やはり俺に彼女が出来るまでの道のりはまちがっている。   作:mochipurin

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珍しく一週間足らずでの更新です。何があったんでしょうね。

18話ですどうぞ!


18. 彼は二つ目の依頼を承諾する。

「いやぁー、まさか、優香の彼氏さんに遭遇してしまうとはなー。心配で迎えに行ったは良かったけど、守ってくれる殿方がいるのならやぶへびだったかな」

 

「もー! だから彼氏じゃないって言ってるじゃない!」

 

「へぇ、それは八幡くんはこれからも恋仲になることはない、ただのお友達なのかい? それともまだ、ってことなのかい?」

 

「うっ......なんで今日のお父さんそんなにいじわるなのぉ......」

 

「............」

 

 現在、我が家と的前宅がある見慣れた市街地を、一台の軽自動車に乗って移動しているのだが、

 

 なんだこの恥ずかしい空間は。

 

 同乗者は、後部座席に座る俺の隣にいる的前に、この車の運転手であり、的前の父である的前茂光。つまり弓道場の師範でもあるのだが、さすが弓道という武道に長年触れ合ってきただけあってか、同年代の中でも、特に落ち着いているように見える。そう、平塚先生みたいな......おっと、この話はよそう。

 しかしこの人、温厚な割に、先ほどからこちらをはやし立ててくるから困る。それに対する的前の反論からするに、普段はそんなキャラでないことは窺えるのだが......ああ、あれか、愛娘に男が出来たらめっちゃ喜ぶ系のお父さんなのか。娘さんをくださいって言われたら笑って承諾してそう。

 と、バカみたいな考察はやめにして、俺も一応反対しておくか。的前が涙目になってきてるから見るに耐えられん。

 

「あの、的前さん。的前が言っている通り、俺たち本当に付き合ってなくてですね」

 

「八幡くん。的前だと私も優香も反応に困る。私のことは、茂光と呼んでくれて構わないよ。おっと、それよりもお義父さんと呼びたいかい?」

 

「キャラブレねえなこの人......」

 

「うう、お父さんもう何も言わないで......恥ずかしいから......」

 

 どうやら弁解の余地はないらしい。仕方がない、家までの数分間我慢しよう。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「さて、私は八幡くんを家まで送っていくから優香は先に家に入っておきなさい」

 

「帰りもお父さんがいるんだから、私もついていくのに」

 

「別に大した距離じゃなさそうだし、すぐ帰って......ああ、優香は一秒でも長く八幡くんと一緒にいたいのか」

 

「〜〜〜っ! もう今日のお父さん嫌い!!」

 

 勢いよく扉が閉まり、的前は家の中に入っていってしまった。なんか......今日一日お疲れ様。特に帰り道が。

 

「おやおや、嫌われてしまったようだ。さて、行くとしようか八幡くん」

 

「はい」

 

 ......あれ、よく考えれば我が家に着くまでこの人と二人っきりなのか。やばい。不安しかない。助けて小町えもん! ......なんて、いくら最近ストーカー染みてきたとは言え、こんなタイミングで妹が登場するわけもなく、車は残酷にも発進してしまう。

 オゥ......突然の沈黙が身に染みるぜ......。

 

「......八幡くん」

 

 って、そうですよね。そっちは喋りかけてきますよね的前父さま。

 

「な、なんでしょうか。出来ればお手柔らかに......」

 

 まあ、根掘り葉掘り聞かれても、やましい事をしたわけじゃないから余裕なんだけどね? 余裕なんだけどね?

 

「お手柔らかに? ......ああ、そういう事か。大丈夫だ、安心してほしい。さっきまでの私はうざいお父さんキャラを演じていただけだからね。今は平常運転の的前茂光だよ。先程は困らせて

しまってすまなかった」

 

 演じてた? 運転席越しにかけられる謝罪の言葉は、嘘をついているようにも思えない。だとしたら疑問が一つ残る。

 

「は、はぁ......じゃあ、なんであんな意味のわからないキャラを演じてたんですか?」

 

「い、意味のわからない......か。はは、うざいことは自覚していたが、客観的には意味がわからないお父さんに見られてしまったのか。慣れない事はするものじゃないな......。おっと、話を戻そうか。話は単純、優香を家に帰す為さ」

 

「的前を家に帰す為? あいつ何かあったんですか?」

 

「いやいや、優香は関係ないよ。私は、君と二人っきりになりたかったんだ」

 

 君と二人っきりになりたかったんだ。

 

 君と二人っきりになりたかった。

 

 君と二人っきりに。

 

 君とーー

 

 いやいやいや、まさか、嘘だろ?! この人あっちか! あっち系なのか?!

