『言霊使いと幻想郷』   作:零戦

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第六十話

 

 

 

「兎が逃げた?」

「そうよ誠兄。折角羽衣を頂けると思ったのに……」

「な、兄ちゃん? 全く分からないだろ?」

 

 霧雨は俺にそう言った。霊夢が言うには、助けた妖怪兎は狐か狸の化けた姿らしく何か盗まれないように起きていたが疲れて横になったら案の定寝てしまい、そして兎もどきが光る羽衣を持って逃げた……と。

 

「まぁ霊夢の説明は意味不明でよく分からんが何となく分かる事がある」

「そうだな兄ちゃん」

「あの羽衣は軽くて綺麗だったのに……」

『その羽衣は妖怪兎の物なんじゃないか?』

「………」

 

 その瞬間、霊夢は止まった。

 

「……何よ?」

「その羽衣を霊夢に持って行かれると思ったから逃げたんじゃないのか?」

 

 霧雨の指摘に霊夢はそっぽを向いた。

 

「一割ぐらいは私のだもん」

 

 霊夢の言葉に俺と霧雨は笑った。そして霊夢は夜になっても修行を続けていた。

 

「まだやるのかだぜ? よく続けるよ」

「昼間寝たから大丈夫よ」

「ほら霧雨。お茶だ」

「ありがとうだぜ兄ちゃん……お、何だいありゃ?」

「ん?」

 

 その時、上空に地上から光りが昇っていっていた。

 

「登る流れ星か。滝を昇り切った鯉が龍にでも成長したかな? ま、縁起がいいぜ」

「……だといいがな」

 

 霧雨の言葉に俺は小さく呟いた。そして時は数ヵ月経過して季節は実りの秋を迎えていた。

 

「すっかり秋になって食べ物も美味しくなってきたっていうのに、何が不満なんだ?」

「……もう三月以上も経っているのに何も起きていないのよ」

 

 霧雨の問いに霊夢はそう答えた。

 

「何が三月以上?」

「修行を始めてからよ。折角神様の力を借りる手段が分かってきたっていうのに」

 

 霊夢は不満そうな表情をしていた。

 

「何も起きてないって……早苗がよく神社にドンチャン騒ぎに来ていただろ?」

「……あれは誠兄を狙うためよ」

 

 今何か言ったかな霊夢は?

 

「でもよ霊夢。二人があんな鳥の巣箱みたいな分社を建てておいて……何かあったらあの二人の力を借りるつもりなんだろ? ま、神社が乗っ取られても知らないぜ」

「祟り神の神社を誰が乗っ取るんだよ」

 

 霧雨の言葉に俺はそう答えた。この神社を乗っ取るにしてもメリットはあまり無いぞ? むしろデメリットしかないな。

 

「でも……何も起きないからイライラしているのよ」

「ま、確かに何も起きないからな」

「じゃあ収穫の秋なんだから退屈しのぎに豊穣の神でも喚んで見たらどうだ?」

「何で収穫の秋に豊穣を祈ってどうするんだよ……」

「じゃあチロルの秋だから――」

「甘い物の神様でも喚ぶつもりかしら?」

「ッ!? ……何だあんたか」

「何よその態度? 参拝客に対して冷たすぎないかしら?」

 

 神社にやって来たのは紅魔館のメイド長の十六夜咲夜だった。

 

「久しぶりだな十六夜。ま、お茶でも飲んでいきな」

「あらありがと誠」

 

 十六夜はお茶を受け取る。

 

「実は少し私の相談に乗ってくれないかしら?」

「何よ?」

 

 そして十六夜が説明を始めた。

 

 

 

「というわけで私が探さないといけない物はただの三段の筒じゃなくて三段の筒状の魔力を持った物らしいの」

「三段の筒……ロケットだろ? なら燃料は……」

 

 無理だな。幻想郷でロケットの燃料なんかまず見つからないな。

 

「大体何で私が妖怪の悪巧みの手伝いをしないといけないのよ」

「別に良いじゃん。レミリアは紫の邪魔をしようとしているみたいだし、それなら妖怪退治の一環だぜ。前にも妖怪の力を借りて宇宙人を倒した事もあるしな」

「別に良いけど……咲夜が探している物がさっぱり意味不明なのよ」

「私にだってよく分かりませんわ」

『………』

「……退屈ねぇ……」

「その時を待っていたわッ!!」

 

 そう言って現れたのは……。

 

「妖夢じゃないか」

「何だ……何か用?」

 

 霊夢は一瞬嬉しそうな表情をしたが、妖夢を見てガッカリしながら問う。

 

「え、えっとロケットの推進力を探しているんでしょう?」

「何で貴女がそれを知っているのかしら?」

「ずっと前からあちこち探ってたら私の耳にも入りますよ。それより私に考えがあります」

「半分幽霊の貴女にロケットの推進力の考え? 肉体から幽体が離れる力が推進力とか?」

「地縛霊がその地を捨てて動き回る力かもな」

「成仏に決まってんじゃない」

「決まってないッ!!」

「お前らな……」

 

 妖夢を茶化す三人に俺は溜め息を吐いた。

 

「そんな単純な発想ってことは、宇宙ってことで月や空に関係する物ばかり探していたんじゃないの?」

 

 ふむ……。

 

「元々本気で探してない」

「最初から探してない」

「……はぁ」

 

 妖夢が溜め息を吐いたが俺は何となく判った。

 

「……そういう事か妖夢」

「誠兄は判ったの?」

「あぁ、外の技術を考えていたが簡単な事だ。つまり、ロケットは宇宙を飛ぶ船だ。推進力を探すのなら航海に関する物を探すんだ」

「航海に関する物?」

「はい、船を進める力がロケットを進め、海を鎮める力が航海を安全にするのです……って幽々子様が言ってました」

 

 最後は言ったら駄目だろ妖夢。

 

「航海の神様は呼べるだろ霊夢?」

「……そういう事ね誠兄。つまり三段の筒は上筒男命、中筒男命、底筒男命の三柱併せて住吉さんの航海の神様ね」

 

 霊夢は嬉しそうにそう言った。

 

 

 

 




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