『言霊使いと幻想郷』   作:零戦

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四月から航空自衛隊に入隊するので更新は遅くなると思います。


第七十五話

 

 

 

 

「八重さん、御早う」

「あらことはちゃん。朝から珍しいわね」

 

 時刻は朝の七時過ぎ。教会の前を掃除している士夏彦八重のところにいつものセーラー服を着たことはがやってきた。

 八重はことはの顔を見るが何かを感じ取る。

 

「ま、中にでも入りなさいな」

「ありがとうございます」

 

 八重は掃除を止めてことはを中に招いた。

 

「はいお茶」

「どうもです」

「それで、何か話でも?」

「……八重さんは幻想郷を知っていますか?」

「………」

 

 ことはの『幻想郷』という単語に八重は目をスゥっと細めた。

 

「……何処からその単語を知ったのかしら?」

「比泉の日記帳からです」

 

 さもありなん。歴代の比泉家の当主は幻想郷――特に八雲紫には手を焼いていたからだ。愚痴を日記帳に書きたくなるのも頷ける。

 

「……そうね、幻想郷は知っているし実在するわ」

「桜新町みたいな妖怪の町なんですか?」

「違うわ。桜新町は妖怪と人とが一緒に暮らしているけど幻想郷の人は妖怪に食われる立場よ」

「え……?」

 

 八重の言葉にことはは唖然とした。人が妖怪に食われる。それは昔に起こっていたはずだ。

 

「幻想郷は特殊な結界を用いてこの外界との接触を一切絶ったところなの。故に昔のままなのよ」

「それは……何故ですか?」

「まぁ簡単に言えば妖怪の存続のためよ。人を食わない妖怪は何れ力を失い消えてしまう。人も妖怪に対する防御法を編み出してきた。それを阻止するため幻想郷は存在するのよ」

「そうなんですか……」

 

 妖怪と人が住むなど桜新町しかことはは知らなかった。でも幻想郷は妖怪と人の共存ではなく妖怪を生き残らせるために作られたのだ。

 

「元老院は特に妖怪の賢者と唱われた八雲紫を警戒しているわ。なにせチューニング(調律)をしてあの世から生還した唯一の妖怪なのよ」

「チュ、チューニングから生還したって……ど、どうやってですか!?」

 

 ことはが驚くのも無理はない。チューニングから逃れられる術は無いはずでありそれを逃れて生還したなど誰が信じるものか……。

 

「その一件で八雲紫は元老院を敵視しているわ。まぁ桜新町はどうも思ってないわ」

「どうしてですか? いくら妖怪でも寿命があれば……」

「妖怪には寿命は無いわ」

「え……? で、でもこの町の妖怪は……」

「それは力を失い、恐れが無いからよ。普通、妖怪は恐れがあって生きられる。つまり妖怪は人から畏怖されるだけ長生き出来るのよ。その畏怖が無ければ妖怪は普通の人のように死ぬわ」

 

 ことはには信じられない事だった。

 

「ま、いつかは信じるわ。それで話はそれだけかな?」

「ま、まだあります」

「あれま、何かしら?」

「……誠兄は……誠兄は幻想郷にいるんじゃないですか?」

 

 ことはの言葉に八重は眉毛をピクリと動かした。

 

「八雲紫を調べたら幾つか判りました。八雲紫はスキマと呼ばれる能力を持っています。誠兄は目が多数あるスキマの中に飲み込まれたのをハッキリと覚えています。だから――」

「幻想郷にいる……と?」

「……確証は無いけど、でも……」

「私からどうこう言える立場は無いわ。調べるか調べないかは貴女次第よことはちゃん」

「……はい……」

 

 ことはは頷いて教会を後にした。

 

「……ゴメンね兄貴。多分ことはちゃん気付いているわ」

「仕方ねぇよ……」

 

 物陰から雄飛とマリアベルが現れた。

 

「何時かは気付く事だ。まぁ……言霊がどうなるかだな」

「どういう事よ兄貴?」

「お前……神だろ? それくらい知れ。言霊にも『陰と陽』がある」

「!? それってまさか……」

 

 雄飛の言葉に八重は目を見開いた。

 

「あの二人がどうなるか、正しく神のみぞ知るのみだ」

 

 雄飛は薬煙草を吸いながらそう呟いた。

 

 

 

「誠兄あーん」

「あ、あーん」

「美味しい?」

「あ、あぁ」

「誠君誠君、あーん」

「あ、あーん」

 

 俺は今、永遠亭に入院している。霊夢と幽々子がさっきから俺に林檎を食べさしているがもう腹一杯です……。

 

「れ、霊夢に幽々子? 林檎はもう……」

「じゃあ次は蜜柑ね」

「そうね、この筋も栄養はあるわ」

 

 霊夢と幽々子はそう言い合いながら蜜柑の皮を剥いていく。た、頼むからもう……。

 

「こら貴女達、患者に食べ過ぎは良くないわよ」

 

 そこへ救いの救世主である永琳がやってきた。マジで貴女は女神だよ……。

 

「ほらほら出た出た」

「ちょ、誠兄……」

「あーん、誠君~」

 

 幽々子が俺に胸を押し付けてきたが、永琳が引き離して外に追い出した。

 

「全く、貴方も少しは確りしなさい」

「……面目ありません……」

 

 永琳の小言はグサッと来る。

 

「良い? 左腕が粉砕骨折しているんだから大人しくしておきなさいよ」

「……はい」

 

 俺は力なくそう頷いた。永琳が部屋を出ると幽々子が急に現れた。

 

「大丈夫誠君?」

「腹がかなりの満腹感だがな」

「ごめんなさいね~」

 

 皮肉そうに言うと幽々子がぺろりと舌を出してウインクした。

 ……まぁ可愛いから許すよ。

 

「妖夢を待たしているし帰るわ。早く治してね誠君」

「あぁって幽々子?」

「ウフフ、これは私からの早く治るまじないよ」

「もふ」

 

 そう言って幽々子は胸を俺の顔に押し付けた。い、息が苦しいが……ありがとうございます。

 

「ウフフ、じゃあね~」

 

 たっぷり俺を抱き締めた幽々子は手を振って帰ったのであった。

 

「……良いオッパイだったな」

「尋問よ誠兄」

「げ」

「……馬鹿ウサ」

 

 

 

 

 




御意見や御感想などお待ちしていますm(__)m

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