 

「いや、ちょ、さすがにそれは俺には荷が重すぎるというか、あ、もう、ここまでで十分なんで降ろしてください」

 

「八幡くんの中での私がどんな立ち位置にいるのか気になってしょうがないところだが......八幡くん、これは真面目な話なんだ。優香に関するね」

 

「......しょうがないですね。的前は、俺の依頼人ですから」

 

「八幡くん......」

 

 

 

「そこまで優香のことが好きなのなら、数年後にでも家に来なさい。結婚なら僕は二つ返事で快く承諾するよ」

 

「いや、真面目な話するんですよね?!」

 

 だめだ。この人といるとどうしても調子が狂う。的前、よくあんな素直な子に育ったな......。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「............」

 

「あれ、比企谷先輩、浮かない顔してどうしたんです? 休みが終わってブルーって感じですか?

 

 ぼーっと、矢が的へ刺さる光景を眺めていると、ふと、横から声がかけられた。

 声の方に視線を向けると、今となっては見られた顔の後輩が弓を片手に、こちらを不思議そうな顔を浮かべていた。

 

「......お、ああ、橋本か。誰だって休みが終わると鬱になるもんだろ。特に夏休みなんて長期休みが終わるとな」

 

 彼の名は、弓道部員である一年生の橋本亮斗。俺が弓道部に顔を出し始めた日から声をかけてきてきた後輩だ。的前が手を離せない時なんかは、それに変わって俺に指導をしてくれたりした優しい奴だ。

 

「はぁ、そんなもんなんですかねぇ。僕はそろそろ友達に会いたくなってきてた頃なんですけど」

 

「それはお前みたいに友達がいるやつだから言えることなんだよ」

 

 一ヶ月弱の夏休みもついに終わりを迎え、当たり前のように二学期が始まった。今日は始業式、ホームルームを少しばかり行ってすぐさま放課後へ突入したので、的前と共に弓道場へ。最近の弓道部は空気がピリピリしているので、極力邪魔にならない端っこで、時折練習を挟みながら見学しているところだ。正直言って、居心地が悪い。

 

「またまたー、友達はいなくても的前先輩といちゃいちゃしてたんでしょ? わかってますって、そりゃ毎日デート出来る環境がなくなるんですもんね。ブルーにもなります」

 

「しばくぞ」

 

 手元にあるゴム弓をチラつかせて、にやけ顔をのムカつく後輩を黙らせる。こいつや小町、そして的前父といい、なんでこうも俺と的前ネタでいじってくるん? そんなにいじられるようなことしてないやん?

 

「っと、これ以上騒ぐと的前先輩に怒られそう。部長モードの先輩は怖いですからねー」

 

「部長モードじゃなくても大概怖いだろ」

 

 思い浮かぶのは、顔を真っ赤にして怒る的前の顔、顔、顔。未だに怒る理由が謎な上、日に日にその頻度が増えているのだから理不尽である。

 ......まあ、怒るといっても胸をポカポカと叩いたりしてくる程度なので害は、それどころか見ていて和むので気にしてはいない。

 

「はぁ? なんですそれ? 普段の顔も知ってますよーっていう自慢ですか?」

 

「ちげえよ。お前も夜道には気をつけろってことだよ」

 

「こわっ! 的前先輩そんな人だったんですか!」

 

「ああ、あれは忘れもしない、そう、つい数日前のこと......」

 

「はーちーまーんーくーん?」

 

「いやこれには事情が、ないです。言い訳にするにしても苦しすぎますねすいません許してください」

 

 背後から届いた恐ろしく低いトーンの声。これには八幡くん堪らず振り向きざまに土下座。

 

「ちゃんと見学しとく! 亮斗くんも、八幡くんなんかと喋ってたらレギュラー一生取れないよ!」

 

「一生って酷くないですか?!」

 

