『言霊使いと幻想郷』   作:零戦

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第六十三話

 

 

 

 何とか間に合ったな……全く幽々子め。何回も走馬灯が見えたからな。

 親父と母さんが向こう岸に見えて手振ってたからな。

 多分まだ来るなの合図だろうな。

 

「この赤い道……ふふん、私のための赤絨毯ってわけ?」

 

 そこへレミリアがメイドと共にやってきた。

 

「さ、行きましょ」

「はいはい」

 

 俺はレミリアに促されてロケットの中に入る。俺達が入るのを確認したパチュリーが外から鎖を使って厳重に閉めた。

 

「なぁ、アレは何の宗教なんだ?」

 

 霧雨の指摘に俺は外を見る。外では妖精メイド達が賽銭をロケットに投げている。

 

「御賽銭は神社でするもんじゃないのか?」

「神社ってのは何もあの建物じゃなくても問題ない。同時に何ヵ所存在しても問題ない。神棚だけでも十分神社と同じ役割を持つ。いや、神棚だってただの飾りで神様の宿る器さえあれば十分……つまり、このロケットは空飛ぶ神社なのよ」

 

 鉢巻きをした霊夢が神棚の前で正座をするとロケットが揺れた。レミリアは机に隠れているし、霧雨は窓枠に掴まっている。

 

「大丈夫か咲夜?」

「問題ありませんわ」

 

 咲夜は問題無さそうだった。外では妖精メイド達が図書館の天井を開けていた。

 そして天井が開くと、ロケットはそのまま空へとかけ上った。

 

「………」

「……ん?」

 

 なお上昇中、やはり怖かったのか咲夜はコッソリと俺の服を触っていた。

 

 

 

 永遠亭では全員が月へ向かっていくロケットを見ていた。

 

「そう言えば永琳。本当の犯人って吸血鬼の他に月を侵略しようとする奴がいるって事かしら?」

「……確かお師匠様はロケットは誰かの入れ知恵だって言っていましたね?」

 

 輝夜とうどんげの言葉に永琳は笑う。

 

「馬鹿馬鹿しいわ。誰が黒幕なんて分かりきった事じゃないの。ただ吸血鬼のロケットが動き始めた今、私に出来るのは綿月姉妹(あの娘達)が頑張ってくれるのを願う事だけなのよね」

「……けど地上の妖怪(あいつら)も進歩してないウサ。一度失敗しているのにまた失敗しに出掛けるなんて愚かとしか思えないウサ。わたしゃ賢い月の御仁について良かったウサ」

 

 てゐの言葉に一同は笑ったが、永琳は内心、誠の事を考えていた。

 

「(……もしかすると……誠君がいるのをは私の想定を越えるかもね……)」

 

 

 

 ロケットが打ち上げられてから五日が経過した。三段目のロケットが切り離されるから俺達は二段目のロケットに移動していた。

 

「切り離すわ」

 

 霊夢がそう言うと、三段目のロケットを支えていた鎖が千切れて三段目が地上へ落下していった。

 そして咲夜が窓の外にも空気はあると言って窓を開けた時はビビったな。

 

「窓は開けるんじゃないッ!!」

「は、はい」

 

 俺は思いっきり咲夜に怒鳴った。対する咲夜は俺がそんなに怒るとは思ってなかったみたいでキョトンとしていた。

 

「いいか? あまり外に出ようとするなよ? お前らもな」

 

 俺と孝之は幻想郷の住人にそう言い聞かした。

 

 

 

――紅魔館――

 

 その頃、図書館では輝夜と永琳がパチュリーの元へ訪れていた。

 

「貴女でしょ? ロケットに月の羽衣を付けたのは?」

「あら、気付いていたの?」

「大丈夫よ。レミィは踊らされているだけな事ぐらい分かっているわ。大体長い間月に行く事は諦めていたのに此処のところ次から次へと新情報が入ってきたのよ? 何かも都合よく手に入るし何故か霊夢も準備済みだったし」

 

 パチュリーはそう言って溜め息を吐いた。

 

「本当に月を攻めたがっているのは古くて困った妖怪の彼奴でしょ?」

「踊らせているのが分かっているのに何で行かせたのかしら?」

「我が儘だからねぇ。一度言い出したら聞かないしね。たまには痛い目に遭うのも良いんじゃないの?」

「じゃあ貴女が地上に残ったのは黒幕を懲らしめるため?」

「うんにゃ。痛い目に遭うのが嫌だからよ」

 

 パチュリーの言葉に永琳が笑った。

 

「でも……気を付けた方が良いわよ? 誠は月を滅ぼす力を持っているわよ?」

「え、それって……」

「『言葉を具現化する程度の能力』所謂言霊ですよ姫」

「誠がその気になれば核をも出せるわよ?」

「誠君は出さないわよ」

「勿論私も分かっているわ。でも核ほどでは無いけど、それなりの被害は出るんじゃないのかしら? 霊夢達は幻想郷のルールで弾幕ごっこをすると思うけど、誠は外の住人で一度と言えど死という物を経験しているわよ」

「……でしょうね」

 

 永琳はそう多くは言わなかった。

 

 

 

 

 やぁ八雲誠だ。紅魔館からロケットで月に向かっているんだが……。

 

「お、落ちていくぞ霊夢ゥゥゥゥゥーーーッ!!!」

「わ、私も分からないわよォォォォォーーーッ!!!」

 

 時は少し遡る。ロケットは月上空にいた。霊夢が何かが起こると言っていた。その時、ロケットはひっくり返ってそのまま月の海面に向かって落ちていったのだ。

 

「ショートカット『酸素ボンベ』と水中眼鏡ッ!!」

 

 俺は無重力の中、何とか人数分の酸素ボンベと水中眼鏡を出して皆に渡した。

 

「霊夢ッ!! 咲夜ッ!!」

 

 俺は霊夢と近くで浮いていた咲夜を抱き締めた。なお、レミリアは孝之に抱きついていた。

 そしてロケットは海面に激突した。

 

 

 

 




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