 

「れ、霊夢さん?」

「何よ誠兄?」

「これは一体……?」

「寝るのだけど何か文句でもある?」

「……何もないです」

 

 誠兄は諦めたけど……良かったのかしら?

 

「たまには良いのよことは」

「……ま、いっか」

 

 霊夢の言葉に私もどうでもいいと思い、誠兄の左腕を掴み胸のところまで移動させる。霊夢もそれを見て右腕を自身の胸のところまで移動させた。

 

「これで良いわね」

 

 

 

 

「これで良いわね」

「(良いわけねぇだろ)」

 

 霊夢の言葉に俺はそう思った。俺の意見は無視なのかよ……。

 

「それじゃ寝ましょ」

 

 霊夢はそう言って目を閉じた。暫くすると寝息が聞こえてくる。

 

「………」

 

 ことはに視線を移すと、ことはは顔を真っ赤にして目を閉じていた。多分寝たいんだが寝れないんだな……。

 

「……もういいや」

 

 俺は諦めて寝る事にした。

 

 

 

 

「昨夜はお楽しみでしたね。誠さん?」

「ニヤニヤすんな萃香、朝飯抜くぞ」

 

 翌朝、ニヤニヤした萃香が俺にそう言ってきた。ニヤニヤしている萃香を無視しつつ朝飯を作る。

 ちなみに朝飯は白米、沢庵、大根の味噌汁だな。

 

「ことはちゃんは桜新町に帰ってもらうわよ」

 

 朝飯の途中、紫さんがスキマを開いてそう言ってきた。紫さんに言われたことはは少ししょぼんとしていた。

 

「今生の別れじゃないんだ。そう気にするなことは」

「……そうじゃないんだけど……判ったわ誠兄」

 

 何か納得したようなしてないような表情をしていたことはだった。そして朝飯を終わらすと同時にスキマが開いてことははスキマに飲み込まれた。

 

「……さよならも無しですか紫さん?」

「どうせ一ヶ月もしたら会えますわ」

「……そうすか」

 

 あっけらかんに言うな……。

 

 

 

「ことはちゃん、何処に行っていたの?」

「心配かけてごめんねアオ」

 

 私を飲み込んだスキマは家の近くに落ちた。家に帰るとアオに心配かけていた。ちょっと申し訳ないわね。

 

「……ことはちゃん」

「どうしたのアオ?」

「何か良いことでもあったの? 凄く嬉しそうな表情をしてるよ」

「……そうね。とても良いことはあったわね」

「??」

 

 誠兄が生きていた。それだけで私の肩の荷は降りた気がした。

 ……そう言えば孝兄はいたかな?

 

 

 

 

 




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