「それ実質俺への罵倒しかなくない?」

 

「確かに、比企谷先輩と絡んでるとレギュラーを取るのは難しそうですけど」

 

「てめえ敵に回りやがって!」

 

 叱られてもどこか締まらない俺たち二人に、的前の顔が段々と呆れ顔になっていく。

 

「大体な、話しかけてきたのはお前からなんだから、むしろ俺は被害者の方だ」

 

「比企谷先輩が浮かない顔してるのが悪いんですよ! そのせいで練習に集中できないんですから、むしろこっちが被害者です!」

 

「あぁ?」

 

「なんですか!」

 

「静かに!」

 

「「いだっ!」」

 

 こ、こいつ、ぶった、ぶったぞ。俺らと変わらないぐらいうるさい声量のくせして思いっきりぶちやがった。

 

「はぁ、仲良いのはいいことだけど、今はみんなも集中してる時期なんだから静かにしとくこと。いい? 私もまた練習に戻るから」

 

「「ういっす......」」

 

 ......さて、場の空気に緊張感が漂っている理由を説明しよう。簡単に言うと再来週に県内で行われる弓道大会があり、今はその選考期間ということだ。

 未だに体験入部部員である俺にはまったく関係のない話だが、目の前にいる後輩ぐらいには是非頑張ってもらいたいところである。

 

「じゃあ僕も戻りますね。さすがにこれ以上は怖いんで」

 

「メンバーになれるようせいぜい頑張れよ」

 

「比企谷先輩に言われなくても取ってやりますよ。では」

 

「おう」

 

 的前に続き、橋本も射場【射手が的に向かって弓を引く場所】に戻っていき、再びぼっちになる。

 

「......守ってほしい、か」

 

 矢をつがえ始めた的前の姿を見ながらそう呟く。最近、一人でいるときはこればっかり考えている気がする。

 

「学校外からの依頼は初めてだが、的前を守ってくれなんて内容、俺が一番適任だからな」

 

 

 

 思い返すのは数日前、的前の父と二人っきりになり、一時は貞操の危機を感じた祭りの帰り道の話である。

 

「さて、真面目な話に戻ろうか。八幡くん、君は奉仕部という部活に所属していて、そこにきた優香の依頼を承諾、そして今に至っている。そうだよね?」

 

「はい」

 

「では、私も、一人の依頼人として君に頼みたい」

 

「え、ちょ、なんで俺なんかにーー」

 

 

 

「優香を、守ってほしい」

 

 

 

「っ......い、いや、守ってほしいって、的前はなにかにでも狙われてるんですか?」

 

「八幡くん、優香はね」

 

 

 

「天才なんだ。弓道のことに関しては」

 

「......は?」

 

「天才なんだ。師範を務めている私でさえ嫉妬するほどに」

 

「は、はぁ」

 

「優香の高い技術に嫉妬した門下生が愚痴を言っているのは今でもよく聞く。いや、むしろ最近になって増えてきていると言えるかな。私も他人から恨みを買っているようだからね。その矛先が優香に向くかもしれない。いや、一度は向いたかな」

 

「あ......」

 

「......その様子だと、優香から聞いているようだね。すまない。この依頼自体、不出来な私の尻拭いを君にしてもらおうとしているも当然なんだからね」

 

「......いえ、受けますよこの依頼。現状俺が一番的前を守っていられる立場にいますからね。実際周りに気を配る程度で大した労力じゃないですし」

 

「すまない、感謝する。と、学校の部活に対する依頼とはいえ、報酬を払わないとね。八幡くんが望む報酬はあるかな? なるべく用意させてもらうよ」

 

「いえさすがにそれは......あ、じゃあその代わりにーー」

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「ーーほう、君も策士だね。いいだろう、依頼完遂の報酬としてそれを支払わさせてもらうよ」

 

「ありがとうございます。依頼の件承りました。依頼期間である的前が卒業するまで、的前を守らせていただきます。

 

「ああ、よろしく頼んだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、間違いを起こして優香をボディーガードが襲うなんてことはないようにね? するとしても然るべき準備をしてから。いいね?」

 

「う、ういっす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




新キャラ、怒涛の登場。

後輩くんがどんな立ち位置になるのかは知りません。

では次回でお会いしましょう!

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