『言霊使いと幻想郷』   作:零戦

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第三十六話

 

 

 『桜新町』

 妖怪達が最期の場所として住む町である。

「妖怪と人間が共に暮らす町。それが桜新町。「七郷」と呼ばれる七本の巨大な桜の木が町全体を取り囲んでいる。本来妖怪は「この 世」ではなく「あの世」と呼ばれる別次元に存在する生き物であり、力が不安定になったり、寿命を持たない妖怪が死んでしまったりする。この町は他の場所で生きるのに辛くなった妖怪が調律(チューニング)されて 「あの世」に行くために存在する。この町は妖怪にとって終焉の町なのである……らしいわね」

 

「……まぁな」

 

 七郷の根本の付近で日傘を指した八雲紫と士夏彦雄飛がいた。

 

「珍しいな。お前が此処に来るなんてな」

 

 雄飛はそう言って薬煙草に火を付けた。

 

「あら、私が此処に来ては駄目なのかしら?」

 

 紫は扇子で口元を隠して笑う。

 

「……まぁ良い。それで今日は何しに?」

 

「観光よ観光」

 

「観光ぉ?」

 

「そう、桜新町の観光よ」

 

 

 

 

「え? 桜新町の案内ですか?」

 

「そうだ。どうせ暇だろ?」

 

「いやまぁ、そうですが……」

 

 雄飛の言葉に比泉生活相談事務所の所長である比泉秋名はそう言葉を濁した。

 

「まぁ軽くでいい」

 

「はぁ、分かりました。よろしくお願いします。えっと……」

 

「八雲紫よ。ゆかりんでも良いわよ」

 

「は、はぁ……」

 

 紫の言葉に冷や汗をかく秋名であった。

 

 

 

「まずはこの生活相談事務所です。今は俺一人ですが後二人が働いてます」

 

「へぇ。妖怪の手助けをするのかしら?」

 

「まぁそれも含まれてますけど、紫さんは妖怪の事を?」

 

「フフフ、どうかしらね」

 

 紫はそう笑って誤魔化した。誤魔化された秋名は話題を変える事にした。

 

「何処に行きたいとかありますか?」

 

「そうねぇ……お墓かしらね」

 

 

 

「……此処に用があるというのはどうなんすかね……」

 

「フフフ、まぁ気紛れかしらね」

 

 秋名に案内されたのは墓である。しかしその墓はただの墓ではない。

 

「堕とされた者」「歴代町長」「比泉一族」の墓なのである。

 

「……この墓の中に知り合いでも?」

 

「……歴代町長達とね」

 

 紫はそう言って先代町長である槍桜マチの板塔婆に手を合わせた。

 

「……さて、他行きましょか秋名君」

 

「は、はい」

 

 紫に押される形で階段に行こうとした秋名であったが、階段から二人の男性が登ってきた。

 

「珍しいなスキマに会うなど……」

 

「やぁ秋名君」

 

「伊予のじいさん、枝垂さん」

 

 登ってきたのは元老院の伊予薄墨と盛岡枝垂であった。

 

「あら、貴方でも墓参りはするのね」

 

「かつて共に町を守った旧友を月一で参って何が悪い」

 

 薄墨はそう紫に言って比泉槇春の板塔婆に手を合わせた。

 

「スキマ、用が済んだならさっさと帰れ」

 

「あら、心外ね。ゆかりん傷つくわ~」

 

 紫はおよよよと泣く真似をする。しかも御丁寧にハンカチまで出してだ。

 

「千年以上生きとるくせに何がゆかりんじゃ。儂らと同じ爺婆じゃないか」

 

 その時、秋名と枝垂はピキリという音が聞こえたと思った。

 

「……あ~ら、何を言うだすかと思えば……そんなのだから頑固爺と呼ばれるのじゃありませんか?」

 

「スキマに言われとうないのぉ」

 

 秋名と枝垂ら薄墨と紫の間に火花が散ってるように見えた。

 

「帰るぞ枝垂」

 

「は、はい。それじゃぁ」

 

 二人はそう言って階段を降りていく。

 

「此方も行きましょうか」

 

 紫の言葉に秋名は歩を進めて次の目的地を聞いた。

 

 

 

「あら久しぶり紫さん」

 

「やぁもぅ、ゆかりんと言ってと言ったでしょ八重」

 

 目的地である教会で紫は士夏彦雄飛の妹である士夏彦八重と会った。

 

「八重さんと知り合いだったんですか?」

 

「えぇそうよ」

 

「そうねぇ……もう数百年の付き合いかしら」

 

「……やっぱり妖怪じゃないですか」

 

 秋名は溜め息を吐いた。

 

「ん? 妖怪なら此方へ引っ越して来るのですか?」

 

「……それは無いわね」

 

 秋名の言葉に紫は目を細め、扇子で口元を隠す。

 

「え……?」

 

「妖怪と人間が共存する町……確かに素晴らしいわ。でも妖怪は力を失いやがては朽ちていく……それは許せないわ」

 

「………」

 

 秋名は思わず背筋が凍るような感覚を覚えた。それは紫の殺気だった。

 

「……まぁこの町に住むか『我々』と住むかは本人が選ぶ事。私はそこまで手出しはしないわ」

 

 そう言って紫は殺気を拡散させた。秋名は膝から地面についた。服は秋名の冷や汗でびっしょりと濡れていた。

 

「紫さん……脅かし過ぎよ」

 

「あら、たまには良いじゃない。さっき元老院に会って気分が悪かったしね。ゆかりんぷんぷんだわ」

 

 紫は不機嫌そうに言うが秋名はそれどころではない。

 

「(今の殺気は確実にやられる筈だった……紫さん、貴女は一体……)」

 

「私はただの妖怪よ」

 

 秋名の視線に気付いた紫はそう言ってニッコリと笑った。

 

 多分幻想郷からの人達からは「いや、それは無い。てかゆかりんってww」と言われるのは確実だ。

 

「さて、久しぶりに会えた事だし今夜は飲むわよ」

 

「あら良いわね。あのスケベは呼ばないようにね」

 

「勿論よ。紫さんと私だけよ」

 

 八重はニッコリと笑ったのであった。その後、二人は居酒屋を五件梯子したとかないとか。

 

 




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