『言霊使いと幻想郷』 作:零戦
旧都へ向かっているが、俺はふとヤマメで気になった事がある。
「……ヤマメが土蜘蛛なら何処から糸を出すんだ?」
……多分ヤマメに聞いたら殺されるかもしれんな。心の中に閉まっておくか。
「さっさと帰って温泉にでも入りたいもんだ」
俺はそう呟きながら歩いた。
「ん?」
穴から抜けると橋があり、橋の真ん中に一人の女性がいた。
「誰かしら? 地底では見ない顔ね。妬ましいわ」
「自分は八雲誠。地上に温泉が湧き出して異変じゃないかと言われて調査をするために此処に来ています」
俺は出来るだけ敬語で話して相手の警戒心を削いだ。
「……そう。旧都は今、お祭りみたいなものよ。死ぬなら勝手にしなさい」
「どうもすみません」
俺は女性に頭を下げて橋を渡る。
「……貴方、ただの人間じゃないでしょ?」
「まぁ……半妖です」
「妬ましいわ。まぁ気を付けなさい」
「ありがとうございます」
俺は女性にもう一度頭を下げて旧都へ向かった。
――旧都――
「これが旧都か」
旧都は長屋が多く並び、居酒屋みたいな飲み屋が多数あった。
まぁ旗に酒と書かれているからな。旧都には妖怪が多数いるがその多くは鬼だった。
道端で喧嘩しているが、周りの妖怪達は楽しそうにしている。
「取りあえず情報でも集めるか」
俺は一件の飲み屋に入った。
「あれ? 誠さんじゃないですか」
「ん? みすちーじゃないか」
飲み屋の店主は何とみすちーだった。
「何でみすちーが此処に?」
「旧都に店の二号店を出しているんですよ。一週間に二回は此方に顔を出しています」
「成る程な」
俺はカウンター席に座り日本酒とおでんの大根と卵を頼む。
「誠さんはどうして此処に?」
「神社に温泉が湧き出してな。紫さんは地底で何か起きているんじゃないかと踏んで俺に先行調査を依頼して来たんだ」
「そうだったんですか」
「お、てめぇ人間か?」
そこへ酔っ払った鬼達が来た。
「半妖だな」
「何だ半妖か。人間なら食ってやるところなんだがな」
『ギャハハハ』
酔っ払ってるなぁ……。
「おい、姉ちゃん。酒はまだか?」
「はいはい、今持って行きます」
みすちーは日本酒を持っていくが、酔っ払った鬼はみすちーの手を掴む。
「姉ちゃん、ついでに酌をしてくれよ」
「困りますよ御客さん」
「良いじゃねえかよ。それとも嫌だって言うのかよ」
……酔っ払いの運命かねぇ……。
「鬼さん達よ。此処は飲み屋なんだから争い事は無用だよ」
「半妖は黙っとけ!! それとも半妖、俺達に喧嘩でも売っているのか?」
「弾幕ごっこなら買ってやるよ」
「ギャハハハ!! ちんけな弾幕ごっこなんざ俺達鬼はしないぜ。やるなら己の拳だ」
鬼達は笑っている。ふむ、地底にも弾幕ごっこは流行ってはいるが決定的に流行ってはいない……か。
「それとも半妖、てめぇは弾幕ごっこなちんけのでしかやらないのか?」
「……マジでやればお前ら……死ぬぞ?」
「あぁん!!」
俺の言葉に鬼がキレてカウンターをぶっ壊した。
「あ~あ。折角の卵が台無しだよ」
「ふざけてんのかてめぇッ!!」
俺は鬼の叫びを無視しつつ外に出る。
「逃げる気か!!」
「んなわけないだろ? 店でやりゃあみすちーが迷惑だろう」
「何……?」
周りに他の鬼や妖怪達が集まってきた。
「さっさと来な。直ぐにあの世に送ってやる」
「舐めんじゃねぇぞゴルアァァァーーーッ!!」
鬼が俺に襲い掛かろうとした。
「『圧』」
「―――!?」
その瞬間、鬼は腕を左右に交差して地面に倒れる。衝撃で地面に鬼の身体がめり込む。
「さぁて……耐えられるかな?」
俺はニヤリと笑った。
最近、面白い事が無い……。萃香が地上に行ってからはやたらと暇がある。
それでも時折発生する妖怪達の喧嘩に乗り込んで捻り潰すが、どうもアタシの心の中にある欲求は満足しない。
「こ、此処にいましたか姉御!!」
「んぅ? どうしたんだい?」
「飲み屋で乱闘です!!」
「乱闘くらいあんたらがやりなよ」
「普通の乱闘じゃないんですよ!! 早くしないと旧都が壊滅しますよ!!」
「……へぇ」
したっぱの鬼がそう言ってきた。アタシはどんな奴か見たくなった。
旧都が壊滅するほどの乱闘……ゾクゾクしてくるよ。
「案内しな。アタシも参戦するよ」
「……せめて止めると言って下さいよ姉御……」
「五月蝿い。さっさと案内しな」
文句を言うしたっぱの鬼にアタシはそう言って乱闘している場所に向かうが……。
「おぅおぅ。良い具合に暴れているねぇ」
鬼と人間が戦っているが、人間が圧勝している。久しぶりの強敵なんじゃないかね。
「退きなお前ら!!」
「ゆ、勇儀の姉御だ!?」
「姉御が来たぞ!!」
周りに群がっている野次馬がアタシを見て道を作る。その先にはあの人間がいた。
「……誰だ?」
「アタシは星熊勇儀。アタシもその喧嘩、交ぜてくれよ」
アタシはニヤリと笑う。早く殺りたくて仕方ないね。
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