『言霊使いと幻想郷』   作:零戦

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第六十二話

 

 

 

「あれ? 藍と橙も来ていたのか」

「久しぶりだな誠」

「お久しぶりです誠しゃん」

 

 料理が置いてある会場のテーブルの近くで紫さんの式神とその式神の式神が食べていた。

 

「皿丸ごと油揚げかよ……」

「フ、油揚げこそ力なり」

「ドヤ顔すんなし」

「久しぶりですね八雲誠」

「お、映姫じゃないか」

「あたいもいるぞぉ~っとい」

 

 既に酔っ払っている小町とほんのり頬が赤い映姫が近寄ってくる。

 

「誠ぉ~死神の仕事手伝ってくれよぉ~。あたいだけじゃ処理し切れないよぉ~」

「貴女はサボる口実が欲しいだけでしょう」

「きゃんッ!!」

 

 また殴られているな。

 

「普通の人間なら兎も角、吸血鬼が月に行こうなどとは……」

「ま、時代は変わっているからな」

 

 映姫の言葉に俺はそう言って赤ワインを飲む。てかワインは赤しか無いし……。

 

「ということで勝負よ誠」

「何がということでなんだよ」

 

 酔っ払っている幽香にそうツッコミを入れる。俺は間違っていないな。

 

『――で、このロケットで何とあの月に攻めいるのですッ!!』

 

 レミリアがそう言って説明しているが……ん?

 

「あの二人は……」

 

 端っこの方で幽々子と霊夢が茣蓙を敷かずに正座をしながら食べている。

 

「二人とも、茣蓙なら俺が出してやるからそのまま座るな」

「あらありがとう誠君」

 

 幽々子が俺に感謝の言葉を述べつつ、俺は言霊で茣蓙を出した。

 

「そこの重力は強いのかしら?」

 

 そこへ永琳が現れた。

 

「地上はね、月の六倍も身体が重いのよ」

「てことは永琳の体重は……」

「それ以上言ったらこの世から消えるわよ誠君?」

「嘘ですよ永琳様」

 

 喉元に突きつけられた矢じりに俺は冷や汗をかいた。

 

「今度私もあんた達の故郷に行くけど何かお土産でも欲しい?」

「じゃあイルメナイトを一握りでも……でも私の故郷は地上だけどね」

『――そこで、このロケットの愛称を募集したいと思うんだけどー』

「愛称募集だってよ。あいつらには分からないような言葉で変な名前を付けてやろうぜ」

「……私はそれに乗るのよ?」

「愛称って……ペットか何かみたいですね」

 

 皆は呆れたように言っていた。

 

「愛称……ね。あのロケットは『住吉三神』の御加護があるというのに。下手な名前をつけてしまえば月に辿り着けないかもしれないというのに……」

 

 ………。

 

「あれ? 何であんたが住吉三神の事を知っているの?」

「ん? そ、そうねぇ」

 

 俺は皆に見つからないようにコッソリと外に出た。

 

 

 

「幽々子様。どうしてパーティの途中で抜け出したのですか?」

「どうしてって……」

「彼処に間諜(スパイ)がいたからだよ妖夢」

「ま、誠さん」

 

 外にいた二人に俺は声をかけた。

 

「誠君は気付いたのかしら?」

「あぁ。紫さんがどのような計画を建てているかはまだ分からないが……俺達を囮にするのは分かっているよ」

「フフフ、それなら合格点ね」

 

 幽々子がそう言って俺にウインクをした。

 

「ですが幽々子様。元々吸血鬼の計画を阻止するのが私達の目的で――」

「あの狡猾な月の民が吸血鬼の月侵略を阻止する?」

 

 幽々子は笑った。

 

「誠君が言うようにあの月の民は間諜よ。妖夢が余計な事を言わないように出てきたのよ」

「……私には何も判らないのですが、何か説明していただけませんか?」

「紫の月計画は動き始めたばかり。敵を騙すにはまず味方からよ」

 

 幽々子はそう言って懐から鬼ころしの日本酒を出した。

 

「家に帰ってパーティの続きでもしましょうか? 誠君もする?」

「霊夢が怒るからまた今度な。それと幽々子、一つ頼みがある」

「何かしら?」

「……弾幕ごっこじゃなく本気の殺しあいの練習相手になってほしい」

「……へぇ……」

 

 幽々子はニヤリと笑った。

 

 

 

「忙しそうね」

「ロケット発射前ですからね。パチュリー様しか出来ない仕事があるのでしょう」

 

 数日後、私は魔理沙と共に紅魔館の図書館に来ていた。理由は勿論ロケットを打ち上げるからよ。

 

「霊夢さん、お茶のお代わりはどうですか?」

「貰うわ孝之さん」

 

 執事の孝之さんが新しいお茶を用意してくれる。

 

「あの赤い線は何なんだ?」

「ロケットは赤道の近くで打ち上げた方がエネルギーが少なくて済むんだそうですから」

「……本当は違うけどね」

「それで足下に赤い道を書いたのか。どういう理屈なんだか」

 

 孝之さんはぽそっと呟くが皆は気付いていないわね。そして私達はロケットの中に案内された。

 

「結構広いのね」

「結構な長旅になりますからね」

「長旅って泊まりになるの?」

「おいおい、地上から月までどのくらい遠いと思っているんだよ」

 

 私の言葉に魔理沙が溜め息を吐いた……何かムカつくわね。

 

「大体往復で半月から一ヶ月くらいかかりそうです」

「半月も掛かるの? ……まぁこのくらい広ければ何とか我慢出来ると思うけど、食料は大丈夫なのかな……」

「大丈夫と言えば……誠さんは来ますの?」

「えぇ、少し寄り道すると言っていたわ」

 

 ここ最近、誠兄は何処かへ出掛けていた。

 

「咲夜さん、誠さんが来ましたよッ!!」

 

 そこへ図書館に美鈴と誠兄が入ってきた。

 

「遅れて済まないな」

「いえ、発射までまだ時間はありますから」

 

 ……あれ?

 

「どうした霊夢?」

「な、何でもないわ」

 

 ……誠兄の右頬、刃物で斬れたように少し傷があるわね。何をしていたのかしら?

 

 

 

 

 

 




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